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人事という「仕事」をするな、それはただの自己満だ──CCC 松浦×オイシックス・ラ・大地 三浦が語る「経営人事」のキャリア論

経営人事 経営 キャリア インタビュー 人事
2019年8月8日(木) | 20,059 views

採用や労務、人材育成など、これまで企業における「縁の下の力持ち」というイメージが強かった「人事」ですが、最近では、経営に密接に関わる存在として脚光を浴びる機会が増えてきています。


人材市場が流動化しつつある今日、優秀な人材を確保するため、社員や就活生、転職希望者にとって魅力的な組織を作ることが、経営の大きな課題になっているためです。ワンキャリ編集部ではこれまで、経営課題としての組織課題に日々向き合う人事、つまり「経営人事」たちをたびたび取り上げてきました。


今回はワンキャリア 経営企画室 PR Directorの寺口が、経営人事として注目されているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の松浦氏と、オイシックス・ラ・大地の三浦氏をインタビュー。そのキャリアから、人事が目指すべきミッション、そして経営との向き合い方について伺いました。

CCC人事責任者の松浦俊雄 人事のキャリアは「構造改革」から始まった

ワンキャリア 寺口(以下、寺口):今日はよろしくお願いします。いろいろと聞きたいことはあるのですが、まずどのようにして人事になったのか。これまでのキャリアから教えてください。


CCC 松浦(以下、松浦):私の社会人人生が始まったのは1995年です。就活では、父の影響から保険会社や金融の世界を目指し、複数の企業から内定をいただいたのですが、どこか自分が歯車になってしまうような感覚にとらわれ、迷っていました。

そんなときに出会ったのがパチンコ機の開発メーカーでした。偶然出会ったこの会社の人たちが、とにかく魅力的で興味を持ったんです。会社や業界のことを調べてみると、業績は抜群に良いのに評判が良くない。でも業績は良い(顧客価値がある)のだから、何かを変えれば業界全体も変えられるのではないか……と思って飛び込みました。

その会社では、広報やIR、経理、経営企画などさまざまな業務に携わりましたが、紆余曲折(うよきょくせつ)あって、転職先に選んだのがリクルートです。リクルートでは最初、オフィス移転のプロジェクトなどに関わっていましたが、その後人事部門に異動になりました。2014年にCCCに移ってからもずっと人事なので、10年以上やっていることになりますね。

松浦 俊雄(まつうら としお):カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 執行役員 人事部長。早稲田大学法学部卒業。遊技機メーカー、リクルートを経て、2014年より現職。


寺口:人事といってもいろいろな業務がありますよね。どの分野に関わられました?


松浦:リクルート、CCCを通算すれば、採用から教育、企画、組織開発、労務に至るまで幅広く担当してきました。


寺口:なるほど。それだけ長く人事を務めてきた松浦さんに聞いてみたいのですが、人事業務全般を理解するという観点で、いわゆる「一人前」と呼べるまでには、どれくらいかかるものなんですか?


松浦:うーん。「一人前」の定義は難しいですね。所属する会社の規模や一部の工程を外注しているか否か、そして、何よりも人事部門に何が求められているかによって変わってきますので。


寺口:最初に人事に配属されたときの気持ちは覚えていますか?


松浦:僕の人事としてのキャリアは、リーマンショック直後の、いわゆる「構造改革」を担当することから始まりました。最初は、どこから手をつけていいのかすら分からない困惑感と、その一方で、新たなテーマにチャレンジできるワクワク感との2つの思いがありました。


寺口:それ以前は、人事という仕事に対してどのようなイメージを持たれていましたか?


松浦:人事という仕事を意識したことがなかった、というのが正直なところです。役割としては確かにあるよな……くらいの感じでした。

社員が何人になったら「人事」を設置するべきか?

寺口:人事って、新卒採用や労務、場合によっては経営企画という側面を持つこともあります。組織や時代に合わせて要求が変化するので、「人事の仕事とはこれだ」と定義するのが難しい印象があります。


松浦:例えば、1人がものづくりを担当し、もう1人が営業を担当するという2人で会社を創業したとします。その後、何人目で人事を採用するでしょうか? ある方は「平均すると8人目かな」と言われていましたが、人のアセットが大事なビジネスモデルであれば、早い段階で人事を設置する可能性も高まるでしょうし、そうでなければ30人、あるいは50人規模になってからやっと、というところもあるでしょう。

会社の目的や、ビジネスの内容、成長ステージなどによって人事の役割は変わります。リクルーティングがテーマになることもあれば、労務管理が期待されることもある。人事のために会社があるわけではなく、組織があるから人事が生まれるのです。


寺口:何人目で人事を作るか。面白いですね! 三浦さんの話も聞かせてください。


オイラ大地 三浦(以下、三浦):僕が2010年に新卒入社したのは、モバイルを中心としたデジタル広告を事業の柱としていたD2CというNTTドコモと電通のジョイントベンチャーです。

当時は、前年にリーマンショックがあり、大企業が軒並み採用数を減らしたほか、スマートフォンの登場で就職活動自体が大きく変化していました。そんな中、インターネット広告という伸びている市場でありながら、社員数が200人程度だったので、人が足りていない部分もあり、打席に立てる回数は多そうだなと考え、最終的に入社を決断しました。

三浦 孝文(みうら たかふみ):オイシックス・ラ・大地株式会社 HR本部 人材企画室 人材スカウトセクション マネージャー。大分県別府市出身。関西学院大学 文学部を卒業後、株式会社D2C、Cookpad株式会社でのHRを経て現職。HRコミュニティ「人事ごった煮会」の発起人。さとなおラボ7期生。


寺口:就活の当初から、そういう考え方だったんですか?


三浦:就職活動をする中で出てきた考えですね。最初からではないですよ。当時、就活にiPhoneが活用され始めた時代で、学生の多くが自分と同じようにiPhoneを就活用に買って、インターネットを利用していたこともあり、「これはインターネットの中でも、スマホなどの広告がまだまだ伸びるかもしれない」と思いました。入社後、配属希望の1つに人事を入れ、当時D2Cで初めて、新卒で人事に配属された社員となりました。


寺口:配属当初は、具体的にどのようなことをされていましたか。


三浦:最初は中途採用に関わりました。役員や事業部長と一緒に面接を行い、そのレビューをエージェントに戻すということを1年くらいひたすらやり続けました。それ以降は、新卒採用や研修などにも関わるようになり、2014年10月から2016年12月末まではクックパッドで採用や制度企画に携わり、その後、2017年から現職で人事を担当しています。松浦さんと違うのは、人事としてキャリアをスタートさせ、社会人10年目になった今まで、ほとんど人事領域に携わっています。


寺口:人事以外のことをやりたいと思ったことはないんですか?


三浦:こうやって他社の方と対談するときなど、キャリアを見つめる機会があると、いわゆる事業側のポジションに行った方がいいのかな、と考えたことはあります。でも、人事だって結局、営業、企画、広報、運用など、他の職種で行っている業務をやっているのかなと。仕事が人や組織に向いているだけで、あまり自分のことを人事だと思うことはなくなりました。


寺口:機能と職務は違いますからね。


三浦:高校、大学と体育会に所属していたので、学生時代から「組織で勝つ」ということを考えていました。会社の目標やミッションを達成するために、人や組織の成長と向き合うのが人事だと思っています。究極的には、それを達成するために何をしてもいいし、何でもやらなくてはいけないのだけれど、定めた成果に対してコミットしなくてはいけません。人や組織の成長だけでなく、どう会社や事業を成長させるか。それが今の自分のテーマですね。

人事が持つべきKPIとは──投資対効果をロジックで示すことはできるのか

寺口:僕自身は金融の出身で、全てが定量化された世界で仕事をしてきたので、人事の世界って、成果を証明するのが本当に難しいと感じています。例えばファイナンスなら、「時価総額をいくらにする」というように分かりやすい指標がおける。一方で人事部門は、経営陣に投資させるロジックを作るのが難しいと思いませんか? それがいいところでもあり、難しいところでもあると思うんですけども。

松浦:ファイナンスの世界で用いられる数値の多くは、財務諸表規則に基づき、各社で作成された決算書をベースに算出されるものが多いですよね。共通のルールに基づいて作成される数値がベースになっているので、共通指標も設定しやすい。一方で、売上の計上時期、棚卸し資産や引当金の計上方針など、業種やビジネスモデル、経営方針などによって会社ごとに変わってくる指標もありますよね。

人事の世界も同じだと思うんです。法律などで定められているテーマ(例えば、障がい者雇用率など)は共通指標で比較すれば良いのですが、個々の人事施策の成否を各社共通のKPIで無理に測る必要はない。各社で、会社にとって必要な人材を、いつまでに何人確保するかというような計画は、会社の事業計画から逆算する形でも作れるでしょう。


寺口:具体的に何年先くらいまで考えているものなんですか? 皆さんがどこまで計画されているのか気になります。


三浦:中期経営計画、つまり「この年次にはこうなっていたい」という経営の要望があれば、その状態を作るための組織とは、あるいは、その時に社員がどういう状態になっていないといけないか、といったイメージをプライベートの変化の面まで含めて考えています。

例えば、育児や介護といった個人の生活に近い部分にも向き合いますし、世の中の法律や社会環境の変化も勘案する必要があります。経営が目指すミッションだけでなく、それに紐(ひも)付く事業戦略もあるわけで、それぞれに仮説を立てて、要件定義をしていきます。


松浦:例えば、会社の商品力に圧倒的な強みがあり、マーケットシェアを拡大することがビジネスの根幹だとすると、人的生産性をどれだけ上げられるかが課題になると思う。営業利益に対する人件費の割合が、他社に比べて優位に立っていれば、人の効率がいいということになり、人への投資としては最適であると判断がくだされます。

そうでなければ、社員の数を減らすのか、あるいはコストの高い社員を他の成長事業に異動いただき、契約社員を増やすなどといった施策を打つ。リクルートは、まさにこれを徹底してやっている会社でした。


寺口:そうでしたね。リクルートが人件費を変動費化していると聞いた時は、目からウロコでした。


松浦:でも、例えばそうした会社の強みが変化していったらどうなるか。ビジネスのルールが変わる、例えば商品が紙媒体からWebになったとしましょう。そうすると、安く早く、そしていいプロダクトをリリースしていけるのか、ということに論点がシフトしていくかもしれません。


寺口:紙媒体を売る能力があった人が、Webでも通用するのかも検証しないといけなくなりますね。


松浦:そういう視点もありますよね。また、社員数に占めるエンジニアの割合や、彼らのパフォーマンスが重要になるなど、ビジネスモデルやステージによって、目標は変化すると思います。

経営と向き合う……? むしろ、同じ方向を目指すのが「経営人事」

寺口:経営が目指している世界に対して、人事という立場から支援をしていくとのことですが、そもそもボードメンバーと持続的に会話する機会は持てているんですか?


松浦:人事ではありませんでしたが、新卒入社の会社から意識してやっていたように思います。

会社の規模が小さく、経営との距離が近かったというのもありますが、「何かを変えたい」と思って入社したので、「他社には、社内報というものがあるらしい」と聞けば、「自社でもやりたい!」と申し出ていました。社内報については、入社直後の7月から私自身が担当することになり、さまざまな部署を知るとともに、経営者にもインタビューできました。


三浦:私は「対話」を意識するようになったのは、つい最近ですね。それまでも経営に近いところにいさせてもらっていましたが、対話というよりは、言われたことをどう再現するかという意識が強かったと思います。


寺口:意識が変わったのには、何かきっかけがあったんですか?


三浦:事業や、事業に紐(ひも)付く人への理解度が深まってきたのだと思います。最初は表面的だったのが、経営が考えていること、見ている景色を引き出そうとする方向へと変わってきた気がします。


松浦:最初は誰でも「自分だったら、こうやりたい」という意思がある。でも、そこから「ビジネスの成長を見据えてこうやっていきたい」など、自己満足ではない意味付けをして、会社に貢献していくのだと思います。三浦さん自身の視点が上がったのではないでしょうか。


三浦:お恥ずかしい話ですが、つい最近まで、何なら今でもそうですが、創業者や経営陣に採用人事の提案をしても、よく失敗しましたね。彼らが言っていることに対して、答えを持って行こうとしていたからなのかなと思います。

特に創業者は、日々見えている景色が変わるので、一週間前に言ったことに対して答えを持っていっても、もう違う景色を見ているんですよね。だから「創業者が見ている景色ってどんなものだろう?」と考え始めるようになりました。そこから、少しずつ自分の中での覚悟が変わり、出したアウトプットに対する経営側の反応も変わってきたような気がします。

寺口:本当におっしゃる通りで、僕自身は、経営が僕ら従業員の方を向いてはいけないと思っているんです。向き合えば「対立」になる。そうではなくて、同じ方向を向いているということが、理想的な姿なんじゃないかと。


松浦:そうですね。サッカーでいうと、こっちにパスを出して欲しいと後ろを向くのではなく、信じて前を向いて走っていったら自分の前にボールが出てくる、というような状態が理想ですよね。

個人に向き合うことと、経営と向き合うことは「トレードオフ」ではない

寺口:しかし、社員個人に向き合うのか、経営に向き合うのか──この両者をトレードオフとして捉えてしまう人事は少なくありません。特に、なりたての人が陥りやすい罠(わな)だと思います。


松浦:人事という「仕事」をしようとすると作業になりますし、結果、自己満足になりますね。例えば、5人採用したいからDMを打とう、というのはあくまで作業です。でも、本来やりたいことはDMを打つことや面接ではなく、さまざまな可能性を持った新しい仲間を迎え、その仲間に活躍してもらうこと。方法は何でもいいわけですよ。そういう視点でやれるように考えることが重要で、昨年の採用スケジュールをトレースすることが大切なのではありません。


寺口:それは現状と、目指すべき姿を想像できていればできることですよね?


松浦:でも、大体の人は表面的な現状しか見えていないのではないでしょうか。例えば「人が辞めている」という事実があっても、なぜ辞めているかは、そこから掘り下げないと見えてきません。さらに掘り下げた上でどうするのかを考え、経営とも対話する必要があります。


寺口:経営との対話をするときには、現場のリアルな声、声なき声を届ける必要もあると思います。現場との関係構築にお二人がこだわっていることはありますか?


三浦:まずは社員の方との対話だと思っています。日常的なコミュニケーションはもちろんですが、例えば採用なら入社から1カ月後、2カ月後など1on1の機会を制度としてあらかじめ設計し、定性的に把握をしています。また自分だけでなく、その社員の一番近い人の定量や定性でレビューを行います。そうではないと、声が大きい人の意見ばかりが目立ってしまうので。


松浦:私たちの事業がなぜ成立しているのかというと、お客さまがいるからです。だから、私自身は週末や出張先でも極力店舗を回って、若手メンバーにフィードバックもします。自ら顧客としての体験をするように意識しています。


寺口:最後に日本型雇用の「三種の神器」と言われる、終身雇用や年功序列について、お話を聞かせてください。日本全体を1つの会社だったとして考えると、これらの制度は高度成長期、つまり日本が「ベンチャー」だったころにできたものだと考えています。

今、日本という会社は成長し切ったフェーズに移り、これらの神器は負債に変わってしまったのではないかと思うんです。


松浦:年功序列は単に「年上だから役職や報酬が高い」という話ではなく、経験年数に応じて習熟度が上がり、生産性が高まるという考え方を前提にできています。こうした前提が機能していれば良いのですが、ビジネスの軸が変化してくると、年功序列による処遇が弊害になることもあるでしょう。

だから、自分たちのビジネスにおいて、今どの基準が最もフィットしているのかを考える必要があるのです。その意味で、経営企画と人事は両輪なんだと思います。見ている時間軸と大事にしているものが少し違うだけ。それを見誤ると、人事が変革を止めることになりかねません。

自分らしい就活は「友達になんと言われたら気持ちいいか」で分かる

寺口:今年、ワンキャリアはさまざまな企業との連携を進めています。これは「職業の選択をもっと自由にしたい」という思いがあるためです。就活における会社選びの基準というのは1つではなく、一人一人にストーリーがあるはず。それ人事の皆さんとともに示していきたいんですよ。


松浦:社名やブランド、そしてイメージではない本質的なところに目を向けて欲しいですね。私が学生の皆さんによくアドバイスするのは、「この会社に行くことにした」と友人に話したときに、なんと言われたら気持ちいいかを考えてみればということです。

私の場合は、保険会社に行くと言って「堅実なところを選んだね」と友人に言われるより、パチンコを作る会社にしたと言ったときに「なんで? どうして?」と友人に言われて「楽しそうだろ!」と返すのが自分らしいなと思ったんです。そこに自分らしい「will」が湧き上がってくるのではないでしょうか。その決断をするために会いたい人がいるのなら、面倒臭いと言われるくらいにリクエストしたらいいですよ。


三浦:人気ランキングみたいなものもありますが、そういうものにとらわれず、自分なりの軸や考え方を持つための気付きを得られるものであればいいなと思います。正直、われわれ人事に光が当たらなくていいと思います。組織や人のためにある部署なので、企業にとっても学生さんにとっても、採用や就活がより良い状態に変わるきっかけとして、存在できたらいいなと考えています。

【ライター:山下由美 撮影:友寄英樹】

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