※本記事は、2016年8月30日に初公開された記事の再掲載です
「君に、オファーレターを出したい」
彼はまだ3年生。初めての「内定」を握りしめた。就活はわずか4カ月で終わった。
倫理憲章上の「就活解禁」までほど遠い、8月。しかし実は既に「就活を終える学生」が出てきている*。
「おいおいおいおい!」
と思うだろうか。
だが焦る必要は全くない。現時点(16年8月)で内定ホルダーの学生は、まだ全体の0.0004%*と推測され、確率的には宝くじに当たったようなものだからだ。
実は今、就活が終わる時期は最大で「1年強」差がつく。早い学生は、大学3年の8月頃で終え、遅い学生は、4年の10月頃に終える。
学生の本業は「勉強」であるため、できる限り早く終わらせたい学生がほとんど。しかし、どれだけ一生懸命頑張っても、就活は長引いていく。「就活落ちた日本死ね」という記事がバズったのは記臆に新しく、精神を病む学生も存在する。
我々は、年間5,000人以上の学生と、バイネームで会っている。しかも、そのほとんどは「上位校*」と呼ばれる学生だ。その学生ですら「大きく差がでる」のが現代就活の特徴だ。
今日はこれらの経験から、「なぜ、ここまで大きく差がでるか?」を3つの観点から述べ、現代就活の「負の世界」を見ていきたい。
*ワンキャリアによる学生インタビューより
*就活生を70万人だと仮定した場合の推測値。正確な数字とは異なる可能性がある
*東早慶一工、京阪神、その他旧帝大、GMARCH-KKDRを指す
1つ目:これまで十分に悩んできた学生ほど、早く就活を終える
ワンキャリ編集部には、とある「定説」がある。それは、夏インターンの時期では一般的に、「男性よりも女性の方が優秀」ということだ。正確にいうと「優秀な学生の割合が多い」といわれる。そして、その理由はシンプルに「これまで自分のキャリアをたくさん考えてきたから」に帰着する。
ライフタイムに影響を受けやすい女性の方が、自分のキャリアを考える機会がこれまで多かった。そのため、志望動機や自己分析が明確な人が多く、その差が最も出やすいのがこの夏の時期なのだ。
これは裏を返せば「(性差は関係なく)自分のキャリアについてこれまで悩んできた量が多い学生は早く就活を終える」ということだ。これが特徴の1つ目だ。
2つ目:リクナビは3月1日の1日だけ使う
2つ目は「使うサイトの違い」にある。
私が就活をしていた2008年頃、就活のサイトといえば、「リクナビ」と「マイナビ」の2択だった。それ以外の選択肢は存在しなかったといっても過言ではなかった。
しかし、近年の就活は違う。現に、既に某コンサルから内定をもらっている18卒の都内学生も大手サイトには一応登録しているものの「全く使っていない」と語っている。
そして、これはここ数年で顕著に見られる傾向だ。例えば、彼より1年上の、投資銀行の内定者(東京大学、2017年卒)はこう語っている。
「リクナビは、3月1日の1日だけ使いました。マイナビは登録すらしてません」
彼自身の就活は、決して短期戦ではなかった。就活は合計10カ月、300日間にも及んだ。それでも大手サイトを使ったのは「1日だけ」というのが実態なのだ。
なぜ3月1日だけなのか?
その理由は、3月1日はプレエントリーの解禁日だからだ。一度登録した個人情報を、一括でプレエントリーできる機能があり、その日に一斉で使っているのだ。彼らがメインで使っているのは「上位校向けメディア」だ。早い時期から情報取得が可能だからだ。
3つ目:リスク覚悟で、早期決戦に挑む
3つ目は「勝ちやすい時期に戦うこと」にある。
「本当にサマージョブでいいの?タイプ別で受けるべき時期が違う外コン選考の実態」の記事でも触れているように、外資系は「どの時期に受けるか?」が極めて大事だ。就活を通じて、学生は急激に成長することがあるが、それは他の学生も同じ。留学組や、研究組が就活を始める前に、頭一つ抜けることができれば、早期に内定を取ることは容易だ。
ただし、マッキンゼー*を代表例に、外資系企業の中には「一度受けると、一定期間内はもう一度受けられない企業」も存在するため、準備ができていない状態で、これら企業を受けるのは筋が悪い。自分と周りの学生とのレベルを見極めながら、一気に勝負をかけた学生、リスクをとった学生が早期内定を獲得している。
*マッキンゼー・アンド・カンパニーは夏インターンは行っていない
2018年卒の就活は「正直者ほど損する」のが特徴
上述のように、現代の就活は「終わる時期に、1年強の差がつく」のだが、実態は「二極化」と表現したほうが正しい。
イメージだとこういう感じだろうか?
※上記図はワンキャリ編集部によるイメージ図
2018年の就活は、まさに「一括採用」と「通年採用」の狭間にある。学生は、その板挟みに合う。またはそれを狙い撃つ日系人事も「正直者ほど損する」可能性が高い。優秀な学生を、外資と倫理憲章を守らない日系企業に先行して採られてしまうからだ。
現に上述の学生はすでに就活を終え、「受けたとしても、他の外資系戦略コンサルぐらいだろう」と語っている。倫理憲章を守る日系大手の人事に入り込む余地はほとんどない。
そして行き着く先は、ただ1つ。
倫理憲章を「誰も守らなくなる」しかない。
倫理憲章崩壊後の争点は「人事が面接力を、担保できるか?」の1点
では、もし仮に倫理憲章が崩壊したとしたら、いったいどんな問題が起こるか?
結論からいうと「一時的に、膨大な機会損失が発生する」と私は考える。我々は普段から学生と面談/面接を行っているのだが、その時痛感するのは「シーズンによって、同じ学生でも評価が大きく違うことがある」ということだ。
例えば、大学4年の6月時点でトップクラスの評価を受ける学生であっても、その半年前、すなわち3年の12月頃には「最低評価」を受けていることがある。もちろん、面接官もバカではない。「学生の伸びしろ」を見ようとする。だが、それでもなお、その予測を上回るほど、学生は短期間で大きく成長するのだ。
これまでの一括採用はいわば「熟した実をふるい分ける仕事」だった。学生は6月1日に向けて準備をし、整えてきた。これを見極めるのはハッキリ言ってイージーだ。だが、これが通年採用になると「熟する前の実が、甘いか? 否か?」を見極める必要がある。高い専門性が必要になる。
そして、私は、今の人事にこれを「正確に見極める力」があるようには到底思えない。特に、これまでブランド名だけで面接をしてきた人事にその「面接力」はない。結果、大企業中心に「本当は採るべき学生」の見極めを誤り、一時的には「機会損失」が発生する企業が生まれるのは間違いない。
では、これは悪いことなのか?
答えはノーだ。
長期的に、これはいい傾向だ。確かに短期的には、市場の機会損失は発生するが、長期で見ると、人事が「本当の伸びしろ」を見極められるタイミングがくる。採用の現場にも「平等性」が担保される日がきて、競争原理が発生するからだ。
──2018年の就活は、革命前夜
私はこの一文を取材メモに殴り書きし、彼らと寿司を食べたのだった。
北野(KEN)の執筆後記:日本で一番「負のブラックボックス」が大きいのは、新卒市場
一般的に新卒メディアは「当たり障りのないこと」しか書かないといわれる。なぜなら、お金をもらっているポイントが企業側にあり、彼らの損になるような内容は利益相反となってしまうからだ。
ワンキャリアは普段からリベラルであり、根拠に基づく批判はウェルカムである。『ゴールドマン・サックスを選ぶ理由が、僕には見当たらなかった」トップの就活生が今、外銀・外コンを蹴り商社へ行く3つの理由:前編』はまさにその一例だ。結果的に、企業からときに「情報を出すな」とお怒りを受けることがある。以前、とあるメーカーから選考情報について削除依頼を受けたことがあった。
その時、個人的に思ったのは「アホか」ということだ。
みなさんは「赤本」を使ったことがあるだろうか?「赤本」とは、大学の過去問集だ。試験の情報は「クローズドにすべきである」とすれば、赤本はなぜ社会から受け入れられているのか?
その理由は、過去問には過去問の社会的意義があるからだ。過去問とは「大学からのメッセージ」なのだ。
大学の「入試」は、「その大学に入る際に必要な基礎能力や経験」を問うている。ということは過去問は学校から学生への「学生時代に、こういう基礎能力を高めてきてほしいです」というメッセージなのだ。
採用活動も同じはずだ。例えば東京海上日動やリクルートグループは、面接の場で「個人史を深堀しまくること」で有名だが、それは「小手先の技術ではなく、コアの部分で価値観が合う人と一緒に働きたい」という人事からのメッセージだ。あるいは、多くのコンサルで志望動機をそれほど重視しないのは「仕事人は、モチベーションや動機に関係なく、高い専門性を持つプロフェッショナルであるべき」というメッセージであるべきだ。
それを低い視座でもって、削除してほしいというのは「いい人を見つけられる力がない」と自らの無能さを自ら露呈しているようなものだ。
働くことは、人生の大部分を占める。だが、そのファーストステップにあたる今の「新卒領域」には不透明なことが多すぎる。我々はそれを明らかにする。そうでなければ、その先にある「日本の労働環境」が健全になるわけがないからだ。
北野唯我(KEN):
兵庫県出身。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、米国・台湾での放浪を経てボストンコンサルティンググループに転職。2016年にワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。初の著書『転職の思考法』がダイヤモンド社より6月21日(水)発売。
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