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売上高グローバルNo.1 「空気」の4兆円企業、ダイキンの世界戦略に迫る

社内風土 企業理解 インタビュー メーカー 大企業 日系
2025年4月25日(金) | 89,737 views
sponsored by ダイキン

※こちらは2020年4月に公開された記事の再掲です。売上高などの一部数字を更新しています。


「世界シェアNo.1」と聞いて、どんな企業を思い浮かべるでしょうか?

ひと昔前なら、それは日本の家電メーカーでした。世界中を席巻し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の象徴でしたが、今では海外メーカーに押されて衰退の一途(いっと)をたどっています。

そんな時流に逆らい続け、今も世界のトップを走るのが、大阪発の老舗空調メーカー、ダイキンです。

創業から100年以上たった今も本社を大阪に置く同社は、海外売上高比率が84%、グループ従業員の8割が海外で働くグローバルカンパニーです。空調専業メーカーながら、その売上高は4兆3,953億円に上ります。まさに日本を代表するメーカーといえるでしょう。


今回お話を伺ったのは、ダイキンの村上大介さん。10年にわたって海外の現場を飛び回り、今はグローバル戦略本部の課長として、さらなる飛躍に向けた海外戦略を描いています。


「ほんまは戦略なんて語りたくはないんですけどね。黙って勝つ方がかっこええやないですか」

ワイルドな見た目の村上さんが、陽気な関西弁で話す現場のエピソードの数々には、日本企業がグローバルで勝つためのヒントが秘められていました。

ダイキンの世界戦略、そしてその戦略を実現する「現場の人間力」を解き明かします。

<目次>
●カタールの気温をハックせよ。ダイキン流、世界規模の「ごっつい仕事」
●20兆円市場でもシェアトップへ。空調を武器にAmazon・Googleと真っ向勝負
●躍進の裏にあるのは「負けられへん覚悟」と「超ローカル戦略」
●現場で同じゴールを見た30カ国の仲間たち。「彼らに笑われる仕事はしたくない」
●タンザニアでエアコンのサブスクに挑戦。これまでのダイキンを変えていくのは、世界で汗をかく20代の社員だ

カタールの気温をハックせよ。ダイキン流、世界規模の「ごっつい仕事」

村上 大介(むらかみ だいすけ):グローバル戦略本部 課長。
2006年に新卒入社。グローバル戦略本部・営業企画部に配属。2007年より同本部・企画部にてダイキンヨーロッパ社の支援を担当。2010年よりダイキンヨーロッパ社に、2014年よりダイキン中東・アフリカFZEに出向し経営企画を担当する。2018年よりグローバル戦略本部 企画部 戦略グループ所属。2019年に課長就任、各種戦略案件、アフリカ事業立ち上げ、アジア・オセアニア会議統括などを担当している。(所属部署はインタビュー当時のものです)


──ダイキンは世界トップの売上高を持つ空調メーカー(※)ですが、日本の上場企業の時価総額ランキングTOP20に入っていることを知らない学生もいます。「エアコンってそんなにもうかるの?」と思う学生もいると思うので、市場規模から教えてください。


村上:グローバルの空調市場の規模は8〜10兆円と言われており、このうち住宅用は約3兆円、残りの5〜7兆円が業務用です。ダイキンはグローバルシェアで1位になっていて、当社の強みである業務用マルチ空調(VRV)の市場では、世界中ほとんどの地域で40〜50%のシェアを獲得しています。

だからこそ、ダイキンが社会に与えるインパクトも大きいです。例えば、ダイキンが技術革新を起こせば、世界中のオフィスで消費している電力の25%にインパクトを与えられます。


──どういうことでしょうか。


村上:オフィスビルの消費電力のおよそ半分は空調に使われているのですが、業務用空調で世界シェアの約50%を持つダイキンは、世界中のオフィスビルで消費される電力の25%に対して責任を担っているということです。実際に、ダイキンはこれまで環境負荷が低いエアコンの開発に取り組んできていて、今はそれを世界中に拡販しているところです。


──なるほど。村上さんが携わってきた中だと、特にインパクトが大きかった仕事は何でしょうか。


村上:印象に残っているのは、2022年にカタールで開催予定のサッカーワールドカップのスタジアムに、大型空調を納入したことです。ドバイ駐在時に入札があった全6つのスタジアムのうち、4つにダイキンの空調が納入されました。


──スタジアムの空調だと、かなり大きそうですね。


村上:最大規模の物件では、大型バスくらいの大きさの空調機がスタジアム1つにつき18台。ずらっと並んでいるのを見たときは、自分でも「ごっつい仕事をしてるんやなぁ」と感じましたね。カタールの気温は43度以上あるのですが、空調が効いたピッチは23度くらいの室温を保つことができるようになったんです。


──なるほど、空調メーカーが相手にするのは「気温」や「気候」なんですね。


村上:はい。空調は単純なプラグイン製品ではないので、現地の気候に合わせる必要があります。そのために、製品の設計や生産を現地で行っていますし、各国の大学や専門学校と連携したインフラ作り、技術者などの人材育成にも取り組んでいます。

それに、ダイキンの空調をその国に普及させるためには、各国の政府が決めた規格・規制に適応せねばなりません。空調があまり普及していない国だと、空調・エネルギーの専門家ではない人が規格・規制を決めてしまい、良い製品の普及を妨げる場合もあります。だから、時にはダイキンが現地の政府に積極的に働きかけ、国のルール作りにまで入り込むこともあります。

(※)……富士経済「グローバル家電市場総調査2023」調べ [グローバル空調メーカーの空調機器事業売り上げランキング(2021年実績)]

20兆円市場でもシェアトップへ。空調を武器にAmazon・Googleと真っ向勝負

──8〜10兆円の空調市場で半分のシェアとは、スケールが大きいです。


村上:それはあくまでも「空調機器」の話です。ここに快適性や健康増進などのサービスを付帯した「空調ソリューション」の市場規模は、20兆円くらいまで広がる可能性があります。

例えば、空調のIoT化。AmazonやGoogleはスマートスピーカーなどのIoT家電で先行していますが、ダイキンはすでにオフィスビルやホテルなどの商業施設で、彼らよりも多くのコネクションを持っています。世界中のユーザーと接点を持つ僕たちが新しい取り組みをやれば、非常に面白い変化が生まれてくるかなと思っています。


──実際に進んでいるプロジェクトはありますか?


村上:現在、アラブ首長国連邦の王族肝いりで、廃棄物を一切出さないスマート・シティの建設計画が進んでいます。その空調をダイキンが担っています。そこでの街づくりが成功すれば、同じモデルを他の都市にも展開できますし、アジアなどでも同様の取り組みが進んでいます。


──デベロッパーもライバルになってきそうな取り組みですね。


村上:この計画には建材・制御・設計などさまざまな分野で世界最先端の取り組みが集まっています。この知見を今後の開発などに生かすこともできるでしょう。まだ始まったばかりの取り組みですが、これからは空調機器だけでなく周辺のインフラにまで参画していかなあかん、と思っていますね。

躍進の裏にあるのは「負けられへん覚悟」と「超ローカル戦略」

──日本のメーカーが中国・韓国のメーカーに押されて苦戦している中、なぜダイキンが世界で勝ち続けられるのかは気になるところです。他の日系総合電機メーカーも空調を扱っていますが、それらの企業と何が違うのでしょうか? 


村上:第1に、僕たちは空調専業ですからこのフィールドでは絶対に負けられません。こけたら、終わり。覚悟が違います。総合電機メーカーが世界で販売をしているのは、主に高価格・高付加価値、いわゆるハイエンドの製品です。一方で、ダイキンはローエンドからハイエンドまで、あらゆるラインアップをそろえていて、市場のすべてをターゲットに製品を販売しています。その戦略が功を奏して、世界中のほとんどの地域で業務用・住宅用ともに1位を獲得できました。


──負けたら終わりだから、競争力も高くなる、と。


村上:第2に、現地への入り込み具合が他社より圧倒的に高いと思います。他のメーカーは、販売・サービスを現地の代理店に委託することが多いのですが、ダイキンは販売・サービスの自前主義にこだわっています。世界に10万を超える自前の販売・サービス店網があります。


──世界中で販売店を持つのは簡単なことではないと思います。なぜ自前にこだわるのでしょうか?


村上:もともとは、日本国内の戦略でした。国内で総合電機メーカーに対抗するには、自分たちで直販ルートを作るしかなかった。この独自販売網作りのノウハウが、今ではグローバル規模で生かされています。

ダイキンは空調が普及していない国にも積極的に進出しています。そういう国ではそもそも「市場を作る」必要があります。人材育成などの土台作りからしっかりとコミットするのはコストがかかりますが、現地の実情に合った高品質な商品をユーザーに届けられ、結果として市場と一緒に自社の売り上げも大きくなっていくという好循環が生まれます。


──自分たちで開拓した市場を独占できる、合理的な戦略ですね。


村上:ほんまは戦略なんて語りたくはないんですけどね。黙って勝つ方がかっこええやないですか(笑)。

現場で同じゴールを見た30カ国の仲間たち。「彼らに笑われる仕事はしたくない」

──村上さんは、なぜ新卒でダイキンに入社されたんですか?


村上:僕、学生時代はバックパッカーだったんですよ。最初は東南アジアからヨーロッパまで、1年かけて貧乏旅行をし、各地で日本の製品を見ました。その影響で、世界的にプレゼンスが高いメーカーに入りたいと思いました。総合電機メーカーも受けましたが、高い技術力を持ち、地域の生活に深く入り込んでいる専業メーカーの方が面白いなと考えたんです。


──専業メーカーの中でも、空調専業のダイキンを選んだのはなぜでしょうか?


村上:就活をし始めたときには、空調についてはよく知りませんでした。ですが、ダイキンのいろんな人に会ううちに、フランクで、オープンで、なんでもはっきり言う文化が僕に合うんじゃないかなと感じました。あとは、これから海外市場を伸ばそうとしているタイミングだったので、早期に海外に行くチャンスもあるのではという甘い考えもあって……。


──実際、海外に出るチャンスはすぐ来たんですよね。


村上:最初は出張ベースですが、ベルギーにはよく行っていましたね。その後、4年目でダイキンヨーロッパに出向し、ベルギーに5年駐在。その後ドバイに3年半駐在しました。入社以降、海外が長かったので、むしろ今が「日本駐在」に来ている気分です(笑)。


──海外がキャリアの中心なのですね。


村上:さっきも話しましたが、ダイキンの現場への入り込み具合は他社に比べても圧倒的に高いです。 僕はドバイ時代、国籍が30を超える200人以上の社員と一緒に仕事をしました。こういう多国籍の集団で、同じゴールを見据えて走り、1年に1度は社員の家族も招いてお疲れさま会をやる。そのときに「あれが大変だった」「これがすごかった」と現場の思い出を振り返るわけです。グローバル展開している企業は他にもありますが、ここまで現場にこだわる企業はなかなか珍しい。圧倒的に濃い経験を積めていると思っています。


──村上さんは、今後どういう仕事をしたいですか?


村上:個人的には「いい仕事をしたい」、それだけです。例えばドバイに駐在していた頃は、200億円以上の事業のオペレーション責任を自分で抱えていました。プレッシャーも大きくて、何度も仕事の夢を見ましたし、つぶれそうになったこともありました。それでも、振り返ってみれば楽しいことの方が多いんですよね。

ヨーロッパや中東に同じ釜の飯を食った仲間がたくさんいて、彼らのおかげで今の自分がいます。今後も挑戦的な仕事に取り組みたいですし、彼らに笑われるような仕事はしたくないと思っています。

タンザニアでエアコンのサブスクに挑戦。これまでのダイキンを変えていくのは、世界で汗をかく20代の社員だ

──村上さんが入社されたときは、これからグローバル市場に打って出るというタイミングだったと思うのですが、今の学生が入社するとどのような面白さがありますか?


村上:すでに世界中にダイキンの拠点と販売網があるので、望めばどこの市場にでも乗り出せるチャンスがあるということです。日本、アジア・オセアニア、ヨーロッパ、アメリカ、中南米、アフリカなど、グローバルで実績を積みながらキャリアを考えていける面白さがあります。

それに、世界中のダイキンのアセットを使って、先ほど話したような新しい事業展開に挑戦できるのも面白みだと思います。都市開発に興味がある方やプログラミングが得意な方など、今までとは違うタイプの学生にも来てほしいですね。世界中に現場があるんだから、どんどんやったらいいと思います。


──今いる新卒社員は、どんなキャリアを歩んでいますか?


村上:例えば、もうすぐ30歳になる6年目の社員が、タンザニアで東京大学発のベンチャー企業と一緒に空調のサブスクリプション事業の立ち上げに取り組んでいます。20代のうちに1人でタンザニアに乗り込んで、新規事業を必死にやっているのはうちっぽいなぁと思います。

他には、インドネシアに行っている入社4年目の社員も面白いキャリアだと思いますよ。彼は営業としてローカルスタッフと一緒に働いています。インドネシアには約1,000店の販売店があるのですが、そこに自分の担当エリアをもって走り回っています。入社した当初は頭が良くて温和なイメージでしたが、今はそこに重みが加わりました。やっぱり、お客さんが見えてると違います。

タンザニアで新規事業に取り組む若手社員(写真左・右)



──「海外志向が強い」以外に、ダイキンだからこそ輝ける人物像はありますか?


村上:まずメーカーを好きであってほしいとは思います。

そして、ダイキンは多くのアセットを持っていますが、時代の変化に応じて変わらなくてはいけない部分もたくさんありますから、「自分がダイキンを変えてやろう」という意志を持っている人がいいと思いますね。グローバルの土台があるので、一緒に新しい事業に挑戦できたらおもろいですよね。


──ダイキンは1924年創業の「老舗企業」ですが、これまでのお話から、新しく挑戦する心意気を大切にしていることが伝わりました。


村上:老舗というか……。うーん、僕は「堺のダイキン」だと思っています。


──「堺のダイキン」? その心は?


村上:もともと大阪の中小企業で、少しずつ技術力をつけていって、必死に汗をかいて頑張っている。現場にコミットメントしてやりきるとか、そういうところは譲られへん部分としてあります。僕の上司は「堺(サカイ)のダイキンが、世界(セカイ)で頑張ってるねん」とよく言ってます(笑)。


──では、最後に学生へのメッセージをお願いします。


村上:あまり頭でっかちに考えず、やってみたいということは、どんどん出していくべきだと思います。自分を出せる会社を選んでほしいなぁ。その会社の人と話していてワクワクする。理由は分からないけれどテンションが上がる。直感的に面白そうと思って、思わずググっちゃう。そんな感覚を大切にしてほしいと思います。


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【ライター:yalesna/編集:辻竜太郎】

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