ITやコンサルティング業界をグローバル大企業が席巻する中で、「日本の勝ち筋」として注目を集めるエンタメコンテンツ・IP(知的財産)ビジネスです。しかし、「エンタメは感覚的、ロジカルな世界ではない」「レガシーで昔ながらの構造が根強いのでは」といった先入観を持つ学生は少なくありません。
そんなフィールドで、ビジネスと情熱を融合させた次世代IPスタジオ「blowout」を立ち上げたのが一ノ宮佑貴氏です。Google入社後わずか9カ月で退職、AIスタートアップであるABEJAの黎明(れいめい)期を経て、起業・売却を経験するという異色のキャリアを持つ彼は、なぜここを次なる挑戦の場に選んだのでしょうか。その理由や「世界ナンバーワンをリアルに狙える領域」だと語るIPビジネスの可能性、入社1年目から数億円規模のビジネスを動かせる環境で働く魅力について率直に語っていただきました。
<目次>
●Google・IT起業を経て「エンタメIP」を選んだ、その理由
●アーティストとIPをともに育てる。再現性を生み出すビジネス構造
●圧倒的な「打席」の数で、成長環境を担保する
●求めるのは次期経営層。ビジネスとクリエイティブを繋ぐ「共通言語」
●世界で勝てる成長産業へ、一緒に飛び込まないか
Google・IT起業を経て「エンタメIP」を選んだ、その理由
──一ノ宮さんは新卒でGoogleに入社しています。当時、どのような軸でキャリアを選ばれたのでしょうか。
一ノ宮:学生時代は本気で音楽の道で生きたいと考えていましたが、就活期に周囲が一斉に大手への就職にシフトしていく空気に反感を覚えていました(笑)。休学して渡ったアメリカでIT企業の爆発的な成長を体感し、「これからはITの時代だ」と確信して帰国しました。
Googleに入社したものの、完成されたシステムの中で自分の介在価値を見出せず、9カ月で退職しました。ABEJAの初期メンバーを経て2017年に起業し、数百万PVのメディアを育てて売却する中で、決定的な確信が生まれました。「ITで世界を獲る限界」と「日本発コンテンツの圧倒的勝機」です。
──なぜあえて「エンタメ・IP」へ舵を切ったのですか。
一ノ宮:国内トップクラスの人材が集まるtoCテック企業ですらグローバル市場では存在感獲得に限界を迎えています。ITでビッグテックに太刀打ちをするのはすでに構造的に難しいのです。
blowoutの創業前、2019年頃に再び米国を訪れた際、現地のクラブやショップでK-POPが鳴り響き、アメリカ人が本気で熱狂している光景を目にしました。エンタメには国のプレゼンスを一変させる力があります。そして日本には世界に誇れる「コンテンツの土壌」がすでに存在しています。その可能性を信じ、blowoutを創業しました。
日本のコンテンツ・IPの海外売上高は現在約5兆円です。政府の試算では2033年までに20兆円規模を目指しており、自動車産業に匹敵する輸出産業になります。

一ノ宮 佑貴(いちのみや ゆうき):株式会社blowout 代表取締役CEO
1990年生まれ、一橋大学社会学部卒業。学生時代から10年間音楽活動に没頭。新卒でGoogleに入社するも、完成されたシステムを前に「自らの介在価値」を問い直し、わずか9カ月で退職。その後、黎明期のABEJAに初期メンバーとして参画。2017年にIT領域で起業し、メディアの成長とEXITを経験。2019年4月、「カルチャーの力で日本人の肯定感を取り戻したい」という思いでblowoutを創業。現在は一般社団法人 日本音楽制作者連盟の理事も務める。
──海外のエンタメ巨頭に勝つための、具体的な戦略はありますか。
一ノ宮:最初から欧米市場に突っ込んでいくには一定のハードルがあると考えています。K-POPが世界を制したときも、まずは最初の一歩としてアジア市場を確実に押さえるという段階を踏んでいました。私たちも同じ戦略です。文化的親和性が高く日本カルチャーへの受容性が高いアジア、つまり台湾や香港、韓国、シンガポールなどを足場に固め、そこから世界へ拡張する計画です。一見すると「感性」や「運」に左右されがちに見えるエンタメにおいても、戦略的に積み上げていける勝ち筋はある。それが、私がエンタメIPを次の戦場に選んだ理由です。
アーティストとIPをともに育てる。再現性を生み出すビジネス構造
──世間一般には「エンタメ=水物でギャンブルに近い」というイメージが根強くあります。ビジネスとしての再現性をどのように持たせているのでしょうか。
一ノ宮:私たちはアーティストやクリエイターなどの「人」のマネジメントを行う「事務所」としての側面と、いわゆる「レーベル」としての側面を持っています。出演枠や露出機会の獲得を軸としたフロー型のビジネス構造に依存せず、原盤権(楽曲の録音物に対する権利)や著作権、あるいはキャラクターの版権といった中長期にわたって価値を生み続ける「IP(知的財産)」を自社で育て・保有・活用するアセット型のビジネスを展開しています。
ただ、エンタメにおける「ゼロイチのヒット」そのものに、100%の再現性がないのもまた冷徹な事実です。実は創業初期、ファイナンスで調達した資金を、1つのプロジェクトに投資し、見事にその全額を溶かしてしまった痛烈な失敗経験があります。1点集中型・ハイコストの投資がいかに危険であるか、身を以て学びました。
そこで舵を切ったのが、アーティストとの信頼関係を軸に、多様なクリエイティブに挑戦できるモデルへのシフト、つまり多くの挑戦機会を生み出しリスクを分散させるポートフォリオ経営への転換です。1つの集中投資に依存するのではなく、多くのクリエイターが挑戦できる構造に組み替えました。大規模な投資が必要な領域と、一定の投資規模の中で多様なクリエイティブに挑戦する領域を意識的に区分し、経営管理を行っています。
──他のエンタメ企業とは何が違うのでしょう。
一ノ宮:エンタメ企業の多くは、優れたプロデューサーが経営やビジネス的な推進も担う形で発展してきましたが、属人性が高くなりやすく、事業の横展開や仕組み化に課題を抱えるケースも少なくありません。一方でblowoutは、ビジネスサイドとプロデューサーの役割を組織として分業しながら、カルチャーとして融合していくという考え方を持っています。
ビジネスサイドの人材が、市場分析、財務戦略、再現性を高めるための仕組み化といったロジックを担保し、プロデューサーがクリエイティブという打席だけに集中できる環境を徹底的に整えています。この「経営」と「クリエイティブ」の高度な分業体制があるからこそ、同時多発的に新しいIPを育ててスケールさせることが可能になるのです。一見ファジーに見えるエンタメの構造を、合理と感性の協調関係として再設計していく。これこそが、私たちの最大の優位性です。

圧倒的な「打席」の数で、成長環境を担保する
──コンサルやメガベンチャーを志望する優秀層は、若手時代に積める「裁量」や「成長環境」を重視する学生も多いと思います。その観点で、IPスタジオである貴社を選ぶメリットはなんでしょうか?
一ノ宮:例えば綺麗な成長曲線を描いているワンプロダクトのSaaS企業などでは、プロダクトの成熟に伴って不透明な環境の中で意思決定が必要になる場面が良い意味で減り、お手本や型を学べる機会が豊富な一方で、若手が本当の意味で事業を動かす「打席」に立てないリスクもあると考えています。
対して、私たちのIPビジネスは、分散投資が基本です。ダメなら即座に方針レベルで軌道修正し、上手くいけば横にどんどん拡張していきます。現在、約30名の組織規模でありながら、社内では音楽、ボカロ、新規キャラクター、アニメなど10から15のプロジェクトが同時並行で動いています。つまり、組織の規模に対して、事業責任者としての席が圧倒的に余っている状態なんです。
──実際に、若手メンバーが大きなプロジェクトを牽引している実績はあるのですか。
一ノ宮:もちろんです。綺麗事ではなく、現在の主軸IPとして大ヒットを牽引している「こっちのけんと」のプロデューサーは、第二新卒から6年間ともに走ってきたメンバーです。また、中国での伸長が著しく、現地のファンドとの独占契約という巨大なディールを生み出したボカロ・ネットミュージック系のIPは、新卒2年目の若手がメインでプロジェクトを引っ張っています。さらに、ゼロから立ち上げている新規キャラクター・アニメ領域の統括責任者も新卒入社のメンバーです。
入社1年目、2年目から、自分の仕掛けたIPで数千万人の心を動かし、数億円規模のビジネスを動かす。この圧倒的な打席の数とスピード感は、いい意味でも高度に組織化されたワンプロダクト企業や、他社の戦略を支援するコンサルにはない環境だと自負しています。

<キャプション:こっちのけんと>
求めるのは次期経営層。ビジネスとクリエイティブを繋ぐ「共通言語」
──新卒でビジネスサイドの採用を強化する理由はなんでしょうか?
一ノ宮:現在の音楽やエンタメ業界を見渡すと、業界のトップ層はやはり日本のエンタメに貢献してきた方々です。そういった方々から多くを勉強させていただいた中で、やはりエンタメこそ、若い人が挑戦できる場を増やしていく事が重要だと考えています。だからこそ、私たちは若い世代が圧倒的な当事者意識を持って打席に立てるカルチャーを何よりも大切にしています。
今、私たちが次なる成長フェーズに本気で求めているのは、若いクリエイターの生み出すゼロイチのIPやアセットを、10年、15年先を見据えて事業として持続的にスケールさせていく「次期経営層候補」となるビジネスデベロップメント人材です。だからこそ、高い視座と論理的思考力を持つ優秀な新卒をこのタイミングで採用し、幹部候補として一から育成したいと考えています。
──組織に馴染めるか不安を抱く学生も多そうです。エンタメ領域に飛び込む際、必要なマインドセットはなんでしょうか?
一ノ宮:そこは明確に伝えておきたいのですが、「自分は戦略立案に強みがあるから」などと、クリエイティブや現場へのリスペクトを欠くメンバーは必要ありません。どれだけ優れたビジネスロジックがあっても、ゼロからコンテンツを創り出すクリエイターの熱量がなければ、IPビジネスは一歩も前に進まないからです。
大事なのは、ビジネスサイドとクリエイター陣がお互いの領域のプロフェッショナルとして深くリスペクトし合う文化です。幸いなことに、blowoutにはGoogleやDeNA、GREE、電通といった異業種のビジネスバックグラウンドを持つ優秀なリーダー陣が揃っています。彼らが言語の異なる「ビジネス」と「クリエイティブ」の強固な架け橋となり、感覚的な事象をロジカルに翻訳する「共通言語」として機能しています。だからこそ理不尽な精神論ではなく、互いの強みを最大限に活かし合えるハイブリッドな組織構造が実現できているのです。
世界で勝てる成長産業へ、一緒に飛び込まないか
──最後に、就職活動を続けている学生に向けて、メッセージをお願いします。
一ノ宮:新卒という一生に一度しかないキャリアの選択において、最も重視すべき鉄則は「人・物・金・情報」が圧倒的なスピードで流動している「成長産業」に身を置くことです。衰退している産業や停滞している市場でどれだけ努力しても、得られるリターンや打席の数は限られます。その点、現在の日本において「市場そのものが右肩上がりの巨大な成長産業」であり、かつ「世界ナンバーワン」をリアルに狙える領域は、IPビジネスをおいて他にありません。
もちろん、私たちの組織でも生成AIなどの最新テクノロジーを全社的に導入し、業務の徹底的な効率化は進めています。しかし、新卒の皆さんに期待するのは、AIに依存した小手先の最適化ではありません。若手時代だからこそ、自らの頭と手を使って泥臭く動き、ビジネスの「型」を圧倒的なスピードで身につけ、それを超える「守破離」のスタンスを重視してほしいと思います。どれだけ時代が進化しても、最後に数千万人を熱狂させるには、ライブや体験といった非合理な人間的熱量が不可欠だからです。
──エンタメスタートアップならではの、働く醍醐味とはなんでしょうか?
一ノ宮:私がGoogleを辞めて知名度もないスタートアップへ移ったとき、周囲からは心配されましたし、悔しい経験もしました。でも、今なら自信を持って言えます。整った環境で、自分が何に貢献したのか分からないまま働くよりも、自分が仕掛けたプロジェクトで、紅白歌合戦にアーティストを送り出すような社会現象のゼロイチに関わるほうが、圧倒的にエキサイティングだし誇らしいです。
自分たちが仕掛けたヒットコンテンツが街中で流れ、年末に実家のテレビで流れ、社会に大きな熱量を生み出す瞬間を、親や友人に一言で説明できる手触り感があります。整った仕組みを学ぶのも良いですが、ヒット作1つでそれ以上に仕事の楽しさを感じられる可能性を秘めた私たちの環境で、世界のタイトルを取るためにチャレンジしてほしいですね。

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【制作:BRIGHTLOGG,INC./撮影:河合 信幸/編集:鈴木 崚太】