※こちらは2022年3月に公開された記事の再掲です。
大学3年生になるとよく耳にする、「就職先どこ考えているの?」という話題。
ここで、「僕は官僚志望なんだ」と言われたら、「ああ、自分とは全く違う方面に行くんだな」と思いませんか?
しかし、「民間就活界隈(かいわい)」「官僚志望界隈」という分け方は、今後なくなっていくかもしれません。
最近では、多くの国家総合職志望者が民間企業も並行して志望しているからです。
志望業界は政府系企業にとどまらず、コンサル、総合商社、外資系企業、メーカー、マスコミなど業界を問いません。
民間企業の志望者が、国家総合職を受ける様子も見受けられます。「教養区分試験」(※)の登場により、民間企業志望者でも試験を受けやすくなりました。
就活生にとって国家総合職は、今後民間企業と同じように視野に入れることができる就職先となるかもしれません。
(※)……通常の国家総合職試験とは違い、秋に行われる試験。大学3年(21歳になる年)から受験可能。詳しくは「企業選考を受けながら官僚も目指せる?サマーインターン前に知っておきたい『国家総合職・教養区分試験』とは」
皆さんの、霞が関や官僚就活へのイメージを「アップデート」するこのシリーズ「UPDATE 霞が関」。
4本目の今回は、省庁を志望しながら、多数の民間企業に内定を得た2022年卒の学生にインタビューを行いました。
経済産業省(経産省)内定者のAさんは、国家総合職試験を教養区分で合格し、大手総合商社とコンサル4社、シンクタンク、大手情報通信系企業、政府系金融に内定を獲得しています。
「企業の選考で培ったスキルをそのまま官庁訪問に生かすことができた」と話すAさん。
そんなAさんの就活スケジュールは、以下の通りです。
「産業」の方針を決定づける経産省。入省の理由は仕事のスケールの大きさ
──まず、国家総合職を志望し始めたきっかけを教えてください。
Aさん:高校生のころから国家総合職を意識していました。ただ、そのころは弁護士や検察官と並べた将来の選択肢の1つくらいに考えていて、特定の省庁に関心を持っているわけではありませんでした。
本格的に志望したきっかけは、大学2年の11月に、学生団体が主催している省庁合同説明会に参加したことです。さまざまな省庁の職員の方のお話を聞いて、省庁の仕事内容やキャリアパスへの理解が深まりました。
特に、合説の中の外務省のブースで、女性のキャリアアップについて詳細なお話を聞いたんです。私は男性ですが、育児との両立や配偶者同行制度などのお話を聞いて、自分のキャリアを考えるきっかけになりました。
──初めはさまざまな省庁を見られていたのですね。何をきっかけに経産省に惹(ひ)かれたのですか?
Aさん:大学3年の1月に経産省の1dayインターン(日米原子力協定に関するワークショップ)に参加したこと、職員の方と面談したことがきっかけでした。
その後もさまざまな企業・省庁と出会いましたが、最終的に経産省を選んだのには2つの理由があります。
まずは仕事のスケールの大きさです。
国内の商社やメーカー、他国の企業などステークホルダーが多く存在する中で、経産省は産業全体の方針を決定づけることができる。ルールの中で仕事をするのではなく、ルールメイキングから自分でできる点に魅力を感じました。
もう1つは優秀な職員の方々です。
民間企業でも優秀な社員の方はいらっしゃいました。でも、経産省の職員の方は視座が高く、それまでにお会いした社会人の方とは違った魅力を持ち合わせていました。国の産業の方針を決定するという、広い視点が必要な仕事をされているからだと思います。
徹底したコスパ計算が肝。インターン100社、本選考25社に応募しながら官庁対策を両立させたコツ
──大学2年生で国家総合職を志望し始めたとのことでしたが、すでに勉強を始めていたのですか?
Aさん:いえ、そのころはほとんど何も行っていませんでした。勉強を始めたのも省庁のイベントに行き始めたのも、大学3年の9月ごろです。8月に総務省のインターンに参加したことがきっかけでした。
──それでは、民間就活の方が動き出しが早かったということですね。
Aさん:そうですね。企業へのエントリーシート(ES)提出は大学3年の5月に始めました。周りが早期から就活を始めていて、焦りを感じながらのスタートでした。始めたばかりのころは選考に落ちまくるし、全然うまくいかなかったです。ただ、失敗が続いたことで就活の難しさに気付けて、「スイッチ」を入れることができました。
──なるほど。民間企業のインターンと本選考には、どれくらい応募されたんですか?
Aさん:インターン100社、本選考は25社くらいだったと思います。
──すごいですね……! 何か効率的に就活を進めるコツはありましたか?
Aさん:就活全体を通して、物事に優先順位をつけ、「コスパ」を意識して時間を使っていました。
例えば、省庁は説明会を多く開催していますが、出席したからと言って内定に直結するわけではありません。民間企業の選考やイベントで、内定に寄与するものがある場合はそちらを優先するようにしていました。
労力や時間のかけ方の割合も、民間企業と省庁では9:1程度だったと思います。
──省庁対策にかける時間や労力の割合が少なくて驚きました。
Aさん:確かに他の省庁志望者に比べると、民間就活の割合が大きいと思います。ただ、民間就活をしっかりやっていたからこそ、官庁訪問もうまくいったと考えています。
企業のインターンやOB・OG訪問で得た知識を活用して、官庁の面接で逆質問したり、志望動機を話したりしました。多くの企業に内定をいただいていたというのも、官庁訪問に自信を持って臨めた理由だと思います。
──民間就活での経験を活用して、経産省の内定を獲得したということですね。民間企業の選考をうまく進める秘訣(ひけつ)などはありましたか?
Aさん:とにかくOB・OG訪問をたくさん行いました。特に総合商社やデベロッパー業界は、1企業につき5回以上行っていたと思います。現場を知る社員の方に業務内容を聞くことで、具体的な志望動機を話すことができました。
また、Twitterで就活アカウントを作り、さまざまな大学の就活生と交流しました。相互にESを添削し合ったり、面接練習をしたり、情報交換をすることができました。今でも交流のある友達もいるので、就活中の友達は、社会人になってからの人脈づくりにもつながると感じています。
試験対策。学生団体のイベントを活用しよう
──次に、試験対策についてお聞きします。2020年は10月4日(日)に教養区分の試験が行われました。この時期は特にサマー・秋インターンで忙しいと思います。教養区分の対策はいつから始めましたか?
Aさん:9月に始めました。ただ、あまり熱心に勉強していたわけではなかったです。1次試験に向けて、数的処理の参考書を読んだり文章理解(英語・現代文)の問題演習をしたりしました。社会科学や人文科学、自然科学といった知識分野は、勉強したことがない、範囲が広すぎるなどの理由でコスパが悪いと感じた科目は捨てていました。
──なるほど。ちなみにどんな参考書を使っていましたか?
Aさん:数的処理のこの参考書です。ただ、国家総合職の試験レベルの問題が掲載されているわけではないので、正直もう少し難しい本で勉強していたら良かったと思います。
・2024年度版 イッキに攻略! 判断推理・数的推理【一問一答】
──ありがとうございます。2次試験に向けて行っていたことはありましたか?
Aさん:人物試験(面接)と政策課題討議試験(グループディスカッション)は、民間就活で何度も経験していたので、企画提案試験の対策に力を入れました。
企画提案試験では事前に白書が指定されます。当日までに目を通していく必要があるのですが、私はかなり念入りに白書を読み込みました。
また、省庁内定者が運営している学生団体主催の模擬練習に参加しました。たまたまだとは思いますが、実際の企画提案試験で、模擬練習とほとんど同じ内容の問題が出たんです。私の年は「厚生労働省白書」が事前課題で、「障害者雇用」が当日のテーマでした。試験対策の企画をしている学生団体もいくつかあるので、チェックしてみると良いと思います。
省庁内定者や志望者が有志で運営している学生団体
・×KASUMI
・京僚会
・名吏会 など
民間就活も官庁訪問も、やるべきことはほとんど同じ。ハキハキと元気に話すのが重要
──官庁訪問と民間の面接について伺います。まず、官庁訪問に向けて対策として行っていたことがあれば教えてください。
Aさん:特別な対策はほとんどしていません。参加した説明会の資料を読み直したり、関心分野について自分の意見を伝えられるよう練習したりしていました。その際、民間企業のOB・OG訪問で得た知識が大いに役に立ちました。
──官庁訪問中に民間企業の選考との違いを感じたところはありましたか?
Aさん:官庁訪問には、人事課によって行われる人事面接と人事課以外の職員と面談する原課面接があります。人事面接は企業の面接とおおむね同じでしたが、原課面接はほとんど逆質問の(業務内容やキャリアについて質問する)時間だったので、そこが大きな違いだったと思います。
原課面接の逆質問の時間は、(対応してくださる職員の方にもよりますが)志望者側が主導権を握っているので、入念に準備していく必要があります。「自分は◯◯政策についてこう思うのですが、どう考えますか」などと質問し、自分なりに意見を持っていることをアピールすることが重要だと感じました。
──なるほど。人事面接は企業の面接とおおむね同じとのことですが、質問内容に違いはありましたか?
Aさん:基本的には質問内容も同じように感じました。ただ、ある特定の状況を与えられ、「このとき、あなたなら行政官としてどう対処するか」という質問は特徴的でした。普段から、ただ新聞を読むだけでなく、現状に対して「自分ならどうするか」と行政官の立場で考えることが必要だと思います。
──最後に、Aさんが、就活を通して気を付けていたことがあれば教えてください。
Aさん:大きく分けて3点あります。
まず、自分の考えや意見を簡潔に伝えることを常に意識していました。ケース面接、人物面接ともに、いかに自分の意見や経験を描写できるかが重要だと考えていたからです。面接中に自分の伝えたいことをすぐに言語化できるよう、普段の何気ない時間から自分の考えを咀嚼(そしゃく)するようにしていました。
また、オンラインと対面で面接中の自己表現を変えていました。私は身ぶり手ぶりが多く、落ち着きがなく見られてしまうので、堂々と振る舞うよう意識していました。逆に、オンラインでは身ぶり手ぶりが大きくても気にならないと感じていたので、普段のままで面接に臨んでいました。
ただやっぱり、最も重要なのは元気にハキハキと話すことだと思います。元気な学生とそうでない学生だったら、元気な学生の方が好印象だと思うからです。特にオンラインでは雰囲気が伝わりにくいので、熱意が伝わるように明るく振る舞うことを意識していました。
おわりに
官庁と民間企業の就職活動には、官庁に試験があるという点以外には大きな違いはありません。官庁訪問で行われる面接でも、企業の面接と同じような質問がされることが多いです。
Aさんは、「民間就活での経験は、省庁対策にそのまま活用できる。民間就活に力を入れたからこそ、経産省の内定を得られた」と話していました。
福祉業界の志望者は厚生労働省、政府系金融の志望者は財務省など、関わる分野が同じ省庁であれば、民間企業とも併願しやすいのではないでしょうか。
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(illustration: Viktoria Kurpas , Pretty Vectors , 21kompot/Shutterstock.com)