「いま就活生になったらどの会社に入るか」というお題をもらってからずっとそれについてばかり考えていた。嘘だ。本当は進撃の巨人の続きがどうなるのかとか、確定申告をどう切り抜けようかとか、そろそろ湘南美容外科でシミ取りでもしようかとか、そんなことを考えていた。でもお題のことはずっと私の頭の片隅にあった。
思い返してみれば私も就活生の時に、イケてる社会人だったら今どこを受けるんだろう? ということは知りたかった。私が今イケてる社会人なのかどうかはさておき、就活生には「社会人たちが今就活生になったらどの会社に入るか」というのは、普遍的に興味深いテーマだろうと思う。
ところで、この記事をいま私は長野県の実家で書いている。一時的な帰省ではなく、昨年末ごろから計画をはじめて年明けに、私は長野に生活の拠点を移した。
と、言っても地元企業に転職したわけではなく、仕事は引き続き東京のIT企業でフルタイム正社員として勤めている。コロナによってフルリモート勤務が暫定的にOKになったため、東京のマンションを引き払って故郷に帰ってきたのだ。家賃を節約しつつ家事全般を親にやってもらおうという魂胆である。控えめに言って英断だった。忌々しいコロナによってもたらされる僥倖(ぎょうこう)もほんの僅(わず)かだがある。
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そんな「出戻り」在宅会社員の私は、近所の山のキジバトがポッポーと鳴いている実家ではたと考えた。今、もしも私が就活生になったなら、「東京での就職」はまず選ばない。
私にとって東京とは、多様な人と出会い、多様な場所へ赴き、五感で情報を浴びながら「さあワイもやったるぞ」と意気込むための街である。それが憎きコロナによって叶わなくなった今、東京にいるメリットはなくなってしまった。
そもそも有効求人倍率からしてこちらに分が悪すぎる。「ここで働かせてください!」をするのは湯婆婆よりも、今の東京の現実の方がシビアかもしれない。(湯婆婆のシビア加減を知らない人はググるか『千と千尋の神隠し』を見るかしてみてください)
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では、今の私が就活生だったとして「さあワイ、やったるぞ」と意気込むためにはどこでどうすれば良いのか。実家の庭にでかいシラサギが飛来する様を見ながら、再びはたと考える。そして、頭に浮かんだ。
「ワイ、この街でやったればよくね?」
私はこう見えて地元愛が強い方である。地元の銘菓が成城石井で売られていることを誇りに思っているし、りんごは青森より長野の方が美味いと思っている。大学の卒論は地元の若者に取材をして書いたし、長野の豪雨災害の際は有給を取って土砂の撤去のボランティアに赴いた。生まれ育った者なりに、地元の自然と文化を愛している。
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しかし、私が愛し、育った町にも不満がある。女性の町長が一度も出ていないことだ。
森喜朗元会長の女性蔑視発言は氷山の一角のさらに先端のようなもので、この国では何かを決める場に女が少なすぎるし卑下されすぎている。それは政界やスポーツ界や自治体だけではなくて、これまでの社会人生活の中で属したあらゆる組織で何度も何度も何度も何度も身をもって体験し、怒り、悔しがってきた紛れもない事実だ。
もう怒るのも飽きてしまった。そろそろ自分でやってみてもいい頃だ。
前置きが長くなってしまったが、いま私が就活生になったなら、30代の間に地元自治体「初の女性町長」を目指す。
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地元には私の小さな甥(おい)や姪(めい)も住んでいる。彼らが大人になる頃に、身近な女性が自治体の首長になっているところを見せられたら、それはかなりイケてる社会人だと胸を張れそうだ。
ところで、無名の若者が野面でいきなり出馬したところで当選はまずないだろう。
大学を卒業したらまず、地元企業で働いて町の産業の課題を知り、人脈を作りながら、25歳での町議会議員選挙出馬に向けてボランティア活動などの実績を積みたい。歴代の町長は必ず町の観光や産業に役立つ大きな功績を残している。「この人は町に役立つ」ということを町民に十分周知されることがまず必要だ。どこかの施設の長を務めるのが手っ取り早そうである。
実際私は地元の図書館長の座を真剣に狙ったことがある。地元の図書館は建築物としても町民の憩いの場としても素晴らしい場所で、ここに東京で出会った得がたい人たちを招いて、地元学生のキャリア支援やジェンダー・SDGsのワークショップが企画できたら最高だなあと勝手に考えている。
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そのようにして実績を積んだのち、2029年の町長選に立候補。30歳で初当選となれば、30代は女性町長として突っ走れることになる。(あくまで最短ルートであって実際そんなに甘くないことは重々承知だが、不可能な話ではない)
こんな、理想ルートをたどるには30代までの10年程度では足りないかもしれないが、今の私には曲がりなりにもIT企業戦士として培ったインターネットリテラシーと、東京で得たたくさんの素晴らしい人との繋(つな)がりがある。この力を謎の時計や謎の化粧品のPR投稿に使うよりも地元のために使う方がよほど良いのは言うまでもない。
実際のところどうやったら町長に当選できるのかはぶっちゃけ全然わからんのだが、ローカルな世界では一度飛び込んでから考えるのが良い気がする。
ここまで書いて、はたと「これ、別に今からやってもよくね?」と思った。ひょっとしたら移住して数カ月後には本気になっているかもしれない。
いうなれば働く人はみな就活生なのだ。「もし今やるとしたら」は、たぶん「実はいまやりたいこと」なのだろう。
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