こんにちは、総合商社で海外子会社の財務を見ているYamaguchiです。
「M&A」という、何か大きなものを動かしていそうな響き……。「将来、M&Aに携わってみたい!」と思ったことのある方も多いのではないでしょうか。
今回は、会計事務所や大手銀行から総合商社と渡り歩いた経験を基に、「銀行・総合商社・会計系コンサル、3つのセクターにはそれぞれどんな人が向いていて、どうM&Aに関わるのか?」をストーリー調で解説します。
実録ストーリーで知る! 銀行/商社/会計コンサル 。「M&Aをする側」から見た三者のM&Aの関わり方の違い
<登場人物>
・主人公
日系機械メーカーA社 企画部 課長代理 佐藤
・その他登場人物
メガバンクB社 融資担当 Xさん
総合商社C社 欧州事業担当 課長 Yさん
会計コンサルD社 M&A部門 マネージャー Zさん
突然、日系機械メーカーA社の企画部 佐藤のもとに150億円規模の某欧州メーカー買収という大型案件が舞い込んできた。
メーカーA社が目指すのは「確実な欧州進出を果たすこと」。某欧州メーカーの買収を通じて「欧州各国の販売網」と「アジアにある生産拠点」を手に入れれば、A社の新製品の生産から販売までの事業と大きなシナジー(相乗作用)を産む可能性もあった。
しかも、この案件は社長が自ら取ってきた肝煎り案件なのだ。
社長からも「必ず買収を成功させるように」とプレッシャーを掛けられる。失敗は許されない。
しかし、メーカーA社の中で150億円という大規模かつ海外案件を経験した人はゼロ。
「困ったな、誰に相談すればいいんだ……」
かなり難易度が高い案件に佐藤は頭を抱えていた。
「このM&Aを成功させるためには、社外の力が必要だ。銀行・総合商社・会計コンサルの各社、どこに協力・提案を仰ぐのかいいのだろうか……」
そうして佐藤は、各担当者の顔を順に思い浮かべ、彼らの「やり方」を思い返していく。
「銀行は金融業なので回収してなんぼ」リスクに敏感な優等生タイプで、リスクがあるとすぐに融資を渋ってくるメガバンク
まず思い浮かんだのは、メガバンクB社のXさん。
銀行はとにかく、「金を貸して、利息を取る」。シンプルなビジネスだ。
M&Aの際にも、「いくら必要ですか? 優良案件であれば貸し出しますよ」という、買収に必要なお金を貸すことに徹する。
とにかく優秀だからこそ、銀行マンは失敗を嫌う。
小さなリスクにもすぐ反応する敏感さ。彼らは抜け目なくリスク分析する「エリート・石橋たたき・サラリーマン」だ。
そんな彼らにとって、今回の海外M&Aはリスクのオンパレード。そもそもリスク分析がかなり難しい。
買収対象の企業について、いつどんなお金の出入りがあるかというキャッシュフローや資産について調べてはリスクについてとやかく言ってくる。
難しくいうと、会計事務所の行う資産査定(デューディリジェンス*)を参考に(1)将来収益性を予測し、(2)担保資産性を調査することで、リスク分析を行っているのだ。そして、そのキャッシュフローや資産の見積もりから、貸し出せる金額をそろばん弾いて算出してくれる。
*デューディリジェンス:非買収会社の法的リスク、財務的資産性/収益力、税務リスクなどを調査すること(結婚相談所の探偵のようなもの)
銀行とは、M&Aのときも「時には非情に徹し、冷静な判断をする集団」。そんな存在だったな。
海外での経験・ネットワークを武器に、稼げそうなら「なんとか『食い込んでくる』盛り上げ役」である総合商社
続いて佐藤は、以前一部の欧州販売で協力関係にあった総合商社C社の担当課長Yさんを思い浮かべる。
「海外案件の経験は豊富だろうが、彼らはどんな関わり方だっただろうか」
彼らはとにかく「なんとか『食い込んでくる』盛り上げ役」という表現がぴったりだ。
総合商社は、長期で「案件進行管理」の役割を担う、プロジェクトの調整人だ。
ただ、メーカーのように商材はないし、銀行のようなお金の貸し方もしない。
じゃあ何をするのかというと、「前のめりに食い込んで、稼ぐためなら何でもする」のだ。本当に。
彼らはとにかく「一緒にやりましょう」「協働しましょう」と言う。
この「一緒に」という意味は、しばしば「合弁会社*を一緒に立てましょう(ただし、会社の株式は50%以上僕らが持ちたいんですけど)」という、自己の利益はしっかりと確保する、したたかな食い込み方だ。
*合弁会社:共同出資で新会社を作ること
そんな商社は単に「やりましょう」と言うだけではない。彼らはこれまでの歴史で築いた海外でのネットワークや、事業を成功させたノウハウを我々のようなメーカーにも提供してくれる。
中には現地のキーパーソンをつなぎ、会食までセットし、飲み会で握る「寝業」まで使ってくれる場合もある。強力なパートナーになり得るのだ。
総合商社とは、M&Aにおいて、「稼ぐためのスキームを握れたら、稼ぐために何でもする」。そんな存在だ。
会計コンサルのM&A部門は「肉食系」。M&A案件の実行をゴリゴリ推し進め、がっつり稼ぐ個の集団
最後に佐藤は、A社の監査部から紹介され、前回小さな国内買収案件でお世話になった、会計コンサルD社のM&A部門マネージャーZさんを思い出す。
「外資系だし、欧州案件にも対応可能なのか……。彼らは、肉食系だったが、M&Aが決まった後の実務を、睡眠時間を削ってでも前に進めてくれる安心感がある」
彼らは、もともとはサラリーマンというより、医者や弁護士などと同じ「士業」だ。
志向性がそもそもサラリーマンではない。総合商社の「食い込んでなんでもやります」とは真反対の属性を持つ。
彼らは「専門性ある能力」でお金を稼ぐ。自分たちの専門業務である、案件の実務をリードするファイナンシャルアドバイザリー業務*と、資産査定業務(デューディリジェンス)においては、他の2者を寄せ付けない。
*ファイナンシャルアドバイザリー業務:M&A案件をアドバイスし成功に導き報酬を得ること(=マンデート)
特に日本にある中でもBIG4といわれる会計系コンサルのM&A部門の人たちは、海外とのネットワークも豊富で、不眠不休のハードワークを厭わない。彼らにとって海外M&Aは「稼げる案件」だからこそ、「肉食系」になるのである。
銀行、総合商社、会計系ファーム、三者三様のやり方。日系メーカーA社が欧州進出の上で選ぶべきパートナーとは
今回のような大型案件では絡んでくることになる銀行・総合商社・会計系。そのスタンスは三者三様である。
資金が重要、海外に乗り込む上でのパートナーが重要、相手方と高度な交渉が必要など、状況は刻一刻と変化する。必要なパートナーは「今、何に困ってるか?」により変化するのだ。
加えて、担当者の能力や相性も相当重要だ。
佐藤は、これから進めるべき大型案件がどういう点で困りそうか、そして各々のパートナー企業にいる担当者の能力と相性を、改めて棚卸しするのであった。
Yamaguchiの執筆後記:銀行も商社も会計コンサルも、それぞれが必要な存在だからこそ業態がある
ここまで、日系メーカーA社の佐藤に舞い込んだM&A案件に関する実例を、ストーリー形式でお話ししましたが、いかがでしたか。
・冷静なリスク分析を得意とする「銀行」
・海外のステークホルダーを取りまとめる「総合商社」
・専門知識を駆使して買収価格・交渉のアドバイスをする「会計コンサル」
三者三様の関わり方ですが、この中に「携わりたい」と思うものはありましたか?
金融知識・グローバルな交渉力・高度な専門知識は今後の日本企業にとってどれも不可欠な存在です。日本は資源が少なく、人口も先細りの状況が見えているため、日本企業がグローバル戦略に打って出るのは当然の流れです。そしてその戦いの中で、銀行・総合商社・会計コンサルはどこかで必ず関わってきます。その存在意義は学生の皆さんが思っている以上に大きいのです。
学生のうちはイメージが先行し業務の具体的な内容がよく分からないことも多いかと思います。大枠のイメージを掴み、自分が将来目指すべきは何処なのか、心底熱中できるのはどのような仕事なのか「己の芯」をはっきりさせることがスタートです。
銀行・総合商社・会計コンサルなどのいずれかを志望する方は、その中で「どの立場なら自分の強みを生かせるか?」という問いを意識しながら、実りある就職活動にしていただければ幸いです。
※今回はM&Aでよくある案件の一例を非常に簡単に記載しました。実際にはさまざまな案件があり、各業界の関わり方も一様でないことをご理解ください