※こちらは2019年3月に公開された記事の再掲です。
こんにちは、ワンキャリ編集部です。
今回紹介するのはセキュリティやIoTのクラウドサービスを展開するIT企業、HENNGE(へんげ)です。
調査を始めた取材班の耳に飛び込んできたのは、「テクノロジーの解放」「アーリーアダプター」「青い果実」「ノアの方舟(はこぶね)」など不思議なキーワードの数々……。
同社はこれまで海外人材の採用に積極的でしたが、ついに2020年卒から国内の新卒採用を本格的に開始しました。
「聞いたことがないけど、何をしている会社なの?」「テクノロジーの解放って何?」「海外経験もプログラミング経験もないけど活躍できるの?」などの疑問に答えるのは、同社の企画・開発・販売まで幅広く手掛ける辻悠太さん。
シェアNo.1を獲得しながら、今なお成長を続ける謎のIT企業の知られざる内側に迫りました。
辻 悠太(つじ ゆうた):人材総合サービス会社に新卒入社。営業、経営企画を経験する。2社目のコンサルで都市銀行や生命保険会社のコンサルティングを経験した後、HENNGEに参画。現在は、海外市場への既存製品販売から、新規事業の開発まで幅広く担当している。(所属部署はインタビュー当時のものです)
「セキュリティ業界のゲームチェンジャー」なのにセキュリティの会社ではない?
──辻さん、今回はどうぞよろしくお願いいたします。この記事でHENNGEを初めて知る学生のために、まずはHENNGEの主力事業について説明いただけますか。
辻:HENNGEの現在の主力製品はクラウドセキュリティサービス「HENNGE One」です。クラウドサービスに必要なセキュリティ機能をオールインワンで提供しているのが特徴で、GoogleやMicrosoftなどが提供するグループウエア(※1)のセキュリティを担っています。ニッチな業界ではありますが、クラウドセキュリティ分野では市場シェアNo.1を維持し続けています。
(※1)グループウエア……企業内の情報共有や業務をスムーズに行うためのソフトウエア
──HENNGE Oneはなぜ高いシェアを獲得できるのですか。
辻:HENNGE Oneは「セキュリティ業界のゲームチェンジャー」だからです。
前提として、クラウドサービスを安全に使うためには、情報漏えいを防ぐための認証やアクセス制御など複数の機能が必要です。
競合他社は一分野のセキュリティに特化し、一つの機能を125%、150%、180%……とブラッシュアップしています。しかし、それだとクラウドを利用する企業は、機能ごとに違う業者からセキュリティサービスを購入することになりますよね。ほとんどの企業にとって、セキュリティはできれば考えたくない面倒ごとなので、一社からまとめて導入できた方が便利です。
一方、HENNGEのサービスはあらゆる領域のセキュリティを必要十分なレベルでカバーしています。競合の営業が「この領域ではうちの商品が一番安全です」と訴求していますが、HENNGEは「うちに任せてもらえると、安心してクラウドサービスを使うことができ、働き方が変わります」と訴求できます。つまり、一つ上の次元で戦っているのです。
──特定の機能を突き詰めるのではなく、必要十分なクオリティですべての領域をカバーしているということですね。しかし、他社もカバー領域を広げて営業トークを真似できるのではないですか。
辻:いえ、簡単そうに見えますが他社には真似できません。
まず、カバー領域を広げるためには、それぞれの領域に精通した優秀なエンジニアが必要です。優秀なエンジニアを国内外から集めているHENNGEだからこそ、このようなサービスを作れるのです。
また、大体のソフトウエア会社は販売を代理店に任せているため、開発は得意でも売るのが苦手。ですが私たちは代理店に頼り切っていないので、売り方にこだわれます。セキュリティの性能が必要十分なレベルでも競合に勝てるのは、営業がクラウドサービスの効果的な利用方法を顧客に伝えたり、コンサルティングを行ったりすることで付加価値を提供しているからです。開発と営業が社内で連携できているHENNGEだからこそ、この戦略をとることができるのです。
──なるほど、良くできたビジネスモデルですね。では、HENNGEは一言でいうと「優れたセキュリティサービスの会社」ということですか。
辻:いえ、ここまでの話と矛盾するようですが、HENNGEを「セキュリティサービスの会社」とは思ってほしくありません。それは、HENNGEが扱っている領域がセキュリティに限られないからです。創業からおよそ20年の歴史の中で、特定のテクノロジーに縛られない臨機応変さを大事にしてきました。
──特定のテクノロジーに縛られない……。まだピンとこないのですが、「セキュリティサービスの会社」ではないとしたら何の会社なのでしょうか。
辻:HENNGEは端的にいうと「ITコンシューマライゼーションの会社」です。日々アップデートされるテクノロジーを使いこなすのは難しく、最新技術が生まれてもそのままではビジネスに生かせないということも多々あります。HENNGEはそういった「荒々しい」テクノロジーをあらゆる企業が使えるように消化する会社なのです。
主力製品のHENNGE Oneも、BtoCや、海外のBtoB領域で普及したクラウドサービスが日本企業のセキュリティ事情に合わないという問題を解決するためにつくりました。日本のBtoB領域でもクラウドサービスが求められたことで導入社数は増えましたが、様々なプロダクトの中で偶然クラウドのセキュリティが時流に乗ったというわけです。
「テクノロジーを解放するために青い果実を食べ続ける」ユニークな事業の背景にある理念
──「新しいテクノロジーを消化する」という事業の背景には、どのような考えがあるのでしょうか。
辻:HENNGEが大切にしている考え方は、大きく二つあります。一つ目は経営理念でもある「テクノロジーの解放」です。われわれは世界中のあらゆる人々がテクノロジーの恩恵を享受するべきだと考えています。テクノロジーは多くの人が利用し改良していくことで発展するのであり、一部の大企業に独占されるべきではないのです。
二つ目は「アーリーアダプター(※2)」であり続けること。世界中にテクノロジーを解放するためには、まず自分たちが率先して先進的なテクノロジーを受け入れ、自ら試すしかありません。未成熟な青い果物(最新技術)を見つけたら、我々が最初にそれを食べます。おなかを壊したとしても食べ続け、何が原因でおなかを壊しているのかを研究し、果物の最適な食べ方を導き出すんです。
(※2)アーリーアダプター……新しく出現した革新的なサービスやデバイスを早期の段階で使う人
──最終的に、テクノロジーを「こんなにおいしい果物があるんだよ」と広く知らしめることがゴールであり、食べる果物の種類にはこだわらないということですね。それを実現するために具体的には何をしているのでしょう。
辻:例えば、HENNGEは多くの企業に先んじて海外人材の採用を行い、異文化のワークフォース・マネジメント(※3)に挑戦してきました。先述の通り世界中の人々がテクノロジーの恩恵を享受できるようにするためには、まず私たち自身がグローバル・スタンダードな企業になる必要があるからです。また、国内の人口減少は、近い将来深刻な労働力不足を引き起こすでしょう。この分かり切った近い未来に向けて、手を打っていく必要があります。私の部下は全員外国人なのですが、エネルギッシュで文化的背景も違う彼らをマネジメントすることで、これから日本企業がぶつかるであろう人口減少の時代の課題解決方法を実践的に学んでいるといえます。これからの時代を生き抜く、いわば「ノアの方舟(はこぶね)」のような会社をみんなで作ろうというマインドなのです。
(※3)ワークフォース・マネジメント……最適な人材活用や人材配置で、生産性の高い組織を実現するマネジメント
──海外人材活用のため、社内ではどのような取り組みをしているのですか。
辻:まだ課題は山のようにありますが、第一歩として2016年に社内の第一言語を英語としました。その副次効果として、メンバーが海外の一次情報を正確に把握し、海外の技術革新やビジネストレンドをキャッチアップできるようにもなりました。
──テクノロジーを解放しアーリーアダプターでいるために、公用語まで変えてしまったとは! 理念の徹底ぶりに驚かされます。
失敗を責める人などいない。新規事業に挑戦できるのはおおらかな社風があるから
──辻さんは営業だけでなく新規事業開発も担当されていますよね。HENNGEではどのように事業を生み出しているのですか。
辻:新規事業創出には積極的ですが、ある意味「節操なく」様々な領域に挑戦しています。可能性を絞り込まず、新規事業をたくさん作り出してアメーバ状に拡大していくことで、会社が日々変化し続ける状態をつくりたいと考えているからです。例えば、サラブレッドは競馬で速く走るためのフォルムに進化してきました。もし、サラブレッドに5本目の脚が生えてきたら、不要な脚だと切り捨てられるでしょう。でも、その馬が新しい何かを生み出すかもしれない。我々が大事にしているのは「将来何をもたらすか分からなくても、ひとまず5本脚の馬を育ててみよう」というマインドです。
──新規事業には失敗がつきものですが、辻さんも失敗を経験したことはありますか。
辻:ほぼ失敗みたいなことしかしていません(笑)。最近だと、主力製品の廉価版を販売し顧客数の拡大に挑戦しました。大々的に売り出す前にテストマーケティングを実施したのですが、結局市場の動きを把握し切れず失敗。この失敗からは、本気で作って売ってみないと本当の意味で市場の動きを把握するには至らないという学びを得ました。
ですが、HENNGEには失敗を責めるような攻撃的な人はいません。積極的なトライアンドエラーが新しい発見につながると誰もが信じているからです。
──とてもおおらかな社風なのですね。とはいえ、新規事業に挑戦する際に経営陣を説得するのは大変ではないですか。
辻:いえ、経営陣の決済という考え方はなく、多くの社員のコンセンサスがあれば挑戦できます。権威的な組織だと稟議や書類作成で大きな決断がしにくいですが、HENNGEにはそのような雰囲気はありません。オフィスはフリーアドレス制で、経営陣の近くに座って仕事をすることもあるため、非常に話しかけやすいですよ。
──その他に、辻さんが思うHENNGEらしい社内文化があれば教えてください。
辻:HENNGEらしくて好きなのが、有志による「コーヒークラブ」です。メンバーが出張先で見つけたコーヒー豆や、外国籍の社員であれば自国産のコーヒー豆を持ち寄り、毎日何となく誰かが淹れ、何となくメンバーが集まりコミュニケーションを取る。その様子が「自律」「フラット」「オープン」といったHENNGEの精神を表しています。何かをただ与えられるだけではなくて、GIVEしたいと思える環境なんです。
ビジネスも同じで、「いつまでにこれをやれ」ではなく、「こういうのあるといいよね」「じゃあ作ってみようか」といった善意のGIVEが積み重なっていくことで、新しいビジネスが生み出されるのが好ましいと思っています。
「ソフトウエアはコンサルよりも拡張性が高い」コンサル出身者が考えるソフトウエアの魅力
──辻さんは以前コンサルティング会社に在籍していたそうですが、なぜコンサルタントからソフトウエアの営業に転身されたのでしょうか。
辻:ソフトウエアはコンサルティングに比べてビジネスの拡張性が高いからです。私がいたのは小さなコンサルティング会社だったので、財務的に厳しい環境に置かれることもありました。しかし、売上を増やすにはコンサルタントの数を増やすしかありません。要するに、コンサルは人間の力に頼る割合が大きい労働集約型のビジネスなのです。このようなビジネスは今後の日本の労働人口減少という文脈で考えても、大きな打ち手が必要となってきますよね。
一方ソフトウエアは一人で多くの顧客に売ることができるので、コンサルよりも拡張性が高く、魅力的に感じました。
──なるほど。ビジネスの拡張性という視点は学生にとって新鮮かもしれません。では、ソフトウエア企業の中でもHENNGEを選んだ理由は何ですか。
辻:その理由は二つあります。一つ目は、当時まだ会社に存在しなかった新しいロールを経験できそうだったことです。具体的には、既存顧客向けの営業部隊の立ち上げを行いました。先ほど申し上げたように決済ではなくコンセンサスで物事が進む文化なので、情熱と責任を持って手を挙げれば、やれることが多い環境だと思います。
二つ目は、HENNGEのビジネスモデルが優れていたからです。コンサルのビジネスは単発的に収益を得るフロー型ですが、SaaS(※4)を主力とするHENNGEのビジネスはストック型。営業した分だけ売上が積み重なっていくので収入が安定しますし、利益を新規事業に投資して事業を拡大できます。私がコンサル時代に悩まされた財務と拡張性の問題を解決できたのが、このビジネスモデルでした。
(※4)SaaS(Software as a Service)……ユーザーのコンピュータにインストールするのではなく、提供会社のサーバーからインターネット経由で利用できるソフトウエア。提供会社はユーザーから継続的に売上を得ることができる
──最近の学生はファーストキャリアにコンサルを選ぶ傾向にあるのですが、コンサル出身者としてどう思われますか。
辻:どのキャリアが有利といったことは言えませんが、新卒でコンサルを目指すのは自分が何に情熱を注げばいいのか分からないからではないでしょうか。その意味では、汎用的かつ高度なスキルが身につくコンサルを目指すのは、極めて合理的な選択だと思います。
とはいえ、コンサルは「とりあえず」で働ける世界ではないですね。短期的な結果を求められ続けるため、仕事のプレッシャーが大きく、出世競争も激しい。その点、HENNGEには善意で助け合うGIVEの精神がありますから、コンサルやその他の大企業を検討して「何となく違う」と感じた人には合っていると思いますよ。
入社前の英語力・プログラミングスキルは不問。カオスを楽しめる人と働きたい
──HENNGEの新卒社員には、どのようなキャリアパスが用意されているのですか。
辻:キャリアパスはないですね。入社して一人前になるまでは教育を受けながら現場で仕事を学ぶことが多いですが、その後は定まったレールはありません。その人に合うキャリアパスが自然とできていくのも、HENNGEならではの貴重な経験かもしれません。キャリアの先が見えないと楽しめない人や「枠組みがないと不安で震えて死にます」という人は向かない会社だと思いますが、何をするか自分で考えることを楽しめる人にとっては、この上なく楽しい職場です。
──社内公用語が英語ということ、ITの知識が求められることに不安を感じる学生も多いと思います。実際のところ、英語力とITスキルはどの程度必要でしょうか。
辻:まず英語については、ゴールは英語だけでビジネスが成り立つことなので、入社時からそのレベルであるに越したことはありません。ただ、私たちも皆がそのレベルに達しているわけではありませんし、英語は気合いがあれば身につくので、受験英語をしっかりやっていれば大丈夫です。会社としても手厚く学習支援をしているので、やる気さえあればスピーディーにビジネス英語が身につくと思います。面接までに英語の勉強を始めるくらいのマインドセットがあるといいですね。
ITスキルについては、社内でプログラミング教育の仕組みを整えているところなのでご安心ください。プログラミングを学ぶと技術的な発想が広がるので、営業社員の教育にも投資し始めています。最近入社した新卒社員には、社長が直々にコーディングを教えていますよ。
──では、最後にこの記事を読む学生に向けてメッセージをお願いします。
辻:HENNGEは理念を大切にする会社ですが、ガツガツした社風ではありません。アーリーアダプターとして絶えず挑戦し続けているので、縛られなくても、気負わなくても、目の前のことを一生懸命やれば前に進むことができます。与えられたポジションを頑張ることよりも、自分で環境を作っていける人、カオスを楽しめる人と一緒に働きたいと思います。
──辻さん、ありがとうございました。
▼HENNGEの企業情報はこちら
【インタビュアー・ライター:末吉陽子、YOSCA/編集:辻竜太郎/カメラマン:加川拓磨】