ワンキャリアが総力をかけて行う「WORLD5特集」。
世界経済フォーラムに認定されたYGLの5名と、コーディネーター1名が登場します。
昨日に続いて山崎直子さんへのインタビューをお届けします。前編では宇宙飛行士として働く面白さを聞いた。後半は山崎直子さんの「キャリア論」を深掘りしていく。
ーー前編「地球から8分30秒の職場。人類共通の資産を築く、宇宙の仕事」はこちら
苦しい業務も全てが楽しい、それが「天職」
山崎直子:
宇宙飛行士。東京大学工学部航空学科卒業。同大学航空宇宙工学専攻修士課程修了。NASDA(現JAXA)にエンジニアとして勤務後、宇宙飛行士に認定。スペースシャトル「ディスカバリー号」によるSTS-131(19A)ミッションのミッションスペシャリスト(MS)として参加。ロードマスター(物資移送責任者)としてミッションを遂行。2011年にJAXAを退職。『夢をつなぐ 宇宙飛行士・山崎直子の四〇八八日 (角川文庫)』『宇宙飛行士になる勉強法』『何とかなるさ!』など。
KEN:前半は「宇宙飛行士」の仕事の楽しさについて伺いました。後半は「キャリア論」について伺います。山崎さんは、天職というものがあると思いますか?
山崎:そうですね。天職も、最初から決まっているわけではないと思うのですが、子どもの時に興味を持っていたものとか、途中途中でいろいろな人と出会う中で興味を持っていくものというのは、やはりあると思います。
KEN:では、現時点において、宇宙飛行士という仕事は天職だったと思われますか?
山崎:それはそうですね。というのも、訓練などの大変な時にそれが苦じゃないと感じたのは大きなことだなと思います。仕事ってどうしてもいい面ばかりじゃなくて、苦しい場面も多々あると思うし、自分の思い通りにならないことってきっとあると思うのですが、その時に「それでもやっていて楽しいな、好きだな」と思える仕事が天職なんじゃないかな、と思います。
KEN:宇宙飛行士の仕事は、壮絶ですよね。常に死と隣合わせです。実際、NASAでの訓練開始時と宇宙に行く前にに、遺書も書いたと聞きました。もちろん、ロケットが打ち上げた時に、無事であるとは限らない。そんな経験を通じても「天職だった」と思えるのは強いですね。
KEN(聞き手):
新卒で博報堂経営企画局・グループ経理財務局にて中期経営計画推進・M&A・組織改変業務を経験。米国・台湾への留学を経て、ボストン コンサルティング グループで勤務。その後、ONE CAREERにジョインし、執行役員CMOに就任。一方で、23歳の頃から日本シナリオ作家協会にて「ストロベリーナイト」「トリック」「恋空」等を手掛けたプロの脚本家に従事。『ゴールドマンサックスを選ぶ理由が僕には見当たらなかった』『早期内定のトリセツ(日本経済新聞社/寄稿)』など。
就活は「どの道を歩くかよりも、縁あって選んだ道をどう歩くかの方が重要」
KEN:一方で私が学生だったら思うのが、「そんな仕事ってどうやって見つければいいの?」ということです。山崎さんは今、お子さんがいらっしゃいますが、もしお子様が就職活動をしているとすると、どのようなアドバイスをされますか?
山崎:いろいろな会社のパンフレットを見たり、会社のホームページを見るだけでは分からないことってあると思うので、まずは自分の足で見学をしたり、人にあったりして、リサーチをしてほしいとアドバイスすると思います。
KEN:行ってみて、会う人会う人みんな魅力的だなーと思ってしまう場合もあると思うんですけど、その場合はどうすれば良いのでしょうか。その逆も含めてよくあることなんじゃないかなと思います。
山崎:将来的にはできるかもしれませんが、現時点で最初から2つの企業に入って兼業できるわけではないので、私はそこはある意味ご縁の世界、「えいや」の世界だと思っています。人生では何か1つを選ばなければいけない機会ってどうしてもあると思うんですけど、私はどの道を歩くかよりも、縁あって選んだ道をどう歩くかの方が重要だと思っています。
What(何を選ぶか)は、自分だけで決められないことも多く、必ずしも希望通りに行くとは限りません。ですがHow(どうやってその道を歩むか)の部分は、自分でコントロール出来ます。自分で進む道なのだから、大切に進んでいってほしいなと思います。
「背中を見せて教える」それが協力を得られるリーダー
KEN:仕事って究極的にいうと「人から必要とされること」だと思うのですが、山崎さんはこれまで魅力的な方とたくさん会ってきた中で「この人のために働きたい」と思えた人っていますか。つまり、理想の「リーダー」です。
山崎:やはり、宇宙飛行士の中で出会ってきたリーダーでいうと、一緒に飛行をしたアラン・G・ポンデクスター船長は一緒に訓練する機会は多かったので、学ぶことは多かったですね。彼は海軍出身の屈強な人で、スキンヘッドの強面で、一見近寄りがたい感じの人なんですが、いろいろな気遣いができる方でした。野外で体力を使うようなキャンプで訓練をしている時には真っ先に、「もう疲れたんだけど」「俺筋肉痛なんだよね」と言ってくれるんですね。そうすると、こちらも「疲れたね、休憩しようか」と言いやすい雰囲気になるんですよね。その時は「雰囲気を和らげてくれているなー」と思いました。
KEN:なるほど。他にはいらっしゃいますか?
山崎:もう一人は、やはり宇宙飛行士の方で、バーバラ・モーガンさんという女性の宇宙飛行士の方です。この方は1986年にチャレンジャー号の事故で犠牲になったマコーリフという女性教師のバックアップをしていたんですね。それでその事故があった後、12年後に再びNASAに戻って、宇宙飛行士訓練生として参加するようになっていろいろ苦労された方だったんですね。
訓練やサポート業務の中で、バーバラさんからいろいろ学ぶことがありました。会議に出るときとか、クルーレビューをするときとか、一緒に訓練をするときとか。その時に、やはりすごく自分自身苦労してきた側面や、長年苦労してきた側面があるからなのか、一つ一つ焦らず奢らず、分からないところはしっかり分からないと明かして、「私も若くないから教えて」と発信できる人だった。かつ、きちんと決断を下す時には、ここは違う、とはっきり言ってくれた。そんな一つ一つの態度から学ぶことは多かったですね。
リーダーである以上、「目標は見失わないこと」が必須
KEN:2人の例があったと思うのですが、理想のリーダーの共通点をあえて挙げるとしたら、どういうところにあると思われますか? 2人の共通点だと、極めて優秀であるが「自然なところ」というのはあるのかなと思ったのですが。
山崎:まずリーダーである以上は「目標は見失わないこと」これは外せない要件だと思います。それも、短期的なミッションの成功だけではなく、長い目で見てそれが次に繋がる、人類の共通の資産として引き継いで行くという壮大な目標の元で、だから私たちは今しっかりやるんだぞ、といえる人なんだろうなと。言い方は人それぞれで、厳しく言う人もいれば、自然に言う人もいる。
でも「思いを表明し共有する」という点はリーダーに共通していたのかなと思います。
KEN:私はたまに「目標を語る技術」と、「協力を得る技術」って別だな、と思う時があるんですね。リーダーの中にも、夢を語った上で、人から協力される力ってかなり重要なのかなと思うんですよね。そこで、山崎さんなりに人から協力を得るコツみたいなものがあれば教えていただけますか。
山崎:やはり自分から動かないとダメかなと思います。私の場合は宇宙飛行士になる前にJAXAでエンジニアとして働いていて、それこそ新入社員の時代にペーペーの時代にいろいろな部署を回りました。「こういうプロジェクトをやるので、こういう人が何人必要で、こういう予算があって、持ち回りで……」という交渉や下積みを多々やった経験があったので、いろいろな部署の人が分かって顔が見えました。
それで実際に自分が宇宙に行くことになり、宇宙船内衣服の公募をやろうとした時も、「じゃあ一緒にやろうか」と言ってくださる方がいたことはとてもありがたかった。なので、仕事でも仕事外でも、「自分も動く」という姿を見せることは重要なのかなと思っています。
例えば、国際宇宙ステーションの船長をされた若田光一さんも、自分自身も訓練をしていく過程で、例えばロボットアームの訓練で習ったことを、サマリーシートといわれる紙にまとめてわかりやすく書いて、仲間の宇宙飛行士に配っていた。それを私も見せてもらったのですが、とても分かり易かった。このように、自分から動いて仲間の役に立つ、必要なことだけじゃなくてプラスアルファで動く、そうした背中を見せることができれば、メンバーからも「協力しようか」という気持ちが湧くのではないかなと思います。
KEN:「自分も動く」、シンプルですが、ビジネスの世界でも使えそうな技術ですね。
地球単位で「ベーシック・インカム」という着想
KEN:話を変えますが、私はよく、「自分が内閣総理大臣なら、何するかな?」と妄想します。壮大な質問ですが、山崎さんが今もし日本の内閣総理大臣になったら、何をされますか?
山崎:実際にやるのは難しそうですが、教育費など長期的な視点に立った人材育成にもっと力を入れられたらと思いますし、予算配分は大切ですよね。
でも何か1つに絞るとしたら……概念的には、ベーシック・インカム*かなと思います。現在の社会保障にとらわれず、一度まっさらにした状態で、年齢で画一的に線引きをするのではなく、しかもできるだけお金の配布ではない形で、最低限の生活保障に必要なインフラが行き渡るようにできたらいいと。働ける人は年齢に限らず働き、資産を持つ人はそれを活用し、若くても困っている人は保障をする。そうすることで、失敗を恐れずチャレンジしやすい環境にする。そうした方向性があれば、そのために必要なことも続いてくるのではと。働き方改革や労働生産性の向上、シェアリングエコノミーの推進、将来的には、宇宙から地球全域の通信を担ったり、太陽光のエネルギーなどを提供して、生活に必要なインフラが世界中にひと通り行き渡る世の中になればいいなと思いますね。
*ベーシック・インカム:最低限所得保障。すべての個人に生活に最低限必要な所得を給付するという社会政策の構想
KEN:すごいですね。地球という単位でベーシック・インカムを導入するということですか。太陽光や酸素という既存のリソースを財源にすると。めちゃくちゃ面白い発想です。
山崎:そうですね。ベーシック・インカムというとお金の配布のイメージが強いですが、資源の再分配とインフラの形で充実できるのがいいと思っています。それを地球規模で広げるのに、うまく宇宙開発を含め、科学技術も使えればいいなと。最低限の生活保障があっても、人の役に立つことが究極の幸せだと思うので、天職を持ち働きたい人というのはいなくならないでしょう。そういう人々が働くことで経済活動があり、それがうまくできない人にも保障をして、また再チャレンジのチャンスがつかめるようにできればいいのかなと思います。もっとも口で言うのは容易く、実行は難しいことも承知しているのですが。
KEN:面白いですね。山崎さんと話していると、ベースラインの考えには、持続可能な社会っていうものがすごくあるのかなと感じるのですが、やはり大きいのでしょうか。
山崎:大きいですね。環境だけではなく予算・人材などいろいろなことを含めた持続可能な社会にしていかなければいけないんだろうなとは思います。していけたらいいなと思います。
「自分はこういう人なんだ」というのを見つけてほしい
KEN:最後ですが、ワンキャリアは新卒採用のメディアです。何万人という就職活動生に向けて、メッセージがあればお願いします。
山崎:そうですね。社会人になることは大きなステップだと思うので、いろいろ悩むことともあると思うのですが、今こうして悩むことって、将来的にすごい役に立ちます。私自身も就活や宇宙飛行士になる際に気をつけていたのが、プロセスを大事にすることでした。
願書一つ書くにしても、志望動機や長所短所を書くときに、「自分はこういう人なんだ」「子供の頃はこういうことを頑張っていたんだな」と振り返り、整理することができる。この回数を重ねるうちに、表面的でなく、もっと深く掘り下げなければ対応できなくなってきます。そういった意味で、極限まで自分が自分に向き合う過程が就活なんじゃないかなと思います。なので当然辛いことや大変なことはあると思うのですが、自分を見つめた経験はどんな職業に進んだとしても生きてくるので、ぜひその過程を大切にして就職活動に取り組んでいただきたいなと思います。
応援しております。
KEN:なるほど、全体を通じて、とても優しいお話が多い印象でした。貴重な時間を頂き、本当にありがとうございました。
「WORLD5特集」の公開スケジュール ライフネット生命社長 岩瀬大輔
・99%の人は天職に出会えていない。でも、それでもいいと思う
・パワポで世界は変わらない。彼がハーバードを経て起業した理由 宇宙飛行士 山崎直子
・地球から「8分30秒」の職場。それが宇宙
・苦しい業務も、全てが楽しい。きっと、それが「天職」
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・「MBAで流行ってる業界には行かないこと」就活生へメッセージ
・僕らは多分、100歳まで働くことになる