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私、使えない高学歴だ……東大卒女子を襲った「100点病」【しくじリーマン】

公務員 コラム
2020年7月9日(木) | 99,197 views

失敗、それは誰もが避けて通れない道。

連載企画「しくじリーマン」では、社会人たちが経験した失敗談と、そこから得た学びを皆さんにお届けします。


「他人の失敗に学べ。その全てを体験できるほど長生きはできないのだから」

──『トム・ソーヤーの冒険』を著したマーク・トウェインはこう語ります。先人の「しくじり」が、皆さんの反面教師となりますように。


初回の今日は、東大卒・公務員出身のワンキャリ編集部員のエピソードを紹介します。高学歴女子が苦しんだ「100点病」とは?

東大→公務員の「ド安定」がベンチャーの落ちこぼれに

私は東大の文学部を卒業後、公務員という「ド安定」のキャリアを歩み始めました。職場でそこそこの評価をいただくうちに「ベンチャーで自分の力を試したい!」という気持ちが高まり、社会人3年目で思い切ってワンキャリアに転職しました。

期待に胸を膨らませ、入社から数日がたった頃。私が直面していたのは、ベンチャー企業の圧倒的なスピード感と自分の圧倒的な仕事のデキなさでした。

入社後の私は、ひとことで言えば悲惨。力試しどころか、落ちこぼれ社員としての日々の始まりでした。

日が暮れるまで練り上げた編集企画のアイデアが3分ではるかに面白い別案へと叩(たた)き直され、悔しさと情けなさで眠れなくなりました。上司に「あの仕事どうなってる?」と尋ねられても「完成まで待ってください」と答えては締切を守れず、常に何かに焦ってばかり。ふと我(われ)に返ると、抱え込んだ仕事でタスクリストはいっぱい……。「使えない東大卒」そのものです。

そんな自分の過ちに気付いたのは、ボロボロの私を見かねた先輩に声を掛けられた時のことでした。

私のしくじり:仕事をテストと勘違い!「100点病」という病

「めいこちゃん、悩み続けるくらいなら周りにアドバイスを求めてみたら?」

と助言をくれた先輩に、生意気にも反論する私。

「そんなの無理です! 未完成の仕事にコメントなんてもらえません」

すると、先輩は呆気(あっけ)にとられてこう言ったのです。

「いつでも相談していいんだよ。仕事はテストじゃないんだから」

そこでやっと気付いたのです。私は今まで、ある大きなしくじりを犯していたのだと……!

そう、私は「100点病」でした。

担当した仕事は自分一人で完成させねばならないと思い込み、自分が納得するまで上司や同僚に意見を求められずにいたのが間違いでした。私の企画がうまく通らないのも、仕事が遅いのも、「100点の答えを示さないといけない」という強迫観念が原因だったのです。

テスト漬けの生活。膨らむ恐怖とプレッシャー

私はなぜ、「100点の答え」にこだわるようになったのでしょう。振り返ってみれば、私のこの姿勢は、学生時代から今までの十数年をかけて育ててきたものでした。

私は天才ではありませんでした。文学部らしく言うならば、『めいこは難解な定理はわからぬ。中堅進学校で真面目に授業に出席し、過去問をコツコツ解いて暮らしてきた』生徒でした。そんな「ガリ勉メロス」が評価を受ける機会といえば、テストの答案がほとんどです。びっしり埋めた回答欄に赤ペンでマルとバツが付き、先生の「ここが間違っています」「次は満点を取ろうね」というコメントに頷(うなず)く。計算ドリルから東大入試の模擬試験まで、何年も同じことを繰り返してきました。合格点を取りたい、バツを減らさないと、100点を取れる答案を完成させなきゃ……。

このプレッシャーは、大学に合格してからも消えませんでした。東大生は、入学後もテストで成果を出さねばならないのです。東大では3年生から法学部や文学部といった学部・学科に配属されますが、その選択権は1、2年生時代の成績順に与えられます。この「進学振り分け」と呼ばれる制度によって、ガリ勉タイプの東大生は入学直後からテスト勉強に明け暮れ、希望の学部・学科への道を走り続けることになります。

公務員を経て「100点病」は重症に

就職後の公務員生活でも、私は相変わらずでした。上司に間違いを指摘されないよう、作り込んだ書類を持って報告に行く。答案にバツが付くのを恐れていた学生の頃と同じように働いていました。

お役所は、私のような「100点病」患者でも褒められる環境でした。人事異動が頻繁にあり、業界知識や前例に精通しない上司の下で働くことも多かったからです。彼らに作りかけの案を持ち込んで「これからどうしましょう?」と相談するのはナンセンス。時間を掛けても、完成品を仕上げて報告する方が喜ばれました。

もちろん全ての公務員には当てはまりませんが、少なくとも当時の私は「100点の答え」を出し続けるスタイルでも評価されていたし、それに何の違和感も覚えませんでした。こうして私は、仕事を数カ月単位で溜(た)めるようになったのです。

「使えない高学歴」の誤解。彼らも100点病患者かも

皆さんは「高学歴は仕事ができない、使えない」と聞いたことはありませんか。自分自身が仕事のできない東大卒になった経験から、私はこの意見は一部正しくて、一部は的外れだと感じています。

「勉強ばかりで人の気持ちが分からない、自分が一番賢いと思っていて指示を聞かない、だから高学歴は使えない。」

私はそんな論調に触れるたび、一人の東大卒としてムカムカしていました。私は絶対に違う。大学の友達にもそんな子はいなかった。この説は大嘘(うそ)だ。そう思っていました。

実際のところ、東大ではコツコツ勉強してきたタイプの真面目な学生が圧倒的多数派です(テレビで見るような天才ばかりではありません)。彼らは模試やテストで「天才と自分に圧倒的な差がある」と嫌というほど知っているので、賢さを過信するどころか非常に謙虚です。

それに、入社後に「使えない」と断じられる高学歴の学生たちは、そもそも選考を経て内定を得ています。人事には、最低限の協調性やパーソナリティが評価されているはずです。

それを踏まえると、企業のおじさんたちがいう「人の言うことを聞かないロボットのような高学歴」は虚像に過ぎないと思うのです。

彼らの実情は、仕事でも「100点の答え」を求めてしまう、私のような人たちではないでしょうか。学校で先生の添削を受け続けた経験から、職場では完成した仕事を上司に示せるまで抱え込んでしまうのです。そんな仕事の進め方は、こまめな相談を当然とする上司に「こいつは周囲に意見を求めようとしない、言うことを聞かないやつだ」と誤解されるでしょう。

仕事ができない高学歴の正体は「100点病」患者たちかもしれません。

しくじりから得た学び:仕事に「100点」はない、他人のコメントは赤ペンじゃない。こんな私を笑いますか?

さて、こんな私は社会人3年目でやっと「100点病」を自覚しました。仕事はテストのように答案を完成させる必要はないこと、他人のコメントは私の間違いを指摘するための赤ペンではないことに気付いたのです。

「そんなの当たり前じゃん」と笑ってしまいますよね。でも、こんなことはありませんか?

・先輩や友達に「私の短所って何だと思う?」と聞くのは勇気がいる
・バイトや研究室で、人からアドバイスを受けると何となく否定されたような気持ちになる
・サークルやゼミ活動の中で、「自分に任されたことは人に頼らずに完成させたい」と気合いが入る

これは全て、学生時代の私のことです。思い当たる節のある人は、知らず知らずの間に「100点病」予備軍になっているかもしれません。

そう、あなたの背後に「100点病」は忍び寄っているのです!

君がしくじらないために:今日から「相談」を口癖に!「報告・連絡」は忘れよう

ギクっとしたあなたが同じしくじりに陥らないために、今から何ができるでしょうか。私からのアドバイスは、「相談」を口癖にすることです。報告・連絡・相談、いわゆる「報連相」のうち、最初の2つは忘れてください。

大切なことなのでもう一度言います。あなたがすべきことは「相談」です。報告と連絡ではありません。


報告と連絡は危険な習慣です。これらは物事が完了した後のコミュニケーションなので、「100点病」の私たちの場合、完璧な答案が完成するまで上司と話せなくなります。これが仕事を溜める大きな原因なので、一旦(いったん)忘れましょう。

対して、相談はあくまで「相談」ですから、相手はあなたの考えにマルもバツもつけることはできません。それに、仕事が未完成でも持ちかけることができます。まさに「100点病」の特効薬です。


「未完成だけど、相談していい?」「分からない点があるので相談したいです」

と周囲にコメントを求めることが、「100点病」克服の第一歩です。大学の課題でも就活のことでも、どんなに小さなことでもよいので気楽に始めてください。

あなたが就活や仕事でしくじらないよう、心からの祈りとエールを送ります。



いかがでしたか? 転職先での挫折から、「100点病」に気付いためいこさん。徐々に忍び寄るこの病で、次にしくじるのはあなたかもしれません……。

先人の失敗に学び、よりよい社会人生活に備えてくださいね。では、また次の「しくじリーマン」のエピソードでお会いしましょう。


※こちらは2017年7月に公開された記事の再掲です。

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めいこ

駆け出し編集者です。
「東大 →公共セクター →ワンキャリ編集部 →スタートアップ」
記事執筆、インタビュー、編集。
西洋美術、日本酒、猫、旅行が好き。

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