「TOEIC(※)って就活にそこまで必要ないと思うよ」
就職活動をする中で、こんなアドバイスを先輩から聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
確かに、新卒採用の募集要項でも、TOEICのスコアを採用条件に設定しているケースは限られています。
とはいえ、本当にTOEICを受験しなくてもよいのか? と不安に思う方も多いはず。そこで、今回は就職活動とTOEICの関係を明らかにしていきます。
「学生の皆さんが想像している以上に、企業では英語が使われています。だからこそ、採用担当者もTOEICスコアを重視し、就職活動の行方を左右することがあるのです」
TOEIC Programの実施・運営をする、一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会で執行理事を務める永井聡一郎さんは、このように語ります。
さて、皆さんはこの記事を読んだ後、「就職活動にTOEICは必要か」と聞かれたらどう答えますか。
(※)……TOEICはTOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)およびTOEIC Speaking & Writing Tests(以下、TOEIC S&W)の総称。
<目次>
●74%の企業が英語力を考慮。人生の選択肢を広げる上で「英語」は避けては通れない
●「スコア」だけではない。採用企業から見たTOEICの意味
●求められるTOEICスコアとは。何点あれば就職活動で有利になるのか
●「海外留学」と「TOEIC」。両者をうまく活用してほしい
●英語テストは目的別。英語で学び、英語で結果を出すならTOEIC
●公開テストを毎月開催。TOEIC活用で高める英語力
74%の企業が英語力を考慮。人生の選択肢を広げる上で「英語」は避けては通れない
──グローバル化によって英語の重要性が増してきている一方、「TOEICは実は就職活動に必要ないのでは?」という意見を持つ現役大学生も一定数います。学生のスタンスについて感じることはありますか。
永井:学生の目線と企業の人事担当者の目線は異なるところがあり、実際、企業における英語の必要性は今も確実に高まり続けています。そのため、社員の英語力を重視する企業は多く、私たちが2022年に実施した企業の採用担当者向けのアンケート調査では、「新卒採用時にTOEICスコアを要件・参考にしている」と答えた企業は、39%ほどでした。さらに、「要件・参考とする可能性がある」という企業は35%ほどありました。
永井 聡一郎(ながい そういちろう):執行理事・IP事業本部本部長
金融機関、外資メーカーを経て、一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)に入団。TOEIC Programを企業や学校法人に普及する部門の責任者を担う。
永井:確かに突出したスキルを備えている学生であれば、英語力がなくても採用に支障はないかもしれません。ただ、就職活動ではどうしても他の学生と比較されてしまいます。ポテンシャルが同じ学生が2人いて、1人は英語力が不明で、もう1人は英語で話せることをTOEICスコアで証明していた場合、どちらが選ばれるか? こういった視点は持っておいてもよいかもしれません。
また、別の視点として、英語力は学生が考えている以上にいかなる企業、いかなる職種でも必要とされている実態があります。実は学生が知る国内の有名企業の多くでも、海外の売上高比率が大半を占めている場合があります。そうなると、業務と英語は切っても切れない関係。総務や人事といった一見、英語が必要とされないと思える職種でも、海外拠点を抱える場合は、常に現地と英語でやり取りしているものです。
──実際に、TOEICを受験していないと就職活動で不利になるシチュエーションもあるのでしょうか。
永井:そうですね。商社によっては4年目までに、「TOEIC L&R」で730点を取得しなければ、海外赴任ができないという企業もあります。英語力が十分でなく、かつ英語力習得への意欲が低い場合は、入社後も「海外業務ができない=商社において仕事ができない」と捉えられかねません。
英語力をアピールしている候補者が多い中で、受験の経験すらないとなると不利になる可能性はあり得ると思います。そもそも、面接で「国際業務に就きたい」と語りながら、履歴書にTOEICスコアも書かれていなければ、「説得力に欠ける」と判断する採用担当者は多いと思います。
──企業以外の採用ではどのように活用されているのでしょうか。
永井:企業以外では、国家公務員や地方公務員、警察官の採用でもTOEICスコアが加点評価に用いられているケースが増えています。訪日外国人の増加に伴い、公的サービスにおける英語対応の必要性が急速に高まっているからです。警察の場合は、国際犯罪への対応も必要となる中で、現状は民間の通訳者を募集して対応を依頼するしかない場合が多いことなども背景にあるようです。
また、就職だけでなく、大学院への進学でも「TOEIC L&R」や「TOEIC S&W」のスコアが出願要件とされているケースが増えています。
「スコア」だけではない。採用企業から見たTOEICの意味
──TOEICを受験していることで、自己PRの説得力が増したり、キャリアの選択肢が広がったりする可能性があるんですね。
永井:企業の人事担当者は複眼的な視点で学生を見るため、自己PRに行動が伴っているかどうかも注視しているものです。学生時代に言動が伴っていれば、入社後もその再現が期待できると判断するためです。国際業務希望で実際にTOEICスコアがあれば、やりたいことに向けて努力をしてきた意思表示にもなり、人事担当者も「口だけではない」とみなします。
──採用する企業側にとって、TOEICはスコアだけでなく、物事に取り組む姿勢を評価する手段にもなるんですね。
永井:その通りです。TOEICの高スコアは努力を継続できる力の表れともいえます。英語は基本的に努力して時間をかければ誰でも話せるようになる一方、一夜漬けで身につくものではありません。
自分で目標と計画を立ててコツコツと努力できるかどうかが問われるものでもあり、英語学習で成果を出せる人材は、仕事でも成果を出せる人材だと思われるものです。
求められるTOEICスコアとは。何点あれば就職活動で有利になるのか
──企業が英語力を重視していることはよく分かりました。実際にはどれくらいのTOEICスコアが求められているのでしょうか。
永井:企業や職種によって異なりますが、「TOEIC L&R」で600点取得を推奨している企業が多いと思います。
英語教育改革によって、高校や大学で英語によるコミュニケーションの授業が増え、10年前と比較したときに就職内定者や新入社員の英語力は徐々に上がっている傾向が見て取れます。多くの企業の昇進・昇格要件を見たところ、600点から650点がそのボリュームゾーンになるため、どの職種でもまず600点が目標となるはずです。その上で、800点を取得していれば、新卒の学生が自己PRするスコアとしては十分に高い英語力だと思います。
職種別でいえば、コンサルタントは海外法人に出向く場合もあるため、730点から800点といった高いスコアを求められる場合が多いといえます。実際、コンサルティングファームでは「TOEIC L&R」だけでなく、話せる英語ということで「TOEIC S&W」の導入も広がっています。こういったことを背景に、「TOEIC S&W」の活用を推奨する大学の就職課も増えてきました。
最近であれば、訪日外国人が再び増えてきたことに合わせ、ホテルや鉄道、小売業といった業界からのお問い合わせも急増しています。意外なところでは、不動産や建設、物流などの業界でも英語力の必要性は高まっているといえます。業種・業界を問わずに英語力が求められている印象がありますね。
──大学の就職課でも「TOEIC S&W」が推奨されているんですね。なぜそこまで英語を話す力・書く力が求められているのでしょうか。
永井:企業が英語で発信する能力まで求めているからだと考えています。
「TOEIC S&W」はそもそも、そんな企業の声をもとにして2007年に開発されたテストです。2000年頃からのグローバル化による、英語コミュニケーション力の必要性の急速な高まりを背景に、日本企業だけでなく、アジア各国をはじめとする海外でも、話せたり・書けたりといった英語力のニーズが高まっていました。
その結果として、現在はほとんどの企業で英語と何かしらの接点が生まれています。以前は英語力を必要としなかった業界でも、その必要性が高まっており、裾野が広がっている印象があります。
もう1つの要素としては、コロナ禍の影響です。かつての海外とのやり取りは、企業の数人の代表者が全案件を抱えて海外出張をし、話をまとめるケースが多くありました。しかし、リモートワークが定着したことで、海外とのやり取りもオンラインツールで日本からの参加が容易になり、その場で発言を求められるようになっています。
「海外留学」と「TOEIC」。両者をうまく活用してほしい
──企業が求める「英語で話す力」を向上させるため「海外留学」を選択する学生も多いですよね。
永井:そうですね。海外留学を視野に入れている学生も多いと思います。海外留学を経験された方は、留学を通して英語で話す力を向上させている場合が多いはずですから、帰国したら「TOEIC L&R」に加えて、「TOEIC S&W」を受験してみると、留学で向上した英語力がスコアに如実に表れると思います。両者をうまく活用して、英語力を向上させていただきたいと思います。
ちなみに、「TOEIC」はテストのコンセプトが、英語を母国語にしないノン・ネイティブ・スピーカーを対象とした、英語のコミュニケーション能力を測ることなので、「TOEIC S&W」では、仮に単語や文法の間違い、言い直しやたどたどしさがあるといった完璧な英語でなくても、言いたいことが相手に伝われば加点評価されていきます。そのため、採点もAI(人工知能)ではなく、相手の意図をしっかり汲(く)み取れる人間が行っているんですよ。
──文法に誤りがあっても、相手に伝われさえすれば加点評価される仕組みなら、英語を話すハードルが低くなりそうですね。
永井:はい。「TOEIC S&W」の受験自体が英語を話す場面の疑似体験にもなりますし、受験に向けた学習自体が英語で話すトレーニングになると思います。
いきなり国際会議に出席し、「英語で話しなさい」という場面に直面するより、「TOEIC S&W」で英語を話す場面を経験しておけば、会議に臨む心構えも変わってくるのではないでしょうか。
受験者アンケートを見ても、「TOEIC S&W」は再受験意向が非常に高い結果が出ています。「喉まで言葉が出かかったのに出なかったのが悔しい」「絞り出した単語をつないで、なんとか喋(しゃべ)れた」といったリアルな体験談も聞かれ、実際に英語を話す場に直面したことで、再度チャレンジするモチベーションがかき立てられるのだと思います。
多くの企業が「TOEIC L&R」を指標にしていますが、英語を話せるようになるには時間をかけたトレーニングが必要で、「TOEIC L&R」で700点のスコアを持っていても英語を話せない人はいます。
とはいえ、700点のスコアを持つ人はたとえ英語を話せなくても、トレーニングさえすれば早い段階で話す力を顕在化させられるものです。なぜならば、話すための英語の引き出しを多く蓄えている状態であることが、「TOEIC L&R」のスコアで証明されているからです。そのため、「グローバルに仕事がしたい」方や「英語でコミュニケーションをとりたい」といった方は「TOEIC L&R」で600点ほどのスコアに達したら、「TOEIC S&W」も活用しながら、英語で話したり書いたりする力も同時に向上させることが望ましいですね。
英語テストは目的別。英語で学び、英語で結果を出すならTOEIC
──他にも英語力を証明できるテストはありますが、TOEICにはどんな特長があるのでしょうか。
永井:1つ目は、TOEICが日常生活からビジネスまで幅広い英語のコミュニケーション能力を測定するテストで、世界約160カ国で実施されているグローバルなテストである点です。実際のコミュニケーション場面で使われている英語がテストに出題されるので、テストに向けた英語学習が英語コミュニケーション力の向上につながります。
2つ目の特長は、スコアの信頼性の高さ。つまり、受験者の英語力が変わらない限り、いつ受験してもスコアが変わらない点です。信頼性の高さが評価され、幅広い用途にTOEICスコアが活用されています。
3つ目は、英語力がスコアで表示される点です。合格・不合格ではないため、スコアの推移で英語学習の伸びや進捗(しんちょく)を測ることができます。「英語学習を始めるとき」と「ある程度英語学習を進めたあと」で受験して英語力を測定することで、強み・弱みを把握し効率的に英語学習を進めることが可能です。
公式教材をはじめとして、教材や学習素材が充実しているのも、TOEICが多くの学習者に支持されているポイントだ。
──TOEFL・英検など、英語資格の種類はたくさんあり、実際にどれを受験すべきなのか、迷っている方もいると思います。
永井:英語のテストは多くあるものの、それぞれ目的は異なっています。英検(実用英語技能検定)は文部科学省の学習指導要領に準拠しているため、級によって出題範囲が決まっており、決められた範囲の英語をどの程度習得しているかを確認できます。TOEFLであれば、海外留学先での大学の授業やキャンパスライフにおいて、自身の英語が通用するかどうかを測れます。また、TOEICにも、TOEIC Bridgeという、日常的な英語の力を測定する初・中級者向けのテストがありますから、目的に応じてテストを活用するとよいと思います。
中高生であれば、「英語を学ぶ世界」といえますが、大学生は「英語で学ぶ世界」です。そして、企業に入ったら「英語で結果を出す世界」に変わっていきます。それぞれのフェーズの違いに気づき、選択するテストを切り替えて効果的に学習することが大切だと思います。
TOEIC 、TOEIC Bridgeそれぞれに、Listening & Reading、Speaking & Writingのテストがある。英語力に合わせて、効果的に活用したい。
──確かに、社会人になると「英語で結果を出す世界」になるのはおっしゃる通りですね。
永井:就職後に関しても、配属時や部署移動・昇進昇格など、英語力が考慮される場面がたくさんあります。英語力があれば、配属先や職種の選択肢は幅広くなります。「働き始めてから英語力の必要性に気づいても、日々の仕事で忙しく、なかなか学習の時間がとれない」「学生のうちにもっと学習しておけばよかった」という話を社会人の方からよく聞きます。
忙しくなって時間がとりづらくなるのは、就職活動も同じ。「TOEICをいつ受けますか?」と聞くと、多くの学生が「勉強してから受けます」「就職活動が近くなったら受けます」と答えますが、それでは遅いと言わざるを得ないですね。もったいないとすら、感じてしまいます。
──より早いタイミングで自分の英語力を伸ばす必要性に気づけば、将来的な活躍の場も広がりそうですね。
永井:TOEICは合格・不合格で判定されるわけでもなく、いきなり最高スコアの990点を目指すテストでもありません。自身の英語力の現在地を示すテストであるため、高いスコアが出ないから受けないのではなく、ありのままの英語力を知る意味でまず受けてみることをおすすめします。そして、一度受けると、その後の英語学習の道が開けていくはずです。
公開テストを毎月開催。TOEIC活用で高める英語力
──コロナ禍により、企業が学生に求める英語力やTOEICへの影響についてはどうお考えでしょうか。
永井:率直な実感として、英語力の必要性はコロナ禍を境に、変わらないどころか、より高まっていると感じています。
「TOEIC L&R」はコロナ禍初期の2020年3月から7月まで試験が実施できず、9月に再開しました。2023年度は1年間で土曜日の実施も入れて14日、午前・午後の2回ずつテストを実施しています。実施回数を増やし、多くの受験機会を提供しているのは、TOEICが学習成果の確認から、入試や単位認定、就職や転職など、さまざまな用途でご活用いただき、受験者の人生をも左右しかねない大切な役割を担うテストであると自負しているからです。
より受験しやすく、活用しやすいテストにすることは、私たちの使命だと思っています。
──最後にTOEICの受験を迷っている学生へのメッセージをお願いします。
永井:英語学習は現時点の自身の英語力を知るところから始まります。「英語学習を始めたい」「就職活動で英語力をアピールしたい」「国際業務に就きたい」と考えている学生は、今すぐTOEICを受けることをおすすめします。
自分の英語力の現在地を知り、1年後、2年後の目標を立て、そして学習が計画通りに進んでいるかどうか、定期的にTOEICを受験して確認する。そのサイクルを回すことで効果的に英語学習を進めていき、結果的に伸ばしたスコアが就職や自身の夢の実現につながっていけば、私たちとしてもこれ以上に喜ばしいことはありません。
▼TOEICと就活についてもっとわかる!【公式】TOEIC就活特集はこちらから
【公式】TOEIC就活特集
【執筆:小谷紘友/撮影:百瀬浩三郎/編集:萩原遥】