印刷、広告、そしてデザイン。デジタル化が遅れていた伝統産業にITを持ち込み、産業構造そのものを変革してきたプラットフォーム企業、ラクスル。
同社で求められるのは、事業全体を俯瞰し、正解のない問いに自ら「決着」を着けていく人材だ。新卒入社の時点から現場への解像度を極限まで上げ、数年で事業責任者という重要な“打席”に立つなど、自ら事業を創る側に回ることが可能な環境が整っている。
本記事では、薬学研究の最前線からビジネスの世界へ飛び込み、入社4年目でデザイン制作事業の立ち上げを経験した山根悠暉氏にインタビューを実施。未開拓で複雑な巨大産業を選び、自ら「決める」ことを貫く彼の軌跡から、ラクスルで事業家として生きる醍醐味に迫る。
<目次>
●創薬研究からビジネスへ。手触り感を求めたキャリア選択
●役割を越え、仕組みそのものに介入する面白さ
●若手の挑戦を支える「仕組み」があるから、成長機会がある
●「実行者」から「定義者」へ。累積思考で挑む新規事業の立ち上げ
●圧倒的なインプットと行動が、就活の軸を研ぎ澄ます
創薬研究からビジネスへ。手触り感を求めたキャリア選択
──山根さんは薬学部・大学院のご出身ですね。専門性を活かす道もあった中で、なぜ「印刷・広告」産業にアプローチしたIT企業という、一見すると縁遠い領域のラクスルを選んだのでしょうか?
山根:キャリアの考え方に対する出発点は、母が難病を患い、当時の新薬によって回復した姿を目の当たりにしたことでした。「薬の力で人を救いたい」という純粋な原体験から、大学院まで創薬研究に没頭していました。しかし、実際に研究の世界に身を置いてみると、一つの新薬が世に出るまでに20年、30年という歳月がかかり、人生を費やしても成果が出ないことも珍しくないことが分かりました。何より、最終的な患者さん、つまりエンドユーザーとの距離が非常に遠いことに、どこか拭い去れない違和感を覚えたんです。
一方で、「誰かに直接的な良い影響を与え、そのインパクトを肌で感じたい」という欲求が自分の中で膨らんでいきました。そこで「創薬」という手段に固執するのではなく、より直接的かつスピーディーに社会の仕組みを書き換えられるビジネスの世界へキャリアの舵を切ることに決めました。
──数ある企業の中で、最終的にラクスルに惹かれた決定打は何だったのですか?
山根:就活時に大切にしていたのは「介在価値」という考え方です。例えば製薬業界や華やかなメガベンチャーは非常に優秀な方々が集まる場所ですが、自分と似たようなバックグラウンドを持つ人が大勢いるでしょう。その中で人生の時間を使うよりも、他の人が選ばないような場所で挑む方が、自分が介在する価値を最大化できると考えていた矢先に、ラクスルに出会いました。
当時、印刷業界に自身を含めて周囲も関心がなかったのですが、調べてみると、数兆円という極めて大きな市場規模がありながら、古くからの多重下請け構造による非効率が発生しているこの「複雑な巨大産業」が、ITの力で仕組みを書き換えた時のインパクトが大きいと感じたんです。注目度は低いが社会的に重要な課題が眠っている場所へ行く。このキャリアの選択肢が、自分の介在価値を高められるのではないかと感じました。

山根 悠暉(やまね ゆうき):ラクスル株式会社 エンタープライズ事業部 Designグループ マネージャー
京都大学大学院薬学研究科卒業後、2020年4月に新卒入社。入社後はカスタマーサポート、エンタープライズ事業部での営業職を経験し、現場のオペレーションから顧客課題の抽出を経験。2023年、法人向けデザインサービスを立ち上げ、デザイン領域の責任者に就任。現在はサービス企画、マーケティング、制作フローの構築、採用までを一貫して担う。
役割を越え、仕組みそのものに介入する面白さ
──入社後、どのようなプロセスを経て現在の事業責任者に辿り着いたのでしょうか。
山根:大きく3つのステップを経験しました。最初はカスタマーサポート(CS)のオペレーション、次にエンタープライズ向けの営業、そして現在の新規事業開発です。入社して最初の数年間は、将来事業を担うために不可欠な特能領域(オペレーションやセールスなどの要素)を一つひとつ獲得していく期間です。私自身、この現場経験こそが事業を創る上で必要な武器になると考えていたため、迷いなく目の前の仕事に没頭できました。
──最初のCS部門では、どのようなことを任されたのですか?
山根:実は、当時直面したのは顧客対応のスキル向上ではなく、組織・育成の課題でした。新人が定着せず、すぐに辞めてしまうという負の連鎖があったんです。入社間もない時期でしたが、私はこの課題解決をまるごと任せてもらいました。当時の経営陣に対しても「現場はこうなっている、だからこう変えるべきだ」と自分の意見を直接伝え、施策を実行しました。このとき、組織の仕組みを動かして成果を出せたことが、私の事業家としての大きな原体験になりました。
──その後、営業職(セールス)を経験されたことで視座はどう変化しましたか。
山根:営業としての最大の学びは「役割の越境」です。ラクスルで活躍する人に共通するのは、職種という手段を目的化しないことです。「プロダクトを売る」ことに固執せず、顧客の課題解決のために「プロダクトそのものやサービス体制を変えた方がいい」と開発側にまで踏み込んで提案する。私自身、営業という枠に囚われず、顧客に価値を届けるために必要なことは全てをやるというスタンスを貫きました。
この「役割を越えて、仕組みそのものに介入する」というマインドセットこそが、今の事業開発の根幹に繋がっています。現場のオペレーションで組織の動かし方を学び、営業で顧客のために役割を越える経験を積む。こうしたステップがあったからこそ、入社4年目の後半からマネジメントを任され、現在のゼロからの事業立ち上げという重要な打席に立っているのだと感じています。
若手の挑戦を支える「仕組み」があるから、成長機会がある
──入社4年目でデザイン制作事業を新規で立ち上げたとのことですが、どのようなサービスなのでしょうか。
山根:企業が販促などで使用するチラシやカタログなどのデザイン制作を行うサービスです。裏側でAIとオペレーションの力を駆使することで、従来の市場価格の半分以下での提供を実現しています。ターゲットは、外注予算がなく「現場が自力で質の低いデザインを作らざるを得ない」という課題を抱える中小企業や、大企業の地方営業拠点などです。そうした現場の方々を仕組みの力で救い、ビジネスを支援しています。

──ラクスルでは、なぜ若手社員にこれほど大きな裁量が与えられるのでしょう。
山根:よく「ラクスルには若手に任せる文化がある」と言われますが、ラクスルの強みは文化以上に「仕組み」にあります。会社として「新卒を中長期で事業家に育てる」という仕組みがあることです。
まず、経営陣との初期の握りが非常に明確です。「最初の数年はオペレーションやセールスといった現場で、事業を構成する『領域』を一つひとつ習得してもらう。そして中長期的に経営・事業創造ができる人材に引き上げる」という前提で採用が行われています。実際に僕自身も、4年目の後半にチームを持ち、5年目には自社サービスの組織構築を任されました。

──この機会提供が実現できるのは、なぜなのでしょうか。
山根:会社の「フェーズ」と「資産」が関係しています。例えば、単一の事業が失敗したら倒産してしまう可能性があるスタートアップでは、経営陣も慎重になり若手に全権を預けることを避ける傾向にあります。失敗の許容度が極めて低いからです。
しかしラクスルには、すでにラクスル事業を始めとした収益を生み出す既存事業があり、事業創造を成し遂げた経験者が多数いるという「資産」があります。だからこそ、ステップを踏ませながら新たな機会提供を与えることが可能な環境になっています。機会提供を通して成功体験を積み重ねることによって成長していくこの方針は、当社ならではのものだと思います。
「実行者」から「定義者」へ。累積思考で挑む新規事業の立ち上げ
──事業責任者として、実際に「決める」立場になってみて、どのような変化がありましたか?
山根:一番の変化は、「実行者」から「定義者」へとスタンスが大きく転換したことです。これまでの仕事には、必ず「これを達成すれば100点」という明確な指標がありました。しかし、ゼロからの事業立ち上げには正解がありません。前提としてこのサービスは世の中に必要なのか。価格はいくらが妥当か。誰も答えを持っていない問いに対して、自分で「こうだ」と意思決定をしなければならない。この連続が、事業責任者の仕事の9割を占めると言っても過言ではありません。
──そんなプレッシャーの中で、精度の高い意思決定をするために意識していることはありますか?
山根:「累積思考」です。そのテーマにおいて、社内の誰よりも、あるいは業界の誰よりも考え抜き、情報を蓄積している状態を最速で作ることです。経営陣や百戦錬磨の先輩方から鋭い指摘を受けたとしても、「その論点は検討済みで、こういう背景から今の形にしています」と全てを論理的に打ち返せるまで解像度を上げるように心がけています。
もちろん、僕には10年、20年のビジネス経験はありません。でも、目の前の特定の事業領域に割いている「思考の総量」であれば、誰にも負けないという状態まで考えられていることが重要です。自分ができる限り一次情報を収集し、未検討の論点をゼロに近づけることこそが、不確実な意思決定を「正解」に変えていくための唯一の方法だと思っています。

圧倒的なインプットと行動が、就活の軸を研ぎ澄ます
──就活の軸が定まらずに悩む学生へアドバイスをお願いします。
山根:多くの就活生は「自分の軸は自分の中にある」と思い込みがちですが、一人で考え込んでも限界があります。自己分析も大切ですが、自分の経験を「どう言語化するか」のヒントは外部にあります。大量のインプットを浴びる中で、自分の原体験と外の情報がカチッと噛み合うポイントを探す感覚が重要です。
──山根さんご自身も、外部からのインプットで軸が定まったのですか?
山根:はい。就活初期は私も一人で悩んでいました。転機は、戦後の高度経済成長期を分析した本との出会いです。「当時の若手が未開拓の産業で経験を積み、イノベーションを起こした」という歴史に触れた瞬間、「成熟した人気業界より、未開拓の産業に飛び込む方が自分の介在価値を最大化できる」と鮮やかに言語化できたのです。自分の中だけで考えていては出なかった「介在価値」という軸が、歴史という外部情報に触れて初めて形になりました。
──納得感のある軸を作るためには、具体的にどう行動すべきですか?
山根:まずは圧倒的なインプットと行動量を担保することです。本を読んだり、自ら現場へ情報を取りに行ったりと、外の情報を大量に浴び続けてください。すると必ず「自分に響くもの」と「響かないもの」が分かれてきます。その「響いたもの」を丁寧に紐解くことが、軸を固めることに繋がります。とくに就活を始めたばかりの頃などは「なんとなくカッコ良さそうだから」といった表面的なイメージで判断されると思います。ですが、インプットを増やして仕事への解像度を上げれば、自ずと進むべき道が見えてくるものです。
──最後にメッセージをお願いします。
山根:企業が行う説明会で聞くことのできる話は、どうしても最大公約数的な内容に留まりがちです。だからこそ、尊敬できる先輩を捕まえて「就活生の時に何を考えていたか」を深く聞き出すことをお勧めします。
話の中で強く共感できる部分があれば、いい意味でその言葉や考え方を模倣することです。他人の言葉を借りて、自分自身の言語化に落とし込む。そうしたトライアンドエラーを繰り返すうちに、借り物ではない「自分だけの軸」が必ず研ぎ澄まされていくはずです。
そうして見つけ出したその「軸」が、もしラクスルの目指す未来と交差するのであれば、ぜひ私たちの扉を叩いてみてください。皆さんの挑戦をお待ちしています。

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【制作:BRIGHTLOGG,INC./撮影:阿部 拓朗/編集:鈴木 崚太】