2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、世界中で「省エネ」への関心が高まっています。その鍵を握るのが、エアコンの消費電力を劇的に抑える「インバータ」技術です。世界的な空調メーカーであるダイキンにおいて、この開発の最前線に立つのはどのようなエンジニアなのでしょうか。今回は、テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)で活躍する宮島孝幸さんと土居弘宜さんに、ハードとソフトの融合が生み出す技術の面白さと、若手からチャンスを掴める社風について詳しくお話を伺いました。
エアコンの「脳」が世界のカーボンニュートラルを左右する
──まず、お2人が担当されている「インバータ」の役割を教えてください。
宮島:エアコンには、冷媒を循環させる「圧縮機(コンプレッサー)」や、風を送る「ファン」を動かすためのモータが搭載されています。このモータを制御する「脳」に相当するのがインバータです。
土居:エアコンの心臓が圧縮機、筋肉がモータだとしたら、インバータはそれらをいかに効率よく動かすかを司(つかさど)る司令塔ですね。
──インバータがあることで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
宮島:最大のメリットは「快適性」と「省エネ」の両立です。インバータがないエアコンは、設定温度に達するまで100%の力で動き、冷えすぎたら止まる、という「オン・オフ」の繰り返ししかできません。これでは温度ムラが大きく不快です。一方、インバータ搭載機は、設定温度に近づくと出力を小さくして連続運転を続けます。これにより、温度を一定に保ちつつ最大58%の電力削減という大幅な省エネを実現できるのです。
──世界的に見ても、その重要性は増しているのですね。
宮島:はい。2050年にかけて世界の空調需要は約3倍に増加すると予想されています。日本は世界でも一番厳しい省エネ規制の国で、インバータエアコンの普及率は100%です。しかし、世界を見ればインバータエアコンの普及率はまだ高くありません。このままエアコンが増加すると、世の中がカーボンニュートラルを推進する中でエアコンは消費電力が増える、つまりCO2排出量も増えてしまうことになってしまいます。インバータエアコンを世界中に普及させ、世の中のカーボンニュートラルに貢献することは、ダイキンの大きな使命です。2027年度からは日本でもさらに厳しい新省エネ規制が始まるため、さらなる効率化が求められています。
【ハードウエア】「1を削り、性能を出す」極限の設計
──ハードウエア担当の土居さんは、具体的にどのような開発を行っているのでしょうか。
土居:私は家庭用から業務用空調機のインバータハードウエア設計を担当しています。現在の大きな課題は「さらなる高効率化」と「材料の削減」です。例えば、日本の省エネ規制に応えるために、エネルギー消費効率を示す指標(APF)(※)を従来比で約1.3倍も引き上げることが求められており、回路構成や部品を1から見直しています。
(※)……APF(Annual Performance Factor)通年エネルギー消費効率。1年を通してエアコンを使用した際の消費電力量あたりの冷暖房能力。数値が大きいほど省エネ性能が高い。
──「材料の削減」という点では、どのような工夫をされていますか?
土居:ユニークな取り組みとして「電解コンデンサレスインバータ」の開発があります。従来のインバータには電力を蓄えるための大きな電解コンデンサなどが必要でしたが、私たちはその機能をソフトウエアの制御に置き換えることで、物理的な部品をなくしたり、サイズを劇的に小さくしたりすることに成功しました。これにより、基盤サイズを15%ダウンさせ、コストを数万円単位で削減することも可能になります。
──ハードの制約をソフトで解決する、ということですね。

土居 弘宜(ドイ ヒロタカ):ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師
新卒でダイキンに入社。入社して10年間は業務用空調機の圧縮機用インバータハードの商品開発を担当。現在は家庭用から業務用空調機のインバータやノイズ抑制技術を中心に研究開発を担当。
土居:その通りです。また、TICにある日本初の空調機専用「10メートル電波暗室」を活用し、目に見えない「ノイズ」を精密に測定・対策しています。実測データとシミュレーションを高度に一致させることで、開発スピードを飛躍的に高めています。今後は、他社製の汎用(はんよう)インバータを使っている大型空調のインバータの内製化にも挑戦していく予定です。
【ソフトウエア】ハードの限界性能を引き出し、資源の壁を越える
──宮島さんはソフトウエアの側面から、どのようにインバータを進化させているのでしょうか。
宮島:ソフトウエア(モータ制御)の役割は、ハードウエアのポテンシャルを100%、あるいはそれ以上に引き出すことです。例えば、圧縮機の中は高温・高圧なため、回転位置を検知する物理的なセンサーを置けません。そこで、電流や電圧の値から位置を推定する「位置センサレス制御」という高度な技術を使っています。
──制御の力で、製品の価値をどう高めているのですか。
宮島:0%から100%まで、あらゆる回転数で安定して回す能力を磨いています。最近の日本の住宅は高気密・高断熱なので、微風でゆっくり回し続ける能力が重要です。一方で、急速に冷やしたいときは超高速回転が必要です。この運転範囲の拡大を、ソフトウエアで実現しています。
──他にも、制御で解決している課題はありますか?
宮島:「振動の抑制」と「脱レアアース」です。家庭用の普及モデルでは、コスト優先で振動が出やすい構造を採用することがありますが、モータ制御で振動を打ち消すことで静音性を保ちます。また、資源リスクのある「重レアアース」を使わないモータでも、制御の工夫で従来と同等の性能を出せるように取り組んでいます。まさに「知恵で資源の壁を越える」仕事です。
「まずやってみる」ダイキンの文化が、技術の融合を加速させる
──お2人の話を聞くと、ハードとソフトが非常に密接に関わっていることが分かります。
宮島:そうですね。ダイキンでは開発の初期段階から「この性能を出したいから、ハードはこうしてほしい」「逆にソフトでここまでカバーするから、この部品は削れるはずだ」という議論を徹底的に行います。ソフト担当が最後に帳尻を合わせるのではなく、最初から「最適解」を一緒に作るんです。
土居:私は業務用の設計開発で経験を積んできた中で、TICへ異動した際に家庭用の研究開発を担当することになりました。家庭用の知識がゼロでしたが、チームのメンバーやソフト担当と「部品で何ができるか、回路で何ができるか、制御で何ができるか」を1から話し合いました。ハードとソフトが一体となって開発する文化が根付いていますね。
──社風についても教えてください。
宮島:はい。ダイキンには「まずやってみよう」と手を動かすスピード感がありますが、「しっかり仕様を固めて安全に進める」という別の視点を持った方も活躍しています。互いのスタイルを尊重し、学び合うことで、信頼性の高い製品が生まれています。

宮島 孝幸(ミヤジマ タカユキ):ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師
2014年新卒入社。家庭用から業務用空調機の圧縮機・ファン、油圧機器向けモータ制御の研究開発~商品搭載、東京のパワーエレクトロニクス実験室設置を経験。現在はリーダーとして、モータ制御開発の推進、開発力強化に取り組み中。
役員が1年目を抜擢。「挑戦」を支える自由な風土
──若手の成長環境についてはいかがでしょうか。
宮島:私が驚いたのは、入社1年目の終わりに、当時の研究開発部門の役員から突然「新しいプロジェクトをやってみるか」と直接声をかけられたことです。まだ若手の自分に、未経験の油圧機器向けモータ制御を任せてくれました。「ぜひやります!」と手を挙げた結果、早い段階で商品化を経験でき、今の自分の基盤となる大きな達成感を得られました。
土居:本当にチャンスをいただける会社です。私自身も、ハードウエアエンジニアとして試験データの結果だけでなく「なぜそのプロセスに至ったのか」を見抜く力が養われました。また、部品メーカーさんを巻き込んで「こういう特性がほしいから、部品レベルで改善してほしい」とフィードバックを送ることで、他のメーカーも巻き込んだ業界全体の技術ロードマップに影響を与えるようなダイナミックな仕事もできています。
就活生へのメッセージ:世界を驚かせる技術を、共に
──最後に、これから就活に挑む学生の皆さんへメッセージをお願いします。
土居:ダイキンでは、汎用(はんよう)部品を組み立てるだけでなく、マイコンやパワーモジュールといった「心臓部」のカスタム開発から入り込めます。他社ではできない、踏み込んだ技術開発に挑戦したい方には最高の環境です。
宮島:「インバータはもうやることがないのでは?」と思われるかもしれませんが、実際はまだまだたくさんあります。自分自身の技術力を高められる環境がここにあります。カーボンニュートラルをはじめとした世界規模の課題に対し、新しいことを一緒に挑戦していきましょう。

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