採用活動のはじめの一歩は、学生に自社を知ってもらうこと、学生と出会うことである。けれど現実には「そこにすら到達できていない」と悩む企業も少なくない。
Re-grit Partners (リグリットパートナーズ)もそうだった。2023年時点では、会社説明会を開いても席に誰一人座っていない日もあった。そんな企業が、現在では約5万社の中から誰もが知っている有名企業を抑えて「就活クチコミアワード(※)」総合1位に選ばれ、多数の応募者を集めている。
世の中にあまたある会社の中に埋もれていたベンチャー企業が、なぜそれを実現できたのか。きっかけは、特別な施策やテクニックではなく、「採用を、学生のための体験づくりとして考え直す」という思考の転換にあった。知名度や予算がなくても大きな成果を生み出す、彼らがたどりついた採用のかたちに迫った。
(※)出典:ワンキャリア「就活クチコミアワード2026 人気企業ランキング」調べ
<目次>
●「参加者ゼロ」のどん底を味わって、視点を変えた
●「体験創造」という考え方にたどり着くまで
●誠実な採用体験を提供するというこだわりと徹底
●徹底的なギブを意識して「クチコミアワード1位」に
●明日からの採用革新に向けて、得たノウハウを事業化する
「参加者ゼロ」のどん底を味わって、視点を変えた
──お三方は全員、ニトリの新卒採用部出身という共通点がありますね。まずは皆さんがどのように出会い、リグリットパートナーズへ集結したのかを教えてください。
藤井:ニトリでの社歴としては私がこの3名の中で最も長く、約7年間在籍していました。店舗担当者として旗艦店の立ち上げやマネジメントを経験した後、新卒採用部へ異動しています。当時はちょうどコロナ禍で、それまで対面で行っていた採用を一気にオンラインへ切り替えなければならない時期でした。そこで企画戦略責任者として、インターンシップシリーズをはじめ、フォローイベントなど20〜30本にのぼる採用コンテンツを刷新し、候補者体験全体をつくり直していきました。
私自身、その経験を通じて強く感じたのが、同じ会社、同じ仕事であっても、「どう届けるか」「どんな体験をつくるか」によって、人の受け取り方やその後の意思決定は大きく変わるということです。良い体験は、人の気持ちを動かし、ときには人生を前に進めるきっかけにもなる。そうした体験を、もっと自分たちの手でつくっていきたいと思うようになり、2022年10月にリグリットパートナーズへ参画しました。
篠原:私は藤井の1年後輩です。ニトリの新卒採用部では、東日本責任者として数百名規模の採用を統括し、通常2年任期のところ特例で3年目も後輩育成などを担いました。
そこで学んだのは、採用は単に「必要な人数を採る仕事」ではないということです。私たちの言葉や関わり方1つで、学生が自分自身を理解したり、それまで考えていなかった選択肢に気づいたりすることがある。たとえ最終的に自社を選ばなかったとしても、「あの時間があったから、その後のキャリアを前向きに考えられた」と思ってもらえることに、採用の大きな価値があると感じていました。
一方で、次は完成された仕組みの中で成果を出すだけではなく、自分たち自身で会社や組織をつくりながら、そうした体験をどこまで生み出せるのか挑戦してみたいと思うようになりました。そんなタイミングで先に転職していた藤井から声をかけてもらい、2023年2月に入社しました。
髙尾:私はそんな2人の下で学んだニトリ時代の後輩です。組織横断型のプロジェクトを通じて新卒採用に携わり、2人と一緒に学生と向き合う中で、採用は会社を説明して入社してもらう仕事ではなく、「一人一人が自分の人生を考え、次の一歩を踏み出すための体験をつくる仕事なのだ」と感じるようになりました。
その後、ベイカレント・コンサルティングへ転職し、大手企業の経営支援に携わる中で、課題を構造化することや、現場に入り込んで変革を実行する力を学びました。一度2人とは違う道を歩みましたが、改めて一緒に仕事をする機会を得たとき、「この3人なら、採用という領域を超えて、人や組織の体験そのものをもっと良くできるのではないか」と感じたのです。
まだ完成されていない会社で、採用も組織も、自分たちの手でつくる。そして、良い体験をつくることで、人の意思決定を前に進め、結果としてその人の人生を少しでも豊かにする。かつて同じ場所でその可能性を感じた3人で、今度はそれを自分たちの会社で証明してみたい。そう思い、2023年7月にリグリットパートナーズへ参画しました。
──3人が参画した2022〜23年ごろのリグリットパートナーズの採用現場は、どのような状況だったのでしょうか。
藤井:言ってしまえば「課題しかない」状態でした。採用目標を十数名から30名、50名、100名へと急拡大させる方針でしたが、社外向け資料は英語タイトルや横文字ばかり。私の座右の銘は「素材を活かせ」ですが、社員は魅力的なのに外からは何をしているのか分からず、素材が完全に死んでいるのではと強い危機感を抱きました。
篠原:当時は社員が候補者を個別に口説いていく形で採用をしていたため、急拡大の計画に対応できる状態ではありませんでした。働く体験が伝わらないまま人の魅力だけで集めると入社後に大きなギャップを生みます。組織崩壊を招くリスクもあり、理念や事業に本質的な共感を生むための仕組みに転換していく必要がありました。
髙尾:私が入社した頃も状況は深刻で、「とりあえずイベントを開く」といった単発施策に終始していました。説明会を開いても予約数はわずか2名、実際に着席したのは0名といった日もありました。
今振り返ると、来てくれた学生の時間をいただいているのに、こちらが伝えたいことばかりを話し、学生に十分な価値を返せていなかったのだと思います。

髙尾 輝(たかお ひかる):コーポレート本部 人材採用部長 兼 HR Enablement Team 責任者
新卒でニトリへ入社。店舗運営・新店立ち上げを経験した後、新卒採用に従事。採用企画や学生向けインターンシップの運営・改革を経験。その後、ベイカレント・コンサルティングにて企業変革支援に従事し、2023年7月にRe-grit Partnersへ参画。現在は自社の新卒採用を統括するとともに、HR Enablement Team責任者として他社の採用・組織変革支援をリードする。──焦りの中で、具体的にはどのように舵を切ったのですか。
髙尾:「学生をどう集めるか」という企業側の都合を捨て、「来てくれた目の前の1人に何を残せるか」へと発想を転換させました。中でも最初に着手したのは説明会の刷新です。それまでの60分間ひたすら自社の魅力や強みを語るという構成を取りやめて、50分間は「就活の進め方」や「業界構造」といった学生が本当に欲している情報の提供に充てたのです。自社について紹介するのは最後の10分だけにとどめました。
篠原:振り返ると、当時は潤沢な予算がなくエージェントに頼らないスタンスだったからこそ、目の前の候補者への徹底的な「ギブ」に懸けるという選択ができたのだと思います。制約があったからこそ、独自の採用アプローチを磨きあげることができました。
「体験創造」という考え方にたどり着くまで
──説明会の刷新以降、採用施策はどう発展し、現在の「体験創造」というコンセプトにつながったのでしょうか。
髙尾:説明会のアプローチを変えたことで、学生が熱量の高い口コミを残したうえで次の選考へ進んでくれるようになりました。彼らの口コミを丁寧に見ていくとわかったのは、「学生にとっては、説明会やインターンという『点』のイベントだけが重要なわけではない」ということでした。案内メールの文面、会場の空気感、面接官が話に耳を傾ける表情や姿勢、内定後のフォロー体制まで、学生との接点の1つ1つが会社そのもののイメージになるのだと判明したのです。こうした接点の全体を一貫して設計することを、当社では『体験創造』と呼んでいます。
篠原:テーマパークなどでは、キャストの挨拶から景観、食事に至るまで統一された世界観があるからこそ感動が生まれます。採用も同様で、説明会から面接、入社後まで「その企業らしさ」をバトンリレーのように途切れることなく連続して届ける必要があります。逆に言えば、途中でバトンを落とせば内定辞退や早期離職といったミスマッチにつながっていく可能性もあるということです。

新卒でニトリに入社し、店舗マネジメントを経て新卒採用部へ。異例のスピードで東日本責任者に抜擢され、コロナ禍における大規模採用のオンライン化及びリブランディングを牽引。リファラルによりリグリットパートナーズへ参画し、現在は新卒・中途採用から労務、エンゲージメント領域まで人事全般およびHRサービスを統括。
──当時、その「リグリットパートナーズらしさ」を学生に伝えるうえで、何を工夫したのですか。
髙尾:企業側が言いたい事実を並べるだけでなく、『それが学生のキャリアにとってどんな価値になるのか』まで翻訳して伝えることに注力しました。例えば当社には、大手クライアントのプライム案件(直接契約)を担うという特徴があります。少数精鋭で高難度案件を回すことになるため、実態は「高裁量だがハードワーク&ハイプレッシャーの環境」です。この実態は隠さずに伝えます。そのうえで、学生の目線で『VUCA・AI時代において、20代で市場価値を極限まで高め、個として自立できる人材になれる環境』だと、そこで得られるものまでセットで示すのです。会社のスペックを語ろうとするよりも、その環境が学生の未来にどう寄与するかを言語化しようとこだわりました。
誠実な採用体験を提供するというこだわりと徹底
──自社のリアルを学生目線で言い換え、率直に提示するという姿勢ですね。ともすると学生が尻込みしてしまうリスクを感じます。これは、どのような思想に基づいているのですか。
篠原:これには私と藤井の前職での体験が大きく影響しています。新卒採用担当として何百人もの学生と向き合う中で、「採用担当者の言動が相手の人生を左右する」という重みを痛感しました。自社を過剰にアピールして誘導しても、入社後に本人の火が消えてしまっては、あまりにも不誠実です。だからこそ、学生が選ぶ理由(Why)、将来像(Will)、そして働く現場の実態(Real)の3つを一体で伝えることにこだわっています。
藤井:これは3Cの視点でも重要だと思っています。候補者が求めるもの、競合が打ち出している価値、自社のリアルを捉えたうえで、「誰にとって、どんな価値がある会社なのか」を明確にする。当社でいえば、厳しい環境も含めてリアルを伝えながら、「20代で圧倒的な実力をつけたい人にとって価値のある環境だ」と示す。自社のポジショニングとリアルが一致しているからこそ、求める人に強い納得感を持ってもらえるのだと思います。
──そういった思想を面接官や現場社員へ浸透させるために、何か工夫はありますか。
髙尾:画一的なマニュアルを共有するのではなく「採用体験とは入社後に働く体験の縮図である」という1つの軸を共有してきました。説明会や面接などの各ステップで、「学生にどんな期待を持ってもらい、どうやってそれを超えていくのか」という目的意識を社内でそろえることで、どの社員が対応しても質の高い体験を提供できるようにしています。
徹底的なギブを意識して「クチコミアワード1位」に
──2026年は約5万社の中からクチコミアワードで1位になっています。その成果をどのように捉え、要因をどう分析していますか。
髙尾:本当に結果として1位が取れたという感覚です。特別な裏技は一切ありません。心掛けたのは「徹底的なギブ」を積み重ねること、これに尽きます。当社のインターンにおいては、全9タームを通じて、参加者の反応や議論の深さを見ながら、毎回プログラムをアップデートしました。参加者の志向や議論の深さに合わせて毎回アジェンダを練り直し、期待を超えるようなギブを与えられるように調整し続けた結果、学生が自発的に高評価の口コミを投稿してくれるようになりました。
藤井:口コミの本質は、「期待をつくること」と「その期待を現場で超えること」のセットにあります。採用広報でいくらキラキラした魅力を見せても、実際の選考やインターンの質が伴わなければ失望に変わってしまいますから。事前に抱いた期待を、社員とのリアルな対話や成長実感でさらに上回っていく。このサイクルを愚直に回し続けた結果だと捉えています。

新卒でニトリに入社し、大型旗艦店の立ち上げやマネジメントを経て新卒採用部へ。企画戦略責任者としてインターンシップをはじめとする数十本の採用コンテンツの開発及びリブランディングを主導。その後リグリットパートナーズへ参画し、組織・ブランド開発を牽引。「素材を活かす」を信条に、企業固有の魅力を言語化するスペシャリスト。
──成果が出るまでの期間や、指標の捉え方はどうでしょうか。
髙尾:エージェントを使わず求人媒体と自社発信のみで仕組み化するまでに、当社は約2年という時間を要しました。ただし口コミ自体は約2カ月で蓄積し始め、次年度の母集団形成へと徐々に波及していきましたね。
篠原:評価は承諾率などの表面的な数値だけでなく「なぜAさんは進み、Bさんは離脱したのか」というn=1のインサイト分析が重要です。個別の検証をプロセス改善へ還元し、入社後の定着率、さらには選考で出会った候補者が将来の顧客になりうる点まで含めた多面的なROIで捉える必要があります。
明日からの採用革新に向けて、得たノウハウを事業化する
──このノウハウを、他社向けHR支援サービスとして展開している理由を教えてください。
髙尾:優れた事業や社員という「素材」を持ちながら、体験設計の拙さから出会うべき人材と出会えていない企業が多すぎるからです。パッケージ売りや単なる助言といった画一的なサポートで終わるのではなく、課題特定から現場実装まで「同じ釜の飯を食う」スタンスで泥臭く伴走支援を行っています。「人事本部の副部長として戦略から面接実務まで仕切ってほしい」といった依頼をいただいたこともありました。
篠原:クライアントを大手企業に限定せず、「採用を改善したいが社内リソースが足りない」という立ち上げ期の企業など幅広く対応しています。クライアントの内側にまで入り込み、共に成果を出すパートナーとして支援しています。
──一方で、人事部門に外部の支援会社を入れることに抵抗を感じる企業も少なくないと思います。その点については、どう考えていますか。
髙尾:私自身も人事なので、その感覚はすごくよく分かります。採用は、候補者の人生にも会社の未来にも直結する仕事ですし、会社の価値観や現場との信頼関係にも深く関わる。だからこそ、「簡単に外部へ任せたくない」と考えるのは、むしろ自然なことだと思っています。
だから私たちも、人事の仕事を外から「代行する」という考え方ではありません。クライアントの人事チームの中に入り、同じ目標を持ち、同じKPIを追い、必要であれば説明会にも面接にも立ちながら、一緒に採用をつくります。戦略だけを提案して終わるのでも、作業だけを請け負うのでもありません。
成果が出るところまで実装し、その過程で考え方や仕組みを社内に残して、最終的には私たちがいなくても成果を出せる状態をつくる。そこまでやることが、私たちの支援だと考えています。
──最後に、採用に悩む人事担当者へ向けてメッセージをお願いします。
藤井:自社への愛が強い人事ほど、うまく魅力が伝わらない歯がゆさを抱えているかもしれません。私たち自身も、試行錯誤しながら自社の採用を変えてきました。その経験を通じて感じているのは、どんな企業にも、その企業だからこそ提供できる価値の「素材」があるということです。私たちはその素材を一緒に見つけ、候補者にとっての価値へと翻訳し、言葉やコンテンツ、そして一連の採用体験として実装していきたいと考えています。
髙尾:人事は、経営と現場、そして候補者の間に立つ仕事です。大変なことも多いですが、本質は「人の人生に向き合い、会社の未来をつくる仕事」だと思っています。
採用がうまくいかないと、どうしても媒体やスカウト数、説明会の集客数といった施策の話から入りがちです。でも、その前に「目の前の候補者にどんな価値を返せているか」を一度考えてみてほしいです。私たち自身も、そこから採用が変わりました。
もし社内だけでは変えきれない部分があるなら、私たちは外から答えを渡すのではなく、人事チームの一員として一緒に悩み、一緒に実装する存在でありたいと思っています。
篠原:壊滅的な状況を経験した私たちだからこそ「『採用弱者』の企業も設計次第で十分に戦える」のだと断言できます。自社の採用体験を見直したい担当者の方は、ぜひお気軽にお声がけください。皆様との出会いを心待ちにしています。
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【制作:BRIGHTLOGG,INC./撮影:河合 信幸】