みなさんは、こんな状況に陥ったことはないでしょうか?
「やらなきゃいけないことはわかっている、しかし体が動かない。どうしていいかわからない、手がつけられない。気づいたら時間はどんどん経っていく。」
この原稿は2月の終わりに書いているのですが、現時点でそういう状態に陥っている人は少なくないと思います。これが、僕の人生にずっとついて回る悪癖「出遅れ」です。「スロースターター」なんて格好いいものではありません、そもそもスタートしていないのです。かつて、僕の周囲にもたくさんいました。かくいう僕自身もそうでした。そして、今でもときどき僕はこんな状態に陥ります。何度経験しても、苦しいものです。
就職活動においても同じです。
「始めよう、やらなきゃ」と思っていても「何からやればいいかわからない」という状態の人はいると思います。
そうやって一人で悩んでる就活生へ、ハイパー出遅れ社会人である僕の体験談を交えて、心の処方箋をお届けします。
就活に潜む、妖怪「見越し入道」
唐突ですが、ある妖怪のお話をします。
道の向こうから誰かがやってくる。
それがどんどん巨大になり、気づいたら見上げるような巨人になって視界を覆い尽くしてしまう、更に見上げれば見上げるほどそれは大きくなるのです。
この妖怪を「見越し入道」といいます。見上げ続けていると、死んでしまうそうです。
「やらなきゃいけないけれど、体が動かない」というのは、まさにこの「見越し入道」に視界を塞がれている状態です。
僕も大学生の時、あるいは人生にはぐれてブラブラしているとき「そろそろ就職活動始めないとな」とか「そろそろ人生について考えて、授業に出るなり就職するなりしないと」という焦燥感はずっとあったのですが、どうしても体が動かなかった。
「やらなければ」という気持ちで焦燥感が高まる一方で、何一つ見えていない。だから、体は一切動かない。当たり前ですね、「何をすればいいのかわからない」のですから。さらに、入道は巨大化します。「残り時間」が減れば減るほど、焦燥感は高まり、視界は妖怪に覆いつくされる。この見越し入道を追い払わなければ、人間は動くことはできません。
ちなみに、この見越し入道はたった一言の呪文で追い払うことが出来ます。「見越した」と言えばいいのです。どうでしょう、これは、なかなか示唆に富む話ではないでしょうか。見越し入道に出会った時は「見越せば」いいのです。では、「見越す」、あるいは「動き出す」方法についてひとつずつ考えていきましょう。
見越し入道の最大化──「認知的不協和」
「就職活動なんてくだらない」と、突然言い出した友人っていませんか? 就職活動をしなければいけない、でも体が動かない、と煮詰まった結果こういう結論にたどり着くことはよくあります。これはいわゆる、「認知的不協和」という状態が起きている可能性が高いでしょう。追い詰められて唐突にこういう発想が出てきたときは、ちょっと注意が必要です。その理由を説明していきます。
まず、人間は自分の置かれた状況を認知し、その後、どのように思考するのでしょうか?
理想的な思考の流れだと、何かの問題に直面するとこうなる。
1. 就職活動をしなければいけない
2. 就職活動をする
この時、1から2への流れは問題ありません。誰もがこうやって体を動かせれば楽なものです。でも、例えば「テスト勉強をしなければ→テスト勉強をしよう」という形にスルっと行動できる人はそんなに多くありません。
現実はこうなる。
1. 就職活動をしなければいけない
2. 就職活動をしていない
こうなると、1と2の間に不協和が生まれますよね。人間は、この問題を解消しようとします。ここで代入されるのが、「就職活動はくだらない」というような発想です。要するに、1の認知を無理やり変更してしまうのです。これが「マキシマムサイズに育った(最大化された)見越し入道」です。
しかし「就職活動はくだらない」ならまだいい。この不協和を解決するために、代入される最悪の思考は「俺はどうせダメだ」です。これは本当に命に関わる事態です。まずは、これを回避することを念頭に考えましょう。就活自殺、実際に少なくはありません。これだけは絶対に回避しなければいけません。人間は不協和を解消しようとした結果、自己否定スパイラルに落ち込みます。こうなったら、もはや体は絶対に動きません。これだけは、回避しましょう。
心の処方箋:「見越す」ためのシンプルな3つの方法
僕はかつて会社を経営していたころ、何度となく見越し入道に遭遇して、文字通り「死ぬ」と思いました。しかし、僕はもうオッサンなのでいくつか対処策を身に着けています。ご紹介させていただきましょう。
処方箋1. 打開スケッチブックを作ろう
まず、A3くらいのクソデカい紙を買ってきて、真ん中に「打開」と書いてください。出来れば太いペンが良いです。僕は美大生が良く使うスケッチブックを使っています。
そして、その「打開」から矢印を引いて「内定を取る」につないでください。これで、目的はポジティブに設定されました。
言葉を書いて矢印を引く。
この動作を繰り返して、以下のように矢印をつないでください。
「打開」
↓
「内定を取る」
↓
「志望企業を決める」
↓
「自分が今から内定を狙え、かつ自分に向いた企業とは?」
↓
「自己分析」・「業界研究」など
↓
「筆記対策」・「対策は絞る」・「難度の高い会社も受けていく」など
「自分が今から内定を狙え、かつ自分に向いた企業とは?」からは「自己分析」とか「業界研究」とかに矢印がつながっていくでしょう。
そこからは「筆記対策」とか「対策は絞る」とか「内定を取りやすいであろう会社を多めに受けつつ、難度の高い会社も受けていく」みたいな戦略が広がっていくと思います。
これは、よくある自己啓発書の「現状の問題を書き並べる」と基本は同じです。しかし、一つ違うのは紙の真ん中に「打開」という目的が明確に書かれていることです。目的性がポジティブな方向に固められている。いわば、「自己反省」とか「内省」ではなく、「作戦立案」の方向なのです。これは僕が本来「企画書」などの下案を作るときのノウハウだったのですが、「出遅れ」を打破するのに非常に便利でした。
そして、この打開スケッチブックの利点は360度、自由自在に思考を広げられることです。上下左右全ての方向に思考を広げられます。自由度の高さは、そのまま思考の軽さと広さに直結します。閉塞した思考は、物理的な広さで広げるべきなのです。書き方は、汚くてかまいません、どんどん書いていってください。思考が落ち込んでいるときに、「ノートにきれいにまとめよう」は愚策です。
「打開」というポジティブな言葉に導かれるままに書いていってください。最後にその中から具体的な「行動」を拾っていけば、あなたが行うべきことの一覧が揃っているはずです。
このハックは極限まで追い詰められた僕を救ってくれました。ぜひ、やってみてください。これは、ノートではなく「スケッチ」なのです。あなたの未来を描くスケッチです。重たい思考から離れ、360度広がる思考に身を任せてみてください。ノートに「やるべきこと一覧」を書くよりはるかに気楽なはずです。
ちなみに、自己啓発本には「現状の『問題』をひとつずつ書き出して整理しましょう」みたいなことが書いてあります。僕、あれは本当に「ダメ」な対処法だと思います。だって、「業界研究していない」「筆記対策していない」「エントリーシートの書き方がわからない」「志望企業がない」「そもそも働きたくない」そんなこと書き並べて、なんか意味がありますか?
僕の場合だと、「来月の従業員の給料が払えない」「買い掛けが払えず取引を切られそう」「銀行の返済が近づいている」「従業員が会社の未来に見切りをつけ始めている」そんなことを書き出すハメになったわけです。こんなのを目の前にして正気でいられるのは、超人だけです(経営者にはたまに超人がいますが、あれは人じゃないです)。
僕が紹介した「打開スケッチブック」は、「問題」の一覧ではなく「打開」のためのタスク一覧なので、「やるぞ」という気持ちは湧いているはずです。
処方箋2. 順位付けとスケジューリングをしよう
では、それに順番をつけていきましょう。
(1)自己分析 (2)志望企業の決定 (3)エントリーシートと筆記の対策……みたいな感じです。このタスク一覧は、スケジューリングの役目も果たすと思います。
人間は、目標を明確にし、タスクを明文化し、それをスケジュールに落とし込むと、不思議と体が動きます。
打開スケッチブックにある言葉を一つ一つ拾い集めながら、あなたの「内定」へのロードプランを作っていくのです。ここまでいくと、あなたの体は不思議に動き出すはずです。これがいわゆる「見越した」状態です。妖怪はずいぶん小さくなっているのではないでしょうか。
最悪なのは、これとまったく逆のやり方をしてしまうことです。筆記対策に手をつけてみたりESを書いてみたり、とにかく説明会に行ってみたり。「就職活動はとにかく動け」とアドバイスする人は結構いますが、それは「時間に余裕がある」時に有効な戦法です。出遅れたときこそ、下手な動きをせずロードマップの作成をするべきです。
処方箋3. それでもダメなら人に頼りましょう
「打開スケッチブック」を書けない、打開なんてとても出来る気がしない。そんな精神状態もあると思います。僕もありました。
そんなときは、あなたの知る最も優秀な人間に思い切って頼りましょう。
大学生なら5千円も払えばホイホイ来てくれます。これは高い投資ではありません。その人に「出遅れたながら、私は内定がとりたい。そのためのやるべきことを整理してスケジュールに落としたい、ぜひ教えてください」と頼んでみてください。
人間と言うのは不思議なもので、「他人に教える」というのは「自分でやる」よりかなり高い精度でやれます。精神の負荷がないからです。更に効果を上げるために、「結果がどうなろうとあなたの責任は問わない」と言ってあげるといいと思います。自分でできないなら他人を頼る、大学生がなかなか気づけないライフハックです。ちなみに、この原理を応用して成り立っている職業を「コンサルタント」と言います。コンサルというのは、無責任だから有能なのです。社長と同じ切実さで考えるコンサルは社長と同じ存在なので、必要ないですよね。
ちなみに、僕も本当に追い詰められたときは部下にこれをお願いしていました。極限のストレス下になると、スケッチブックに「打開」と書こうとしただけで、おう吐してしまうんですよ。これはもう笑ってしまうんですが、よしやるぞ! と決めて紙面に向かった途端、トイレに駆け込んで吐いてしまうというところまで僕は追い詰められました。
自分がだめなら他人を使う。もし、一人の言うことだけをあてにするのが怖いなら、三人くらいにお願いして比較・検討すればいいんです。1万5000円。安い投資です。大人になるとこういうことにお金を払うのがいかにコスパが良いかわかるのですが、大学生くらいだとなかなか気づけません。ぜひ、試してみてください。
「出遅れ」てもいい。「見越し」ていきましょう
さて、以上で僕の「出遅れ」対策はおしまいです。
しかし、妖怪「見越し入道」は本当に手ごわいです。僕も何度殺されかけたか思い出せないくらいです。
僕はこれまでの人生、何もかもに出遅れて来ました。大学入学は2年遅れましたし(正確に言えば、一つ目の大学を光の速さで中退したのですが)、就職活動も「就職活動とはどんなものか」ということを調べ始めたのは4月の中頃でした。その結果として、夏の終わりまで就職活動をする羽目になりました。
出遅れはとても怖い、遅れれば遅れるほど妖怪は巨大になります。
しかし、「見越した」と言えばシュルシュルっと小さくなっていくのも間違いないことです。
あの野郎を「見越す」ために、ぜひ今すぐ試してみてください。これは山ほど借金のある零細企業の経営者が、極限のストレスの中で生み出したハックです。なかなか使えますよ。大丈夫です。「出遅れ」は致命的じゃありません。本当のことを言えば、人間はいつだってまた歩き出せます。
あなたがまた歩きだすための、小さな手助けになれば幸いです。おじさんも、いろいろあったけどまた歩き出しました。大丈夫、まだまだイケます。会社つぶした30過ぎのおっさんの前で「俺はもうダメだ」と言う気迫はないでしょう? じゃあ、イケますよ。あなたは若く、未来は広がっている。生きてりゃ、大丈夫です。
やっていきましょう。
※こちらは2018年3月に公開された記事の再掲です。