僕は、旧帝大の理系学部の4年生。大学院進学と迷った末に、学部での文系就職を選んだ。この記事では理系の皆さんに向けて、僕の経験をもとにしたアドバイスを伝えたい。
僕がいる物理学科には、就活に強い研究室なんてない。体育会系でもない。インドア派で、典型的なヒョロガリだ。留学経験や起業経験もない。英語も下手。なんなら、就活を始めたのは年明け。サマーインターンが当たり前の文系就職なら「出遅れ」組だろう。
そんな僕だが、4月から日系大手証券会社の投資銀行部門(IBD)に入ることにした。今回は、そんな僕の就活について、包み隠さず話そうと思う。
【今回の見どころはコチラ】
・学部就職の理由。自分が好きなのは「物理」……だと思っていた。
・僕がやりたかったのは、難問を解くことだった
・1月スタート、6月に第一志望に内定。僕の就活スケジュール
・あのとき、してよかったこと・しておけばよかったこと
└「フリーの曜日を必死で作ろう」タイムマネジメントは生命線
└内容さえ良ければいい、わけじゃない。理系の落とし穴は「結論ファースト」
└SPIにTOEIC……泣きを見ないために、筆記試験も油断は禁物
・業界選び:理系らしさを生かすには
・勉強や研究とともに、うまく就活をするには
・まとめ
学部就職の理由。自分が好きなのは「物理」……だと思っていた。
多くの理系学生が悩むのは、「就職すべきか、進学すべきか」ではないだろうか。
僕は迷った末に、文系就職を選んだ。まずはそのときの経緯をまとめてみた。あなたが僕と同じ理由で悩んでいるのなら、就職を考えてみてもいいかもしれない。
前提として僕は、専攻していた物理学が大好きだった。高校時代に物理学の魅力に気付いてからというものの、僕は物理の勉強にのめり込んだ。高校の範囲を超える物理についても、自ら書籍を買って学習していたほどだ。
大学の専攻はもちろん、物理学科だ。物理学科での勉強はとても楽しかった。座学や演習、それに実験があったが、その全てが僕にとって新鮮で、一度たりとも心が折れたり飽きたりすることはなかった。試験の成績も上出来で、学科の同期からもよい評価を得ていた。
だが、3年生の終わり頃から、僕の心境に変化が訪れる。今までこの上なく楽しかったはずの物理の学習に、だんだん意欲を失ってしまったのだ。
決して「大学の授業についていけなくなった」とか「物理が嫌いになった」ということではない。にもかかわらず、意欲だけが薄れていく。今まで物理一筋で歩んできただけに、我ながら大きなショックを受けた。なぜこのようになってしまったのか、毎日悩んでいた。
いろいろ考えた末、僕は確実ではないが可能性の高い原因を突き止めた。
僕がやりたかったのは、難問を解くことだった
それは、「僕の関心の対象は、物理そのものではなかった」ということだ。
つまり、僕は「頭をフル活用し、問題を解決していく」過程そのものに喜びを覚えていたのだろう。過去の僕の行動を振り返ると、この価値観がすんなりフィットする。高校時代、友達と数学や物理の問題を出し合っていたこと。数学オリンピックとか物理オリンピックに参加したこと。あらかじめレシピが決まっている実験よりも、金属イオンの同定のように長い手順を自分で組み立てる実験が好きだったこと。どれを思い返しても、僕は問題の解決自体に喜びを覚えていたのだと思う。
よく言えば、高い問題解決能力を有している。諧謔(かいぎゃく)的に言えば、点取り虫。それが、僕という人間の性質だったようだ。
そのことに気付いた僕が次に悩んだこと。それこそが、「就職か進学か?」という問いだった。なにせ、自分の人生だ。3年生の終盤、僕はこの大きな悩みに苛まれることとなった。物理学科ということもあり、大学院に進む同期が多いので、はじめは「修士課程までは行こうかな」と考えていた。いままで散々物理の勉強をしてきたので、それを生かす意味でも大学院進学は合理的な選択に思えた。無論、「大学院で研究するとしたら、これをやりたい!」というテーマはあったし、学力的にも問題はなかった。
だが、研究対象としての物理そのものに大きな関心がない以上、修士課程で真剣に物理と向き合える見込みは持てなかったのもまた事実である。僕は物理学科や大学院の物理学専攻を心から尊敬しているが、自分がそこで研究者になるというのは別の問題であった。
それに、僕の学科には、なんとなく疲弊した雰囲気が生じていた。具体的にいうと、同期には物理そのものに対して大きな情熱を抱く人が少なかった。「この人たちと一緒に研究したい!」という思いが、ゆっくりと減衰していたということである。
結局、僕は大学院進学の選択肢を選ばなかった。すなわち、学部卒で就職することを決意したのである。いままでの人生で、おそらく最も大きな決断をしたのだろう。
ここまでは消極的な理由(=大学院に進学しなかった理由)だが、もちろん就職することに対する積極的な理由もある。その最たるものは、「複雑で不確実な問題に対処するのが、非常に魅力的に感じられた」こと。
ペーパーテストの問題とは異なり、現実問題は往々にして複雑で、理不尽な要素も多分に含む。それらの課題に対して、自分やチームが持っている力を結集させて、大きな課題を解いていく。これが僕には魅力的に思えた。もちろん、社会人としてたくさんの辛い思いをすることになるのだろうが、それを乗り越えてなお難題に取り組んでみたい、という思いが、僕の中にはあったのだ。
1月スタート、6月に第一志望に内定。僕の就活スケジュール
そんなわけで、僕の就活は幕を開けた。3年生の1月末のことである。旧帝大の学生にしては遅めだろう。
1月末からペーパーテストや面接が始まったが、最初のうちは落ちまくった。いま振り返ると、面接での態度やしゃべり方が最悪だった。何社も不合格になり、精神的に大きく傷ついた。いままで、こうした失敗経験を多くは積んでこなかっただけに、ひ弱なプライドが傷ついたのだ。
そうはいっても、数々の失敗を経験し、次第に選考に通るようになってきた。対策のポイントはこれからお伝えするが、努力のかいあってか3月の下旬に外資系企業のITコンサルから最初の内定を獲得。これがきっかけで自信をもって就活できるようになった。その自信は結果にも現れ、何社も内定を取れるようになった。
4月下旬には5、6社の内定を獲得し、就活も一段落した。最初は失敗続きであったが、3月・4月はよいパフォーマンスを発揮できた。入社先の証券会社IBDにはお試しでエントリーしたものの、トントン拍子に選考が進み、6月に内定をもらえた時は大喜びした。他社の内定を辞退し、IBDに入ることに決定。
以上が僕の就活の概要である。
どうだろう。就職か進学か迷っているあなたも、希望が持てそうだろうか?
ここからは、5カ月の就職活動を通じて感じたことをハウツー形式で紹介したい。
あのとき、してよかったこと・しておけばよかったこと
前半は苦労ばかり、後半はトントン拍子で進んだ僕の就活。「やっておいてよかった!」と思うこともあれば、後悔することもある。それらについて、お話ししておこう。
「フリーの曜日を必死で作ろう」タイムマネジメントは生命線
してよかったのは、なんと言っても新年度の日程調整だ。4月は講義と就活が重なり、多くの学生(特に理系)は苦労することになる。私も一番きつかったのは、やはり4月だろうか。
そこで重要なのが、「平日の曜日を一つ、完全に空けておく」ことである。僕の場合は金曜日を全休にし、面接等は可能な限り金曜日に入れるようにした。多くの文系学生と異なり、理系はそうそう全休など作れないと思う。だが、頑張って1曜日だけ空けておけば、就活のスケジューリングは格段に楽になる。理系の新4年生はぜひ心がけてほしい。
エントリーする企業数もポイントだ。理系生は自身のスケジュールと相談して、慎重にエントリーしよう。僕は、そんなに多くの企業にエントリーしなかった。せいぜい15社くらいである。とんでもない数の企業にエントリーする学生もいるようだが、それはおすすめしない。理系学生ならなおさらである。就活をする会社数が増えると、どの作業も「雑」になるからだ。ES記入にしろ面接準備にしろ、本来は時間をかけてじっくり行うべきものであることを忘れないでほしい。またそもそも、時間があるときは大学の講義にも行くべきだ。就活にかまけて大学での学びをおろそかにしてはならない。
付随して、1日の予定を詰めすぎないことも重要だ。特に面接の前後は、ある程度の時間的余裕(バッファー)が必須だ。面接会場に向かう途中で迷子になってしまいかもしれない。もしかしたら面接直後に追加でもう一回面接があるかもしれない。そういった可能性を考慮すると、予定をキツキツにすることの危険性がわかるだろう。何かトラブルがあると、選考結果にも大きく影響する。
週単位でも、1日単位でも、余裕を持っておくことの大切さを知っておいてほしい。
内容さえ良ければいい、わけじゃない。理系の落とし穴は「結論ファースト」
僕が後悔していることの一つは、面接の対策不足である。
就活初期は、態度や受け答えが悪く、面接に落ちまくった。ESの内容を覚えないでとある企業の面接に行ったら、ESの内容を元に質問をされ、「僕、どんなことを書きましたっけ?」みたいな発言をしたらそれ以降相手にされなかったことを覚えている。思い出すだけでも非常に恥ずかしい。外資系戦略コンサルも、せっかく筆記試験を突破できても面接のせいで不合格。貴重なチャンスを逃してしまったのである。
理系の学生は、文系と比べると就活対策に割ける時間は少ない。さらに、そもそも「面接対策」などという概念を持たない人もいるだろう(僕自身もそうだった)。こと理系の人は、背景や原理、それに自分がしたことを述べるという、いわば「論文的」な話し方に慣れているが、多くの面接で要求されるような「結論・意見を最初に述べる」話し方が苦手だ。僕も例外ではなく、くどい話し方をしたせいでなかなか相手にされなかった経験が何度もある。選考に落ちる中でそれに気づき、必死に修正した。
面接での対応は、ときに内容以上に意味をもつ。他者と適切にコミュニケーションをとるのも、大事な能力のうちである。自信のない人は、早いうちから面接練習をしておくべきだ。学内に機会がなければ、実際の選考を受けてみるのもよいだろう。
SPIにTOEIC……泣きを見ないために、筆記試験も油断は禁物
筆記試験やSPIなどの勉強も可能な限り早めに行おう。中学受験の経験者や難関大学の学生は対策不要かもしれないが、油断は禁物。筆記試験・SPIは意外と難しく、よく準備しないと好成績は収められない。問題集を解いてもよいが、日頃から計算・文章読解をするのが一番効率的だ。実際の選考にエントリーして、試験を何度か受けてみるのもよい。
僕が後悔した最たるものは「英語」だった。大学入試以来、ちゃんと英語を学んでいなかったツケが出てしてしまった。TOEICを初めて受験したのも3月で、結果が出るころにはだいたいの企業のESが締め切られていた。また最初のTOEICスコアも悪く、そのせいで選考で不利を被ったことも多々あった。英語については大学1・2年のうちから勉強して損はないし、TOEIC・TOEFLなどの試験も受験しておくとなおよい。ただし、こと外資系企業ではそうした点数よりも実際の英語面接で能力を測る傾向にあるので、試験の点に傾倒しないようにしよう。
業界選び:理系らしさを生かすには
文系就職を目指す理系にとって、「そもそもどの業界がいいのか」というのも、難しい問題である。
僕は物理学科だったが、物理学をそのままに生かせる企業は相当少ない。メーカーならまだ生かせそうだが、修士課程に進んでいない身なので、高度な知識・経験を有していないのも事実だ。したがって僕は、業界を絞らず、さまざまな企業を受けることにした。
いろいろな業界を受けたが、結果として「データサイエンス」「トレーダー」「クオンツ」あたりは、理系学生が有利であるように思う。
理系の長所は、なんといっても数字やプログラムに強いことだろう。このご時世、どういう学部・学科であれプログラミングに触れる機会が多いと思うが、就活ではこの経験が思いのほかウケた。例えばC言語を扱えれば、Javaの基本的なプログラムもすぐに書ける。Pythonをやっていれば、そのまま機械学習の領域で生きるだろう。それらがストレートに生きる業界を選べば、選考を有利に進められる。
僕はとある企業のデータサイエンス職で内定を頂いているが、これは過去にプログラミングによる数値計算を行っていたことが大きく影響している。少なくとも、抵抗なくプログラミングをできたのは企業にとって喜ばしいことだったようだ。
また、トレーダー・クオンツ系でも、理系的な思考が大いに役立つ。特に重要なのは、概算する力だ。コンサルのインターンなどでも、利益を要素分解したり店舗のパフォーマンスをフェルミ推定する際に、理系の「概算力」は絶大だ。「これくらいの店舗面積であれば、○○席用意できる。お客さんの回転率を○○程度とすると、1日の来客数はだいたい○○人程度だろう」……こうした一連の計算では、何桁も細かく求める必要性はない。最初の一桁が合っていればOKなケースがほとんどだし、最初の桁さえ少しズレていてもよい場合がある。こうした計算は、練習しないとなかなかできない。ある程度数を丸めつつ、でも本質は失わないように計算する習慣をつけよう。
僕の場合、日常生活で目に入った数どうしを掛け算して、答えを概算するゲームをしていた。
勉強や研究とともに、うまく就活をするには
最後に、理系学生の就活との付き合い方について、持論を簡単に話す。前述のとおり、新年度(4月以降)の就活は本当に大変だ。スケジュールを破綻させないようにするのは大切だ。
そもそも1月から就活を始めてよかったのか、についても話しておきたい。これは受けたい企業による、というのが僕の答えだ。身もふたもないかもしれないが、おそらく事実である。
外資系企業、特に金融やコンサルあたりは選考時期が早く、就活も早めに始めないとそもそも選考ルートに乗れない。その前に面接練習等もしなければならないので、無論、就活の開始時期は早めなければならないだろう。
一方で、選考が遅い企業・業界を志望している場合は、そんなに焦る必要はない。そういった学生の場合は、就活よりも大学での学びに注力した方が、結果として就活もうまくいくからだ。理系学生の場合、学部生であっても大学での研究内容や学びの内容が評価されることはたくさんある。面接やESの練習はほどほどにして、できる限り勉強・研究で成果を発揮しよう。それでこそ理系学生だ!
まとめ
ここまで、低スペ物理学科生である僕の就活について振り返ってみた。あなたのお役に立っただろうか。
理系学生の就活で重要な点を極限まで短くまとめると、
・基本は大学での学びや研究を優先
・就活開始時期を含めた、予定管理に注意
・面接とESの対策だけはしっかり
・英語はちゃんとやる
・自分の能力が生かせる分野を選ぶ
ということになる。当たり前の内容ばかりになってしまったが、当たり前のことを当たり前にこなすのが大切なのだろう。
ゼミとか就活イベントに参加しない理系学生でも、就活は努力次第で「なんとでもなる」。これをお読みの皆さんも、ぜひ後悔のない就活にしてほしい。
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