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【商社特集:伊藤忠商事】マーケットを動かすのは、伊藤忠パーソンたちの「泥臭さ」と「スマートさ」

商社 インタビュー 企業インタビュー
2019年2月14日(木) | 24,543 views
sponsored by 伊藤忠商事

こんにちは、ワンキャリ編集部です。

ワンキャリアが総力を挙げてお届けする人気企画、総合商社特集。今年は「総合商社の現場力」と題し、第一線で輝く若手社員に焦点を当ててお送りします。現場で活躍する商社パーソンは、魅力的な仕事に携わる一方、多忙を極めるためOB・OG訪問が難しいのが実情です。インタビューを通して、普段なかなか知ることができない総合商社のリアルと、大義を持って働く商社パーソンたちの気概を味わってください。

今回は伊藤忠商事の現場力に迫ります。2007年入社、機械カンパニー所属の吉岡直紀(よしおか なおき)さんにお話を伺いました。

<伊藤忠商事の「現場力」 押さえるポイントはここ!>
・経営に必要なのは机上の空論ではなく、足で集めた生の声
・「商社=体育会系」のイメージは過去のもの
・配属リスクは「商社の本質」を理解できれば怖くない
「総合商社」特集ラインアップ
住友商事/伊藤忠商事/三菱商事/三井物産/丸紅/双日

総合商社だからできること。経営に効くのは、足で稼いだ生の声

──今日はよろしくお願いします。機械カンパニーで自動車販売戦略に従事し、南アフリカ・ヨハネスブルグへの駐在も経験している吉岡さん。「商社の現場ならではの仕事」を感じたエピソードを教えてください。


吉岡:ヨハネスブルグに駐在したときに、情報を「足で稼ぐ」大切さを学びました。今までリサーチャー気質だった私でしたが、机上のデータだけでは、市場の動きやユーザーニーズについて、経営判断に足るレベルでは把握できないことを痛感したのです。

■吉岡 直紀(よしおか なおき)さんのプロフィール 

2007年:伊藤忠商事入社、機械カンパニー 自動車第二部 中近東・アフリカ課配属
2008年:自動車第二部 自動車第一課へ異動
2009年:語学・実務の研修のためフランスへ
2011年:海外実習生として南アフリカ・ヨハネスブルグに駐在
2013年:自動車第二部 自動車第一課に帰任、7月 に自動車事業推進部 ファイナンス事業課へ異動
2014年:東京センチュリーリース(株)(現:東京センチュリー(株))に出向
2016年4月:いすゞビジネス第一部 いすゞ第一課(北アフリカ担当)へ異動、現職


──どういうことか、詳しく伺えますか?


吉岡:はい。前提として、南アフリカ共和国(以下、「南ア」)は、伊藤忠商事の自動車ビジネスにおいて非常に重要なマーケットです。その中でもマツダの南ア向け輸出ビジネスは歴史のある商売で、ここでわれわれは、マツダ車の販売をサポートしています。私が駐在した2011年当時、マツダとフォード・モーター(以下、フォード)は資本提携を行っていました。しかし、リーマンショック以降、経営が悪化したフォードはマツダへの出資額を徐々に減らしており、両社の提携関係が薄まりました。南アでは、フォード車とマツダ車が同じ販売チャネルで売られていましたが、マツダ車の販売は苦戦しており、「マツダをフォードから独立させるべきではないか?」との考えも出てきていました。


──最終的に、マツダとフォードは2015年11月、36年間に亘る資本提携を解消していますね。


吉岡:私が駐在時に携わっていたのが、まさにこの提携解消に関わる業務でした。経営判断にあたって問われるのは、「フォードと離れても、南アでマツダ車は売れるのか?」ということです。その意思決定に必要な情報を得るために、現地でリサーチを行っていました。例えば、私は各地の自動車販売店(ディーラー)に足を運び、声を集めていきました。ディーラーの担当者に「フォード車とマツダ車、それぞれどのようなセールストークでお客様に紹介しているか」「なぜマツダ車の販売だけが落ちたのか」を1社1社ヒアリングして回ったのです。

マツダの復活劇をもたらしたのは「確信」だった

──現場を飛び回る、まさに「商社の泥臭さ」を感じさせるエピソードです。吉岡さんは、その業務をつらいとは思いませんでしたか?


吉岡:正直、ヨハネスブルグに行くまでは足で稼ぐ「ドサ回り」に意味はあるのか? と思っていました。私は数字やデータからロジックを詰め、物事を考えたいタイプです。スポーツでもスコアブックで戦況を読み解くのが好きなので、根っからの分析家ですね(笑)。


──これまでとは違う仕事のスタイルが求められたのですね。その思いが変わったのはなぜですか?


吉岡:「数字の裏にある真意は、生の声を集めないと分からない」と身に染みて理解したからです。マツダ車の販売台数は数字の上では落ち込んでいたものの、ディーラーへのヒアリングで得た反応からは、フォード主導の販売網や販売戦略によってマツダが割りを食っている実態がつかめました。業績回復の確信をここで得られたんです。

──少し意地悪な質問を。経営判断に必要なリサーチは、コンサルティングファームが得意とするところです。総合商社の社員が集めた情報は、それと何が違うのでしょう?


吉岡:実は、過去にも現地のコンサルに同様のリサーチを依頼したことがありました。しかし、大きな経営判断を行うには、そのアウトプットの内容が不十分であり、改めて伊藤忠商事の現地社員が調査を行ったという経緯があります。コンサルが提供するのは、誰かが持っている情報の収集・分析であり、それは「示唆」もしくは「アドバイス」です。しかし、マーケットを大きく動かす意思決定に必要なのは、「示唆」や「アドバイス」ではなく「確信」です。だからこそ、商流や現場を熟知している伊藤忠商事が最終的には自ら足を使って情報を集める必要がありました。長きに亘って伊藤忠商事が築いてきた信頼関係があるからこそ、ディーラーも本音を伝えてくれたのだと思います。


──実際にマツダは資本提携を解消した後、アフリカでの販売台数を回復させています。まさに確信した通りの復活劇ですね。

「体育会系が多い」イメージは過去のもの

──就活生や世間一般のイメージとして、「商社パーソンは体育会系が多い」という印象が強いと思います。吉岡さんは、いい意味でそのような雰囲気を感じませんね。そのような説に対して思うところはありますか?


吉岡:少なくとも、今の伊藤忠商事は違うと思います。本音を申し上げると、10年ほど前までは体育会系のカルチャーが強かったかもしれません。しかし、私が入社したタイミングが風土面での過渡期でした。変化のきっかけは、女性社員の増加だと思います。組織構成が変わることで、上層部も「今のままではいけない」と仕事の進め方や雰囲気を変える必要を感じたのではないでしょうか。


──伊藤忠商事といえば、カンパニー制が特徴です。やはり、カンパニーごとに風土の違いはあるのでしょうか?


吉岡:はい、違いはあると思います。相手となるお客様のカルチャーや働き方に影響されている面もあると思いますね。私が所属している機械カンパニーは、データによる裏付けを非常に重視していると感じます。上司への説明や提案の際にも、徹底してファクトや数字を根拠にしています。

商社の本質を知れば、配属リスクは怖くない

──カンパニー制に関連して、配属やその後のキャリア形成についてお聞きします。就活生が総合商社に対して持つ不安として、「配属リスク(※)があり、キャリアに潰しが利かない」という声を聞きます。吉岡さんは、このイメージについてどう思われますか?

(※)配属リスク:新卒で配属される部門によりキャリアパスが左右されるリスクを指す


吉岡:私も、入社前は「配属リスク」が不安でした。しかし、実際に働く中で思うことは、商社の機能は扱う商材に左右されないということです。商社の本質は、単に物を売るのではなく、売るための経路や仕組みを作り出すことにあると思います。バリューチェーンの仕組みや事業経営への向き合い方は、どの業界や商材においても水平展開できます。これを理解してから、「配属リスク」は怖くなくなりました。


──総合商社で得られるスキルについても、見解を伺いたいです。総合商社でのキャリアはコンサルや投資銀行に比べて専門性が身に着きにくく、「潰しの利かない」印象を持つ学生もいるようです。


吉岡:「潰しの利かなさ」は、総合商社に限った話ではないと思います。どんな業界でも、働く中で何らかの専門性が身に着いていき、結果として「その業界のエキスパート」として成長していくものです。ですからコンサルや投資銀行に入ったからといって、特別に潰しの利くスキルや経験を多く得られるわけでもないと思っています。冒頭にお話したエピソードのように、総合商社でも経営判断に必要なリサーチや資料作成は日常的にあります。ビジネス観点やハードスキルの面で、他の業界とそこまで大差がつくとは思いませんね。

商人の仕事は「モノを右から左に流す」ことではない

──そんな吉岡さんが、商社の仕事の本質を学んだ経験についてお聞きしたいです。新人時代に、やりがいや苦労を感じたエピソードを教えてください。


吉岡:入社1〜2年目で担当した船積業務です。アルジェリアのお客様から「消防車424台の入札が取れたため、急いで発注をかけたい」と依頼されたことがあります。当時、アルジェリア向け消防車の年間出荷台数は約1,000台。この時の発注依頼は、その約半数に相当しました。


──市場規模を考えると、1回の発注としては大口ですね。プレッシャーはありませんでしたか?


吉岡:短期間の大量受注に驚きはあったものの、当時の私からすればルーティンワークの一つでした。特に疑問もなく、消防車用に赤くカラーリングした車を発注しました。するとしばらくして、アルジェリアから「入札に失敗したので、注文をキャンセルしてほしい」という連絡が来たのです。本当に焦りました。とにかく急いで発注先に連絡をし、生産をストップしてもらおうとしましたが、時既に遅し。当時の上司や先輩たちに必死で相談したことも覚えています。


──生産が始まっているにもかかわらず、突然の注文キャンセルとは……。肝が冷えますね。


吉岡:車両価格は1台あたり約160万円。ともすれば、億単位の損失と数百台単位の在庫を抱えることになってしまいます。お客様をなんとか説得し、少しずつ車両を引き取ってもらいました。一時的に在庫を抱えることにはなりましたが、何とか損は出さずに乗り切ることができました。


──当時の吉岡さんの苦労が伝わってきます。この経験を通じ、商社パーソンとして、どのようなことを学びましたか?


吉岡:いかなる案件でも「単純に右から左に物を流しているだけではいけない」ということです。商社として取引に介在する以上は、目先の利益を急ぐのではなく、背景に何があるかを常に確認しなければなりません。当時の自分はそれができていませんでした。もう一歩踏み込んで確認ができていれば、このミスは防げたはずです。それ以来、たとえルーティンワークであっても、気の緩みや妥協は一切なくなりました。

伊藤忠商事の面接で評価されたのは、率直な「あるべき論」だった

──時をさかのぼって、学生時代のキャリア選択についてもお聞きします。吉岡さんは伊藤忠商事という狭き門を、なぜ突破することができたと思いますか? 当時の選考を振り返って、教えてください。


吉岡:率直に自分の主張を伝えたからだと思います。私が就活生だった頃は、米国で狂牛病が流行し、牛肉の輸入規制に世間が揺れている時期でした。当時、伊藤忠商事は吉野家に出資していた背景もあり、面接の際にその話題に対して意見を求められたのです。私は消費者の一人として輸入規制を緩和することに納得がいかず、率直に反対の意思を伝えました。

当時は牛丼チェーンが軒並み牛肉の調達に苦心している状況でした。伊藤忠商事としても、輸入規制の緩和に反対する意見は耳が痛かったはずです。それなのに面接官から否定的なコメントは一切なく、「はっきりと自身の意見を言ってもらえて良かった」と言われたのを今でもよく覚えています。


──空気を読んで相手が喜ぶことを言うのではなく、あるべき論を率直に伝えたのですね。


吉岡:はい。不都合な意見も素直に受け入れてくれたことに、「伊藤忠商事にはお互いを尊重した仕事ができる土壌がある」と感じました。もしかすると、その結果として、伊藤忠商事の社員は総じて個性が強いのかもしれません。一見すると普通の人でも、とにかく何らかの一芸や確固とした信念を持っている方が多いですね。こうした個性を尊重する風通しのよい風土が、伊藤忠商事の強みになっていると思います。たとえ困難な局面でも、周囲に惑わされずに自分のスタイルを貫き通す姿勢が経営にも表れているのではないでしょうか。

総合商社で働く醍醐味(だいごみ)は、もがきながら成長を続けること

──最後に、吉岡さんから見た、伊藤忠商事の将来像について伺います。ご自身が取り組んでいる自動車事業は、今後どのような変化を迎えると思いますか?


吉岡:自動車業界では今、日本企業が確固として保ってきた世界におけるプレゼンスが揺らぎつつあります。まだ数字には表れないほどの変化ですが、メーカー・商社ともに強い危機感を覚えているのが現状です。自動車産業の5年後、10年後、20年後を見据えて、人員や資金の割り振りを改めて考えるべき時期が来たと思います。


──モビリティの分野は、この10年で大変革を迎えている分野です。メーカー側が変化を迫られている状況はよく理解できますが、総合商社はどのように変わっていく必要があるのでしょうか?

 

吉岡:総合商社の強みは、他の事業分野との連携です。流通網ひとつをとっても、既存の自動車ビジネスの枠組みだけで考えていてはいけません。世の中の多様なニーズに対応していくために、AIやIoTをはじめとした次世代技術との組み合わせを模索していく必要があります。社員一人ひとりが「既存のビジネスの価値をいかに高めるか」を常に考え、行動し続けねばなりません。


──吉岡さんの言葉から、商社ビジネスの厳しさを感じます。常に変化を迫られているのですね。


吉岡:商社は自社製品を持ちません。それゆえに、新しい付加価値を生み出し続けなければ、いつか尻すぼみになってしまう恐怖があるのです。自動車においては、稼ぎ頭のトレードだけでなく、他の領域においても収益を増やしていかなければ、さらなる成長は難しいでしょう。常に新しいものを生み出すことを楽しめないと、総合商社で働くことに面白みを感じられないのではないでしょうか。社員一人ひとりが知恵を絞り、足を動かして、もがきながら売上や事業の成長を支えているのが、総合商社の実態であり強みだと思います。


──総合商社が業績を伸ばし続けているのは、決して安定した基盤を守っているからではなく、常に攻めの姿勢でいるからなのですね。締めの言葉として、総合商社を目指す就活生にメッセージをお願いします。


吉岡:「素直さ」が全ての基礎だと思います。どれだけ優秀な人でも、一人でできることは限られています。大きな仕事をしたいのなら、どんどん人を巻き込みつつ、特に若いうちはいろいろな人のアドバイスを素直に受け入れる姿勢がないと、成長も成功もありません。就活においても、率直さや素直さが鍵になると思います。情報に惑わされずに、自分の軸をしっかりと持ってください。そして自身にとってベストな判断をするよう、常に心がけてほしいと思います。


──吉岡さん、ありがとうございました。


「総合商社」特集ラインアップ
住友商事/伊藤忠商事/三菱商事/三井物産/丸紅/双日

【インタビュー:めいこ/ライター:スギモトアイ/カメラマン:加川拓磨】

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