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経団連さん。誰も守らないルール、必要ですか?データから見えてきた「6月就活解禁」の本音とタテマエ

コラム
2018年1月10日(水) | 64,272 views

こんにちは、ワンキャリ編集部です。

突然ですがみなさん、「企業はいつ採用活動をしなければいけないのか」を考えたことはありますか。日本の新卒就活市場には「3月説明会、6月解禁」という、経団連が定め、企業に配慮を要請しているルールがあります。

しかし、実際は多くの企業がそれを守っていません。早速ですが、以下の衝撃のデータをご覧ください。

※2018年卒ワンキャリア会員「内定実績」登録データをもとに編集部作成

実際に2,000人を超える18卒の内定企業実績をワンキャリアが分析したところ、6割以上が6月の就活解禁前に内定を得ていました。詳しくは後述しますが、「3月説明会、6月解禁」というルールが必ずしも守られていない状態にあります。

今回の記事では、日本の就活市場のダブルスタンダードを、データとメディアの報道から示します。

「3月説明会→6月面接」経団連ルールとは

ご存知の方も多いかもしれませんが、現在の就活スケジュールは経団連が定め、企業にそれを守るよう要請しています。

具体的なルールである、「採用選考に関する指針」は以下の通りです。

採用選考活動開始時期
学生が本分である学業に専念する十分な時間を確保するため、採用選考活動については、以下で示す開始時期より早期に行うことは厳に慎む。

広報活動:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
選考活動:卒業・修了年度の6月1日以降

この「3月説明会、6月選考」という指針が、俗に言う「経団連ルール」です。もちろん6月から一気に採用活動は解禁します。

しかし、水面下ではなくある程度堂々と採用面接や早期内定出しが行われていることもまた、公然の事実になっています。インターンの応募の際によく言われる、「選考に一切関係ありません」という文句も、額面通りに受け取る学生はもう少数派なのではないでしょうか。「6月1日選考解禁」というルールを守っているふりをしながら、選考したり、内々定を出したり……。そんな企業の本音とタテマエに、就活生は翻弄されているのが実情です。

経団連会長企業もルール無視? 見えてきた解禁前内定の実態

日本経済新聞によると、経団連の加盟企業の31.4%が6月前に選考活動※1を行っていました。インターンを事実上のウラ選考だと考えると、この比率はもっと跳ね上がるでしょう。

しかし、正直なところ「31.4%は低すぎる」というのが就活生の肌感覚です。先ほどの内定実績データをもう一度見てみましょう。(※データには経団連非加盟の企業も含まれています)

※2018年卒ワンキャリア会員「内定実績」登録データをもとに編集部作成

内定実績の登録時期は、1月〜5月で過半数。特に4〜5月は、日系企業も事実上の選考に踏み切っているようです。なんと経団連会長の出身企業も、5月中旬に「人事面談」として人事部長と1対1の面接を行っています。ある内定者は「最終面接はほぼ確認であり、面接官も特別重役な方ではなかった」と語っていることから、最終面接前に実施するこの面談は、実質的な最終選考と考えられるのです。(東レ|事務系2018年卒の選考対策ページより)

ワンキャリアの調査を裏付けるデータも出ています。ディスコの調査によると、全国の主要企業1,339社のうち6月以前に面接を開始した企業は85%にも上ったそうです。また「内定・内々定出し」に関しても、6月より前に実施した企業が68.3%に上った(調査結果より編集部集計)というデータがレポートの中で記されています※2。

リクルートキャリア 就職みらい研究所による調査でも、6月1日の選考解禁日時点での内定保有率は61.9%。昨年の同時期の数値は51.3%だったので、1年で10%近く増加したこととなります※3。

3社のデータからは、「約6割の学生が解禁前に内定を保有していた」ことを裏付ける結果が共通して読み取れます。対象のすべてが経団連加盟企業ではないにせよ、この数字の信ぴょう性は高いと考えられます。6月以前の「フライング内定」は当たり前のことだと肌感覚では分かっていましたが、こうしてデータを見てみると驚きです。

外資系も加盟企業!「経団連」って何者?

まず根本的に、耳にはよくする「経団連」とは何者なのでしょうか。

経団連とは「一般社団法人 日本経済団体連合会」の略称で、日本の代表的な企業1,350社などで構成される総合経済団体です。具体的には経済界が直面する国内外の広範な重要課題について会員企業の意見をまとめ、政策提言を行っています。経団連に加入した企業は、政治力が強まる代わりに経団連が定める企業行動憲章や各種指針を守るよう働きかけを受けます。要するに、「ウチのメンバーになったらいろいろ面倒見てあげるけど、決めたルールには従ってね」ということです。

実はこの経団連、日系企業だけの集まりではありません。加盟企業1,350社のほとんどは確かに日系企業ですが、実際は誰もが知る外資系企業の日本法人も多く加盟しています。

主な外資系企業は以下の通りです。

金融・保険業 ゴールドマン・サックス
J.P.モルガン
ドイツ銀行
BNPパリバ
バンクオブアメリカ・メリルリンチ
ブラックロック・ジャパン
アメリカン・エキスプレス
コンサルティング ボストン コンサルティング グループ
アクセンチュア
PwCアドバイザリー
IT・通信業 グーグル
ツイッター
メーカー ボーイング
デュポン

※出典:経団連会員企業一覧(経団連HPより)

もちろん、5大商社やメガバンク、大手日系メーカーなどの「大手日系企業」も経団連に加盟しています。つまり経団連は「日本を代表する企業」というよりは、「日本経済を代表する企業」といえそうです。

企業側の本音は?「優秀な人を、どこよりも早く」

では、企業側はどうして、遵守が求められる経団連ルールを無視してまで採用活動を行うのでしょうか。理由は簡単、優秀な人材を確保したいからです。

空前の売り手市場と言われる通り、今年10月1日時点での2018年卒学生の就職内定率は92.1%を記録しました※3。

そうなると焦るのは企業側。需要と供給の問題で、積極的に動かないと優秀な学生がどんどん「売り切れて」しまいます。しかも、いざ内定を出したとしても、辞退されてしまうことも多いのが現状。経団連の調査によると、加盟企業の4割が「内々定を辞退する学生が増加した」と回答しています※4。

また、今の好景気も積極採用の機運を後押ししています。今年度(2018年3月期)は上場企業の4社に1社で純利益が過去最高になる見込み※5で、日経平均株価も25年10カ月ぶりにバブル崩壊後最高値を更新しました※6。

業績の見通しも明るい中でこれからも生き残っていくためには、できる限り優秀な人を、できる限り採用したい。だからこそ、将来への投資として「人材採用・育成」にカネ・ヒト・時間を潤沢に使える余裕がある企業も増えています。売り手市場の就活事情と、積極採用を後押しする業績の好調。この二つが相まって、早期選考が「主流」になっています。

経団連加盟企業の約6割が「ルール反対派」

経団連加盟企業からも実は「もうこんなルールはやめよう」という声が挙がっています。

経団連が加盟企業に実施したアンケート調査※4によると、採用選考に関する指針(いわゆる「経団連ルール」)について、「指針自体は残すが、広報活動や選考活動の開始時期の規定は削除すべき」と42.1%の企業が回答しました。要するに「目安として3月説明会、6月選考はあってもいいが、強制されるのは困る」という回答です。そして「指針を廃止し、自由な採用活動を認めるべきだ(9%)」「指針を廃止し、政府がルールを定めるべきだ(7.9%)」という回答を合計すると、経団連の定める就活時期の縛りへの反対派は6割近く。現行の方針をそのまま支持する企業は、26.9%にとどまっています。就活生だけでなく、企業も経団連ルールを不満に感じているのが実情といます。

優秀な学生はライバルの他社も当然欲しがるはず。就活生の声によれば、複数社のインターンに参加した学生に対し人事担当者が「○○社(ライバル社)のインターンはどんなことしたの? 実際どうだった?」と聞くことも多いようです。「採用難」と言える現状では、経団連ルールを無視するのも無理はありません。

経団連ルールは「学業優先」のため。しかし実態は……?

経団連がルールを定める大きな理由は「学業への配慮」です。指針にも「採用選考活動にあたっては、正常な学校教育と学習環境の確保に協力し、大学等の学事日程を尊重する」と明記しています。しかし、「学業側」からは真逆の声が聞こえてきます。

日経新聞が国内大学の学長に行った調査によると、全体の77%が「ワンデーインターンの急増などで就活時期が早まっている」と回答し、このうち半分が「学業や授業に影響が出ている」と回答しています。※7

事実上の選考が前倒しになっていくことで学生が浮き足立ち、学業が二の次になっているのが現実です。もしも経団連ルールが完全に守られていれば、学業優先は達成できるかもしれません。しかし、多くの企業がルールを無視している現状は「学業優先の就職活動」からは程遠いと言えます。

就活生の私から伝えたい:経団連ルール全面廃止ではなく、あくまで「目安」のスケジュールを

確かに経団連ルールは「指針」にすぎず、強制力があるわけではありません。しかし、半数以上の企業が守らないような指針に意味はあるのでしょうか。

この記事を執筆している私も、就活を経験している学生の一人です。私が「よりよい就活市場」のために提案したいのは、「もっと実現可能性の高い就活ルールを作ってはどうか」ということです。採用難の今は、残念ながら企業にとって経団連ルールは守るよりも破ったほうがメリットがあります。おそらくどう頑張っても、人手不足の現在においては「青田買い」はなくなることはないでしょう。

では、どうすれば「よりよい就活市場」となるのでしょうか。一つの解決策として「経団連ルールはあくまで目安とし、遵守の規定は設けない」という案を提示します。確かに新卒一括採用という方式は反対意見も多く、通年採用を行う企業も増えてきました。しかし、「人材育成の効率性」や「雇用の確保による社会の安定」といった点で新卒一括採用にメリットがあることも事実です。経団連ルールが形骸化しているとはいえ、日本の就活市場を新卒一括採用から通年採用に一気にシフトすることは現実的な選択肢ではないでしょう。

問題の本質は、経団連が遵守規定を課しているせいで、企業が本音で就活生と向き合えないこと。だからこそ、あくまでスケジュールの目安として「3月説明会、6月選考」という指針を出すべきではないでしょうか。規定を撤廃すればそれぞれの企業の事情に合わせた採用活動が可能になり、本音とタテマエを使い分ける必要はなくなります。

「就活が更に前倒しになり、学業に影響が出てしまう」という懸念もあるかもしれません。しかし、就活生の疑心暗鬼が進んでいる現状よりも、ハッキリと選考の意図があるかどうかを伝えたほうが、学生は学業と就活のメリハリをつけられると考えます。「このインターンは選考に関係があります」「年明けから選考を始めるから、準備しておいてね」など、既に行われている選考を認めてしまうだけでも、学生にとってメリットはあります。


経団連のみなさん。

形骸化したルールに翻弄される現状は、企業も、就活生も、ひいては社会もみんな損をする「三方損」です。みんながより納得感をもって採用活動/就職活動を行うには、ルールを見直すことが何よりの急務なのではないでしょうか。


※1 日本経済新聞「解禁前に選考31% 経団連ルール形骸化」
※2 ディスコ「2018年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査(2017年7月調査)」 
※3 リクルートキャリア 就職みらい研究所調べ「2017年10月1日時点 内定状況」就職プロセス調査(2018年卒)
※4 経団連「2017年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」より
※5 日本経済新聞「上場企業、4社に1社が最高益 今期最終 電機や商社が復活 」
※6 日本経済新聞「日経平均26年ぶりの高値、半値戻しは全値戻し」
※7 日経新聞「面接6月解禁、評価割れる」



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