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就活サイトトップ就活記事グノシーから「スタートアップより面白い」DMMのCTO...

グノシーから「スタートアップより面白い」DMMのCTOへ:文系も理系も必須の「モデル化」思考とは?

キャリア インタビュー
2019年4月25日(木) | 28,594 views

「これからの時代は、複数分野の架け橋になれる人材の価値が高まります。特定の領域に閉じこもっている人は、ソフトウエアやAIに代替されてしまうでしょう」


そう爽やかに語るのは、20代にして年商2,000億を超えるDMM.comでCTO(最高技術責任者)を務める松本勇気氏だ。


松本氏は、創業直後のGunosyに入社。同社でCTOを務め、2018年10月に合同会社DMM.com(以下、DMM)のCTOに就任した。現在は「DMMのテックカンパニー化」という全社ビジョンの実現に向け、各種事業の戦略作りや意思決定を担っている。


エンジニア部隊のトップとして、若くして経営陣に入り、「ビジネス」と「エンジニアリング」の両方を支える立場になった松本氏。しかし、当の本人は「エンジニア志望」だったわけではなく、学生起業するまで、プログラミング経験も全くなかったのだという。


特集:二項対立するキャリアの「嘘」。


この連載では、「脱・二項対立」的なキャリアを歩むビジネスパーソンにインタビューすることで、世間一般で語られている固定観念の欺瞞(ぎまん)性を暴き、キャリア選択の際に心がけるべき「本質」を明らかにしていく。


Vol.3の今回は松本氏に話を伺い、「ビジネスサイド/エンジニアサイド」という、一見断絶されているかのように思われる2つを越境して活躍するからこそ語れるキャリア論に迫る。

【本記事のみどころ】
・プログラミング経験ゼロから、学生起業でCTO。Gunosyを経て「スタートアップより面白い」DMMを選ぶまで
・ビジネスサイドもエンジニアサイドも、本来の目的は同じ。両者を架橋できる人材が活躍できる
・すべてのビジネスマンが身に付けるべき「モデル化」思考とは?
・目標のない状態が一番ダメ。まずはインプットを増やし、ゴールを仮置きしよう

プログラミング経験ゼロから、学生起業でCTO。Gunosyを経て「スタートアップより面白い」DMMを選ぶまで

──松本さんは現在、DMMのCTOを務められています。「CTO」という職種、なんとなく聞いたことはあるのですが、具体的な仕事内容がイメージしきれなくて……。まず普段どういった活動に取り組んでいるのか、教えていただけますか?

松本 勇気(まつもと ゆうき):合同会社DMM.com 最高技術責任者CTO

学生起業を経て、2013年1月に株式会社Gunosyに入社。2018年8月まで執行役員 CTOおよび新規事業開発室室長を務め、ニュース配信サービス「グノシー」「ニュースパス」などの立ち上げから規模拡大、また広告配信における機械学習アルゴリズムやアーキテクチャ設計を手がけた。2018年10月11日より合同会社 DMM.com CTO(最高技術責任者)に就任。


松本:「DMM」と「エンジニア」と聞き、イメージが湧かない人もいるかもしれません。実はDMMでは、40以上もの事業があるなかでサービス、ITインフラ、会員基盤の開発を行っていたり、3,000万人以上が登録する会員データを収集し分析していたりと、全社員のうち約4割がエンジニアとして働いているのです。

私の場合はCTOとして、技術戦略の策定・意思決定から、個別の推進チームの立ち上げ・ディレクションまで、テクノロジー活用におけるさまざまな粒度の仕事を手がけています。他にも経営指標の可視化や、データサイエンスを用いてより効率的に事業を運営していくために全社を挙げて取り組んでいるビジョン「DMM TECH VISION」の実現に向けた採用・人事制度の見直し、さらにはマーケティングや広報戦略の策定も行っていますね。


──技術的な面に加えて、広範囲にわたって会社の成長戦略を立てられているんですね。若くして4,000人規模の企業の経営に携わることになった松本さんが、どういったキャリアを経て、現在の地位まで駆け上がってきたのかが気になります。学生時代はどう過ごしていたのでしょうか?


松本:最初は、漠然と「戦略コンサルに行きたい」と考えている、よくいる「意識高い」学生でした(笑)。

しかし大学3年生の頃、友人と起業をしてみたことで、転機が訪れました。もともと「攻殻機動隊」や「ソードアート・オンライン」といった漫画や小説で描かれている世界観に憧れ、実現するための方法を模索していたんです。そして大学のOBなどに相談していく中で行き着いた選択肢が、「会社を作る」こと。友人がCEOとなったので、僕はCTOを務めることになりました。


──「学生起業」を経験されていたんですね。CTOになったということは、エンジニアを志望していたんですか?


松本:いえいえ。むしろプログラミング経験すら皆無でしたよ(笑)。それにもかかわらず「CTO」を名乗ってしまったので、食事と睡眠以外の時間は、ひたすらプログラミングをしていました。よく「どうやって技術力を身につけたのですか?」と聞かれるのですが、もともとコンピューターサイエンスを学んでいたわけでもありませんし、特殊な学習法があったわけでもありません。ただ必死に食らいついて、寝る間も惜しんで目の前に出てきた課題を解決していくうちに、自然とスキルが身についていっただけです。


──上達のための「裏技」があったわけではないと。


松本:もちろん、最適な方法は人によって異なるとは思います。インターンで先輩に学びながら取り組む方が合っている人もいるだろうし、個人のプロジェクトで何かを作ってみてもいいでしょう。自身の性質と目標を鑑みて、自分に適したスタイルで取り組むと良いと思います。


──その後、就職活動はされていたのでしょうか?


松本:いえ、ほぼしていません。広告代理店のインターンシップに参加したことがある程度ですね。

学生起業の後はGunosyに入社することになったのですが、創業者が知り合いだった縁で手伝いをしているうちに、入社した形です。最初は一社員でしたが、気付いたらCTOになっていました(笑)。

松本:とはいえ、明確にCTOを目指していたわけではなく、ならざるを得ない状況になっていた、というのが正直なところです。Gunosy創業者の3名は機械学習(AI開発)のスペシャリストだったのですが、プロダクトの開発に長けていたわけではありませんでした。そうした彼らが得意でなかった領域のサポートを続けているうちに、僕のリソースが必要不可欠な状況になり、それに合わせて職責も増えていったんです。


──CTOという立場にこだわっていたわけではないと。


松本:そうですね。「漫画やアニメの世界を実現したい」という自分自身のビジョンを実現するために、さまざまな選択肢を検討しながら仕事をしていく中で、最適な道を選んできただけです。

入社から6年近く経った2018年の10月に、GunosyからDMMに移籍したのですが、それに従った結果といえます。Gunosyでも広告エンジンやブロックチェーン技術の開発といった面白い仕事はできていたのですが、「もっと自由度が高い環境で働いてみたい」と思い、独立して起業しようとしていました。しかし、「自分が起業し成功しても、数年で数十億円規模くらいのインパクトしか生み出せないだろう。果たしてそれが最適なのか?」と葛藤もしていたんです。


──そのタイミングでDMMからオファーが来たということですね。


松本:はい。「数千億円規模のインパクトを残せそうなこの環境は、起業するより面白いに違いない」と確信し、入社を決めました。


──仕事の面白さや醍醐味(だいごみ)は、どのような点に感じられていますか? 前職で優良スタートアップを成長させていたこと以上に面白い経験ができているのか、「本音」の部分が気になります。


松本:DMMには「スタートアップより面白い」面が多分にあるんですよ。事業規模が大きく、取り組める施策の幅も広い。そして、会社の方針として「なんでもあり」を掲げているほど、自由で意思決定のスピードも速いんです。

本当に面白い会社で、人が足りないことだけが問題ですね(笑)。「やりたいことは多いけれど、人手が足りていない」状態なので、今は採用に注力しています。

ビジネスサイドもエンジニアサイドも、本来の目的は同じ。両者を架橋できる人材が活躍できる

──エンジニアサイドとビジネスサイドの両方を手がけながらキャリアを築いてきた松本さんですが、一般的にビジネスとエンジニアリングは別の職種として扱われますし、モノを「売りたい人」とモノを「作りたい人」という両者の立場上、対立するケースも少なくないと聞きます。なぜ松本さんは横断的に動けているのでしょうか?

松本:「経営者目線で見れば、『ビジネス VS. エンジニアリング』という二項対立なんて存在しない」と知っているからでしょうね。学生時代に起業した経験が大きいのかもしれません。

会社というものは本来、「ステークホルダーに利益を還元する」というシンプルな仕組みで動いています。ユーザーや社会に対してサービスを届けることも、利益還元の一環に過ぎません。この観点から考えれば、ビジネスサイドもエンジニアサイドも同じゴールに向かって動いているはずで、本来は対立する概念ではありません。


──確かに「企業」という一つの集団の一機能である点では、ビジネスもエンジニアリングも同じですね。にもかかわらず、なぜ両者は対立しているように捉えられてしまうのでしょう?


松本:経営から現場レベルに仕事を振り分けていく際に、「ステークホルダーへの利益還元」という本来のゴールが伝達されないからだと思います。結果として、お互いが目先の仕事だけを追いかけるようになってしまい、分断が生じるんです。


──とはいえ、現場メンバーが経営目線を持つことは、なかなか難しいようにも思えます。


松本:だからこそ、対立するもの同士の架け橋になれるビジネスパーソンの価値が高まっていくと思いますね。タクシーや宿泊といったサービスを、ITの力でマッチングプラットフォームに仕上げた「Uber」や「Airbnb」に代表されるように、あらゆるサービスが「ソフトウエア化」し、自動化やアウトソーシングされる仕事の割合が増え続けている今、特定の領域に閉じこもるのは危険でしょう。自分の仕事が代替されてしまうリスクが高まりますからね。


──「対立するもの同士の架け橋になる」という考え方は、スペシャリストにも共通するものでしょうか?


松本:はい。一つの仕事を極めるにしても、一段上のレイヤーから「今自分が本当にすべきことは何か」を考える必要があると思います。どんなに切れ味が鋭いナイフを持っていても、「何を切れば良いのか」が分からなければ意味がない。同じように、優れた専門性こそ、「どこに」「どうやって」生かすかが大事。スペシャリストだからといって、山奥にこもって黙々と作業だけしていれば良いわけではないのです。

すべてのビジネスマンが身に付けるべき「モデル化」思考とは?

──「ビジネスとエンジニアリングは対立する職種だ」と考えるのは誤りであることが分かりました。反対に、松本さんだからこそ見える、ビジネスサイドとエンジニアサイドに共通して求められる素養はあると思いますか?


松本:「モデル化」思考は、全てのビジネスパーソンが身に付けるべきだと思います。

──「モデル化」とは、具体的にどういう意味でしょうか。


松本:少し抽象的で難しく聞こえるかもしれませんが、考え方自体はシンプルです。まずモデル化とは、個々のユーザー行動が最終的に、収支にどんな影響を及ぼすのかを予測し、その数式を考えるようなイメージです。ミクロなユーザー行動を、マクロな財務諸表までつなげて全体像を把握する考え方であり、ある種、数学で例えれば「積分」的な思考といえるでしょう。

逆にユーザー行動をしっかりと見ずに、トップダウンで「このくらい数字を伸ばしたい」と売上目標を設定し、細かなKPIへとブレイクダウンさせていく企業も少なくありません。しかし、そうした「微分」的な思考は、単なる「願い」に過ぎません。経営を「科学」し、確実性の高い予測を立てるためには、個別のユーザー行動から分析を始める必要があります。


──なるほど……。トップダウンで目標を押し付けるのではなく、ユーザーの行動を見て、ボトムアップで着実な予測を立てていく必要があるんですね。


松本:例えば、メディア系のアプリを作るときを想像してみてください。ユーザーの獲得、回遊、広告閲覧……。
取得可能なあらゆるログデータを集計し、積み重ねていくことで、一人のユーザーが使ってくれる金額、ひいては獲得にかけられるコストを算出できるようになります。


──とはいえ、ユーザーが予測通りに行動してくれるとは限りませんよね?


松本:もちろんです。だからこそ、予測と実測値のズレを分析し、モデルの改善を繰り返していくことが必須です。こうした予測と改善のサイクルを繰り返していくことで、事業の精度が高まり、売上の振れ幅も小さくなります。


──こうした「モデル化」の思考を、松本さんはどのように身につけられたのでしょうか?


松本:Gunosyで働いていた経験が大きいですね。全社員が数字ベースで考えることを徹底しており、営業職でも施策の効果測定のためにSQL(データベースを操作する言語の一種)を身に付ける必要があったほどです。

こうした環境に慣れてしまったので、今では他社のサービスを見るときでもデータ収集を怠りません。公開されているデータを基に仮説を立て、その仮説が成立するかを検証していく中で「自分ならどうするか」を考えられるようになりました。これって、自分の仕事の参考にもなるんですよね。サイバーエージェントの「AbemaTV」が開局したときも、データを基にひたすら行く末を推論していました。


──データを「積分」して予測を立て、結果が出たら差分を分析して改善する。こうした「モデル化」が、職種を問わず大事になるのですね。

松本:これは、経営者でなくとも、全てのビジネスパーソンに必要な思考法だと思っています。メンバーからリーダー、そしてマネージャーと職位が変わることは、「問題の抽象度が上がる」ことしか意味しません。目の前のお客さん一人を大切にするのか、あるいはグループや地域、事業や経営全体を統括するのか──扱う対象が変わっても、科学的な方法論を取るべきこと自体は変わりありません。


──とはいえ、いきなり「モデル化」に挑戦するのはハードルが高い気がします……。


松本:「モデル化」がイメージできない人は、まずは目の前の仕事の「意味」を考えてみるのがいいと思います。社長が語るビジョンと目の前の作業に、どういったつながりがあるのか。事業の全体像と個々の業務の関連性に考えを巡らせ、整理していくことは、「モデル化」の第一歩になるでしょう。

目標のない状態が一番ダメ。まずはインプットを増やし、ゴールを仮置きしよう

──本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。

松本:キャリアについて考える際は、まずは仮置きでもいいのでゴールを決め、軌道修正と再設定を繰り返していくことが大切だと思います。僕も悩みながら、進路を選んでは直し、現在に至りました。

「分からないから、何も目指さない」ということだけは、やめた方がいいと思いますね。目的がないと、いつまでも「なんとなく」で日常を過ごしてしまい、成長の機会を失い続けてしまいます。


──とはいえ、「ゴール」はそう簡単に見つかるものではないと思います。


松本:たしかに、経験が少ない学生さんにとっては、簡単なことではないかもしれません。ですが、「ゴールが分からない」という人は、単にインプットが足りていないだけだと思います。悶々(もんもん)と目標を考え続けるのではなく、面白そうなイベントがあれば外に飛び出して触れに行ったり、気になる人に話を聞きに行ったり、時には小説や漫画などのコンテンツを消化したりと、とにかく情報や経験の量を増やしていくのがオススメです。


──先ほどの「モデル化」の話にも通じる気がします。「ゴール」という予測モデルを構築していくためにも、行動することでインプットする「データ」を増やしていく必要があると。


松本:そうですね。「モデル化」思考を応用すれば、より戦略的にキャリアが築けます。

また、ポジショントークに聞こえてしまうかもしれませんが、どんな進路を志望するにせよ、ソフトウエアエンジニアリングを学んでおくことは絶対にプラスになると思います。SQLやコードが書けると、業務を効率化でき、生産性を高められるようになるのはもちろん、先ほどお話しした「モデル化」思考を身につけようとする際も、大きな効果を発揮してくれるでしょう。


【取材・執筆:川尻疾風(モメンタム・ホース)/撮影:岡島たくみ(モメンタム・ホース)/編集:小池真幸(モメンタム・ホース)】

【特集:二項対立するキャリアの「嘘」】
<Vol.1>異業種を超える不安は、「なんとなく」に過ぎない?:医師→マッキンゼー→ベンチャー経営のメドレー・豊田氏の「逆算しない」キャリア論
<Vol.2>「大企業でスタートアップみたいに働くには、どうすればいいんですか?」博報堂でブロックチェーンビジネスに取り組む加藤さんに聞いてみた
<Vol.3>グノシーから「スタートアップより面白い」DMMのCTOへ:文系も理系も必須の「モデル化」思考とは?
<Vol.4>Googleも、起業も、VCも。なのにベンチャー会社員で再出発のワケ。ツクルバ・上村氏の「キャリアドリフト」というキャリア選択術
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