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「パラリンピックは人類の未来」人間の身体のあり方を提示する一つの競技になり得る

2017年5月4日(木) | 7,701 views

ワンキャリアが総力をかけて行う「WORLD5特集」。

世界経済フォーラムに認定されたYGLの5名と、コーディネーター1名が登場します。


株式会社Xiborg(サイボーグ)は、日本の豊洲に本社を置く「義足を作る会社」だ。

だが、彼らが目指すものは単なる「義足の生産」ではない。その先の未来だ。


世界の未来を変えようとするエンジニアの話を聞いてみてほしい。

「パラリンピックは人類の未来だ」

遠藤謙:

株式会社Xiborg代表取締役。慶應義塾大学修士。マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカニクスグループ博士。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー、D-Legの代表、See-Dの代表も務める。2012年、Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベータ35人に選出。2014年ダボス会議Young Global Leadersに選出。


KEN: 遠藤さんは、今、義足エンジニアとして、パラリンピックの選手が「普通の選手よりも高いパフォーマンスを出すこと」を目標に置かれていますが、そもそも、そう思うようになったきっかけはありますか?


遠藤:私がまだ留学中だった2008年に、パラリンピックは「人類の未来だ」と思うキッカケがあったからです。具体的には『オスカー・ピストリウス』という選手の走りを見たときです。

彼は義足をつけたランナーですが、オリンピックに出ようとしていました。でも裁判で「義足はずるい」となった。その時、偶然彼の走りを見る機会があり、障害者に対して今までなかった感情を抱いた。今までは、障害者はかわいそう、助けてあげなきゃというイメージが強かった。

でも彼に関しては違った。とてつもなくカッコよかった。自分の手の届かない「凄い領域にいる人なんだ」と感じた。あまりにも早いので。この感覚は障害者・健常者関係なく、人間のパフォーマンスが人智の及ばないところに届き得る、テクノロジーと身体の融合の新しい一つの未来だと感じました。今までの「リハビリの延長」とは違う、「人類の未来」。パラリンピックは、競技として楽しいだけではなく、人間の身体のあり方を提示する一つの競技になり得る。そう思ったのがキッカケです。

義足は将来、メガネになる

KEN:冒頭から情熱的なメッセージですね。

そうすると今後、日常の中での「義足のイメージ」も変わってくるということですよね? なぜならオリンピックなどの「祭典」は常に、「文化を先導する立場」にあって、歴史を見ても、先に「祭典」が未来を見せ、日常がそれに追いつくということを繰り返してきました。

20年後、「義足」はどんなものになっていると思いますか?


遠藤:方向性はいくつかあると思いますが、目立たなくなっていくと思います。

パラリンピックに関しては、より速く走るための技術が研究されていくと思いますが、義足は日常生活で使うことがほとんどです。今は、義足の人が街中を歩いていると目立ちます。見た目もそうですし、一番は歩き方が変だからです。例えば、階段を一歩ずつしか上れないなどです。現在はそのような、ほんの些細なことが他人と違うことで、義足使用者は目立っています。

一方、これから求められているのは、メタファーで例えると「メガネのような存在」です。メガネは、目が悪い人が視力を良くするために使用しますが、すでに社会に馴染んでいるので、メガネ使用者が街中を歩いていてもわざわざ見る人はいません。義足も同じような方向に向かっていきます。歩き方も健常者と全く同じで、街中で義足の人がいても気付かない。もしくは、良く見たら義足だけど、誰も気にしない。そのように目立たないものになっていくと思います。


KEN(聞き手):

新卒で博報堂経営企画局・グループ経理財務局にて中期経営計画推進・M&A・組織改変業務を経験。米国・台湾への留学を経て、ボストン コンサルティング グループで勤務。その後、ONE CAREERにジョインし、執行役員CMOに就任。一方で、23歳の頃から日本シナリオ作家協会にて「ストロベリーナイト」「トリック」「恋空」等を手掛けたプロの脚本家に従事。『ゴールドマンサックスを選ぶ理由が僕には見当たらなかった』『早期内定のトリセツ(日本経済新聞社/寄稿)』など。

「速い」。それがスポーツの本質。本質を貫くことが、先決。

KEN:義足は「メガネ」になる、面白いメタファーです。では、その未来を目指す上で、現時点でのボトルネックになり得るものはありますか? 


遠藤:ボトルネックはないです。いずれ抜きます。時間は掛かりますが。


KEN:言い切りますね。では、あとは「どのタイミングで、義足はメガネになるのか」という時期の問題だけで、遠藤さんがやっていることは「その未来の実現を前倒しにすること」ですね。具体的に、御社が取り組んでいる施策はありますか。


遠藤:まずは本質を貫くことです。具体的には、速い人をもっと速くすること。そのためのよりよい義足とし、より質のいいトレーニングを提供することです。速ければみんな注目するようになる。それがスポーツの本質。まず、競技を面白くする。つまりトップを押し上げることによって、間接的ではあるが底上げを図る。これが大事です。

トップをあげた後は、底上げ。

KEN:これはビジネスも一緒ですね。まずは、人々が心から憧れる「価値の本質」を最大化すると。では、「今はできていないけど、今後やりたいこと」はありますか?


遠藤:ちょっと走ってみたいという人のニーズを満たすことです。これからやりたいのは、義足や車椅子の人に加えて、競技をするに至らなくても、「ちょっと体験してみたい」という環境をつくること。技師のところに行って買って着けてもらって、競技場に行って走る。これらは一つ一つが敷居が高い。これがXiborgの提供する空間で全部できれば、敷居が下がる。Xiborgのラボには、トラックも研究所も揃っているので、それができる。これが底上げになると思います。

「自分の感覚以外を取り入れる」、全てのクリエイターに必要な要素をどう身に付けるか。

KEN:遠藤さんの話を聞いていると、「エンジニア」の側面に加えて、「マーケッター」の視点も感じます。つまり、作る側の視点だけではなく、使う側の視点も強烈に持っている。両軸を持つエンジニアは稀有です。

遠藤さんが「使う側の感覚も持つようになったキッカケ」は、何かあるのでしょうか。


遠藤:留学中の経験が大きいと思います。私はマサチューセッツ工科大学でも義足を研究していました。そこで、自分では非常に出来の良いものができたと思い、実際に試してもらうと、「何かが違う。しっくりこない」と言われてしまいました。これを繰り返しました。その時、「自分は義足を経験できない。分からない部分がどうしても生まれてしまう」ということを強く自覚しました。

その瞬間から、自分の感覚以外のものを、取り入れる癖をつけるようになりました。


KEN:利用者のフィードバックを真摯に受け入れる。その上で「自分の感覚以外を取り入れる」、これはすべてのクリエイターに必要な要素だと感じます。実際に遠藤さんが工夫されていることは何かありますか?


遠藤:一人ひとり感覚が違うので、できるだけ大勢から吸収することです。

そういった「個体差を知ること」は、今後もより重要になります。今までは合理的なものが優先されてきたので、ビジネスに関しては大量生産・大量消費で、平均的な人がお金を払って買うものが流行ってきました。同時に、平均から外れる人を切り捨ててきた社会ともいえます。その後、社会が成熟してきたため、人々は幸福度を求めるようになりました。そのため、切り捨てるのではなく、多様性をビジネスにうまく結びつけ、みんなが儲けながら幸福度を得られるようなものづくりが、これからの新しいものづくりの形だと思っています。義足は一人一人違います。「個体差」を反映させているので、新しいものづくりだといえます。

パラリンピックだろうがなんだろうが、アスリート。結果出せなきゃクビ

KEN:これからは、個体差を表現した「エンジニア」の時代になる。とても興味深いコンセプトです。そうすると、恐らく「テクノロジーを使う人々の意識」も変わってきますよね。

実際にXiborgの技術を駆使して、それまではサポートを受ける側だと認識していた人が変わっていったエピソードってありますか?


遠藤:あります。特にアスリートの自覚の変化をすごく感じます。

率直にいうと、2年前まで、日本のパラアスリートはアスリートじゃなかった。独学でやってきて、たまたま速いからパラリンピックに出場しているレベルだった人が少なからずいたと思います。

でもオリンピックのアスリートはそんなレベルじゃない。ものすごく自分を追い込み、お金はないけど工夫して、食事も考えるし、筋トレもここまでやるのかというくらいやる。

パラアスリートでそこまでやっている人は少なかった。でも今は、パラアスリートは、世界のレベルが上がってきて、勝ちたいと思うようになって、自分の今までの練習じゃ絶対に勝てないと思うようになって、ものすごく自分を追い込むようになってきた。それは健常者・障害者関係ない。義足を履こうがなんだろうが、このメニューをこなして「強くなる」という意思を強く持ち始めた。スポーツは分かりやすい。そういった自覚の変化があります。


KEN:レベルが上がることでアスリートが「プロに変化してきた」と。具体的にこの人、すごいなと思った選手はいますか?


遠藤:やはり佐藤圭太選手です。

リオ大会に出ていましたが、彼は「リオは挫折だ」と言っている。世界との差が開いてしまったと。今までは働いていて、夜に練習していた。甘えがあった。でも今は、アスリートとしてトヨタ自動車に雇用され、結果を求められるようになった。パラリンピックだろうがなんだろうがアスリート。結果出せなきゃクビですよとなった。すごい。


——後編:「最短距離で世界一になるため、根回しなど面倒なことは不要だ。」

圧倒的な視座の高さを持つがゆえに発生する「衝突」。それをどうやって乗り越えるかについて伺います。

「WORLD5特集」の公開スケジュール

ライフネット生命社長 岩瀬大輔 
 ・99%の人は天職に出会えていない。でも、それでもいいと思う
 ・パワポで世界は変わらない。彼がハーバードを経て起業した理由 宇宙飛行士 山崎直子 
 ・地球から「8分30秒」の職場。それが宇宙
 ・苦しい業務も、全てが楽しい。きっと、それが「天職」
Xiborg代表/義足エンジニア 遠藤謙
 ・「パラリンピックは人類の未来」
 ・最短距離で世界一になるため、根回しなど面倒なことは不要だ
国連出身・コペルニクCEO 中村俊裕
 ・官最高峰の国連を経て、彼が「コペルニク」を創立した理由
 ・今、国連に入るってどうなんですか?就職先としての「国連のリアル」
投資銀行出身・ビズリーチCEO 南壮一郎  ・「世の中にインパクトを与える事業を創りたい」南氏の天職と理想のリーダー像に迫る  ・自分のことを信じよう!就活生に贈るメッセージとは?
世界経済フォーラム出身/コーディネター 長尾俊介
 ・「MBAで流行ってる業界には行かないこと」就活生へメッセージ
 ・僕らは多分、100歳まで働くことになる

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北野唯我(KEN)

北野 唯我(きたの ゆいが):株式会社ワンキャリア 取締役CSO/作家
新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局勤務。米国・台湾留学後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役として戦略・採用・広報部門を統括。2021年10月、同社は東京証券取引所マザーズ市場に上場。作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が20万部、他に『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)などで、著者累計40万部。

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