皆さん、結構ベンチャー企業に興味はあるんじゃないですか?
いいですよね、新しいマーケットに革新的なビジネスプランを掲げて打って出る。圧倒的な速度での成長、そして上場。降り注ぐ札束。豪邸を丘の上に建てて大音量の四つ打ちをタレ流すアメ車が上下にガックンガックン揺れる。そんなストーリーには誰しも憧れます。実際ベンチャー企業勤めは当たるとデカいです。一攫千金のチャンスがあるか無いかで言えば、あるでしょう。
僕は20代半ばで起業をして、「新卒雇いたいなぁ」と思うくらいまで会社を成長させた後、見事大ゴケさせた経験がありますので、この辺りのドリームは大体分かるつもりです。今日はその辺を具体的にお話ししようと思います。
【目次】今回の見どころ
・魅力1:受付嬢に1億5,000万円!? 未公開株で一攫千金のチャンス
・魅力2:大胆な裁量は出世の近道、「会社の英雄」には莫大なリターンが待っている
・で、その会社で勝ち上がれるの? ベンチャー企業が新卒採用を始める本音
・創業期の先に待つ「英雄のいない会社」。そこに自由と挑戦はあるのか
・夢のないベンチャーはブラック企業!? ならばスタートアップに参戦しよう
魅力1:受付嬢に1億5,000万円!? 未公開株で一攫千金のチャンス
さて、ベンチャー企業に入社する旨み、これは主に2つあります。
一つは未公開株ですね。創業したばかりのスタートアップであれば、普通に「おう、リスク取ってこの会社入るんだから俺にも株よこせや」みたいなプリミティブな交渉が打てます。というか普通打ちます。僕も創業時に打たれました。リスク取ってスタートアップに入るのに株を要求しないなんてあり得ないですよね。(あり得たらダメですよ。株貰わずに役員としてスタートアップに入るとか悪夢ですからね、単なる定額無制限働き放題プランですよ)
そうでなくても、モリモリ成長するベンチャー企業は社員に株を配ることがありますね。ストックオプションだったりあるいは持ち株会の形だったりします。これは会社が買収されたり、あるいは最終的に一部上場したりなんかすると大爆発することがあります。YouTubeの神話を覚えている人も多いのではないでしょうか。受付嬢にも1億5,000万円でしたっけ。
魅力2:大胆な裁量は出世の近道、「会社の英雄」には莫大なリターンが待っている
もう一つの旨みが、大胆な裁量の割り振りから生じる出世チャンスです。
ベンチャーというのは若く、「収益の仕組み」がまだ出来上がっていない企業です。自ずから、個人の突出した能力や成果が収益に直結するわけですね。年功序列みたいな眠たい人事方針を採用する余裕はありませんから、英雄になるチャンスがガンガンあるわけです。スーパープレイヤーが一人で数億稼いだ、みたいなことになれば当然、給与も出世のスピードもとんでもないことになるでしょうね。
ベンチャーはいうなれば野戦です。上司が討ち死にしたら役職や職務が自分のところにガンガン降ってくるでしょう。スタンドアローンで戦える人間にとってこれ以上楽しい環境はないと思います。実際、「ガムシャラに仕事してたらいつのまにか経営者になってたし、預金が見たことない数字になってた」みたいな話をする人は結構いますよね。
そういう世界観です。ね、めっちゃ楽しそうでしょ?
で、その会社で勝ち上がれるの? ベンチャー企業が新卒採用を始める本音
未公開株を貰い、自ら英雄となって会社を成長させビッグな見返りをいただく。これがベンチャードリームです。
しかし、この2つの可能性が既に尽きている会社も、もちろんあるんですよ。
まず株での一攫千金ですが、そもそも会社が社員に株を配る気がなければ未公開株にはありつけませんし、既に上場してれば旨みなんてあるわけがない。もう一つの「大胆な裁量の割り振り」、こいつもまたクセモノです。というのもですね、なんで大胆に裁量を割り振るのかというと、「社員を教育するシステムなんかない」という場合が多いからですよ。だから、デキる奴を連れて来て、ドカっと権限を与える。そういうことになります。
では、新卒採用を始めるというのはどういうことか。完全に言い切ってしまえば語弊があるかもしれませんが、「社員を教育していく土壌ができた」あるいは、それを作ろうとしているということです。
でも、なんでそんなことするんでしょう。社外から強いプレイヤーを連れて来て成長した会社なのに。ここから先は僕の経営者としての予想に過ぎませんが、端的に「新卒は安くてよく言うことを聞くから」です。
考えてみてください。会社に放り込んでいきなり事業を任せられるほどのプレイヤーって安くはないですよね。しかも、そういう人間は報酬が見合わなくなったり会社の成長が鈍ったりして期待値が下がればすぐにいなくなります。だって、どこにでも行ける能力を持ってるんですから。僕はこういう従業員を「傭兵」と呼んでいますが、傭兵は高くつくしコントロールしにくいのです。
その点新卒は良い! 何せ、会社を辞めても次の仕事の目処が立ちませんからね。そう簡単には「会社を辞める」という決断ができません。その上給与も大変安く上がります。「俺はこの仕事のやり方でやってきたんだ指図は受けねえ」みたいなことも言いません。傭兵と違って絶対必要な個人戦力ではなく、いくらでも兌換の効く戦力ですから、使えなければクビを切るという選択肢も取りやすい。新卒は、傭兵に対して「正規の一兵卒」と呼べるでしょう。
新卒採用を始めたベンチャーは、創業期は山出しの傭兵集団だった組織を、規格化された正規兵に置き換えたいわけですね。これはつまるところどういうことかというと、属人的な業務形態を、システムで回す形態に作り変えるということです。
創業期の先に待つ「英雄のいない会社」。そこに自由と挑戦はあるのか
さぁ、話はややこしくなってきましたがついて来てください。「業務の属人性を解除してシステムで収益を上げる」とはどういうことでしょうか。僕はポエミーなオッサンなのでこんな風に表現します。「英雄のいない会社」を目指すということです。社員の誰もがシステムの中で歯車として動き、収益をあげる組織へ進化していくということです。そうなると、「英雄になって大金をもらえるチャンスがある」という、ベンチャー企業に入る2つ目の旨みも得にくくなりますよね。
「おまえはカネの話しかしないゲス野郎だ、私はベンチャーにカネだけを求めているわけではない。私が求めているのは経験と成長だ」という声が聞こえてくる気がします。なるほど、大手企業と違って、ドカっと裁量を任せられるベンチャーで働く経験に価値を置いているわけですね。「自由で挑戦的な社風の会社で働きたい」とかそういうのですよね。
でもね、これもちょっと厳しいとこあるんですよ。前述の通り、新卒を雇うということは、何の特殊技能も経験もない人間でも戦力にするということです。すると、システムやマニュアルの整備が必要になりますよね。さて、その過程で「自由で挑戦的な社風」はどれくらい維持されるでしょうか。これはまぁ、会社によりますね。残るところはそこそこ残るでしょうけど、残らないところは残酷なくらい残らないですね。だって、マニュアルにハメた方が確実ですし。
全ての社員を兌換可能なパーツとして扱えるように、教育システムを整備し、業務をマニュアル化する。創業期を抜けた会社が次に目指すのはこれです。新卒採用はそのような背景があって始まることが多いのではないでしょうか。いや、分かりませんけどね、僕の性格が極端に悪いのかもしれないけど。これは余談ですが、経営者にとって「会社の英雄」って最終的には存在してほしくないんですよね。「あいつが抜けたら会社が傾く」って状況を放置しておくわけにはいかないのです。創業期の英雄が会社から叩き出されることはわりとよくあります。典型例はジョブズさんですね。僕自身も会社が成長してきたところで創業期の英雄と殺し合いを展開しましたし・・・。
そういうわけで、この状態まで成長した会社は、皆さんにとってのベンチャードリームは持ち合わせていないことになります。
・未公開株を手に入れるチャンスがない
・個人の突出した能力で圧倒的な成果を挙げるチャンスがない
・裁量を任せてもらうチャンスがない
・自由で挑戦的な社風が失われ、システム化、マニュアル化が進行している
夢のないベンチャーはブラック企業!? ならばスタートアップに参戦しよう
さて、ベンチャー企業からベンチャードリームが失われた時、そこには何が残るでしょうか。
収益システムが整備され、社員教育システムもできてきた。しかし、資本の厚みなんかは大企業には明らかに劣る場合が多いですよね。なおかつ給与や福利厚生、あるいは労働環境も大手より手薄となると・・・・・・それってブラック企業ですよね。もちろん、極めて稀にホワイト企業へと成長していく会社もありますけど、ホワイトな環境で仕事したいならそもそも大手行けよって話ですし。そんな夢のないベンチャーに毎年新卒が入っていくのを見ると、「流石腕の良い経営者は違うな」といつも思います。羨ましい。僕も新卒がノリノリで入社してくる会社経営したかった。
そういうわけで、この記事を逆さに読んでいくとベンチャーに夢を見る皆さんがどういう会社に入ればいいのかがわかってくると思います。新卒でベンチャー企業に突入するのは条件としては少々厳しいですが、そんなものは所詮個人の能力次第です。採用面接では大きな声で「未公開株は貰えるんですか?」と尋ねましょう。くれないと言われたら「死ね」と吐き捨てて帰宅するといいと思います。
僕のオススメはメンバー3人くらいのスタートアップに参戦することです。これなら間違いなく「挑戦的で自由な社風」はありますし、「裁量を与えられる機会」も絶対にあります。最早、英雄になるチャンスしかありません。株も交渉次第で二桁パーセンテージを狙えます。デメリットは給料が出なかったり会社が消滅したりすることくらいです。大したことではありませんね。
ベンチャードリームを目指す学生の皆さん就職活動頑張ってください。皆さんの一攫千金を僕は心から祈っています。やっていきましょう。