こんにちは、ワンキャリ編集部です。「総合商社特集」の特別企画として、「商社人事インタビュー2017」を連続掲載スタート。第5回は、2015年度の純利益で6大商社No.1と勢いに乗っている伊藤忠商事を特集。人事・総務部 企画統轄室長 西川大輔さんにインタビューを行いました。
純利益4,000億円に向けて:中国/アジア、非資源が鍵

伊藤忠商事株式会社 人事・総務部 企画統轄室長 西川大輔氏(にしかわだいすけ):
1994年に入社後、労務厚生関連業務に従事。その後、香港・ドバイ・ロンドン駐在等を経て、2010年から採用・人材開発を担当。住生活・情報カンパニー経営企画部を経て、2016年より現職。
ーー2015年度の純利益で2,404億円となり、純利益で6大商社のトップに躍り出た伊藤忠。これからの動きが気になります。今後はどのような分野に力を入れていくのでしょうか。
西川:今年は、3カ年の中期経営計画「Brand-new Deal 2017」*の2年目に当たります。そこで掲げている「2017年度に連結で純利益4,000億円に到達する」という目標に向けて、2016年度は純利益3,500億円を目指すステージです。
伊藤忠は自社の史上最高益を更新し商社の中でトップ争いができる位置にようやく来ましたが、常に生き残りをかけて他商社の一歩先を行くことを意識しています。
ビジネスの面では、2015年に投資したCITIC*という中国最大の国営コングロマリットを活かすチャレンジをしています。主な市場であるアジア・東南アジアなどに入り込み、将来果実が獲れるようにビジネスの種をまいています。
また、伊藤忠が最も強みとしている非資源・生活消費関連分野での「稼ぐ力」の強化にも注力します。2016年9月にファミリーマートと経営統合し発足したユニー・ファミリーマートホールディングス、2012年に買収したドールなどは日本だけでなくアジアを中心にグローバルに展開をしています。既存のビジネスと繋げて、投資先のビジネスをどう活かし、新たなビジネスへと繋げていくか、そこに商社ビジネスの醍醐味があると考えています。
*CITIC:中国最大手の政府系コングロマリット。銀行業と証券業を筆頭に、資源・エネルギー・不動産・インフラ等、極めて幅広い産業で市場を牽引する位置にある企業集団。2015年1月20日付で、伊藤忠商事、CPグループと3社での戦略的業務・資本提携を発表。計1兆2,040億円の投資を決めている
ーー伊藤忠は、食料・繊維をはじめ自動車・生活資材・化学品などの非資源領域に強いとのことですが、資源ビジネスだけに依存しないメリットはなんでしょうか。
西川:資源ビジネスは国際情勢に左右されやすい性質を持ちますが、非資源は国際情勢に影響を受けにくく、安定してビジネスができるメリットがあります。かつ、人口がこれからどんどん増えていく途上国全体に大きなチャンスがあります。そのチャンスをつかむために、伊藤忠は今動いています。
他商社に絶対無理と言われた「働き方改革」も実現。残業禁止・朝型シフトへの改革
ーー伊藤忠はトップに立ってなお、挑戦を続けられているんですね。働き方の面でも他社の一歩先を行く制度の導入などを行われていますが、特に話題になった「朝型勤務制度」について教えてください。
西川:「朝型勤務制度」は2013年から始めて3年ほどになりますが、「働き方改革」の成功事例として注目をいただいていますね。朝型勤務制度は、「夜残業するのをやめて、朝型に切り替えましょう」というものです。
具体的には、
・20時以降の残業は原則禁止
・22時以降の残業は禁止
・5〜8時に勤務した社員にはインセンティブを与える (※始業定時は朝9時)
といった制度です。
インセンティブには2つあって、1つは割増賃金で朝5〜9時の間に働くと時間単価の1.5倍の残業代が支払われます。もう1つは軽食の配布です。朝8時までに出社している社員は、食堂でサンドイッチ・スープ・ジュース・コーヒーなど、計3点まで無料で選んで取ることができ、それを持ってオフィスに向かいます。
ーー朝型勤務を実施する前後ではどんな変化がありましたか。
西川:生産性の向上やコスト削減という目に見える結果が出ています。残業時間は15%ほど減少しました。その内訳を見ると、
・20時以降の残業は、導入前が残業時間全体の30%ほどだったのに対し、現在は5%ほどに減少
・22時以降の残業がほぼ0%に減少
といった具合です。もともと商社の仕事は夜型。他社さんからも「朝型勤務は絶対無理だろう」と言われていましたが、今も続いていますし、目に見えて成果も出ています。
こうした活動は、世の中からも高く評価をされており、伊藤忠の企業価値を高めることにつながっていると感じています。
他社より先に、世の中より先に。存在意義を示すため「健康経営」への挑戦

ーーとはいえ、導入当初は現場からの反発も大きかったのではないでしょうか。
西川:そうですね。何か変化させるときには必ずネガティブな反応もあります。「働き方改革」や「健康経営」は、当時の伊藤忠の常識からすると「できるわけないだろう」というのが現場社員の感覚としてあったと思います。ですが、導入してみるとうまく稼働できた。この会社はやはり強いなと感じましたね。一度決めたらとことん実現に向かって動く。その力には自分でも驚きました。
ーーこうした新しい社員向けの施策について、今後はどういった挑戦を予定されていますか。
西川:去年から「健康経営」というのを対外的にも打ち出しています。5大商社の中で、伊藤忠商事の社員数は最も少ないんです。それでいて純利益トップを伺う位置にきている。ですから、いかに最少の人数で最大の成果を発揮していくかを考えていかなければならないんです。
朝型勤務制度の導入は、長時間労働の是正を通じた社員の健康力増強も狙いとしています。2016年6月には健康経営に対する考え方を「伊藤忠健康経営憲章」として明文化し、「食事」「運動」サポート体制や職場環境の整備を通じた社員の活力向上を積極的に推進していくことにしています。
一番新しい取り組みとしては、2017年1月から若手社員にウェアラブル端末を配布して、独自開発したスマホのアプリと連動させ食事や健康指導ができるプログラムを始めました。自律的に自身の健康管理ができる社員が増えることで、心身ともにエネルギーに満ちた状態で高いパフォーマンスを上げてくれるようになることを期待しています。ほら、私も右腕につけて率先していますよ(笑)。他社より先にやる。常に「世の中より先」をやることでマーケットの中で存在意義を示すことができるのです。
入社6年目で突然15人の部下を持つ。伊藤忠では「よくあること」
ーー伊藤忠はビジネスの進め方においても働く制度においても、一歩先を行くことを大切にされているんですね。続いては、西川さんご自身のキャリアのお話を通して伊藤忠のリアルをお伺いしたいです。今までで一番印象に残っている仕事を教えてください。
西川:入社6年目で突然15人の部下を持ったことですね。その時はとても大変でした。当時は、伊藤忠人事サービス(当時)という事業会社のマネージャーポジションにいました。入社6~7年で事業会社のマネージャーを経験するのは伊藤忠ではよくあることです。
ーーその若さで15人の部下を持つのは大変じゃないですか。
西川:94年に入社して3年間は人事部で給与・年金・社会保険などの仕事に携わり、その後2年間研修生として香港での業務経験を積んだ後、6年目でマネージャーに就任しました。若手で大した経験もない中でさまざまな意思決定を迫られ、常にいっぱいいっぱいの状態でした(笑)。
ーーその当時はマネージャーとしてどんな業務を担当されていたのでしょうか。
西川:担当したのは700~800人いる海外駐在員のケアや制度の企画を担当するセクションでした。その時は、ちょうど商社業界全体がバブル崩壊などの影響もありとても厳しい時期で、海外の人事制度を抜本的に見直したり、SAP*の業務管理ソフトの導入を進めたりと、マネージだけでなく「新しく作る」ことを必要とされる時期でした。
中でもいちばん忙しかった1年間は、今では考えられないですが、毎日タクシーで帰り始発で出社するほど。当時はまだ若かったので、若さ特有の勢いでなんとか乗り切れました。この時期にチームで進めることの大切さを身に染みて学びました。
*SAP:世界130ヶ国以上に拠点を持つドイツのソフトウェアメーカー
ドバイでもロンドンでも、伊藤忠の私は30代。他社で私と同じポジションは4、50代

ーー西川さんのキャリアはまさに若手社員が積極登用された例だと思いますが、若手活用に力を入れているのは伊藤忠だけではありません。他社と比較して、若手に任せる環境が伊藤忠には多くあるといえるのでしょうか。
西川:あると思います。伊藤忠は少数精鋭をよしとする企業なので、その分早いうちから責任持って仕事をしてもらわないと会社が回りません。そのため、伊藤忠はチャレンジする人材を育てることを大切にしています。
私自身、「任された若手」として、中近東の拠点であるドバイ、ヨーロッパ・アフリカ地域の拠点であるロンドンに勤務し、地域の人事戦略などを手掛けました。大抵どこに行っても私が断トツに若かったんです。同業他社の皆さんが4、50代で就くポジションを、私だけ30代でやっていた。もしかしたら仕事のレベルも劣っていたかもしれませんが、「任せてもらっている」という気概を持っていろいろな経験をさせてもらいました。
普遍的に必要なのは「相手を受け入れる」スキル
ーー伊藤忠は若手活用に力を入れていますよね。そうして「任された若手」として活躍された西川さんの海外勤務経験について教えてください。例えばドバイに赴任した際にどんな「海外ならではの苦労」がありましたか。
西川:私がドバイに赴任していた時期は、イラク戦争が始まり中東から日本人が一斉に引き上げ、その後戦後復興でバブルになっていった頃でした。全くの異文化の中で人事の責任を負う仕事でしたので、どのように立ち振る舞えばいいのかをすごく考えさせられました。
当たり前ですが、海外では考え方や宗教・人種も違います。それぞれの地域・人・文化と向き合い相手を受け入れることから始まります。これは、ドバイだけでなくロンドンなど他の赴任地でも同じでした。地域に関係なく普遍的に必要なスキルだと思います。
ーー具体的に、現場ではどう立ち振る舞われたのですか。
西川:人事は、社内のさまざまな人と話す機会を作ることができます。その立場を生かして赴任中にはその地域にいるスタッフ全員にインタビューを行っていました。そうすることで初めて、日本人と現地メンバー、現地メンバー同士の関係などの全体像が見えてきました。
ーー海外経験も豊富な西川さんは、海外でビジネスを展開していく上で何が重要だと思いますか。
西川:海外にはさまざまなビジネスがありますが、政治や国際情勢の動きや成長のタイミングを逃さずにチャンスをつかむことが重要だと思います。例えば、中近東はエネルギーや資源関係が大きなビジネスですが、紛争が起こるとビジネスにも影響が出ます。そのため、ローカルのパートナーとなる政府高官や地元の有力企業とパートナーシップやつながりを持つことが重要でした。場所や時期によって重要なものはやはり変わりますね。
「個の力」が集まることで、面白い組織が作られる

ーー海外勤務ではさまざまなことを学ばれたんですね。続いては、総合商社各社を比較する学生が気になるトピックについて教えてください。西川さんが思う「伊藤忠らしさ」とはなんでしょうか。
西川:伊藤忠の人間と話していると「個の力」「挑戦」というキーワードがよく出てきます。会社のカルチャーはその歴史で決まりますが、伊藤忠は「新しいことに挑戦する」「現場に行く」「個の力を強くする」ということなしには生き残れなかった会社です。それが「伊藤忠らしさ」、つまり伊藤忠の文化だと思います。
私が6年目でマネージャーになった時も、当時の上司が「俺が全部責任をとるから、好きにやれ」と言ってくれたことが励みになりました。
ーー「個の力」と聞くと一匹狼の集まりのようなイメージにも聞こえますが、やはりそういう社員が多いのでしょうか。
西川:そうですね。社員の個性は非常に多様で、尖っている人もたくさんいます。ただ、総じて会社のことが好きなんです。社員への満足度調査をすると、他社と比較してもかなり高い数字が出ます。社員同士はもちろん、会社を辞めた人たちともよく集まったりしています。これが伊藤忠の特徴かなと個人的には思います。会社に属しているかは関係なく、みんな伊藤忠が面白いと思っているんでしょうね。
商社が世の中で一番良い会社なんてことはない。ただ、商社は面白い
ーー採用ではどういった部分を見ていますか。
西川:採用にあたっては、その人の本質が出る部分をどう見つけるか、その人の個性をつくってきたシーンをどれだけ見られるかを大切にしたいと思っています。今年もたくさんの学生に会えることを楽しみにしています。
ーー最後に、ワンキャリアを見ている多くの就活生へのメッセージをお願いします。
西川:商社が世の中で1番良い会社だなんて、もちろん全く思っていません。学生さんには、自分に合う仕事を見つけてほしいと思います。
ただ、商社は面白いです。ある意味、なんの制限なしに、何をやってもいい。人とモノがある限り必ずビジネスがあるので、無限に可能性があります。時代に合わせて変えることもできます。いくらでもチャンスはあるので、そういった環境が合う人にはとても良い職場だと思います。
ーー今日はありがとうございました。
ワンキャリ編集部からのコメント
伊藤忠商事の西川さんへのインタビュー、いかがでしたか。皆さんが少しでも総合商社、また伊藤忠商事への理解を深めるきっかけとなっていれば幸いです。商社業界や伊藤忠商事への理解をさらに深めたい方はこちらをご覧ください。
・過去の伊藤忠商事公式インタビュー
昨年公開した本記事では、今回は語られなかった以下の内容についても触れられています。
1. CITICへの1.2兆円の投資も、現場社員からの提案がきっかけ
2.「商売をする商人」という形で豊かさを世界各国へ届けることが使命
3. 伊藤忠なら「配属先決め採用」で、配属リスク回避も可能
・「商社人事インタビュー2017」その他の記事はこちら