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ブランドマネージャーに必要なのは「数千億円の商品を管轄する」経営者の視点。JTマーケティング戦略部:久野新吾氏インタビュー

日系 メーカー インタビュー 企業インタビュー
2017年2月1日(水) | 18,967 views
sponsored by JT(日本たばこ産業)

今回ワンキャリアは日本たばこ産業(JT)のマーケティング戦略部次長の久野新吾氏にインタビューを行った。20カ国以上の多国籍な人財で構成されたチームでの業務経験を積み、フランスでのMBA取得などグローバルなキャリアを築いてきた久野氏に、「ブランドマネージャーとして働くこと」について語ってもらった。


久野新吾 :

マーケティング戦略部の次長。1999年新卒入社。関西工場の物流業務に従事し、2000年からは資材部にて原材料の調達業務を担当。2004年に社内公募制度を利用してブランドマネージャーグループ(現マーケティング戦略部)に異動し、CAMEL、MILD SEVEN(現MEVIUS)のブランドマネジメントに従事。2007年にJTインターナショナル(JTI)に出向し、Winstonのブランドマネージャーを担当。2009年に1年間のフランス留学を経てMBAを取得。帰国後は本社人事部にて、人事戦略・採用戦略の策定に従事。その後、事業企画室にてイノベーション戦略の立案などを行い、2012年より現職。


KEN(聞き手):

ワンキャリアの編集長。1987年生まれ。ボストンコンサルティンググループ、博報堂出身、日本シナリオ作家協会研修科卒。『早期内定のトリセツ (日本経済新聞社)』への寄稿など多数。専門は「事業戦略」と「ブランディング」。

ブランドマネージャーは「数千億円の商品」を管轄する、経営者

KEN:今日はお忙しいところありがとうございます。さて、早速ですが、マーケティング戦略部で次長として活躍されている久野さんにお伺いします。「ブランドマネージャー」の仕事を簡潔に表現していただけますか?

久野:ブランドマネージャーの仕事は「経営者に近い仕事」だと私は感じています。その理由は、長期スパンでブランドを確立するために、各種KPI(※1)を主眼に置きつつも、担当領域がとても広いからです。具体的に、ブランドマネージャーの仕事は、マーケティングにとどまらず、ファイナンス、セールス、流通なども網羅的に理解し、多くの人と業務を進めないといけません。ブランドという冠を持つ「1つの会社」を経営しているという感覚です。

(※1)KPI:Key Performance Indicatorsの略。組織の目標達成の度合いを定義する補助となる計量基準のこと

100億円の広告予算を投下、回収のPL設計まで担う、重役

KEN:ブランドマネージャーが、「ファイナンス」も担当されるのですか? それはつまり、収益計画や、資金計画も作成するということでしょうか。

久野:もちろんです。例えば、少し前ですが、スイスのジュネーヴにあるJTI本社で、「Winston」のブランドマネージャーをしていた頃、グローバルベースでのプロモーションを担当したことがありました。「Winston」は世界第2位のブランドですので、単体の広告宣伝費は、ゆうに100億円を超える規模です。この100億円という単位の投資を、どれくらいの期間で回収するかの計画もブランドマネージャーが主導しますし、それにJTは上場企業ですので、資本コスト(お金を借りるための費用)を考えるのは当然の役割です。

世界最大規模のブランド統合プロジェクト。問題は「200万人のファンをどう説得するか」

KEN:「Winston」のブランド論で面白いのは、日本における「ブランド統合戦略」です。30年以上も日本で愛され続けてきた2つのブランド(「キャビン」と「キャスター」)を、2015年に一気に「Winston」というブランドに統合しちゃった。3つのブランドを1つに統合した。これは車で例えるなら、トヨタの「カローラ」と「クラウン」を統合し、いきなり「レクサス」にしたというレベルです。衝撃的でしたが、苦労はありませんでしたか?

久野:正直、苦労はありました。「Winston」は売り上げ世界2位のブランドです。一方、「キャビン」と「キャスター」は30年の歴史があり、2つ合わせて日本で7%のシェアを持っていました。言うならば200万人規模のファンを持った「キャビン」「キャスター」を統合し、新生「Winston」としてブランディングするわけですから、反発もあります。実際、「お客様をないがしろにするのか」と社内での反対もありました。

KEN:社内で逆風もあるなか、統合の決め手は何だったのでしょう?

久野:理由はシンプルで「長期的に見て、お客様のためになる」と確信していたからです。というのも、統合された2つのブランドは日本国内では30年以上愛されてきましたが、売上が少しずつ下がっていました。一方、「Winston」はグローバルでは2位であるものの、日本の中ではなかなか浸透していなかった。3つのブランドを1つに統合する方が、コストを集約でき、最高品質の商品を提供できる。結果、お客様にも満足いただけると算段したからです。

KEN:なるほどと思いつつ、それは経済的な理屈ですよね? 消費者にとって、ブランドは「理屈を超えた価値」があります。3つのブランドを統合することに生じる、「ユーザーの反発」を乗り越えるのは容易ではないと想像します。ポイントはありますか。

久野:カッコいい壮大な話じゃなくて申し訳ないのですが、結局一番大事なのは「丁寧なコミュニケーション」と「熱意」に尽きました。「なぜ統合するのか?」「統合することで、お客様に何を提供したいのか?」といったことを、1つずつ丁寧に説明し、納得していただくしかないんですよ。泥臭いですが、そういう積み重ねがブランドを作っていきます。

「MBAは役に立たない」。260億本を製造する関西工場で学んだこと

KEN:なるほど。リアリティがある回答です。私も日々、経営って「泥臭いこと」をいかにできるかの積み重ねだと痛感しています。久野さんは、フランスでMBAも取られていますが、座学と実務、どちらが重要だと思いますか?

久野:私は、むしろ一番大事なのは、これまでに経験したどんな業務からも学ぶことだと感じています。それがあるから、今の自分があると思っています。もともと私がMBAに行きたいと思ったきっかけはJTI時代に、上司や同僚と比べて「圧倒的にビジネスマンとしての基礎スキルが足りない」と感じたからでした。当時の制度を利用し、MBAで学んだ経験は、ファイナンスモデルやマーケティングなど基礎的なビジネススキル面では成長がありましたが、それだけでは仕事に役立っていることは意外と少ないと感じます。

KEN:私の周りのMBAホルダーも「MBAは実務では役に立たない」と言っていました。久野さんの真意は、これまでの業務経験を通じた、「現在の下地」の方が役に立つということですか?

久野:そうだと思います。例えば、ブランドマーケティングの部署に移動して最初の仕事は、POP(※2)の作成でした。小さなPOPの作成でも、全国単位で行うと、どれくらいの期間が必要で、予算は◯◯円掛かる、など全体観が分かってくる。納期と予算を管理するプロジェクトマネージャーの素養が身に付きました。あるいは、製造を担当していた時には製造の大切さを身に染みて痛感しました。当時、たばこの不適合品が発生する確率は10億本のうち1本程度でした。こうした品質へのこだわりを理解する方が、経営の実務には繋がると感じます。

(※2)POP:Point of purchase advertisingの略。主に商店などに用いられる販売促進のための広告媒体のこと。

KEN:10億本で1本……。JTの事業の強さを垣間見た気がします。

「黙れ。久野の話を聞け」。ジュネーヴでの褒め言葉とは?

KEN:視点を変えますが、日系の電機メーカーが海外展開で苦労しているなか、JTは海外でも利益成長を続け、まさに「グローバル企業」という印象です。久野さんにとって「多国籍なチームで働く面白さ」は何ですか。

久野:一言で表わせば多様性を感じる瞬間です。JTI時代は海外のプロモーション企画を行っていました。印象に残っているのが、ジュネーヴに赴任したばかりの時によくギリシア人の同期から「Good Job」と言われたことです。悪い気はしなかったのですが、大した成果も出せていないかったので、変だな、と。しかし、ある時会議で会心のプランを提案したら、周囲がざわざわ騒ぎ始めたんです。そして「ああでもない。こうでもない」と質問が相次いだ。するとその時のイギリス人のトップが「だまれ、久野の話を聞け」と一喝し、「すぐやるぞ」となりました。

その時「ああ、初めて評価されたんだ」と気が付いたんです。彼らにとって「Good Job」は何の褒め言葉でもなく、本当にバリューのある提案に対しては「すぐにやろう」で終わる。仕事への考え方が根本的に違うんだなと感じた瞬間でした。

「でも。たばこですよね?」

KEN:ここまで全ての話が面白く、興味深いのですが、ただもしも僕が学生なら気になるのは、「でも……たばこですよね?」ということです。要は、たばこは社会的にはイメージが悪い側面もある。久野さんはどう答えられますか?

久野:率直な質問ですね(笑)。そうですね、話が少し逸れますが、例えばKENさんは「自由」と聞くと、どんなイメージを想像しますか?

KEN:「自由」……、「自立が必要なもの」でしょうか。

久野:自由、「Freedom」という言葉は、実は「Winston」のブランドメッセージなんです。それを象徴するように、パッケージには大空を羽ばたくワシを使っています。そして面白いのは国によって「Freedom」のイメージは全く違うんですよ。例えば、スペインの市場調査では「飛んでいるワシ」は「自由」を連想させる、というデータがあります。彼らの原風景に近いイメージを喚起できるわけです。だからワシを見るだけで、「Freedom」を想像できる。

しかし、日本で自由について市場調査を行うと、実は大半の人が「よく分からない」と答える。だから、ブランドメッセージを作る際には、日本でのコミュ二ケーションはこちらから自由を「自分を感じる。」と定義する必要がありました。何が言いたいかというと、この「Winston」というブランドは、その国々の人の「自由を感じる瞬間」を感じてもらうために存在しているわけです。

KEN:面白いです。つまり、その真意はブランディングの仕事と同じように、たばこという商材そのもののではなく、その「価値」を提供していると。

久野:確かに、KENさんの言うように、たばこにはネガティブなイメージがあると思います。でも車だって移動手段という側面もあれば、交通事故のリスクを常に負うリスクはある。どんな商材でも裏表はあると思います。もちろん反対意見もあるでしょうが、私個人としてはたばこは「心の豊かさ」を提供する商品だと思って働いています。

夢は新興国で事業を起こすこと

KEN:パーソナルな話になりますが、久野さんが仕事で成し遂げたい夢はありますか?

久野:あります。新興国でビジネスを興して、現地の人の生活を豊かにできればと思っています。実は会社に入る前、ベネズエラに住んでいたことがあり、一部の国民はオイルマネーで潤っている一方、多くの国民は極度の貧困に苦しんでいる姿を間近で見ていました。今の仕事もいいですが、いつかはJTの看板を使ってこうした貧困問題の解決に貢献したいと思っています。

KEN:最後にONECAREERは月間数万人の学生に見られています。彼らへのメッセージをいただけますか。

久野:個人的には今の就活生は情報が多すぎてかわいそうだと思います。就職先を決めるときは情報武装をやめて、自分のコアで勝負してほしい。私は部下に対して、弱みの指摘よりも、強みを生かすように伝えます。自分の強みが最大限生かせる企業を見つけてください。そしてその企業がもしもJTであったら、とても嬉しいなと思います。

KEN:ありがとうございました。



<JTインタビュー:一覧>

#01:ブランドマネージャーに必要なのは「数千億円の商品を管轄する」経営者の視点。JTマーケティング戦略部:久野新吾氏インタビュー

#02:「成長したい人こそ、就職先はベンチャーでも大企業でもどちらでもいい」。ベンチャー・大企業、両方を見た長塚氏が語る

#03:「働きやすい企業」とは虎ノ門の会社に行ってみた―編集長の訪問


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