電車の乗り換え、階段の上り下り、地下道や歩道橋……。
女子就活生たちは、入り組んだ都会の道を地図アプリとにらめっこしながら、早歩きをする。慣れない、キツい、パンプスで。
足にはマメができ、かかとの皮はむけ、足指が変形するリスクもある。
早く帰って靴を脱ぎたい! 帰りの電車、心の中で叫び続けた経験のある女性は少なくないだろう。
2019年1月に石川優実さんのTwitterから、職場でのヒール・パンプスの強制をなくしたい! という訴えで始まった#KuToo(※1)の活動は、ユーキャンの2019年新語・流行語大賞トップ10に選ばれる(※2)など、着実に広がりを見せている。
とはいえ、就職活動をしている女子学生たちのほとんどは、パンプスを履いているのが現状だ。
女子就活生の足元が少しでも楽になる方法はないか──。そんな親心から、今回は靴選びのプロフェッショナルである「シューフィッター」の方に足が痛くなりにくく、歩きやすいパンプスの選び方を聞いてみた。
(※1)参考:change.org「#KuToo 職場でのヒール・パンプスの強制を無くしたい!」
(※2)参考:『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン 新語・流行語大賞「第36回 2019年 授賞語」
実は間違っているかも? パンプス選びの落とし穴
河野 賢(こうの さとし):株式会社そごう・西武 そごう横浜店 婦人靴売場 バチェラーオブシューフィッティング(上級シューフィッター)。2015年にそごうに中途入社後、バチェラーシューフィッターの資格を取得。足と靴と健康協議会(FHA)認定の幼児子ども靴専門、シニア専門資格を保持。
取材に応じてくれたのは、そごう横浜店に勤め、年間で約600件のコンサル数をこなす河野さん。「パンプスを選ぶ際、どんなことに気をつければいいですか?」と質問すると、「意外と靴の選び方で真逆の認識をされている方が多いんですよ」という。
河野さんによると、特に以下の3つが誤解されがちなポイントなのだそうだ。
【間違えがちなNGポイント】
NGその1 かかとにゆとりがあった方がいい
NGその2 つま先はゆとりがない方がいい
NGその3 ヒールが高いと足が疲れそうだから、低いほうがいい
えっ、ダメだったの?! と心当たりがある方もいるかもしれない。では、選び方の正解とは一体どういうものなのだろう。
正しいパンプスの選び方その1:かかとがぴったりくっつくものを選ぶべし
「パンプスを履いたとき、かかとに指1本入るほど隙間が空いてしまうようだと、それは大きすぎです」と河野さん。
婦人靴に限らず、スニーカーや他の靴についても、かかとには隙間がなく、ぴったりくっついているものを選んだ方がいいという。かかとが合っていないと、両足で背伸びをしたり、歩いたりしたときに靴が脱げてしまい、足への負担が大きくなる。スニーカーなどのひも靴も同様に、かかとをつけた状態でひもを結ぶほうがずれにくい。
かかとにここまで隙間が空くと大きすぎる
正しいパンプスの選び方その2:つま先には1センチくらいのゆとりを
つま先は、かかととは逆に1センチくらいの隙間がある方が望ましい。パンプスを履いたら、足の親指を上に押し上げ、甲の部分にぶつかったところからつま先までが1センチくらいあるというのが目安だ。
「手の人差し指の爪の幅が大体1センチなので、測るときの目安にしてください」(河野さん)。つま先のゆとりが1センチ程度あることで、歩くときに足指が伸びるスペースができる。ゆとりがないと指が曲がってしまい、足トラブルの元になるのだという。
正しいパンプスの選び方その3:ヒールの高低ではなく、かかとが「疲れやすさ」を決める
ヒールが低い方が疲れにくい、というのもよくある誤解なのだという。
「7センチ以上のハイヒールになると、靴内で足が前にずれていって無理が出てしまいがちですが、そういったハイヒールと違い、就活パンプスとしてよく購入される3.5センチや5センチのヒールであれば、どちらも疲れやすさはあまり変わりません」(河野さん)
着目すべきポイントは、やはり「かかとが合っているかどうか」。「フラットパンプスなら疲れにくい」と思われがちだが、たとえヒールがフラットでも、かかとまわりがゆるすぎれば、足が前にずれて疲れてしまうそうだ。
選び方の「誤解」が解けたところで、いよいよ本題。足が痛くなりにくく、歩きやすいパンプスを選ぶためには、まずは自分の足のサイズを見極めるのが大切なのだという。
あなたの足のサイズ、思い込みで決めつけていませんか?
──私のサイズは23.5センチなのですが、先ほどのNGポイントを踏まえて選べばいいのでしょうか?
河野:そのサイズは、ご自身で測ったものですか?
──はい。
河野:足のサイズで測るべきは、足長(そくちょう)、足幅(そくふく)、足囲(そくい)の3つです(下図参照)。
かかとからつま先までを足長といいますが、この足長を間違って認識している方が多いんです。自分で測ると正しい長さより大きくなりやすいようで、ご自分で25センチだと思っている方も、きちんと測定すると23.5センチだった、ということがよくあるんですよ。
足長:かかとからつま先までの長さ
足幅:親指の付け根と、小指の付け根の骨の張り出した部分の幅
足囲:足幅部分の外周の長さ。メジャーでぐるりと回して測る。足の厚みを知るために使う
──えーっ! ずっと23.5センチだと思って生きてきました!
河野:まずはフットゲージ(足型計測器)で足型の計測をしてきちんと測り、サイズを見直すことをおすすめします。
フットゲージは売り場に置いていますので、シューフィッターの予約をしなくても、スタッフに声をかけていただければ、計測できます。一方で、他店では機械の計測器もありますが、足囲がEと計測されても、足幅によっては足に合わない場合もあるので注意が必要です。
──足囲だけではダメなんですか?
河野:足囲はウィズといって、E〜EEE(3E)くらいまでのサイズ展開が多いです。ただ、同じ2Eでも、甲高で足幅が狭い2Eと、甲が低くて足幅が広い2Eでは、合う靴が変わります。サイズが2Eだとしても、足幅が広い場合は3Eの靴が合うこともあるのです。
▼詳しい足のサイズはこちら
ずれない靴は疲れにくい。ベテランシューフィッターが伝授するパンプスの選び方
──そのほかに、パンプスを選ぶときにどんなことに気をつければいいでしょうか?
河野:まずフィッティングの3点ポイントとして、店頭でご紹介しているのがこちらです。
1. かかと
2. 足幅
3. つま先
この3つが自分の足にあっていれば、パンプスの中で足がずれにくいので、負担がかかりにくく、疲れにくいということになります。
かかととつま先についてはNGポイントでお伝えした通りです。
──足幅についてはどうでしょう?
河野:履いたときに「痛い」「きつい」と感じるものはもちろんダメです。かといってゆるすぎるのもダメ。パンプスが脱げないように歩いて足指が曲がったり、足裏に力が入って魚の目やタコになったりする原因になります。足にかかる負担が増えてしまうのです。
──履き口(足の甲の部分)はゆとりがあったほうがいいのでしょうか?
河野:履き口は、足がずれないように足の甲をしっかりおさえるものがいいですね。ゆるすぎると歩いているうちに足が前にずれて負担がかかるからです。食い込むほどきついのはやめたほうがいいですが、下の写真のような本革の場合、履いているうちに柔らかくなり、足幅になじんできます。
本革のパンプスは、履き口が徐々になじんでくる
──合いそうなパンプスを見つけて、売り場でフィッティングするときはどんなふうに試せばいいですか?
河野:まず、背伸びをしたときにかかとが脱げてしまうものは避けましょう。
次に、なるべく売り場をぐるぐると歩いてみることをおすすめします。歩いてみて、かかとが脱げないか、靴の中で足がずれないかを確かめてください。
──パンプスを選ぶのに適した時間帯はありますか? 夕方は足がむくむと言われているので、避けるべきなのかと考えています。
河野:人によりますね。直前までの行動や環境によってもむくみは変わってくるし、個人差もありますから。むくんでいるからといって大幅にサイズが変わることはないので、そこまで気にしなくて大丈夫ですよ。
──これまでのポイントに注意して選んだパンプスは、足の負担が軽く、疲れにくいということでしょうか。
河野:そうですね。逆に足に合わないパンプスを履いていると、外反母趾(がいはんぼし)などのトラブルの原因になります。膝や腰を痛めたり、ふくらはぎが疲れやすくなったりもします。
たくさん歩く就活生には、なるべく足に負担がかからず、疲れないパンプスを選んでほしいですね。また、ストラップつきのパンプスもぜひ試してみてほしいです。
──そうなんですか? 「履くのに少し時間がかかるから」と敬遠する就活生も少なくないと聞きます。
河野:ストラップがあることで、パンプスが足の動きについてくるので脱げにくいですし、かかとが脱げ落ちることがなくなるので、かなり負担が軽減されます。
確かに就活生はストラップつきのパンプスをあまり選ばない傾向がありますが、足型によってはストラップつきを履いたほうがいい人もいます。どのパンプスも足が痛くなってしまう、という人は一度試してみてください。
数字だけでは測れない、それ以上の期待に応えるのがシューフィッターの真価
──自分の足にぴったりのパンプスを選ぶのも、なかなか大変ですね。自分ではよく分からない、というときには、シューフィッティングを利用したほうがいいのでしょうか?
河野:当店では就活生のフィッティングの予約も多くいただいています。
シューフィッティングは予約制で大体90分程度。外反母趾やけがなどのトラブルがある場合は、もう少し時間がかかることもあります。パンプスは予算に応じて選べますが、相性のいいものが必ずしも予算内におさまるとは限らないので、予算か相性か、比較して選んでいただきます。もちろん、フィッティングしてどうしても合うパンプスがない場合は、購入しなくても大丈夫です。
また、シーズンごとに店頭で靴の選び方講座を開催しています。30分程度のものなので、それを聞いてもらうと選びやすいかもしれません。
──店頭にはたくさんのメーカー・ブランドのパンプスが並んでいます。シューフィッターの方は、この中から、自分の足に合う形のパンプスを選んでくれるのでしょうか?
河野:そうですね。サイズを計測した上で足型を見て、「大体このメーカー・デザインがいい」と見立て、試していただきます。ただ、その判断は経験がないと難しいです。
最近は、他店などで3Dの自動計測器などもありますが、「機械で測ったウィズ値がEと言われて、Eの靴を勧められたけれど痛くて合わなかった」というお客様の声も聞きます。
サイズはあくまでも目安。自分に合う靴、というのは、履いてみたときの足型と靴型の相性が一番大きく関わってくるところなのです。
──数字が全てじゃないというわけですね。奥が深い……。
河野:はい。シューフィッティングは、測ったサイズだけでは分からない、数字以上のことが必要になります。お客様の高い期待値に応えられるように、細かなポイントまでお伝えするよう心がけています。
中には、フィット感よりもデザインを優先する方もいらっしゃるので、そのあたりはお客様の判断になります。
ちょっと高い。でも後悔しない。プロが選んだ「就活パンプス」
──ありがとうございます。では、数々のシューフィッティングをしてきた河野さんが選ぶ、おすすめ就活パンプスを教えてください!
河野:就活用のブラックパンプスを展開する3ブランドをご紹介します。この3つは価格帯も同じくらいですし、お客様からのニーズも高いシリーズです。ネームバリューもあるため、多くの百貨店で取り扱いがあり、試しやすいと思います。
ワコール サクセスウォーク ¥19,800(税込)
人間工学に基づいた独自設計で、歩きやすく疲れにくく美しいパンプスを追求。サイズ、トゥの形、ヒールの高さのバリエーションの豊富さも人気。そごう横浜店の販売員さんにも愛用者が多く、かなりリピート買いされているそう。
卑弥呼 BLACK PLAIN P47515 ¥19,800(税込)
日本人の骨格を研究した職人が設計した木型を使い、美しさとフィット感を追求。高反発と低反発クッションの2層構造で、足への負担を軽減する。汗を吸放湿する素材で靴内が蒸れにくく快適に。
アシックス pedala WP861T ¥23,100(税込)
足の形に靴が沿い、足指の圧迫感が軽減する設計。アシックスオリジナルのソフトクッションヒール構造で、着地時の衝撃が緩衝され、歩き心地よくスムーズに。ヒールが「コツコツ」と響きにくいのもポイント。
今回紹介したパンプスは、就活生が購入するものとしてはややお高めかもしれない。しかし、足のストレスが軽くなるだけで、面接や会社説明会への意気込みや集中力はもっと増すはず! 就活でのパフォーマンスを最大限に発揮するために、自分の足に合う運命のパンプスをぜひ探してみてほしい。
また、どんなパンプスを履いても痛くなってしまう、という人はシューフィッターに相談してみては(※3)。90分程度で、自分にあったものを選んでくれるのだから、結果的に時間やお金の節約になるのではないだろうか。
パンプスで頑張る女子就活生のみなさんが、なるべく足を痛めることなく、納得のいく会社を見つけてほしい! とかげながら応援している。
(※3)参考:一般社団法人 足と靴と健康協議会「シューフィッター検索」
【そごう横浜店 シューフィッター予約・問い合わせ】
地下1階=レッグ&シューズステーション 電話 045(465)5142 直通
(Photo:Jovica Varga/Shutterstock.com)
※こちらは2020年2月に公開された記事の再掲です。