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【現役戦略コンサル特別寄稿】経営コンサルに求められる価値とは何か。今こそ就活生に送りたいメッセージ

企業理解 コンサル 日系
2020年4月28日(火) | 16,472 views
sponsored by コーポレイト ディレクション

この記事は日系戦略コンサルティングファームである株式会社コーポレイト ディレクション(CDI)のご寄稿です。

今回は、コンサル業界を志望する学生に、あらためて「自分は本当にコンサルタントになりたいのか」を自問するきっかけとなれるような内容を、CDIグループ内の新カンパニーoriri代表である小川達大さんに語っていただきます。

【執筆者プロフィール】小川 達大(おがわ たつひろ):プリンシパル

東京大学法学部卒。CDI新卒入社後、ベトナム事務所立ち上げ、シンガポール駐在を経験。全社戦略、アジア展開、新規事業開発、M&Aなどさまざまな経営テーマに関するコンサルティングを経験。2020年よりCDIグループ内の新カンパニーoriri代表。


葉桜の頃、自宅でパソコンに向かい文章を書いています。

新型コロナウイルスの影響で、就職活動に関連するイベントは中止になったり、動画配信になったりと、いつもと違う状況になってしまいました。友達と集まって、情報交換をしたり、刺激を受け合ったり、そんなこともしづらい状況になったことでしょう。

コンサルティングという仕事は、目に見える売り物があるわけでもありませんし、仕事の内容もプロジェクトによって毎回異なります。さらに、守秘義務があることもあり、就職活動中の皆さんにはなかなか具体的なイメージをお伝えしづらいものです。

そういうこともあり、「自分は本当にコンサルタントになりたいのか」を自問するためには、コンサルタントと実際に会って話をすることが大切だと感じています。

しかし、外出の自粛要請が続く今それができない……。

「どうしたらいいか」と考えた結果、完全な代わりにはなりませんが、2020年4月に参画したCDIのメンバーに「もし自分が就活生だとしたら質問したいこと」を挙げてもらうことにしました。その質問をきっかけに、文章を書いてみようと思います。

「知識の足かせ」を外すきっかけを作ること、それが一つの価値

──経営コンサルタントは、クライアントの業界内部の人ほどの知見はないと思っているが、どういったところで価値を出しているでしょうか。

経営コンサルティングの価値は何か、ときどき聞かれる質問です。

この問いは、とても大きな問いです。一言で答えることは難しく、ケースバイケースで変わることもあります。この問いを常に頭の中に置いて仕事に取り組むことが大切だと思っています。「どうすれば、一つひとつの仕事に価値を感じてもらえるだろうか」と。

経営コンサルティングの費用は、決して安いものではありません。その価格は、自動的に正当化されるものではありません。あるいは、コンサルタントが優秀であることや、分析や資料づくりの作業が得意なことによって価値が生まれるわけでもありません。コンサルタントやそれを志す人がそう考えているならば、考え直す必要があるように思います。

その価値について、1つキーワードを挙げるとすれば「視点を変えること」です。

例えば、1つの円錐(すい)があるとしますよね。円錐を底から見れば“円”なわけですが、横から見れば“三角形”に見える。このように「視点を変えること」によって、行き詰まった状況を打破する糸口を見いだせるかもしれません。

全く違った視点で市場を捉えることで新しいチャンスを見つけられるかもしれない。一貫性がなく矛盾しているように見えた数々の現象を説明するような構造を見いだすことで、ハッとするような施策を打てるかもしれない。

社会心理学者である小坂井敏晶さんの書籍『答えのない世界を生きる』には、次のような文章があります。

あるとき突然、眼から鱗が落ちる。
「ああ、そうだったのか」
慣れ親しんだ文脈から問題が切り離され、他の文脈におかれる。脈絡のなかった知識が結びつき、矛盾が解ける。その瞬間、悟りのような感覚が生まれる。
(略)
先入観を捨てる大切さ。そしてその難しさ。発想の転換を邪魔する最大の敵は知識の桎梏(しっこく)である。

※引用:小坂井敏晶『答えのない世界を生きる』(2017年、祥伝社)

私たちコンサルタントが、業界知識が豊富なクライアントに価値を出せる理由。この文章になぞらえるとすれば、業界知識が豊富なクライアントに対して、私たちが触媒となり「桎梏(足かせ)」を外すきっかけを作ることになるのだと思います。

人はなぜ、缶コーヒーを飲むのか。コンサルタントが解き明かした謎

私の先輩コンサルタント達が取り組んだ、少し昔の事例を加工して紹介したいと思います。

1970年代から80年代にかけて、清涼飲料水市場の成長をけん引する存在がありました。「缶コーヒー」です。ただ、この成長には、1つの大きな謎がありました。

「なぜ成長しているのかが、(何となく)分かるようで(すっきりとは)分からない」

その理由が分からなければ、有効な販売促進の戦略も見いだせないわけです。

もう少し抽象度を上げるとすれば、「缶コーヒー(あるいは、『缶コーヒーを飲む』という行為)とは、何なのか?」という問いに対する仮説を持つ必要がありました。

CDIのコンサルタント達が、缶コーヒーや「缶コーヒーを飲む」という行為について観察を続けて議論を進めると、いくつかの発見がありました。

1つは、ヘビーユーザーの存在です。缶コーヒーを全く飲まない人が6割近くいる一方で、ヘビーユーザーが市場を支えている(中には週35本飲む人も)という特徴がありました。

もう1つは、ヘビーユーザーの飲み方です。缶コーヒーを飲む頻度別に消費者を分けると、缶コーヒー以外の飲み物(水、お茶、ジュースなど)を飲む量には差がありません。レギュラー・コーヒーやインスタント・コーヒーを飲む量にさえ差が見られないのです。

他の清涼飲料水であれば、ヘビーユーザーになるほど他の飲み物を飲む量が減ります。人間が生きていくために必要な水分量には、ほとんど変化がないでしょうから、なんとも奇妙な話です。

結論としては、身体(からだ)から「出る」から「飲む」という水分補給としての飲水行動(「一次飲水」と呼ぶ)とは別に、ストレス解消や気持ちを切り替えるためのスイッチとして「飲む」という行為(「二次飲水」と呼ぶ)があることが確認されました。むしろ「飲む」から「出る」という順番になるわけです。結果、二次飲水には天井がありません。

このようにして缶コーヒーの“意味”が変わると、市場の見え方(視点)もガラリと変わります。結果として、売り方も変わることになります。缶コーヒーは、二次飲水において新しい「飲まれ方」を次々と開発して、市場を広げていったのです(※1)。

(※1)……詳しくは、CDIのニューズレターを読んでみていただければと思います。


経営コンサルティングの価値として、「視点を変えること」を話してきました。

しかし、実際には企業としての意思決定と活動につなげなければならないので、視点を変えただけでは不十分です。

新しい視点をベースに、さまざまな経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報、時間など)の使い方について計画する必要がありますし、その計画について社内外の関係者が理解し合意することも必要になります。いわば、「アイデアに身体を与える」ということです。「身体(骨格、神経系、感覚器、筋肉etc.)」がついてこそ、アイデアは動き始めます。

経済学者のシュンペーターが『経済発展の理論』で用いた「新結合(Neuer Kombinationen/New Combination)」という言葉が有名です。

新結合とはイノベーションに関する理論を立てたものですが、彼は「新結合の実装(Durchsetzung von Neuer Kombinationen/Implementation of New Combination)」という言い方もしています。これは「アイデアに身体を与えること」の大切さと難しさを表しており、その難しさに立ち向かい成し遂げるアントレプレナーという存在に注目しているのだと、個人的には思います。

ここで言いたいのは、「アイデアに身体を与える」ときの伴走者になることも、経営コンサルタントの大切な役割であり、価値だということです。

「無呼吸の状態」を越えた先にたどり着ける結論と、2つの大切な補足

──経営コンサルタントとして、どういった能力が求められるか。

──個人としては、どんな経営コンサルタントを目指しているか。

──成長するために日々どんなことに気を付け、どのように学んでいるか。

次に出てきた質問は、前の質問に答える形で考えてきた価値を出すコンサルタントとなるため、「何を意識すべきか」を聞きたいのだと受け取りました。

そのことについて考えるために、先ほどの缶コーヒーの事例を深掘りしたいと思います。


「考える」ということについて

「缶コーヒー(あるいは『缶コーヒーを飲む』という行為)とは、何なのか?」という問いに対しては、さまざまな角度から考えることができるでしょう。

それは、生き物としての行為ですし、文化的な行為とも言えます。まずは、ああでもない、こうでもないと、考えを巡らせることです。

“考えるべきこと”を置く平原を捉え直しながら、それに光を当てる方向を変える。スマートというよりは泥臭いですし、要領の良さというよりは諦めの悪さです。哲学者の鷲田清一さんが、こんな言い方をしています。

たいせつなことは、わからないけれどこれは大事ということを掴むこと、
そしてそのわからないものにわからないままに正確に対処できるということ、
いいかえると、
性急に答えを出そうとするのではなくて、
答えがまだ出ていないという無呼吸の状態にできるだけ長く持ち堪えられるような
知的耐性を身につけることだ

※引用:鷲田清一『哲学の使い方』(2014年、岩波書店)
※筆者が改行を加えました

この「無呼吸の状態」を越えた先に、「ああ、そうだったのか」があるのだと思います。


「考えたもの」について

たどり着いた「結論」について、2つの大切な補足をしたいと思います。

1つめは、この「結論」は「仮説」であるということです。CDIのファウンダーである吉越亘は、企業指針(Corporate Direction)を「市場に対して自社がどのようにすれば、よりよい結果が得られるかという仮説(=思考上の帰結)である」と定義しています。

ビジネスの世界では、学校のテストとは違い、問題を解くために必要な前提や条件が明らかに提示されているわけではありません。問題を取り巻く環境は常に変化しますし、得られる情報は常に不確かで不十分です。そもそも、何が「問題」なのかも明らかではありません。

それゆえ、ここで「考えたもの(=思考上の帰結=仮説)」とは、その段階において「もっとも確からしいと腹を決めたもの」に過ぎません。それゆえ、帰結に至った瞬間に、実践へと歩みを始めると同時に、検証と更新のための批判的な眼に晒(さら)されることになります。

2つめの補足は、当たり前ですが仮説を持つ主体がいるということです。ここで言う主体とはもちろん、クライアントのことです。

読者の中には、コンサルタントが必死に考えて「答え」を見つけ出して、クライアントにプレゼンテーションをするのだと思っている人がいるかもしれませんが、それは私の理解している経営コンサルティングとは違います。

コンサルタントは必死になってさまざまな調査や分析をしますが、それらは「考えるための取っ掛かりや材料」に過ぎず、「考えたもの(=思考上の帰結=仮説)」そのものとは違います。

コンサルタントは対話を通じて、“クライアントが考えること”に貢献します。違った視点から問うことを通じて、「ああ、そうだったのか」への道を共に歩みます。「対話(dialogue)」について、数学者の森田真生さんが次のように言っています。

dialogueはもともと、dia+logosである。
それは、「言葉(logos)」によって「横切って(dia)」いくべき「隔たり(écart)」を前提とする。
「画一的なもの」や「共通のもの」によって安易に隔たりを埋めようとするのではなく、あくまで乗り越え難い隔絶に直面した上で、互いの言葉を「翻訳」していくこと。
その緊張のなかで、自己の言葉を編み直していくこと。
その手間と時間のかかるプロセスこそが、「普遍的なもの」に至る道だ

※引用:森田真生『数学の贈り物』(2019年、ミシマ社)
※筆者が改行を加えました

森田さんの言葉にあるとおり、対話は隔たりを前提にしています。相手との違いや隔たりを、表面的に否定することなく、受け止め、越えようとすることが大切だと思います。

逆に言えば、対話のスタート地点において、クライアントとコンサルタントの間に違いや隔たりがないのであれば、創造的な「ああ、そうだったのか」は望みづらいものです。

ここでいう違いや隔たりに関連して、少し極端な例かもしれませんが、1つの話を紹介したいと思います。日本で発展した災害対策の技術を新興国に輸出しようとした話です。

日本は災害大国なので、そこで発展した技術には国際的な競争力があるだろうと考えました。まずは新興国のある村で津波対策の技術を試験的に運用しようと、観測用の機械を海に浮かべました。ところが数日経つと、その機械が壊されてしまっていました。

村の人に話を聞いてみると、「自然災害は自然を司る神の仕業であるのだから、その災害に人為的に対抗すれば、更なる災いが起こる」と言われました。津波の被害を減らすための技術が、その村の人々には更なる被害をもたらす元凶に見えたのです。

違いや隔たりは、知っている情報や論理構成の違いによって生じていることもありますが、個人や集団の中で長い時間をかけて培養された世界観や価値観によって生じることも少なくありません。簡単に越えられるものではありませんが、そこから目をそらさずに、真摯(しんし)に向き合い続けることが大切だと思っています。

これら2つの補足を踏まえると、能力というより姿勢の話になるかもしれませんが、コンサルタントは「独善的になってはいけない」ということが分かっていただけるかと思います。

一人前になった姿は人によって違う、「自分で自分を育てる」気持ちで

ここまで話してきたコンサルタントの価値や姿勢を前提にするならば、クライアントとコンサルタントの関係は、他でもない唯一無二のものになるはずです。「両者の価値観が違っているけれども共鳴し合う」というとき、コンサルティングが成立するわけですから。

だとすれば、各々のコンサルタントが、自分の価値観などの個性に目を向け、自分らしいコンサルティングのスタイルを追求していく以外にありません。誤解を恐れずにいえば、CDIはコンサルタントの品質の安定性(≒均質性)を追わずに、その多様性を志向します。

そういった考え方も反映して、CDIはパートナー別採用制度にこだわっています。「徒弟制度」という言い方をすることもあります。これは中期的に育成を担当するパートナー、プリンシパル自らが基準を定め、プロセスを設計し、採用を行うという制度です(※2)。

(※2)……詳しくは、CDIのWebサイトを読んでみていただければと思います。 

「徒弟制度」は本来、とても重みのある宣言ですから、私たち自身も名乗ることの意味をちゃんと理解しないといけません。ここでは奈良県にある寺社建築会社の鵤工舎(いかるがこうしゃ)を紹介します。鵤工舎は若者が共同生活をしながら宮大工としての技を身に付けていく「徒弟制度」を採用しています。その創業者である小川三夫さんの文章を記します。

「育てる」と「育つ」は違う。
「育てる」というのは大変な仕事や。導き方によっては、どこへ行ってしまうか分からんぞ。人の人生が掛かってるんや。無責任にはできないわ。
(中略)
しかし、「育つ」となれば話は別や。育つための環境と機会を用意してやればいいわけだ。学びたい者は来て、その中で自分でやっていけばいい。
時間はかかるし、近道も早道もないけども、自然に育っていくやろ。
それなら俺もできる。それが鵤工舎や。
同じことを学ぼうとする者が集まっている。学ぶための作業所も現場も仕事もある。
(中略)
後は自分の意志や。
「育ててもらおう」と思っても、ここでは出来ない。俺は育てることはできん。ただ、本人が「学びたい」「育ちたい」と思えば、それは手に入れられる。
(中略)
技は、長い鍛錬と自己規制の後に身体に形成されるものや。結局は誰も教えてはくれない。自分で自分を「育てる」ということや。
その環境と機会を与えるというのが、人育ての方法やないか。
その育つ芽を変な方向にむけなければいいわけであって、俺達の仕事や技は教えたってわかんねぇから、それは見せておけば自然に良くなるんだよ。

※引用:小川三夫『技を伝え、人を育てる 棟梁』(2011年、文藝春秋)
※筆者が改行を加えました

CDIは「人を大切にしている」というイメージを持たれているようなのですが、育成の仕組み(研修制度など)が整っているということではありません。鵤工舎ほどストイックではありませんが、思想としては近いものがあると思います。

コンサルタントは人格をクライアントにぶつけなければなりませんので、一人前になった姿は人によって違います。「自分で自分を『育てる』」というのはまさにその通りで、いろんな試行錯誤をしながら、育っていくしかありません。もちろん、経営分析や資料の作り方など技術的なことは教えられますが、それは読み書きソロバンのようなものでしかありません。

この「コンサルタント観」を持つとすれば、会社がやれることは個性の種が育っていく様子を見守り、育ちをゆがめるようなものを早めに取り除くことが基本になるように思います。

おわりに

経営コンサルティングについて、自分なりの考えをつらつらと書いてみました。僕はこの仕事を信じていますし、やりがいのある仕事だと思っています。ただそれが、あなたに当てはまるのかは分かりません。自分でしっかり考えてもらうしかありません。

なかなか不安の多い就職活動になっているかもしれません。少しでも参考になればと思いますので、何か聞きたいことや話したいことがあれば、気軽にコンタクトしてください。

自宅にこもっているうちに、冬は過ぎ、春になり、夏の匂いが混じり始めています。くれぐれも体調など崩されませんように。

CDIは参画を志す皆さんに向けて、質問箱アカウントを設置しています。この記事を読み、感じたことや疑問に思ったことを、質問していただければと思います。Twitterアカウントもありますので、ご興味ある方はぜひフォローしてみてください。

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(Photo:kana Design Image/Shutterstock.com)

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小川 達大
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小川 達大

東京大学法学部卒。CDI新卒入社後、ベトナム事務所立ち上げ、シンガポール駐在を経験。全社戦略、アジア展開、新規事業開発、M&Aなどさまざまな経営テーマに関するコンサルティングを経験。2020年よりCDIグループ内の新カンパニーoriri代表。

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