「世界に誇る日本のモノづくり」といわれてきた製造業には、今なお深刻な構造的課題が残っている。現場に蓄積された膨大なノウハウが言語化されず、継承される仕組みも十分に整っていないため、いわゆる「車輪の再発明」、つまり同じことの繰り返しが起きているのだ。世界屈指の厳しさを誇る品質・納期・コスト管理の現場の知見が、正当に評価されないまま埋もれて、ノウハウを持つ人の引退や退職により消滅する可能性すらあり得る。
こうした課題に対して、正面から取り組んでいるスタートアップが、製造業の非構造化データを資産化・活用し、AI(人工知能)で変革を推進するキャディだ。日本だけでなく、アメリカや東南アジアにも事業を展開することでグローバルなモノづくりの未来を描こうとしている。
今回取材したのは、キャディの創業初期から経営に携わり、現在はCHRO(最高人事責任者)として人と組織の成長を支えている幸松大喜氏。日本の製造業が抱える課題、プロダクトの強み、そして若手を大胆に抜てきする文化に至るまで、キャディの成長の要因と今後の行方を聞いた。
<目次>
●見積業務に潜む「課題」が、使命感を呼び起こした
●日本発のAIプロダクトが、世界の工場をつなぎ始める
●何者でもない人も、「挑戦できる場所」を求めてほしい
●「世界を変えることを志す人」に、キャディは応える
見積業務に潜む「課題」が、使命感を呼び起こした
──キャディ参画以前は、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?
幸松:学生時代から社会課題に強い関心があり、農家や漁業の現場、救急医療や炊き出しの支援など、現場に身を置いて学ぶことを重視してきました。一次・二次産業には高い技術と誠実な仕事がある一方で、経済的には報われにくいという構造的課題があることを肌で感じてきました。そうした中で、東日本大震災の復興に携わるマッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)出身者に出会い、「ビジネスを通じて社会課題を解決する」というアプローチに強くひかれました。当社のCEO(最高経営責任者)である加藤とは、マッキンゼーに同期として入社してから知り合った仲です。

幸松 大喜(こうまつ だいき):キャディ 執行役員 CHRO(最高人事責任者)
東京大学卒業後、マッキンゼーに入社。米国・中国を含む国内外の製造業企業を対象に、オペレーションやSCM領域の戦略策定・改革プロジェクトに従事。26歳でマネージャーに昇進し、1万人超の大規模組織のIT戦略や人材改革も主導。その後、製造業を現場から理解すべく、板金加工会社に勤務。2017年末、キャディの創業初期に3人目の社員として参画。パートナーサクセス本部長、Manufacturing Operations 本部長など複数ポジションを経て、2024年10月より同社初のCHROに就任。「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションの実現を人・組織の側面から支える。
──キャディの初期のテーマであった、製造業の「見積」にはどのような課題意識を持たれたのでしょうか?
幸松:加藤がキャディを創業する直前に偶然話す機会があり、製造業の「見積」プロセスに関する構想を聞きました。根深い非効率が放置されていること、そしてそれを解決できれば業界全体に大きな変化をもたらせること。その両方に強く共感して、自ら創業メンバーに加わることを申し出ました。
印象深かったのは、町工場の経営者が日中の業務後に夜遅くまで見積対応を行っているという実態です。価格決定は経営の中核であり、大きな責任と煩雑な手間を伴うものです。しかも、各社の強みが可視化されていないせいでミスマッチや多重下請け構造による非効率が生じている。マッキンゼーでの調達改善プロジェクトの知見を生かして「このプロセスをITで変えられるのではないか」と考えたのが、キャディのプロダクト開発の原点になりました。
日本発のAIプロダクトが、世界の工場をつなぎ始める
──創業当初の課題意識から、現在の事業はどのように進化してきたのでしょうか?
幸松:現在キャディが展開しているのは「製造業AIデータプラットフォーム」という事業です。図面データ、調達実績、不具合情報、サプライヤーとのコミュニケーション履歴など、製造現場には膨大な情報が存在しますが、それらの多くはいまだ構造化されておらず、データとして活用されていません。私たちはまずこれらの情報を構造化し、その上で調達や設計、品質管理などに役立てられるプロダクトを開発・提供しています。
──なぜ、こうした課題が長年放置されてきたのですか?
幸松:製造業には、デジタルでは完結しない「人とモノ」が関わる複雑さがあります。例えば、データ上では100個届いているはずの部品が、実際には99個しか届いていない。そんなアナログなズレが日常的に起きています。また、業界の歴史は長く、古いデータが各所に眠っていたり、日本各地や海外に分散した工場に複雑なバリューチェーンが存在していたりと、変革には高いハードルがあるのも事実です。
加えて、AIやITに精通していて、かつ全社を横断してプロジェクトをけん引できる人材は極めて限られています。現場では「理想はわかるが、現実には難しい」という空気が広がり、挑戦そのものが諦められてしまっている。イノベーションが起きにくい要因は、技術よりもむしろ心理的な壁にあるのではないかと感じています。
──そうした困難を乗り越える上で、キャディにはどんな強みがありますか?
幸松:冒頭でお話したように、私たちには創業期から製造現場とテクノロジーの両方に深く携わってきた経験があります。その知見があるからこそ課題の本質を素早く捉え、プロダクトへの落とし込みも高速で進めることができるのです。信頼性が求められる大手企業にも初期から導入が進んだ背景には、こうした現場経験と技術力の積み上げがあると思っています。さらに、私たちが手がけるプロダクトが取り扱うデータは、製造業の根幹に関わる共通言語といえます。だからこそ、国や地域を超えて展開するポテンシャルがあると考えています。
──キャディは、なぜグローバルでも戦えるのでしょうか?
幸松:日本発のソフトウェア企業が海外市場で存在感を示すのは決して容易ではありません。税制や労務基準など、各国の制度に最適化された製品でなければ、そもそも導入が難しいという壁があるためです。しかし、製造業における根幹のプロセス──設計・調達・組立・検査・出荷といった工程は、世界中でほぼ共通です。日本の製造業は既にグローバル展開しており、モノづくりの評価基準も国を超えて共有されています。この点で、キャディのプロダクトは国境を越えて導入しやすい強みがあります。
──市場優位性を保つ上で、特に重視していることはありますか?
幸松:スピードとスケールの両立です。今のところ、われわれが取り組む製造業におけるAI×データプラットフォーム領域において、グローバルに突出したプレイヤーは存在していません。だからこそ先行者利益を確実に取りにいくことが重要です。また、当社のプロダクトは特定の部署に閉じるのではなく、製造業のバリューチェーン全体で活用されうるものです。
何者でもない人も、「挑戦できる場所」を求めてほしい
──特に新卒採用に力を入れる理由は何でしょうか?
幸松:もちろん事業の成長という背景もありますが、それだけではありません。私自身、CHROのポジションに就いてから、日本の人材市場を見てきて、若い人が本当にチャレンジできる環境がまだまだ少ないと感じています。学生時代に大きな志や夢を持っていた人も、気づけば意思決定のスピードが遅い、堅い組織に染まってしまっていることがある。だからこそ、自分の「当たり前」の基準をどこに置くかが大切なんです。

──では、キャディはその「基準」をどう定義づける場所なのですか?
幸松:私たちはスタートアップとして複数のプロジェクトを同時に走らせています。アプリケーションの開発、ユーザー活用の深化、グローバル展開……。その中で「自分に打席をくれ」「自分がやる」と手を挙げられる人が、どんどん挑戦して成長していける。そんな環境があります。私自身も過去に未熟ながら町工場の方々に支えていただきつつ業務に取り組み、「幸松、これは貸しだからな!」と言って面倒を見ていただいた経験が、今の製造業への思いにつながっているんです。熱量を持って仕事をすることで何気ない日常もドラマになる。それが原動力になるんですよね。
──やりたいことが明確ではない学生にも活躍の場はありそうですか?
幸松:むしろ、そういう人にこそ来てほしいと思っています。「将来は誰かの役に立ちたい」「大きな価値を出したい」そんな漠然とした思いでも構いません。熱量のある仲間と働く中で、自分の言葉や志が形になっていきます。ファーストキャリア選びについては、ロジックだけに頼るのではなく情熱の渦の中に飛び込むことも重要ですよ。
「世界を変えることを志す人」に、キャディは応える
──キャディのプロダクトがグローバルに広がった先に、どんな未来を描いていますか?
幸松:日本の製造業には、まだ世の中に知られていない強みがたくさんあります。コスト・品質・納期のすべてで世界一厳しいといっていいほどの現場を何十年も経験してきた。その中で蓄積された技術や工夫は、すごく大きな資産なんです。でも、それが言語化もされていない、データにもなっていない、という現実があります。継承されないまま、埋もれていってしまうのは本当にもったいないことです。
もしそれらをデータとして構造化できれば、世界中が日本の技術を正しく評価できるようになります。「このアルミ製品なら、日本のあの町工場が世界一」と遠く離れた国から直接指名されるような時代も来る。そうなれば自分たちの強みにさらに特化していけますし、価値ある技術がきちんと次世代に受け継がれるようになります。私たちが目指しているのは、まさに「可視化された強み」で世界と戦えるような未来です。
──若手にも大きな裁量があると伺いましたが、具体的な事例はありますか?
幸松:たとえば直近でMVPを獲得したのはアメリカのマーケティング責任者。第二新卒としてキャディに入社してからまだ3年ほどですが、今はUS全体のマーケティングを担っています。また、新卒0期生としてインターンから入社したメンバーは、わずか3年で東日本の営業部長になりました。東日本で一番売上を立てている存在です。
どちらも共通しているのは、「自分がやりたい」と手を挙げたこと。役職やポジションは、与えられるのではなく提案してつかみにいく文化です。営業部長になった彼も、もともとは品質管理からキャリアをスタートしました。でも本人が「営業がやりたい」とアピールしてきたので、ゼロから挑戦してもらいました。最初は苦労も多かったようですが、誰よりも他の人の商談記録を読み込んで、1日1歩でも前進しようと努力していました。結果として、社内で最も成果を出す存在になっています。

──失敗のリスクがある若手に、なぜそこまで任せられるのでしょうか?
幸松:もちろん失敗することもあります。でも、それも含めて成長のプロセスです。本人が強い熱意を持って挑んでいるなら、たとえ結果がうまくいかなくても、そこから得られるものは大きい。いかにそこで得た学びを次に活かすかが重要です。それにキャディ自体も常に挑戦を繰り返してきた会社です。失敗も成功も経験しながら、どこよりも速いスピードでやれば、どこよりも多くの意思決定ができて、ものすごいスピードで成長していく。だから「失敗しても挑戦した方がいい」という価値観が根付いています。
事業が急成長している今、次なるポジションがどんどん生まれているんです。「これ、誰かやってくれ!」という状況が次々に出現しています。そんなとき、手を挙げてくれる若手がいたら、やらせない理由がありません。「他に誰がやるの?」というシンプルな発想でもあります。
──今後の採用に向けて、どんな人と一緒に働きたいと考えていますか?
幸松:「世界を変えることを志す人」です。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、それくらいのスケール感を持っていてほしいと思っています。アメリカでは子どもの頃から「人生で何を成し遂げたいのか?」を真剣に語り合う文化がありますし、スタートアップに挑戦するのも当たり前です。日本では何かを成し遂げたいと公言すると「身の丈に合っていない」とか「見苦しい」とか思われがちですが、私は夢を堂々と語れる人こそが、これからの時代をつくっていくと思っています。
キャディは、そうした大きな夢をまっすぐに言葉にできる人が「一番最初に思い出す企業」でありたいと思っています。最初から成果が出る人なんていません。悔しい時期を経験しながら何度でも立ち上がれる人を、当社は決して見捨てません。ですから、目の前の壁に向かって正面からぶつかってきた人、部活でも勉強でも何かに打ち込んできた経験がある人に、ぜひ飛び込んでいただきたいですね。

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