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【密着取材】波頭亮 vs 茂木 健一郎対談:人財の陳腐化に抗う「異才の策」

コラム
2016年11月1日(火) | 20,615 views

1,500人から選抜された僅か11名は夏の「軽井沢」に招かれた。


モデレーターに波頭亮氏を迎え、茂木健一郎氏・鈴木美穂氏・丸幸弘氏など、科学・ビジネス・アントレプレナー・ジャーナリズムの「日本最高峰の講師」が集まる。


――学生に与えられたのは「人と時間」


このチャンスを活かすも殺すも彼ら次第。11名の学生達は、2泊3日で就職活動という次元を遥かに超えた「自分のキャリア」について、考え尽す。


その名も、「突き抜ける人財ゼミ」


第4回となる今年はONE CAREERからライターKENが潜入。これまで完全クローズドであった講義内容の一部をダイジェストとしてお伝えする。


まず、波頭氏から本ゼミに対する「想い」が語られた。


全体スケジュール
1日目:波頭氏のオープニング挨拶、自己紹介、鈴木美穂氏・茂木健一郎氏セッション、夕食&懇親会
2日目:個人面談(1名40分、学生1名対講師2名)、学生セッション、丸幸弘氏セッション、夕食&懇親会
3日目:個人最終発表、講師によるフィードバック、エンディングセッション


突き抜けるべきは、今の「常識」

波頭亮:
XEED経営コンサルタント。1957年生まれ。東京大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。1988年独立、経営コンサルティング会社XEEDを設立。


波頭氏:私は、皆さんへのオープニングメッセージとして、この「突き抜ける人財ゼミ」の意義について話したいと思います。


人間は生まれてから経験したこと、怒られたり褒められたりしたことから形成されたいろんな常識を身につけています。その中で判断したり行動したりして生きています。


その常識を逸脱しようとするといろんな壁にぶつかったり、あるいはエライ人に怒られたりして、いろいろ傷つく。そして大人になるという表現とともに、どんどん常識的な人間になっていく。それはそれで居心地がいい。


とはいえ、ここにいらっしゃるみなさん、あるいは今回は来れなかった学生さんの中にも、多少のフリクション(摩擦)があろうが、かなりの抵抗があろうが、常識を突き破って世の中に新しい価値を生み出し、新しい常識を作り出すポテンシャルを持った方々がいると思っています。

そんな皆さんを見つけ、機会を提供することが、このゼミの目的です。

格差が広がる社会では、「突き抜けていく人」が何かをしないといけない

なぜ、皆さんに今の常識を突き抜けて新しい常識を作っていって欲しいかというと、今の世界は2つの視点から「突き抜ける人財」が求められていると考えているからです。


1つ目は「独占と格差の進行」です。


1990年代に世界の経済政策は大きな舵を切りました。それは「新自由主義」と呼ばれ、資本主義2.0とも呼べるもので、元々は1990年にミルトン・フリードマンが提唱した、市場メカニズムを最大限に尊重すべしという考え方です。

そして1990年代から2000年にかけて新自由主義型の経済政策の下、「格差」がどんどん拡大していきました。格差社会(0.1%あるいは1%の人が牛耳る時代)では、所得や学歴だけでなく、権力や実質的な政治への参画の権利にまで大きな格差が生じてきます。


例えば、今のアメリカでは、全ての富の半分を0.1%の人が所有しています。また、70%くらいの富を1%の人が牛耳っています。

そして、アメリカでは政治献金の金額規制がないために、何千億円も何兆円も資産を持った大富豪が民主党、共和党の両方に何百億円もの寄付をして、誰が大統領になっても、どちらの党が与党になっても強い影響力を及ぼすという構図になっています。

偏在した富が政治をコントロールしているわけです。これではもはや、実質的には一人一票の民主主義とは言えないですね。

その格差社会化の傾向は日本でも進んでおり、例えば派遣切りや「保育園に落ちた日本死ね」問題に見られるように、貧困と格差の問題は年々深刻になっています。


近年世界中で話題になった本に、トマ・ピケティーの『21世紀の資本』があります。この本がテーマにしているのも、今世界の先進国をおおっている再分配を伴わない新自由主義が進展していくと、格差が極端に拡大して世の中がもたないということです。

ただし、あれだけ世界中で読まれ、話題になったにもかかわらず、アメリカも日本も格差拡大の傾向を改める政治に転換はしていません。格差拡大の是正を唱えて大統領に立候補したバーニー・サンダースが健闘しましたが、結局、敗れてしまいました。


もう少し、皆さんに身近な例でいうと、「外資系の大手金融機関」が分かりやすいでしょうか。1人のCEOが年収100億円で他の人は500万円とかみたいな、「One takes all(一人の人が全てを手にする)」のような世の中になっていっているのです。


これは所得も能力も、そして権力もそうなんですけれど、ごく一部の突き抜けた人と大多数の普通の人に分かれていく社会メカニズムです。中産階級社会*と逆のモデルです。

実は中産階級が厚い社会でこそ、社会は活力を増し、潜在成長率が高まって経済は順調に発展します。にもかかわらず、一部の強者が富を独占し、大多数の人々が貧困化する格差社会では、多くの人々の豊かな生活が実現しないばかりか、社会経済が根底から崩壊してしまうリスクが大きいのです。そうなると大多数の国民だけでなく、1%の富裕層すら富の原資を失ってしまいます。逃げ切れるのはたった0.1%の超大富豪だけでしょう。


こういう状況のときこそ「突き抜けていく人」が何かをしないと、このまま地すべり的に、ごく一部の絶対的強者と大多数の弱者/一般国民という奴隷社会のような前近代的な社会になっていってしまいます。歴史の逆行です。

こういう流れにある時こそ「トップの一握りの人が何を成すかによって、社会の在り方と進んで行く方向を変える必要がある」と思うのです。


これからの世界は、ごく一握りの特権者のためだけではない、みんなが自由と平等を享受できるような市民社会の方向に舵を切る人が出て来て欲しいと願っています。

そのためには、今の価値観と損得勘定の常識を突き抜けることが必要なのです。


*中産階級社会…一部の支配階級ではなく、一般市民や中産階級の人々が中心となる社会

AI出現によって、人々は「最大価値の源泉の変化」への対応を求められている

2つ目は、AI(人工知能)による「最大価値の源泉の変化」です。


この前、囲碁で人間がAlphaGoというAIに負けてしまいました。それでもまだこのAIは、囲碁の単機能型AIに過ぎません。


これが囲碁だけでなく、色んなゲームも、更には投資やビジネスも扱うことができるような汎用的なAIになるのが2029年だといわれています。そして問題設定や課題設定、目的の修正とかまでできる状態、つまり「ほとんど人間の脳と変わらない」というところまでいくのが2045年。いわゆる「シンギュラリティ*」と呼ばれるポイントです。2045年っていうと、あと30年です。意外と早い。2029年であれば後15年ですから、あっという間です。


*シンギュラリティ…技術的特異点。人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事。人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうとする未来予想のこと


では、人間はどうしていけばいいのか? 人間は何を考え、何を生み出せばいいのか?


AIに対して、今の時点ではまだインテリジェンスと呼ばれている、計算能力だったりロジックの能力だったり知識の総量だったりということで勝負しようとしても、これからは絶対に勝てない。これらの能力は2029年前後の時点で、コモディティ化された古いインテリジェンスになってしまうからです。それは、論理的思考力ですら同じです。


では何が知的にコモディティではないのか。つまり、人間ならではの「最大の価値の源泉」は何になるかというと、AIにできないこと。それは、志とか、意思力とか、豊かな感情とか、鋭い感性とか、欲望です。

その欲望の中に何を込めるのか、志として何を目指すかが、人間ならではの価値の源泉になります。


先ほど話した世界のグリーディーキャピタリズム(強欲資本主義)の流れを転換させようとする野心など、人として素晴らしい欲望だと思います。常識の中に身を置き、世の中の流れに身を任せるだけでなく、こうした常識や流れを突き抜けて新しい時代を自ら切り拓こうとする野心や欲望を、皆さんには持って欲しいと願っています。


——世界最高峰の舞台でコンサルタントを務め、論客としても知られる波頭亮氏。彼の「論理的思考がコモディティ化する」という言葉には重みがある。

我々は息を飲んで、次なる講師・茂木健一郎氏の講演に耳を傾けた。


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北野唯我(KEN)
取締役
北野唯我(KEN)

北野 唯我(きたの ゆいが):株式会社ワンキャリア 取締役CSO/作家
新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局勤務。米国・台湾留学後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役として戦略・採用・広報部門を統括。2021年10月、同社は東京証券取引所マザーズ市場に上場。作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が20万部、他に『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)などで、著者累計40万部。

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