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育児もキャリアも大事にしたいから起業した。元外銀ママ、マッチングアプリ開発に挑戦

キャリア 女性 インタビュー
2022年1月21日(金) | 7,492 views

就職、結婚、出産……自分の将来を考えるとき、結婚しても仕事を続けられるのか、出産したら家庭と仕事を両立できるのか、何となく不安に感じている人もいるかもしれません。

それ以前に、そもそも自分のやりたいことが分からない、という就活生も少なくないでしょう。

新卒入社したゴールドマン・サックスを経て、ママ友マッチングアプリ「MAMATALK」を開発し起業したカーティス裕子さんも「学生のときはやりたいことが分からないのが悩みだった」と言います。

「育休中のママ友作り」というカーティスさん自身の悩みをヒントに開発したこのアプリは、現在マッチング件数が15万人を突破。新型コロナウイルスの流行で、対面コミュニケーションの機会が限られる状況が追い風となり、ますます注目を集めています。


ゴールドマン・サックスを辞め、まったくの異業種で起業を決意したカーティスさん。出産や育児をしつつも、自分のキャリアを手放さず、柔軟に人生をステップアップさせています。彼女の輝きの源はどこにあるのでしょうか。働き方の選択肢が多様化する昨今、自分らしい働き方を見つけるヒントを語ってくれました。

やりたいことがなくても、好きなことには果敢にチャレンジ。そして外資系金融の道へ

──現在は起業してママ友マッチングアプリの運営に携わるカーティスさんですが、前職は外資系金融だったと伺いました。ご自身が就活されたときの様子を教えてください。


カーティス:外資系の金融機関やマーケティング職を中心に見ていました。大学3年生の夏にゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントでインターンをして、早めに内定をいただいたので、そこで就活を終わらせました。だから、日系の金融機関や商社などは受けなかったんです。


──早期に就活を終わらせるのも、大きな決断だと思います。ゴールドマン・サックスにそこまで大きな魅力があったということでしょうか。


カーティス:入社を決めたのは、インターンをしているときに、新卒をしっかり育成して第一線で活躍させようとする姿勢や、会社のカルチャーが自分の肌に合っていると感じたからです。また、高校・大学と留学したこともあり、グローバルに働きたいと思っていた私の希望とも合致していました。

カーティス 裕子(かーてぃす ゆうこ):慶應義塾大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社後、ニューヨーク本社での勤務を経て起業。2019年10月にママ友マッチングアプリ「MAMATALK」をリリース。ニューヨークを拠点に3歳の息子、アメリカ人の夫と暮らす。MAMATALKを一緒に盛り上げる学生インターンも募集中。ご興味ある方は info@mamatalk.jp まで。


──なるほど。入社後はどんなお仕事をされていたんですか?


カーティス:ビジネスを大きくすることに興味があったので、数字を取ってこられる営業をしたいと思っていたんですが、それには運用の知識が必要なので、最初は債券通貨運用部を希望しました。債券通貨運用部は、若手をニューヨークやシンガポールなど海外の運用拠点に派遣し、1〜2年間、業務や研修を行う制度があったので、私もそれでニューヨーク勤務になりました。


──外銀を経て起業、というキャリアを伺うと、やりたいことが明確で順調に夢をかなえてきた人、というイメージを持っていました。


カーティス:うーん、学生時代に明確にやりたいことがあったかというと、そうではなくて。やりたいことがないのが悩みでした。今思うと、環境に恵まれていたのかもしれませんね。

ただ、学生時代に開発途上国の識字率の向上を目指して、図書館や学校を建設しているNPO法人ルーム・トゥ・リードの、学生団体の立ち上げに関わりました。そこで、ゼロから何かを作り上げる達成感を得られたり、目に見える結果を出せたりしたことがうれしかったんです。


──それは面白そうなプロジェクトですね。「やりたいことがない」というお話でしたが、ものすごくアクティブじゃないですか!


カーティス:そうですね。やりたいことが明確だったわけじゃないけれど、好きなことにはどんどんチャレンジしていました。だから、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社したのも、そういった、自分が興味があることができそう、という思いの延長だったのかもしれません。

育休明け半年で退職、起業準備へ──超スピードの原動力は「先を越されたくない」

──正直、そのままゴールドマン・サックスで活躍し続けていてもおかしくない経歴だとは思うのですが、ママ友マッチングアプリサービスの起業にキャリアチェンジしたのは、どんなきっかけがあったのでしょう。


カーティス:ニューヨーク勤務中に、アメリカ人の夫と結婚し第一子を出産して、育児休暇で4カ月間日本に一時帰国しました。そのときに、情報交換や悩みを共有できるママ友作りの難しさを実感したのがきっかけです。アメリカではママ友マッチングサービスはすでにあったのですが、日本にはその当時まだなかったんですよね。


──ママ友作りの難しさ、経験者の私はとてもよく分かるのですが、学生にも分かりやすい形で説明していただけませんか?


カーティス:子どもを共通点に知り合うママ友は、ママ自身の価値観や趣味などの情報をなかなか聞きにくくて、仲良くなるまでに時間がかかるんです。そこで、アプリで友達作りを楽にして、気軽に情報交換できて、育児をもっと楽しめたらいいな、という思いから起業を決意しました。

育児休暇を終え、職場復帰して半年くらいで退職し、起業準備に取り掛かったという感じです。

ママ友マッチングアプリ「MAMATALK」


──それは凄まじいスピードですね……! 面白そうなビジネスを思いついても、一歩踏み出すのに躊躇(ちゅうちょ)する人は多いと思います。その壁をどうやって突破したのでしょう。


カーティス:それは、確かによく聞かれます(笑)。もともと行動力はあって、とりあえず始めてみようと思うタイプなんですよね。あとは、ママ友マッチングアプリは当時の日本にはまだないサービスだったので、とにかく早く始めたいと思いました。いいアイデアがあるのに、先を越されたくないというか。

そうなると、迷ったりぐずぐずしたりしている時間はもったいないですよね。分からないところは、やりながら学んで進めていけるかな、と思っていて。


──早くリリースしたいという思いが勝っていたと。前職と全く違う分野で起業されたわけですが、不安やつらいときはなかったですか?


カーティス:確かに経験もない、本当にゼロから始める中で営業をするので、相手にされないこともあります。そんなときも、何も失うものはないと思うようにしています。それよりもやらないことによる機会損失の方が大きい。やらない後悔より、やって後悔したいな、という考え方です。

育児もキャリアも大事にしたいから起業を選ぶ。ライフワークになった「MAMATALK」

──もともと、起業したいという気持ちもあったのでしょうか?


カーティス:アメリカで暮らしていると、女性起業家の活躍を目にする機会が多かったので、漠然と憧れてはいました。でも、会社員をしているときは、特に具体的なアイデアがあったわけじゃなかったんです。

あとは、フレキシブルな働き方ができるという意味で、起業も一つの選択肢として考えてはいました。


──フレキシブルですか? 起業というと結構ハードなイメージがあるので意外でした。


カーティス:結婚をして子どもが生まれると、子どもにはアメリカと日本の両方の文化を知ってほしいと思うけれど、私がアメリカで会社員をしていると、日本に来られる機会は年に1〜2回くらいになってしまう。

確かに起業はハードな面もあるとは思いますが、会社に縛られずに自分でスケジュールを組むことができます。もう少し自由に日米間を行き来できるな、と考えていました。


──何となくの憧れが、出産を経て新たな視点が加わったことで、実現につながったのでしょうか。


カーティス:そうですね。特に私の場合は子どもを産まなかったらこのサービスを作ろうとは思わなかったでしょう。

私自身がアプリのユーザーターゲット層であるし、私自身が直面した悩みを解決するサービスを作っているので、同じような立場の方々の悩みに寄り添うという意味で、社会的意義を感じています。

学生時代はやりたいことがなくて悩んでいたけれど、「MAMATALK」のアイデアに出会って、やっとそういう悩みがなくなった、と感じます。今の仕事はライフワークとして続けていきたいと思える仕事ですね。


──ライフワーク、いいですね。仕事と人生が重なる部分があると、モチベーションも長く続きそうだと感じます。


カーティス:決して自分一人だけではなくて、周りの人の力を借りながらステップを乗り越えてきたことですし、ビジネスとしてはまだ道半ば。これからマネタイズして育てていく段階ですから、今後も苦労も続くでしょう。

でも、自分の仕事にオーナーシップ(当事者意識)を持ってゼロから作り上げたことは、自信にもなったし、やりがいでもあります。


──大きな企業で働くことと起業とでは、ビジネスの進め方も全く違うと思います。その点で、前職との違いはどんなことがありますか?


カーティス:一番大きな点は、ゴールドマン・サックスではクライアントが法人でしたが、今は個人のユーザーというところですね。問い合わせやアプリのレビューで直接、感想や評価が届きます。一生懸命やっていても、お客様に満足していただけないケースもある。ここは難しいと感じるところです。

ユーザーが本当に求めていることは、なかなか言語化されない部分にこそあります。潜在的なニーズをくみ取って、要望の一歩先を見て、サービスを充実させていくことが大事なのかな、と思っています。

働き続けるのは「自分のため」。オーナーシップを持ってキャリアを途切らせないことが大切

──カーティスさんは、そのときのご自分の好奇心に素直に、柔軟に働き方を選んでこられたと感じます。人生を共にするパートナーとは、起業について話し合いはありましたか?


カーティス:起業を決めたとき、夫は「120%応援する」と言ってくれました。私は自分のビジネスに対してやりがいも社会的意義も感じていて、将来的な目的を持って働けている。私が今生き生きとしていることに対して、彼もハッピーだと言ってくれます。


──一方で日本では、結婚や出産などのライフスタイルの変化によってキャリアを中断してしまうことを不安に思う女性も少なくありません。子どもを持つと仕事を手放す選択をする女性もいますが……。


カーティス:結婚や家族の都合でキャリアを断絶されてしまうのは、非常に残念なことですが、私の周りでもよく耳にします。転職や退職にはならないにしても、女性の場合は妊娠や出産で、キャリアを少しお休みする期間はありますよね。

そういう面では、自分が会社に依存しないで働くスキルを身につけておくことは意識した方がいいのかな、とは思いますね。自分から会社のネームバリューや肩書を取ったときに、何が残るのか。それを意識して働くことは、自分の仕事にオーナーシップを持つという意味でも大事だと思います。


──例えば、今の自分が仮にフリーランスになったとしても働けるか。そんなふうに考えるということですね。


カーティス:今は新型コロナウイルスの影響でリモート化が進んだ分、個人としての働き方も注目されていますよね。家族の事情でやむを得ず会社を離れても、個人としてほそぼそとでも、キャリアを途切らせずに働くことができると思います。

子どもは、やがて巣立っていくもの。日本の女性には、出産や育児がキャリアの制約になると考えてほしくないですね。


──では、女性が働き続けるモチベーションを保つために、何が必要だと思いますか?


カーティス:やっぱり、自分の仕事にオーナーシップを持つことだと思うんです。仕事って給与水準や福利厚生、働きやすさなどの条件も大事かもしれないけれど、自分が関わるプロジェクトに、やりがいや誇りを持てると、続けたいと思うモチベーションにつながると思います。

家族やライフステージによって働き方に変化を余儀なくされることもあります。でも、自分がどう働きたいか、どんなふうにキャリアアップしたいかを、家族と切り離して考えてもいいと思うんです。


──日本でも女性の社会進出が叫ばれてはいるものの、女性の家事負担が多さや管理職の少なさなど、課題が多い現状があります。


カーティス:結婚すると家事育児の分担……なんて話もよく聞きますけれど、冷静に考えれば、家事はタスクでしかありません。外注して誰も傷つかないし、経済的に問題ないのであれば、外注した方がいいと思っています。

子育てについては、どうしても物理的に時間が取られることはあります。でも、仕事と子育てどちらを優先するか、ではなくて、私はどちらも大事にしたいです。


──カーティスさんは先ほど、「アメリカでは起業している女性が多い」とお話しされていました。アメリカと日本の女性の働き方を見て、違いを感じるところはありますか?


カーティス:アメリカでは起業家に限らず、会社員でも、結婚や出産で仕事を辞めるという考え方はあまりないです。

私が勤めていたニューヨークオフィスでは、子どもが2〜3人いても、ベビーシッターや家事代行など外部の力を借りながら家庭を回して、昇進してリーダーになっている女性はたくさんいました。彼女たちの活躍はいい刺激になったし、そういったモデルがいたのはよかったです。

やりたいことが見つからなくても大丈夫。好きなことをしながら、探し続ければいい

──「MAMATALK」は順調にマッチング件数を伸ばしているそうですが、今後の事業の展望を教えてください。


カーティス:今後はアジアから始めてグローバルに展開し、さらにユーザーを増やすため、英語版と韓国版のリリース準備をしています。現在はiPhoneのみの対応なのですが、Android版も製作中で、今春にはリリース予定です。

また、去年はサービスの認知度向上に注力し、ユーザー体験を一番に考えて運営していましたが、今年はマネタイズに力を入れようと、1月から有料会員向けサービスをリリースしました。今後は、よりユーザーにフィットしつつ収益化できるビジネスにしていきたいです。


──国内だけでなく、海外ユーザーへも目を向ける姿勢は、ゴールドマン・サックスでの経験が役に立っているのでしょうか。


カーティス:そうですね。ビジネスパーソンとして仕事に対する基本的な姿勢もそうですし、グローバルなカルチャーで育てていただいたので、ものの考え方や内向き思考にならないマインドセットは、今の仕事でも非常に役立っています。前の会社での女性の働き方やダイバーシティの考え方も、起業家としての成長に欠かせないと感じています。


──現在は「MAMATALK」というやりがいのある仕事を見つけたカーティスさん。学生の皆さんに向けて、やりたいことを見つけるために、アドバイスをお願いします。


カーティス:私も学生時代は、やりたいことがわからなくて悩んでいました。会社員としてビジネスを学び、結婚・出産を経験して、やっと「MAMATALK」というアイデアを見つけたんです。

やりたいことって、大学生の時点で絶対これ! という1つに決めなくていいし、複数あってもいい。人生100年時代、先は長いですから、やりたいことが変わるのは当然です。終身雇用の時代でもなくなってきているので、時代の流れや環境によって、やりたいことは変わっていいのだと思います。


──なるほど。確かに就職活動となると、学生の皆さんは「軸」という形で、やりたいことや目指す姿を絞ってしまうことは多いですね。


カーティス:ただ、自分らしい仕事を見つけたいのなら、興味があることに対して、自分からアクションを起こすことも大事だと思います。やりたいことが見つからないからといってぼんやり過ごすのはもったいないですよね。まずは好きなことから、本を読んで学んだり、アンテナをはって情報収集したりしてみるといいと思います。

一番いいのは、自分が興味を持った分野で経験がある人や活躍している人に、自分から「話を聞かせてください」とお願いして、直接話を聞いてみることです。そういうチャレンジは、若ければ若いほど歓迎されると思いますよ。経験者の話を実際に聞くと、インスピレーションを受けるきっかけになるし、何かが見つかるヒントになるかもしれません。


※こちらは2021年2月に公開された記事の再掲です。

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早川奈緒子
ライター
早川奈緒子

小学生3人の子を持つ母。編集プロダクションにて女性誌・育児誌のライターを務めていた経験があり、ライター復帰を目指してワンキャリ編集部で修行。現在はフリーライターとして活動中。
漢字検定2級、整理収納アドバイザー2級、中国語コミュニケーション能力検定(TECC)578点と、取得した資格はどれもあと一歩。育児についても「頑張りすぎない、極めない、ほどほどに」とゆるく進めるのがモットー。得意料理は鶏唐揚げとポトフ。

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