日本の「スタートアップ」の景色が今、変わろうとしている。
2022年には、政府がスタートアップへの投資を10兆円規模まで増やす「育成5か年計画(※1)」を発表するなど、政策の中心に据え始めている。
その起業家たちの熱いチャレンジを10年以上前から支え、国の政策づくりにも関わるのが「デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)」だ。DTVS自身も起業家を輩出すべく「3〜5年で起業できる実力が付く会社」を掲げている。
「起業」と聞くと、遠い特別な世界のように感じる学生もいるかもしれない。ただ、そこには確かなノウハウが存在し、社長の斎藤祐馬氏は「起業家志向の人にとってはここが最短の道」と語る。
次代を担う起業家を斎藤氏はどのように育てようとしているのか。ワンキャリア取締役で作家の北野唯我が迫った。
(※1)参考:内閣官房「スタートアップ育成5か年計画(案)」
<目次>
●DTVSに新卒で入れば、3〜5年で起業できる
●正しいストーリー、10年貫徹、巻き込み力。これで起業は必ず成功する
●コンサルタントと起業家。混じり合わない両者を束ね、アジアNo.1に
●日本の時価総額トップ10を塗り替え、閉塞感を打破する
●「エコシステム」を作るため、大企業・国・世界を巻き込む
●なぜDTVSが関わる新規事業は成功するのか?
●周囲10人のレベルでマインドが決まる。「NEXT CEO PROGRAM」で最高のネットワークを手に入れてほしい
DTVSに新卒で入れば、3〜5年で起業できる
北野:起業家が大企業の300人にプレゼンする早朝イベント「Morning Pitch」を開き、企業コンサルティングや国の政策立案に関わるなど、DTVSは今や日本最大のスタートアップ支援会社に成長されました。斎藤さんのキャリアはスタートアップに全振りという印象です。
斎藤:中学生のときに父親が事業を起こしたのがきっかけで、15歳でベンチャー支援を目指しました。公認会計士の資格を取ってデロイトに入社し、IPO支援をしました。ただ、立ち上げに近い段階から関わりたく、1年目から夜や土日を使ってベンチャーの支援をしました。27歳でDTVSを起業し、もう13年たちましたね。
斎藤 祐馬(さいとう ゆうま):デロイト トーマツ ベンチャーサポート 代表取締役社長慶應義塾大学卒業後、2006年に監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社。2010年にトーマツベンチャーサポート(現・デロイトトーマツベンチャーサポート)の立ち上げに参画。同社事業開発統括本部長などを経て、2019年から現職。1983年生まれ。
北野:それだけ長期でやられているのはすごい。現状はどうですか?
斎藤:2022年度末で社員は170人ほどで、2030年にはアジアナンバーワンのイノベーションファームとして1,000人規模にします。将来のグローバルリーダーとなる方を新卒でどんどん迎えたいです。DTVSが求めるのは「3~5年で起業家になりたい、なれる力をつけたい人材」なので、起業家志向の人にとってはここが最短の道ともいえます。
北野:新卒3~5年目で起業家になれるのは、どうしてですか?
斎藤:DTVSに入って身に付けられるのは、「起業家OS」です。起業家になる道もさまざまですが、どんな事業をやる上でもベースとなるものです。
大きく分けるとマインド面、スキル面、ネットワーク面の3つが鍛えられます。また、産業別や機能別で多くのチームやプロジェクトがあり、興味のあることを究められます。
北野:起業家に必要なマインドは、後から身に付くものなのでしょうか?
斎藤:社外の起業家や新規事業をする人と会う中で、起業が自然と人生の選択肢に入っていきます。実際、DTVSには、起業を全く考えずに入社し、3年くらいたって「やっぱり起業したい」となる人が多い。卒業した人の7割くらいは、起業したりスタートアップに移ったりしていますね。
正しいストーリー、10年貫徹、巻き込み力。これで起業は必ず成功する
北野:世の中的にも、スタートアップへの転職や起業は身近な選択になってきましたよね。一方で、必ずしも成功する世界ではなく、起業家の中にはトラブルを抱えたり、道半ばで諦めたりする方もいます。本物の起業家かを見極め、応援するかどうかはどこで決めていますか?
斎藤:ストーリーと継続力、巻き込み力の3つです。
まずは「なぜその事業を頑張るのか」というストーリーを1分で語り、「応援しよう」と思わせる必要があります。着火力が大事です。
北野:継続する力はどうでしょうか?
斎藤:少なくとも5年や10年、「人生のミッション」としてやり続けられるかがリトマス紙です。人は2~3年なら「金持ちになりたい」と頑張れても、嫌な仕事だとなかなか10年はできないでしょう。大変なことが起き、熱量は下がりそうなとき、どんな心持ちで乗り越えられるか。
北野:巻き込み力は?
斎藤:本人は熱いし本気なのに、チームをつくれない社長はいます。言葉と行動をフックに周りを巻き込めるかどうか。どんな人と一緒にやっているかは重要です。
まとめると、ストーリーが正しくて、途中でやめないで、巻き込むことができれば毎日ファンが増えていきます。だから、必ずどこかで成功するといえるんです。
北野:確かに。その3つをクリアしたとしたら、次に何が必要ですか?
斎藤:事業計画です。市場規模が大きいか、どう差別化してシェアを取るか、成功する蓋然性(がいぜんせい)が高くなるチームであるか。この辺りが肝です。
北野:超具体的で分かりやすいです。意外な落とし穴なんかはありますか?
斎藤:売上が立つタイミングと入金のタイミングが違うという資金繰りの基本を理解しておらず、資金がショートすることがあります。
北野:なるほど。そしていよいよリリースという段階になったら……?
斎藤:最初のお客さんですね。ファーストユーザーとして、インパクトがあり、信頼性を担保してくれる顧客を3~5社つかむのが大事です。
北野:さらに具体的に聞きたいのですが、斎藤さんがよくフィードバックするポイントは?
斎藤:ストーリーなら、共感してもらうためには3つの視点が必要です。自分がなぜやるかの「Myストーリー」も大事ですが、「あまり自分には関係ないな」と受け止められてしまいます。そのため、会社や業界、社会と目線を上げて、共感を得られる「Ourストーリー」にすることです。なぜ今なのかという「Now」も必要です。緊急性がないと、人は動いてくれません。
事業計画なら、1,000億円規模にする必要があります。身近なテーマで起業しようとすると、5億円、20億円の規模になりがちですが、これだと投資を受けにくい。起業家のやる気が落ちないレベルまでテーマを抽象化することでマーケットを広げます。
北野:最初の思いからどこまで深く、粘り強く考えられるかが大事ですね。
斎藤:まさにそうです。100回くらいプレゼンして投資家にダメ出しされて、ブラッシュアップして本当の起業家になれます。
コンサルタントと起業家。混じり合わない両者を束ね、アジアNo.1に
北野:アジアナンバーワンのイノベーションファームという目標に対して、斎藤さんの中での達成度はどれくらいですか?
斎藤:そもそも、スタートアップやイノベーションの分野を収益事業として成立させ、100人以上になっているコンサルティングファームは、他国でもありません。DTVSはここを事業化できた点で、アジアナンバーワンが見えてきました。
北野:確かに、事業化するのは難しそうなドメインです。どうしてDTVSはできたのでしょうか?
斎藤:理由は3つあります。まず、早く始めたというタイミング。2006年頃の黎明(れいめい)期から動いて2010年に創業し、キーマンとのネットワーク構築がしやすかったです。
2つ目は、長期にわたりデロイトから投資を受けられたこと。事業化させるには10数年かかるのですが、1〜2年でもうからなかったら撤退するのが、通常のコンサルティングファームの発想です。
3つ目は、カルチャー面。起業家的な人とコンサルタント的な人を混ぜることで、事業会社とコンサルティングファームとの間のような会社にしました。
北野:起業家的な人とコンサル的な人は、思考力の高さなど共通する部分もある一方、相いれない部分もありますよね。そこをどう混ぜ合わせるんですか?
斎藤:入り口で共通項を持たせています。DTVSのミッションは「挑戦する人とともに未来を拓(ひら)く」。挑戦する起業家を応援して社会を変えること、そして私たち自身が挑戦して社内外でアントレプレナーになることを大切にしています。
ミッションへの共感が前提にあり、その上で社会へのインパクトやマネタイズの方法を考えます。結果的に、起業家になれる実力もありつつ、コンサルやベンチャー支援もできる「両利き」の人材が育ちます。
日本の時価総額トップ10を塗り替え、閉塞感を打破する
北野:政府がスタートアップ支援に力を入れていますが、今の学生にとっては、生まれてからずっと日本は停滞ムードで「スタートアップに来ている流れを、どこまで信じていいのか?」と思っている人もいます。斎藤さんは、現状をどのように捉えているのですか?
斎藤:「国単位で捉えると、見間違うな」と思っています。確かに日本経済は暗いニュースが続いていますが、実際に伸びているスタートアップに行くと、雰囲気は明るく、面白そうに仕事をしているんですよ。
北野:確かに。以前に「2040年に時価総額トップ10の過半数をスタートアップで占められるかが僕の使命」と話されていましたよね。
斎藤:これが実現できるのは、とてつもなく伸びている会社によって、新陳代謝がある状態です。たとえ国全体のGDP(国内総生産)が変わらなくても、若い人には魅力的な会社があり、前を向いて働く人が一定数いるということです。スタートアップ的な会社が時価総額トップ10やトップ100に入れば、閉塞感を打破できます。
北野:日本経済へのインパクトは大きいですね。
斎藤:最近は賃上げがよくニュースになっていますが、もうかっていない会社に賃上げをお願いしても、構造的に苦しいです。でも、伸びているスタートアップ的な会社が一定数あれば、そこは毎年賃上げし、多くの人を雇えます。賃上げの根幹は、伸びている新しい産業や会社を育成することです。
「エコシステム」を作るため、大企業・国・世界を巻き込む
北野:お話を聞いていて思ったのが、DTVSそして斎藤さんのレアな点は、スタートアップ支援を事業サイドだけではなく、政策サイドからも考えているところだな、と。それぞれの役割を、どう整理しているのですか?
斎藤:スタートアップが育つためのエコシステムを俯瞰(ふかん)してみて、足りないところを見つけて事業を創るようにしています。
北野:どんなイメージでしょうか?
斎藤:例えば2011年前後、DTVSは大企業とベンチャーの協業に力を入れていました。当時はベンチャーを紹介しても、大企業に新規事業部がなく、なかなか会ってももらえませんでした。だから機運を高めようと、Morning Pitchを始めたんです。
エコシステムの課題は、次から次へと変わります。お金を集められない、メディアに露出できない、政府が支援してくれないなど。そうした課題を1つずつ解消していかないと、イノベーションは生まれません。
北野:今の課題は何ですか?
斎藤:一番はグローバルですね。日本での起業はやりやすくなってきたので、世界に出ていく起業家をどう生み出すかが課題です。
今年2月には、DTVSが全社を挙げて運営した日本初のグローバルイベント「City-Tech.Tokyo」があり、世界41の国から2万5,000人のスタートアップ関係者が集まりました。
北野:それだけ多くの国の人が日本に集まるのは、めちゃくちゃインパクトがでかいですね。
斎藤: 起業家教育にもなりました。起業家志向の学生が100人ほどボランティアに入り、高校生も見に来ました。これまでは何十万円もの渡航費を払って海外のイベントに行く必要がありましたが、日本にいながら世界中の人と会える。
北野:これだけ行政と密接に進められる企業は他にないでしょうね。
なぜDTVSが関わる新規事業は成功するのか?
北野:そう考えると、新卒でDTVSに入る魅力として、国全体の大きな潮流や、そのベースになる政策を策定できることもあるでしょうね。
斎藤:全体を俯瞰して、いろいろやりたいという人は向いています。ベンチャーキャピタルと関わったりベンチャーの中に入って支援したり、大企業のコンサルティングもします。政策立案のサポートや運営もあり、海外の人とも働きます。広さが持ち味ですね。
北野:ビジネスサイドのサービスでは、どんなことをされていますか?
斎藤:大企業のベンチャー投資支援だけではなく、一緒に事業や売り上げを作っていくケースが多いです。JR東日本とのジョイントベンチャーで無人コンビニエンスストアを始めたり、日本の大手企業と北欧のユニコーン企業のジョイントベンチャーの立ち上げを支援したり、大手の飲料メーカーの相手先を探して100億円規模の売り上げにしたりしたこともあります。
北野:なぜDTVSが入るとうまくいくのでしょう?
斎藤:3つあります。1つ目は大企業とベンチャーでは考え方や「言語」が違うので、それを通訳していく。2つ目はドキュメンテーション化。ベンチャーの人は口頭でテキパキ進めますが、資料化は苦手。なかなか、大企業の社内を通せる資料は作れません。3つ目はネットワークで、どんな大企業や政府機関、海外の関係者とも即座につながれるので、短期で立ち上げやすい。このネットワークの広さがあるから、短距離走が速いコンサル会社にも最終的に勝てています。
北野:新卒1~2年目は、どのような仕事をするのでしょうか?
斎藤:これも3つあります。1つ目はスタートアップの経営者と一対一でサポートすること。2つ目は大企業向けに新規事業やCVCを立ち上げるなどのコンサルティング。3つ目は政策系の、調査や実行の仕事。全体の半分ほどがグローバルなプロジェクトで、いろいろな仕事を通してベースを構築します。
周囲10人のレベルでマインドが決まる。「NEXT CEO PROGRAM」で最高のネットワークを手に入れてほしい
北野:斎藤さんが13年かけて築いてきたDTVSの強みが分かってきました。でも、ここまで長く、一貫してコミットできるのはなぜですか?
斎藤:起業家の人って「5年後10年後、こんな社会にしたい」という思いが強いんです。10数年もスタートアップ支援を続けてきて、夢のように語っていたことが実現する瞬間を何度も見てきました。そういう方々を応援することは社会に対して、一番意味があるかなと。悩んでいる起業家が笑顔になる瞬間にモチベートされます。
北野:DTVSは、学生起業家のキャリアを応援する「NEXT CEO PROGRAM」を開催します。そこではどんなことが得られますか?
斎藤:起業家的なマインドやスキルを提供できます。就職するにせよ、起業するにせよ、これから仕事をする上でのベースとなる部分ですね。
そして、何よりネットワークです。何かをやろうとしたとき、信頼関係のある人が大企業やスタートアップ、政府などにいることは非常に重要です。DTVSはMorning Pitchなどのイベント、支援サービス、人の紹介なども提供できるので、一度つながってもらえると応援しやすいと思います。
北野:新卒のタイミングこそ、どんな環境に身を置くかを考えるのはめちゃくちゃ大事ですよね。
斎藤:そうですね。普段付き合う10人くらいの平均でマインドは形成されます。付き合う人が変われば、マインドも変わります。
もし就職を考えるなら、「2030〜40年に一番活躍している人を輩出している会社がどこなのか」という視点で選ぶといいと思います。DTVSもグローバルで活躍する起業家を輩出すべく、優秀な方が集うようになっています。今から新卒で入る人にとって「2030年〜40年に同期が社内外で活躍している会社」にしていきます。
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