幅広いサービスを展開するBIG4ファームの一角であるEY。
世界150以上の国・地域、約31万人が所属するグローバルネットワークを形成し、2021年度の全世界での売り上げは前年比7.3%増の400億米ドルに上ります。そんな巨大なプロフェッショナルファームとしての総合力を生かし、日本におけるコンサルティングとトランザクション (M&Aや組織再編)支援を行っているのが、EYストラテジー・アンド・コンサルティングです。
EYストラテジー・アンド・コンサルティングは2020年発足とEYのメンバーファームの中では若い企業ですが、群を抜いているのが40%を超えるという売り上げと人員の成長率。「プロジェクト・ドラゴン」と名付けた成長戦略により、事業・組織ともにまさに「昇り竜」のような勢いで拡大しています。一方で、利益だけを目的とせず、長期的な社会貢献や従業員の働きがいも追求しています。
急成長の舞台裏と、それを支える「EYのコンサルティング」の秘密に迫るべく、パートナーの日向野さんとディレクターの平林さんに伺いました。
成長率40%を超える昇り竜。急拡大するEYのコンサルティング領域
──本日はよろしくお願いします。お二人はどのような業務に携わっているのでしょうか?
日向野:私は総合商社に対するコンサルティングサービスを担当しています。クライアントが新たな事業投資やプロジェクトを始めようとするときに、ぴったりなサービスをお届けするのがミッションです。
平林:観光を通じた地方創生に取り組んでいます。観光地のステークホルダーと関係を築き、プロジェクトの座組みづくりや実行を推進するのが僕の役割です。北海道から沖縄まで日本中を飛び回っているので、東京オフィスに来るのは久しぶりですね。
──市場環境の変化に適応し続ける総合商社と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による大打撃からの再起を図る観光業。BIG4は財務・税務に強いイメージがあるので、意外に感じます。
日向野:おっしゃる通り、日本のEYは監査部門が強いことで有名だったんです。一方のコンサルティング部門はそこまで知名度がなく、提供できるサービスや人員にも限りがありました。こうした状況を変えようとメンバーファームのコンサルティングサービスを集約したのがEYストラテジー・アンド・コンサルティングの成り立ちです。私も、新日本監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)から組織再編に伴って参画した一人です。
日向野 奈津子(ひがの なつこ):EYストラテジー・アンド・コンサルティング エネルギーセクター パートナー
国内電機メーカー、外資系コンサルティングファームのITコンサルタントを経てEYに従事。2017年より総合商社のコンサルティングサービスのマーケティングを統括している。コンサルティング業務と並行して、2018年にはEYのCR活動である「EY Ripples」に参画し、日本組織の立ち上げや活動推進に携わっている。
2019年にスタートした成長戦略「プロジェクト・ドラゴン」のもと、事業・組織ともに高い目標を掲げてコンサルティングサービスの拡大に取り組んでいます。年間40%以上の成長率で、昨年は目標を上回る成果を出すことができました。結果として、私たちが支援できる幅も大きく広がっているのです。
──監査以外の領域で事業を成長させるのが「プロジェクト・ドラゴン」の狙いであると。お二人の仕事は、その象徴ともいえるものかもしれませんね。
「規模の拡大=つまらない仕事が増える」ではない
──事業規模の拡大とひきかえに、付加価値の低いプロジェクトばかりになることはないのですか?
日向野:成長の大きな要因は、これまで提供できていなかったサービスを届けられるようになったことと、グローバル企業とのアライアンス(提携)を強化したことにあります。決して無理のある営業活動がベースではなく、社内でも「やってみたら意外と達成できたぞ」という反応です。
平林:僕は「プロジェクト・ドラゴン」が始まった頃に入社しましたが、専門性を持ったメンバーがEYに加わっていくにつれてサービスを提供する機会とスピードが増しています。
EYのパーパス(存在意義)は、Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)。コンサルティングでは、経済で社会平和を実現するために「自分たちで何ができるのか」というのをさまざまな角度から考えることが私たちの仕事です。規模拡大でつまらない仕事が増えたのではなく、求められる役割がより上がったのだと思います。実際に、自分に求められることの次元も高くなっている実感がありますね。
平林 知高(ひらばやし ともたか):EYストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジック インパクト ディレクター
政府系金融機関、外資系コンサルティングファームを経てEYに従事。現在は社会課題の解決に取り組むチームで観光関連の政策立案を支援するとともに、全国の自治体や観光関連事業者などと連携したデータ利活用プラットフォームサービスの展開を主導している。
──とはいえ、組織が拡大すれば従来のやり方が通用しなくなる部分もあると思います。メンバーのやりがいや成長を担保するために、制度も変更しているのでしょうか。
日向野:働きがいがあっての仕事ですから、私たちもメンバーにつまらない思いをさせたくありません。アサインにあたっては、従業員一人一人の強みや伸びしろをしっかりと議論する場を設け、本人にもフィードバックとともに成長の機会を与えられるようになりました。人事評価も大きく見直し「自分」「チーム」「クライアント」「ビジネス」の4つの項目を設けました。クライアントやチームへの価値提供だけでなく、自分自身のパーパスや社会貢献にも目を向けてもらいたいと考えています。
──チェアパーソン 兼 CEO(最高経営責任者)の貴田さんのインタビューに「利益はクライアント・社会・従業員に貢献した結果として派生的に受け取るもの」という発言がありました。トップメッセージがしっかりと落とし込まれているのですね。
国・産業を横断した連携がEYの強み。観光DXで世界初のモデルケースを生み出す
──お二人が携わるプロジェクトについて詳しく教えてください。平林さんが担当する「観光を通じた地方創生」で、印象深いものはありますか。
平林:北海道の釧路地域で、多言語対応のAI(人工知能)チャットボットを観光案内に活用するプロジェクトです。この取り組みが目指すのは、観光案内所の負担を軽くすることだけではありません。利用者の情報やニーズをデータとして収集・蓄積し、将来的にはCRM(顧客関係管理)プラットフォームをつくることです。
──どういうことでしょうか?
平林:少子高齢化で地域の人手や予算は減っている今、浅く広くのマスマーケティングは現実的ではありません。効果的に地域の消費を拡大するためには、一人一人に寄り添ったマーケティングで訪問やリピートにつなげることが重要です。CRMプラットフォームのデータを活用することで、訪問客がどんな人かを分析し、行動履歴などにあわせた誘致や消費促進ができるようになる未来を構想しています。観光業界はアナログな業務が多く、データを収集することさえ困難なケースもある中で、このプロジェクトは観光デジタルトランスフォーメーション(DX)の第一歩となる可能性を秘めています。今は試験運用の段階ですが、同様の取り組みを日本国内に広げ、海外でも横展開できるモデルケースを育てたいと考えています。
──現在は、新型コロナウイルス感染症の影響で人の移動そのものが制限されています。観光業界にとって苦しい時期ですが、EYではどのような支援に力を入れていますか。
平林:「地域の魅力の再発見」と「他業界との連携」の2点です。前者について、地域ならではの歴史・文化や景観が持つ魅力を見つめ直し、付加価値を見いだそうとする動きが世界中で盛んに行われています。例えば、日本には禅やわびさびといった人間の内面に向き合う文化がありますが、これを新たなツーリズムの形として提供できないかと試みています。
──後者の「他業界との連携」について、特に注目すべき取り組みは何でしょうか?
平林:サステナビリティの高い観光を実現するため、自動運転やEV(電気自動車)などの新たな移動技術が注目されています。EYでも自動車を専門とするチームと連携し、コンセプトづくりを支援しているところです。
これらのテーマは前例がなく、世界中の観光地が今まさに検討している課題です。その点で、EYが国やインダストリーを越えてシームレスに連携できるのは大きな強みですね。言葉にすると簡単そうですが、実現するのはとても難しいことなんです。僕の前職や支援してきたクライアントを見ていても、ここまで横連携がうまくいっている会社はなかなかありません。
社会課題を解決するだけのコンサルはもはやコモディティだ
──前例のない課題に向き合う上で、平林さんが意識していることは何ですか?
平林:クライアントの意思決定を早めることです。スピードが遅いと旬が過ぎてしまったり海外の競合にマーケットを奪われたりと、自らチャンスの芽をつぶしかねません。
AIチャットボットの導入プロジェクトも、データ活用を掲げればもっと時間とお金のかかる提案ができたかもしれません。しかし、観光地のあるべき姿は、あくまでもデータを手段として地域づくりをすることです。まずは素早くデータを集め、僕たちと議論をしながら未来の姿を描いていくことにしました。提案にあたっても、検討を早めてもらうために始めからプロトタイプを持っていきました。「日本は意思決定が遅い、上層部の承認を得るのに時間がかかりすぎる」といわれますが、目に見えないものを理解するのに時間がかかるのは当たり前ですよね。現場をスピーディーに動かすためには、絵空事だけでは足りないと思っています。
──クライアントのパーパスを実現するために、迅速な意思決定を促しているのですね。
平林:社会課題を扱うコンサルティングファームが増えている中で、単に課題を解決するだけではもはやコモディティです。目の前の課題やマーケットの一歩先にあるものを考え続けるように心掛けています。
「社会貢献とビジネスを分けて考えない」持続可能な経営を目指すのがEYのコンサルティング
──日向野さんは、総合商社のどのような経営課題に向き合っているのですか?
日向野:近年はサステナビリティ関係の相談が増えていますね。内容としても、エネルギー系部門の組織を再編して再生可能エネルギーや新エネルギーを強化する、人権侵害問題の中で生産した綿を使わないよう仕入れ先を変更するなど、事業に与えるインパクトが大きくなっています。
──持続可能性を高めることは、投資家への説明材料としてだけでなく、事業を継続するためにも必須なのですね。
日向野:そうですね。同時に、こうした変化に対応できる組織づくりも大切だと考えます。総合商社は長らく新卒一括採用を前提としてきた組織ですから、経営上ダイバーシティが強く求められているにもかかわらず、まだまだ画一的な側面があることが課題だと聞きます。そこで、EYストラテジー・アンド・コンサルティングでは組織設計や人材開発などを専門とするピープル・アドバイザリー・サービスからのサポートも強化しています。
──ピープル・アドバイザリー・サービスでは、具体的にどのような支援をしているのですか?
日向野:例として、ある総合商社ではアンコンシャス・バイアス(無意識のうちに偏っているものの見方)への理解を深めるプログラムを実施しています。ワークショップ型の研修を開催するとともに、イベントなどに利用できるアニメーションビデオも制作し、世界中の拠点で閲覧できるよう英語ナレーションとしています。最近こうしたクリエイティブ領域のサービスにも取り組むようになったことで、EYの総合力を高めています。
──クライアントの反応はいかがですか。
日向野:「良い刺激が得られる」と、ワークショップは追加開催のリクエストを何度もいただいています。アニメーションビデオもきっかけとなって、クライアントの海外支社からワークショップ開催のオファーを受けたばかりです。その国のEYメンバーにさっそく相談して、現地向けにカスタマイズした内容で研修を提案してもらっています。ピープルマネジメントにおいて、世界中に一貫したメッセージを伝えられることの重要性は増しています。その点で、EYは海外のメンバーファームとも同じオフィスにいるかのように密に連携できるのが強みですね。
──日向野さんはEYが推進している社会貢献プロジェクト「EY Ripples」のスポンサリングパートナーとして、プログラムを率いていらっしゃいます。そちらについても、お聞きできればと思います。
日向野:EY Ripplesでは「次世代教育・就労支援」「社会的に影響力のある起業家との協働」「持続可能な環境への取り組み」の3つに力を入れており、私は女性起業家向けのアクセラレータープログラムに取り組んでいます。去年まで、EY主催で実施するアクセラレータープログラムは毎年1件でしたが、今年は外部の企業との共催も含めて4件のプログラムが動いています。私たちの取り組みを見て「EYと一緒にやりたい」と思ってくれる企業や自治体が増えてきていますし、支援している起業家や企業が将来的にEYと一緒に仕事をできるようになるかもしれないと考えるとワクワクします。
私自身のパーパスでもありますが、社会貢献活動がビジネスモデルに組み込まれている状態をつくりたいです。そもそも、責任のある企業として、社会貢献とビジネスを分けて考えたくないのですよ。「EY Ripples」の活動も、長期的にメンバーの成長とビジネスへの貢献につながっていると思います。
新卒コンサルの魅力は「価値観が養える」「若手から経営目線」
──お二人はキャリアを重ねる中で仕事の意義を見つけ、中途でコンサルタントの道を選びました。ご自身の経験から、新卒からコンサルティングファームで働くメリットは何だと思いますか?
平林:新卒の就活は「本当にこの業界でいいのだろうか?」と迷いながら就職するケースも多いと思います。コンサルティングファームならば、他の企業でも通用するスキルを鍛えながら、幅広い業界のクライアントと接する中で自分の価値観を養うことができます。
日向野:若手のうちから経営目線が持てるのもメリットだと思います。日本の大手企業では特定の分野に精通した専門家が育ちやすく、経営の観点が求められるのは課長以上のクラスになってからだと思います。幹部候補向けのプログラムなどに参加して初めて、会社全体の損益やグローバルでの立ち位置などを考えるよう迫られるケースも多いのです。
平林:確かにそうですね。裏を返せば、ある一つの分野で「プロフェッショナル」になりたい人は新卒でコンサルティングファームにこだわらず、事業会社も検討すべきかもしれませんね。現場のオペレーションを経験することも大きな強みになると思いますから。僕が金融のプロフェッショナルであるように、その強みを生かしてコンサルタントになる選択も大いにありだと思います。
──最後に、お二人が一緒に働きたい人物像を教えてください。
平林:EYには、短期的な成果よりも中長期的なインパクトを大切にする文化があります。世の中をよくすること、そして、その先にある未来も考えたいと思っている人と一緒に働きたいですね。
日向野:自分自身が社会に対してどんな貢献ができるか考えられる方なら、たとえ忙しいときでもきっと乗り越えられますね。EYはダイバーシティも特徴の一つなので、自分とタイプが違う人に苦手意識を持つことなく楽しんで、そこから学んでいただけたらと思います。
──日向野さん、平林さん、ありがとうございました。
▼企業ページはこちら
EYストラテジー・アンド・コンサルティング
▼イベントページはこちら
【4/25(月)】EY JAPAN SPECIAL LIVE 〜これからが一番面白い。 EYが狙うポジションと得られる市場価値〜
申し込み締切:4月28日(木)
EY 2022 Better Working World Data Challenge
申し込み締切:6月3日(金)
【ライター:中山明子/撮影:赤司聡】