読者のみなさま、こんにちは。下條友里です。
就活中、心が迷走しすぎて哲学書を読み漁ったという経緯から「ワンキャリ文庫」シリーズで、就活生におすすめしたい心がほっとする、悩みが少し軽くなる「哲学書」を紹介しています。
3回目の今日は、ルソーの『言語起源論』をご紹介します。
コミュニケーションって難しい。伝えるって難しい
就活中にコミュニケーションに悩む人は少なくないと思います。
就活中は、温泉のような心地よいコミュニティから一歩離れ、社会に出る準備期間に嫌でも足を踏み入れます。
初めましての大人たちに自分をアピールしたり、日常生活では絶対に出会わないであろう人たちとグループディスカッションをしたり。とにかく難題が次から次へと降ってきます。
私は「初対面」というものが何より苦手だったので、当然ながら就活は苦行でしかなく、特にグループディスカッションはほぼすべて落ちました(笑)。そして「ちゃんと考えてから話してる?」「頭でまとめてから相手に分かるように言語化しよう」というフィードバックを諸先輩方からいただく日々。
とはいえ、当時「同じ日本語を話しているのに、なんでこんなに話が通じないの?」と感じていた私にとって、そのフィードバックは、正直、傷口に塩を塗られる感覚でしかありませんでした。まるで「言語化」という名の呪いにかけられたよう。今思い出しても胸がウッとなる記憶です。
そんな仕打ちに憔悴(しょうすい)していた私が出会ったのが、ルソーの『言語起源論』でした。きっと「言語化、言語化、ってみんなうるさい!」とイライラしていたんだと思います、多分。
『言語起源論』(ルソー著/増田真訳)
ことばを話すことによって、人間は他の動物から区別される──『言語起源論』はこんな一文から始まります。
ルソーは人間が他者の感覚に対して影響を与え得る方法は「身ぶり手ぶり」か「声」の2つだけで、人間は言語を自身の「情念」を伝える手段として発達させてきたと述べています。
情念を伝えることが言語発達の大前提、という考えにルソーは立っているので、声に情念を乗せて物事を表現するには、音楽や旋律に乗せて言語を話した方が、おそらく伝わりやすかっただろうし、古代ではそのように話していたはずだ……と主張しています。
音楽と言語の変遷を語る第十九章で、「哲学の研究と推論の進歩は文法を改良し、最初は言語を歌うようなものにした活発で情熱的な調子を言語から奪ってしまった」という記述があるのですが、「言葉を覚えたての古代人たちは、歌うようにおしゃべりしていたのかなー」なんて呑気(のんき)に想像したのを覚えています。実際、どうだったのでしょうね。
ルソーに学んだ「考えるよりも先に感じること」の大切さ
『言語起源論』は言語の話をしていると思ったら、突然、音楽の話になるなど、構成がバラバラで読むのが正直大変なのですが、社会人になった今読み返してもグッとくる一文が第二章にあります。それがこの本を今でも持っている理由です。
人はまず考えたのではなく、まず感じたのだ。人間はその欲求を表現するためにことばを発明したと主張する人々がいる。この意見は支持できないように思われる。
※引用:「言語起源論」
就活生だった当時、この一文を読んでハッとしました。
考えを論理的に整理して相手に自分の言葉で伝えることは大切ですが、それ以前に「私はその場の空気や、今伝えるべきことを感じていただろうか?」という気持ちになったからです。
グループディスカッションや面接は、とにかく自分をアピールしなくてはいけないと思いがちで、相手や周りの温度感をなかなか掴(つか)めずに突っ走ってしまうことが多々あります。
これがルソーの言う「感じられていない状態」であり、自分が主張することだけしか考えられていない状況だったのだと気付きました。
選考は、相手との「会話」を楽しむ時間なんだ──。
そう思って、会話することを意識し始めたら、初対面に対する苦手意識が「気合を入れて話さないといけない」という強迫観念から勝手に引き起こされていたものだと分かったのです。そして、選考への苦手意識も軽くなったのでした。
*
ルソーの『言語起源論』は、私にとって「コミュニケーションは相手がいるからこそ成り立つもの」という当たり前のことと、傾聴することの大切さを教えてくれた1冊でした。
面接や選考で、コミュニケーションに頭を抱えることもあると思いますが、そんなときの息抜きに読んでみてはいかがでしょう。
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