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ゴールドマン・サックスからも調達したスタートアップ「フロムスクラッチ」 「未上場で100億調達」を成し得た企業はなぜ選ばれるのか

企業の成長性 社内風土 企業理解 インタビュー IT 日系
2019年12月24日(火) | 23,279 views
sponsored by フロムスクラッチ

最近、テレビCMでよく見るようになった「b→dash(ビーダッシュ)」。

2019年8月、そのb→dashを運営する株式会社フロムスクラッチが、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)やゴールドマン・サックスといった機関投資家を含め、既存株主などから総額約100億円の資金調達を行うことを発表。累計調達総額は約145億円と、かつて「ユニコーン企業」と呼ばれたメルカリをしのぐ規模に達しました。


未上場のスタートアップ企業が一度に100億円を調達することはごく稀(まれ)で、JapanTaxiやPreferred Networksなど、年に2〜3社程度しかありません。さらにKKRがアジアのスタートアップに投資をしたこと、またSaaSスタートアップの単一ラウンド100億円調達は、今回のフロムスクラッチが日本で初めてとのこと。


同社がこれほどまでの資金を集めることができたのは、一体なぜなのか? その謎を解くべく、今回はこれまでフロムスクラッチに投資をしてきた、日本を代表するベンチャー支援の投資家、経営者の麻野耕司氏、倉林陽氏、ホーギル・ドー氏の3人を緊急招集。データマーケティングプラットフォーム「b→dash」および同社が評価されている理由を編集長の池田がインタビューしました。


前半は、b→dashが世界中のテクノロジーカンパニーと対峙(たいじ)できる可能性、後半は、「危機に強いベンチャーの条件」や「学生がスタートアップに新卒で入る意味」など、思いもよらぬ方向に転がっていく、3人の対談をお楽しみください。

<目次>
●「Salesforceを追い越そうとしている若者がいるから、会ってくれないか」
●CEO安部氏が持つ「着眼大局、着手小局」の資質 大企業の経営者に匹敵する魅力とは?
●21世紀の石油、「データ」を制する企業が世界を制す
●「b→dash」がグローバルでデファクトスタンダードになる可能性
●最初の新卒採用5人に5000万円を使った意味、そして「宗教」への答え
●新卒で「0→1」をやるのはリスク──ファーストキャリアで100人のベンチャーを選ぶ理由とは

左からホーギル・ドー氏、倉林陽氏、麻野耕司氏

「Salesforceを追い越そうとしている若者がいるから、会ってくれないか」

──今日はお集まりいただきありがとうございます。早速ですが、皆さんがフロムスクラッチに投資をすることを決めた経緯を教えていただけますか?


倉林:私は初期顧客がつき始めたシリーズAのタイミングから出資しているのですが、最初のきっかけは、2015年2月にCEO(最高経営責任者)の安部泰洋さんと会ったことでした。

私は以前、SaaS企業の代表格であるセールスフォース・ドットコムの投資部門で日本投資責任者を務めていた経験があり、「Salesforceを追い越そうとしている若者がいるから、会ってやってくれ」と当時伊藤忠テクノロジーベンチャーズにいた河野さんから安部さんを紹介してもらったんです。

安部さんの人柄は経営者として素晴らしく、好感を持ちましたが、私はSalesforceのすごさをよく知っていましたし、当時はこの分野で骨のある会社を作るのは難しいだろうと思っていました。

──なるほど。それでも倉林さんが出資を決めた理由はどこにあるのでしょう。


倉林:2つあります。まずは「マーケット」。伸びる市場で戦うのはスタートアップにとって重要です。フロムスクラッチは今後の日本で一番伸びるであろう、BtoBのデータテクノロジー領域で勝負しようとしていました。

BtoBのデータテクノロジーの分野では、アメリカ主導でサービスが立ち上がり、何年か遅れてから日本でもスタートする傾向がある。そういったトレンドを考えれば、日本にカスタマーデータプラットフォーム(CDP)やマーケティングオートメーション(MA)の波が来るのは必然でした。


──もう1つの理由は何ですか?


倉林:チームですね。社長に必要な能力は「お金集め」と「人集め」。前者は今回の100億円の資金調達で証明されたわけですが、その前提としてトップティアの人材を集めて良いチームを作っていたことは大きいと思います。アプリケーションは生き物なので、アップデートをし続けなければ勝てません。ユーザーの要望をくみ取ってロジカルに優先順位を付け、アジャイルに開発していくための体制は不可欠ですから。


ドー:私は倉林さんからフロムスクラッチをご紹介いただいたんです。「SaaSをよく知る倉林さんが投資する会社なら間違いない」と思って、連絡をもらった瞬間に投資することはほぼ決めていました(笑)。


──すごい。確かに元・同業他社の方が認めたスタートアップとなると、見逃せないですよね。

ホーギル・ドー(Hogil Doh):楽天ベンチャーズ パートナー。楽天ベンチャーズのインベストメントマネージャーとして国内外の投資活動を担当。楽天ベンチャーズ参画前は、楽天のEコマース事業のマーケティング部にてKPI管理、マーケティング戦略、およびパートナーシップ計画などを担当。また、楽天の事業開発部門にてEbatesとKoboの買収、Air Asia Japanのジョイントベンチャー設立、およびPinterestへの投資を含む複数の主要な国境を越えたM&A取引とベンチャーキャピタル関連投資を5年間経験している。


ドー:実際に安部さんに会ったところ、プロダクトのことを非常に深く考えていたのが印象的でした。私自身、マーケティングの現場にいたことがありますが、日本のマーケターの業務範囲はアメリカと比べて相当広い。つまり、ひとつのツールを活用しようとすると、さまざまな分野の業務をカバーする必要があるわけです。この点が日本は独特ですから、アメリカとは異なるアプローチが求められます。プロダクトを見たときに「このプロダクトは日本市場に絶対刺さる」と確信しました。


倉林:私が注目したのもまさにそのポイントです。自社のCMOがマーケティング戦略を考え、ツールを使いこなし、マーケティング施策を打つというアメリカに対して、日本はそういった機能を大手広告代理店といった外部の機関が担ってきた歴史があります。これだけやり方が違うわけですから、アメリカのサービスでは日本のユーザーのかゆい所に手が届かない部分がありますし、ユーザーの成熟度も異なります。


ドー:近年のアメリカでは「ナイキ」や「マクドナルド」をはじめ、ブランディングを重要視する企業が増えていますが、日本でもその動きは必ず来るでしょう。そうなったときに、CDPやMA、データ分析から顧客管理といった多くのニーズに対応しているb→dashの使い勝手はとても良い。「楽天市場でやっている全てのマーケティング行為は、このプロダクトでカバーできるんじゃないか」と当時見たロードマップから感じましたね。


倉林:確かにアメリカのデータマーケティング市場は日本よりも進んでいますが、アメリカで成功したサービスが日本に通用するとは限りません。環境の違いを突いたプロダクトとして差別化を狙えます。その点で、b→dashはそうした大手外資ツールベンダーと戦える余地があると思っていますし、彼らはその先のことまで見据えています。


──その先、とは何でしょうか?


倉林:b→dashが今後どうなっていくか。という部分です。今後、彼らが海外に展開していくにあたって、どのように自プロダクトを訴求していくかを考えると、使いやすさや導入コストの低さを背景に、中堅・中小企業やSMBを狙うことになるでしょう。これが大企業を中心に展開している、大手外資ツールベンダーのサービスとの最も大きな差になります。

CEO安部氏が持つ「着眼大局、着手小局」の資質 大企業の経営者に匹敵する魅力とは?

──b→dashは世界を狙える可能性を持ったプロダクトであると。麻野さんはいかがですか?

麻野 耕司(あさの こうじ):株式会社リンクアンドモチベーション取締役。2003年 慶應義塾大学法学部卒業。株式会社リンクアンドモチベーション入社。2010年、中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング部門の執行役員に当時最年少で着任。2013年、成長ベンチャー企業向け投資事業立ち上げ。複数の投資先を上場に導く。2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。2018年、同社取締役に着任。同年株式会社ヴォーカーズ(現:オープンワーク)取締役副社長を兼任。著書に『THE TEAM 5つの法則』(幻冬舎)。


麻野:僕はベンチャーキャピタリストではないので、ビジネスのことは正直、お2人ほどは分かりません。投資をするときに僕が見るのは経営者だけ。その際に最も大切なのが「ビジョン」だと思っています。

製造業時代の経営ですと、最初に事業計画があって、それに基づいて資金調達を行って工場を建て、そして人が集まるという流れだったと思います。ですが、サービス業の時代になった今は、ビジョンに人が集まり、そこにモノが生まれ、お金が集まることでその動きが加速していく、という順番に変わりました。つまり、起点となる経営者のビジョンがとても大切なのです。

会社の規模が大きくなるほど、経営者のモチベーションとなるものは減っていきます。それこそ時価総額100億円ぐらいになると、自分の資産も数十億円になり、経済合理的にがんばる理由はほぼなくなる。そんな状況下でさらに先に進めるかどうかは、経営者の「志」次第です。


──その点で、CEOの安部氏はどうだったんですか?


麻野:彼は「着眼大局、着手小局」な人で、言葉にしたら笑っちゃうような大きいことを言うんですよ。Webページには「スマートデータ社会の実現」なんて大層なことが書いてありますけど、本人は心の底からそう思っている。

スタートアップの経営者には、大きな話を語るだけの人も少なくありませんが、彼は「異常な繊細さ」も持ち合わせています。ユーザビリティーの高さはb→dashの長所の一つですが、そこへのこだわりも、はっきり言って異常です。例えばですが、「ボタンアイコンの角は角張っているとクリック率が下がる。少しだけ丸めろ」みたいな話を、いまだにずっと言い続けています。細かすぎて、彼からのコンサルティングの依頼があっても、受けたくないと思うくらい(笑)。

大きなことを語りながら、本当に細かいところまで見ている。素晴らしいと思いますし、こういう資質は、僕が出会ってきた時価総額1兆円に届くような経営者たちとの共通点でもあります。

21世紀の石油、「データ」を制する企業が世界を制す

倉林 陽(くらばやし あきら):DNX Ventures Managing Director 。富士通株式会社、三井物産株式会社にて日米でのコーポレートベンチャーキャピタル業務を経験。MBA留学後は、Globespan Capital Partnersおよび Salesforce Venturesにて日本代表を歴任。2015年より現職。Sansan、マネーフォワード、チームスピリット等含め累計50社のSaaS企業への投資実績を保有し、現在も投資先10社の社外取締役を務める。同志社大学博士(学術)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営大学院修了。著書「コーポレートベンチャーキャピタルの実務」(中央経済社)。


──データは「21世紀の石油」と言われるほど、ビジネスを左右するファクターとして重要視されています。倉林さんはSalesforceに、ドーさんは楽天ベンチャーズ参画前は、楽天のEコマース事業のマーケティング部にいらしたとのことですが、これからの社会におけるデータ活用の重要性については、どうお考えですか?


倉林:数年前、Googleが油田を掘るかのようにビッグデータを掘っている印象的なイラストが雑誌「The Economist」の表紙を飾りましたが、これから先、データを制する者が世界を制するのは間違いありません。IoTもAI(人工知能)も全ての根源はビッグデータですし、データの重要性が増すのは、全てのビジネスで言えることです。


ドー:データの重要性というのは極めてシンプルな話で、今まで何となくでやっていたことを数値化し、そこから知見が得られるということ。ムダな動きを減らして、効率良く事業を伸ばしていくことができる。経験や直感に頼りきったままの企業は、今後は淘汰(とうた)されていくでしょう。

そうならないためには、自社でデータを活用しやすい形で蓄積する必要があるのですが、全ての企業ができるかというと、コストの面でも技術力の面でも難しい。より多くの企業がデータ活用に乗り出せる──安部さんがずっと言い続けている「データの民主化」がまさに必要なわけです。それが可能な技術力やプロダクトを持っている会社は、日本にはフロムスクラッチしかないと私は思っていますし、世界を見てもプレイヤーは限られます。


──フロムスクラッチしかないんですか? その理由を詳しく教えてください。


倉林:そもそもBtoBのデータベース事業でコアテクノロジーに挑戦するような日本のスタートアップはほとんどありません。だからこそ、付加価値の高いサービスを実現できていて、ARPU(Average Revenue Per User=1ユーザーあたりの売上)も他のクラウド型サービスと比べて高いにもかかわらず、継続率も高い。

そういう意味でフロムスクラッチは先駆けですし、データ関連のテクノロジーに携わって知見をためたいエンジニアの就業先として、必ず選択肢に上がる会社なので、日本の良いエンジニアを集める上での競争力もある。ユニークなポジションにいると思いますよ。


ドー:b→dashは、専門的な知識がない人でも使えるプロダクトにするため、ユーザビリティーに異様なまでにこだわっています。カスタマーサクセスの部隊もちゃんと確立させていますし、時代の流れを見ても、必ずはやると思っています。BtoBとはいえ、結局使うのはデータサイエンティストなどの専門家ではなく、普通の従業員。使いやすさを武器に顧客を獲得し、さらなるプロダクトの開発につなげていけると思っています。

「b→dash」がグローバルでデファクトスタンダードになる可能性

──とはいえ、海外に目を向ければSalesforceやパランティアテクノロジーズをはじめとしてライバルは多いですよね。今回の資金調達と同時に、海外展開についても強化する姿勢を見せていますが、世界を相手にb→dashは勝てるのでしょうか。


ドー:もちろん、改善の余地はまだまだ残されていますが、データ基盤、つまりデータを集めるための受け皿さえ作ってしまえば、後はそのデータを活用するアプリケーションやサービスを作ることで、ビジネスはどんどんスケールしていきます。もしかしたら、データマーケティング領域における業界標準のポジションになれるかもしれません。

そうして、さまざまなユーザーデータを集めることができれば、大手外資ツールベンダーを超えるプロダクトになれるんじゃないかと思っているんですよ。もちろん簡単なことではありませんが、そうした期待があるからこそ、フロムスクラッチに日本で最も大きな額の投資をしているのです。

倉林:そうですね。先ほど「データの民主化」というお話がありましたが、今回の資金調達において、われわれ投資家たちが最も評価しているのは、フロムスクラッチが研究を進めている「Data Palette」というデータ統合技術です。プログラミングの技術を持っていない人でも、高度なデータ分析ができるようにするもので、市場をひっくり返すだけの力があると考えています。

しかし、データマーケティングの領域に参入するには、多額の資金と大規模な開発が必要で、それをスタートアップが補うには大きな調達が不可欠です。そういう意味では、フロムスクラッチが今回、外資系の大手企業が驚くほどの資金調達を成し得たのは、とてもエキサイティングな話だと思います。

先ほどの麻野さんの話にも通じますが、そういう大きな絵を描ける社長って、意外といないんですよ。目先の利益ではなく、大きい会社を作ることで社会にインパクトを与えようと考える人にしか、100億円もの調達は実行できません。


ドー:Data Paletteのような汎用的なコア技術が確立していれば、マーケティング以外の別領域にそれを応用することも可能です。教育や不動産、医療、HRなど、日本でデータ活用が進んでいないビジネス領域は山ほどあります。それら全てに参入できる可能性を秘めているというわけです。

また、海外へのローカライズによって事業を拡大することもできるでしょう。データは世界の共通言語ですから。今回(シリーズD)の資金調達は、日本の市場を飛び出し、グローバル展開を加速させるためのものでもあります。それが可能なのも、世界に通用するデータ処理技術を持っているためですし、本当に世界一のビジネスアプリケーションになれるかもしれません。

最初の新卒採用5人に5000万円を使った意味、そして「宗教」への答え

──ここまでデータの重要性について、倉林さんとドーさんに聞いてきましたが、プロダクトを展開していくには、基盤となる会社の組織力も重要です。組織づくりのプロである麻野さんは、フロムスクラッチという組織をどう見ていますか?


麻野:安部さんはリンクアンドモチベーション出身ということもあって、かなり早いタイミングから組織作りに力を入れていたと思います。採用への投資も、ベンチャーキャピタルの人から怒られるぐらいやっていました。最初の新卒採用のときなんか、5人採用するのに5,000万円ぐらい使っていたんですよ? 完全にやり過ぎでしょう(笑)。でも、それだけ力を入れてきたからこそ、優秀なメンバーが働きやすい環境が整っているのだと思います。

また「事業や成長だけではなく、ミッションやビジョンで束ねる会社を作りたい」と、安部さんは初期の頃から言っていました。スタートアップの組織には、「会社が成長していて面白そう」とか「会社と共に自分も成長できそう」とかいう動機で入社してくる人が多いです。そういう人が集まる組織はアップトレンドのときはいいんですけど、ダウントレンドになると成長する面白さがなくなって、クモの子を散らすように人が離れていってしまうもの。

しかし、ダウントレンドは必ず来ます。それこそリンクアンドモチベーションもリーマンショックのときはかなりきつかったですけど、乗り越えられたのはビジョンによってまとまる強い組織があったからこそ。フロムスクラッチも、ミッションやビジョンへの共感や理解といった部分には力を入れて取り組んでいますし、実際の浸透度合いには目を見張るものがあります。

──なるほど。一方で、学生からの口コミでは、社風について「宗教的」といったコメントも目にします。そういった意見に対しては、どう思われますか?


麻野:人間が他の動物に比べて大きなパフォーマンスを出せるのは、目に見えないものを信じて動けるからと言われています。それこそ、宗教や株式会社といった虚構を人間が創り出して、それによってつながって、たくさんの人が協働できるのが人間の特徴。つまり、目に見えないことを信じる、もしくは信じさせることができなければ、大きなことは絶対に成し遂げられません。ビジョンへの共感を宗教的と言うのであれば、それは素晴らしいのではないかと思っています。

ただし、「天国」や「輪廻転生(りんねてんしょう)」など、証明不可能なもので人を束ねるのが宗教だとすると、会社組織は実在するこの世界の中で、証明可能な範囲で「実現したい何か」によって人を束ねるものです。そういう意味では、宗教という例えはズレていると思いますし、そうやって揶揄(やゆ)すること自体、幼稚ではないかという気がしますね。

「大企業やプロフェッショナルファームでもトップへと登れる人」と近くで働けるのが、スタートアップに新卒で入る醍醐味(だいごみ)

──ありがとうございました。最後に、新卒でフロムスクラッチに入る面白さについて、皆さんの意見を教えていただければと思います。


倉林:人によって向き不向きがありますから、私は全ての優秀な学生がスタートアップに行くべきだとは思っていません。ただ、環境という点でお話しすると「大企業の中でもトップパフォーマーとして活躍できる人がいるスタートアップ」に新卒で入るのは、非常に良いことだと思っています。

なぜかというと、最初に入った会社で得た常識が、その後の自分のキャリアを形成するから。どんな会社でも「あの人優秀だよね」という話は出るじゃないですか。でも、相対的に優秀だと言われているだけで、世の中全体で見たらそうでもないというケースはあると思うんです。これはどんな会社であっても起こり得ることですし、仮に大企業やプロフェッショナルファームに入ったとしても、そこのトップパフォーマーと一緒に仕事ができる機会はなかなかない。

でも、良いスタートアップには各社の上澄みにいるような、トップパフォーマーが集まっています。本当の意味で優秀な人たちの近くで、権限を任せてもらいながら仕事ができる環境がある。未上場企業の場合、その見極めが難しいですけど、少なくともフロムスクラッチはそういう人材がそろっている環境だと思いますね。


ドー:プロダクト自体も、これからさらに面白くなっていきます。日本で成長していく産業で、かつデータはどのビジネスでも重要になる。そういう分野で、今あるプロダクトを伸ばしていくフェーズにある企業に身を置いて、社会的な意義のあるサービスに携わっていくというのは面白いチャレンジですよね。

新卒で「0→1」をやるのはリスク──ファーストキャリアで100人規模のベンチャーを選ぶ理由とは

──とはいえ、トップパフォーマーと働くことを優先するなら、さらに人数の少ないベンチャーを目指すという方法もあると思います。


麻野:確かにそうかもしれません。しかし、本当に小さなベンチャーに入って、新卒で「0から1」をやるというのは、素晴らしい経験である一方、リスクも高いです。かといって、すでに完成されている会社に入ると物足りなさがあるかもしれない。

その点、フロムスクラッチはシードフェーズのスタートアップではないから、イチかバチかという時期は終わって、これからガンガン伸ばしていくフェーズにあります。仮に今が1だとしたら、これが100になるのか、1000になるのか、はたまた1万になるのかはまだ分かりません。ここから3年ぐらいは、特に面白いステージだと思いますよ。

その状況で、全社員100人〜200人程度の中の1人として勝負できる面白さは、客観的に見ていて感じますね。今回せっかく100億円もの大型資金調達に成功したわけだから、普通のスタートアップではできないような、やんちゃな戦い方をしてほしいです。


ドー:アーリーな時期のスタートアップに入って、会社全体の流れのようなものをつかむ感覚を身に付けるのも有意義だと思います。楽天は約20年で急激に規模が大きくなって、現在は連結で1万7000人以上の社員がいます。

そんな中で社員番号が若い人は、会社全体の流れをキャッチしやすいというか、アンテナの本数が多いイメージがあるんです。もちろん、社歴が長い分役職が高いというのはありますし、優秀な人は別ですが、社員番号100番の人と1万5000番の人では、大局を捉える感覚が全く異なるというのは、正直感じるんですよ。


倉林:今後はフロムスクラッチに新卒で入って鍛えた人が、起業するようなことがあってもいいんじゃないかなと思います。10の会社に入って100、1000、1万に伸ばすことに挑戦した後、自分が起業家になって0から1をやるっていうのは非常に良いですよ。

もちろん、優秀な人には辞めてほしくないというのはありますが、フロムスクラッチから起業する人が出てきても面白いかなと思いますね。「フロムスクラッチマフィア」が、日本のスタートアップ界隈(かいわい)にバンバン出てくる未来を楽しみにしています。


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【インタビュアー:池田憲弘/ライター:天野夏海/撮影:友寄英樹】

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