はじめに
就活生の皆さんへ。こんにちは、ワンキャリ編集部です。
就活生の皆さんは「オワハラ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは「就活終われハラスメント」の略です。企業が学生に対して、他社の内々定を辞退するよう強要したり、選考を受けられないように妨害することです。
文部科学省の「学校基本調査」によると大学生の卒業後の就職率は年々上昇しており、今年もいわゆる就活売り手市場が予想されます。つまり、複数の内定を持った就活生が「どの会社に入ろうかな」と選べる環境です。
「オワハラ」はその職業選択の自由を「今就活を終わらせて、他社の選考や内定を辞退しないと、こちらからは内定をだせない」といったように奪うのです。
しかし、オワハラの実態は採用ページや説明会はもちろん、OB/OGの方々からもなかなか聞くことができない・聞きにくいのが現状です。
ワンキャリアでは以前、「オワハラ調査」を実施しましたが十分なファクトが集まらず、記事として公開するまでに至らない悔しい思いをしました。
この記事では昨年ヒアリングを重ねた先輩社会人からの「告白」を基に、オワハラの実情と、自分がオワハラを受ける前にするべき対策をこれから最終選考に臨む人・内定通知を受ける人に向けてお伝えします。
今年もワンキャリアでは「オワハラ調査」を実施しています。あなたがオワハラを受けたのなら、そのエピソードを是非こちらのフォームにお寄せください。
【定義】そもそもオワハラはなぜ起こるのか。
就職活動は戦いです。
採用担当側も戦っています。
例えば同業他社だとどうしても併願をする学生が多くなります。そうなると志望動機で聞くのは
「他社との違い」
「なぜ弊社でなくてはいけないのか」など。
しかし「内定をもらいたい就活生」はそれに対して対策をしています。
もちろん「はい! 御社が第一志望です!」と言えるようにしているわけです。
それでも複数「第一志望企業」から内定をもらったら、「内定辞退」をしなければいけないのが就職というもの。
もちろん内定をもらう前に選考辞退もできますが、取らぬたぬきの皮算用にならないためにはやはり内定をもらってから選びたい、と考えるのは当然でしょう。
企業側も採用はしなければいけません。
「内定辞退率」がKPI指標の一つとなっている企業も多く、いい人材をたくさん企業に入れなければならないという一種の強迫観念にさらされます。
「内定をもらってから企業を選びたい学生」と「内定を辞退されたくない人事担当者」。
その戦いにおいて生まれるのは採用におけるゆがみ。
「うち以外に内定が出ない状況にすれば絶対うちの企業にくるだろう」。
こうしてオワハラが生まれます。
そしてオワハラを知らない、知っていても対策できないのが今の就活生。
いわば「勝てる役がない状況に追い込まれて他社選考の辞退を迫られる」。
詰みの状態です。
まずは実情を知りましょう。
就活生の皆さんにオワハラの実情を、先輩からの「告白」からお伝えします。
【事例】告白「こんなオワハラ、受けました」
オワハラには大きく3つの種類があります。
1. 他社の内定辞退を強要する→その場で辞退を要求する、または遠回しに辞退を迫ってくるケース
2. 他社の選考を受けられないようにするケース
3. 自社の内定を辞退しようとした人を脅すケース
(※)出典:東洋経済ONLINE「就活オワハラが問題になったこれだけの理由 就活生諸君、君たちは恐れなくていい」
以下はそのケース別にワンキャリアに寄せられた先輩就活生たちからの「告白」です。
1. 他社の内定辞退を強要する→その場で辞退を要求する、または遠回しに辞退を迫ってくるケース
「最終面接にて、他社の最終面接を電話にて辞退させられました」(大手生保)
今まで対策を積んで進んできた選考を「その場で辞退しなさい」というケースです。
最終面接という緊迫した状況の上では、就活生が「NO」を言うのは難しいと言えます。
「他社の選考をすべて辞退するなら内定を出すと言われました。
内定を辞退する旨を伝えたら、『説明をしてほしいから、来社しろ』と言われ、会社に赴きました。
20,000円以上かかった交通費は支給されませんでした」(新聞社)
と、交渉の材料として「内定」を使うこと企業もあるようです。
2. 他社の選考を受けられないようにするケース
「手帳を出させ、他社の面接が入っていないことを確認しようとされ、6月1日の終日拘束を事前に明言されました」(大手損保)
6月1日からは就活生は最終面接ラッシュです。このケースは、まだまだ選考が残っている企業もある中で、他社の最終面接をブロックし、「他社からの内定が出ない」状況に追い込むものです。
また、
「6月3日の終日拘束を6月1日に伝える」(大手損保)
など、不意打ちかつ悪質だと思われる、就活生を困らせるオワハラもあるようです。
3. 自社の内定を辞退しようとした人を脅すケース
「内定辞退をしようとしたら、社員10名に1時間ほどかけて説得されました。そもそも選考の際に第一志望だと言わないと内定をとれないので、選考の際には第一志望だと言いました。辞退するときには『君第一志望だと言ったよね。うそついたの?』などと強く言われました」(大手損保)
このケースは「内定を辞退する」の旨を伝えた学生に対して、批判や罵倒に近いものを浴びせるものです。
内容はさまざまですが、
・自分の人格を否定されるようなもの/自分への脅し
・周囲の人(家族や大学・サークル・研究室など)の否定/脅し
をされるようです。
特に、真面目に就活をしてきた学生にとって周囲の人を否定されれば、胸が苦しいものとなるのは理解ができます。
ある学生は
「企業に内定辞退の旨を電話で伝えた際に『何様のつもりや』『自分のした事わかっとんのか』などの罵声を浴びせられました。
その後、会社から呼び出しがあり、予定がありますと伝えたら、『うそやろ、何の予定や』『おまえ、サークルの後輩どうなるかわかっとんのか』『とりあえず来て社会人としての落とし前つけろ』などと言われ、いつ会社に足を運ぶか具体的な日時を答えるまで電話を切ってくれませんでした」(大手損保)
「会社に赴いて辞退したら、人事に帰り際に『出口だよ』と言って高層階の窓を指差されたり、胸ぐらをつかまれるなどのオワハラもあったようです。結局会社には行きませんでした。その後は何度か電話がかかってきたが、着信拒否したのでそれからは何もないです」(大手損保)
と語ります。
【対策】対処法と今後の解決
そもそも「内々定(内定通知が送付された段階)」「10月1日時点での内定」そのものには法的拘束力はありません。(※)
オワハラが実際に存在しているのはわかった。ならばわれわれ就活生はどうすればいいのか。
もちろんきっぱりと言えるのが一番です。
「御社のようなオワハラをして職業選択の自由を奪っている企業には行きません」と。
でもそれを「言えない」状況にするのがオワハラです。
実際にオワハラを受けた就活生の「これがあれば、自衛ができたのに……」という声をもとに、身を守る手段の例を紹介します。
(※)「内定」は企業側の内定通知と、学生側の承諾書・誓約書の提出があってはじめて始期付解約権留保付労働契約といういわゆる「働く前の段階の契約」が締結を指します。この契約が結ばれたとしても特殊な理由や条件がない限り、雇用開始(一般的に4月1日)の2週間前までは契約の解除ができます。内定辞退についてはこちら
対策例1:オワハラを記録する
オワハラを受けた就活生のコメントで特に多かったのが、受けたオワハラを記録に残しておくべきだった……。という声でした。中でも「3. 自社の内定を辞退しようとした人を脅すケース」の対策として、「言われたことを記録するために、ボイスレコーダーを持っておいてはどうか」というアドバイスがありました。ただし、会話を相手に無断で録音することはビジネスマナー上は一般的ではなく、相互の信頼関係を崩すものでもあります。発覚した際のリスクも大きいので、あくまで身の危険を感じた時の最終手段と考えたほうが良さそうです。
対策例2:手帳2冊持ち
「1. 他社の内定辞退を強要する」「2. 他社の選考を受けられないようにするケース」のオワハラにおいては、人事の目の前でスケジュール帳やスマホのカレンダーを見せるよう求められ、内定後に他社の選考を受けていないかチェックされることがあるようです。
その対策として、内定後の予定を空欄にした「サブ手帳」を用意したという声がありました。
そして。オワハラを知ること、伝えること
自分が最終選考の面接を受ける前には、もちろん面接の対策自己分析のし直しやESの見直し、志望動機のブラッシュアップはしなければなりませんが、オワハラについても少し調べて見てください。
今時はSNSでオワハラを受けた人の実体験・感想なども書かれていますし、就活掲示板などを検索すれば具体的な企業名が出てくることもあるでしょう。オワハラについて知るだけでも心構えがかなり変わります。
そして万が一、企業でオワハラを受けてしまった場合、それを未来の就活生に「伝えて」あげてください。すべての就活生がオワハラの存在を知るようになればオワハラは徐々に減っていくでしょう。これが、就活生の「詰み」状況を打破できる一つの方法でしょう。
おわりに
間もなく、日系大手企業を中心に最終面接のピークですね。就活生の皆さんは、この記事でさらに不安が募ってしまったかもしれません。オワハラを受けた、と報告された企業は、数多くある企業のなかでほんのわずかです。
とはいえ、不安に駆られてしまった皆さんに、就活人気ランキングで毎年上位に入る、JT(日本たばこ産業)、野村総合研究所(NRI)、三菱商事の人事担当者の方々からエールをいただきました。(※文末にて全文公開しています)
会社の人事は学生にとって「会社を写す鏡」です。人事がハラスメントをするのであれば、きっと会社にもハラスメントを許容するカルチャーがある。他人に流されることなく、自分の気持ちに正直に意思決定を。
JT(日本たばこ産業) 長塚 康介(ながつか こうすけ)氏:人事部 成長支援・採用チーム 次長
皆さんが必死に悩んで決めた会社。その選択は間違っていません。むしろその時の決断の大きさが、将来いろいろな壁にぶち当たった時に自身の支えとなってくれるはず。学生の皆さん、頑張って決断してください。
野村総合研究所 田口 孝紀(たぐち たかのり)氏:コンサルティング人材開発室 GHRグループマネージャー
皆さんは、私たちにとって、困難な場面で一緒に悩んだり、目標達成の喜びを分かち合ったりすることになる、『未来の同僚』です。私たちと皆さんの双方が、「未来の同僚」を選び合うこのプロセスを、できるだけ丁寧に、フェアに進めて行きたいと考えています。
三菱商事 中川 剛之(なかがわ たけゆき)氏:人事部 採用チームリーダー
この記事を読んだあなたがオワハラを受けたのならば、あなたのそのエピソードを、教えてください。就活生が経験したオワハラエピソードを記事にさせていただきます。
応募に関する秘密は厳守しますし、あなたが対象企業に特定されないよう徹底いたします。未来の就活生に「伝える」ことでオワハラの連鎖を断ち切りましょう。
JT(日本たばこ産業)より
オワハラに対する考え方
そもそも、「ハラスメント」とは、「人が嫌がる行為」です。 会社の人事が、「社会人」・「学生」という立場を上下関係と捉え、学生の皆さんが嫌がることをする会社であれば、当然そのような会社を選ぶべきではないでしょう。
なぜ、オワハラをするような会社に入社してはいけないのか?
理由は2つあります。 一つは、会社の人事は学生にとって“会社を写す鏡のような存在”であるからです。クライアントにとって営業マンが会社の代表であるのと同様に、学生にとって人事マンは会社の代表です。会社の代表として選ばれた社員が、ハラスメントをするような人であれば、きっと会社にもハラスメントを許容するカルチャーがあるでしょう。 二つ目について、古臭い考え方かもしれませんが、“就社≒結婚”と考えているからです(『就職or就社』、『ジョブ型雇用orメンバーシップ型雇用』の議論はここでは割愛します)。この先、何十年も一緒に過ごすかもしれない結婚のパートナーを選ぶとき、自分の気持ちを踏みにじるような相手は願い下げですよね。会社を選ぶときも同様に考えてみてはいかがでしょうか。
学生の皆さんへのアドバイス
学生の皆さんには、“正しい判断”以上に、“納得のいく決断”をしてほしいと考えています。そもそも、日本だけでも400万社を超える企業がある中、正しい判断を下すために情報を整理・分析すること自体に無理があります。それよりも、限られた情報の中で、運と縁を信じ、“自分が自分らしく活躍できる場所はどこか?”という観点で納得のいく決断をすることをお勧めします。
最後に
自分の人生に責任を取れる人間は自分だけです。就職活動中は、バイアスにかかる機会が多くあるかと思いますが、他人に流されることなく、自分の気持ちに正直に意思決定できることを祈っています。
JT(日本たばこ産業)
人事部 成長支援・採用チーム 次長
長塚 康介(ながつか こうすけ)氏
野村総合研究所(NRI)より
その決断が、将来の支えになる
人事担当者にとって採用活動は大事なイベントですが、学生さんにとっての就職活動は社会人人生の第一歩を踏み出す「一生に一度」の大切なイベントです。一方で、人事担当者も学生さんと接する中で皆さんに「惚れ込んで」しまうため、「何とか入社してもらいたい」という気持ちになるのは、我々も同じです。
しかし、その「惚れ込んだ」学生さんが下した一世一代の決断だからこそ、「他社に決めました」と連絡を頂いた際には、良く決めたね、これからも応援しているよという気持ちを込めて「おめでとう!」と伝えるべきではないかと考えています。非常に残念ですが、惚れ込んでいるからこそ、真摯にその決断を応援したいと考えるのです。
皆さんが必死に悩んで決めた会社なのですから、その選択は間違っていません。むしろその時の決断の大きさが、将来いろいろな壁にぶち当たった時に自身の支えとなってくれるはずです。学生の皆さん、頑張って決断してください。
野村総合研究所
コンサルティング人材開発室 GHRグループマネージャー
田口 孝紀(たぐち たかのり)氏
三菱商事より
就職活動とは「未来の同僚」を選ぶこと
学生の皆さんは、私たちにとって、困難な場面で一緒に悩んだり、目標達成の喜びを分かち合ったりすることになる、「未来の同僚」です。私たちと皆さんの双方が、「未来の同僚」を選び合うこのプロセスを、私たちはできるだけ丁寧に、フェアに進めて行きたいと考えています。
特に、世界中で幅広い産業と関わりを持つ私たちにとって、皆さんはいつかどこかで出会うかも知れない「未来の仲間」であり、皆さんがどのような道を選ばれるとしても、そのご縁を大切にしたいと思っています。
興味のある企業を受け、その結果の中から、自分のキャリアのスタート地点を選択する権利が皆さんにはあります。
学生の皆さんには、その権利をしっかりと行使して、悔いの残らない就職活動をやり切って欲しいと思います。
三菱商事
人事部 採用チームリーダー
中川 剛之(なかがわ たけゆき)氏