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社内の「矛盾」を超え、社長と同じものを見ろ──サイバーエージェント取締役曽山哲人が考えるCHROの流儀

インタビュー CHRO IT
2020年5月13日(水) | 29,714 views

「経営人材になりたいと思っていても、社長と同じ目線になれてない人は多い。北野さんは、社長の好きな本や雑誌を知っていますか?」


こんにちは、ワンキャリア執行役員の北野唯我です。


人材市場が流動化しつつある今日、優秀な人材を確保するため、社員や就活生、転職希望者にとって魅力的な組織を作ることが経営の大きな課題になっています。こうした状況で注目を浴びているのが、採用や人材育成に携わる人事と経営をつなぐ「最高人事責任者(CHRO=Chief Human Resource Officer)」です。


本特集では、人事に力を入れる企業のCHROたちとの対談を通じ、「人事が経営目線を持つ必要性」を考えていきます。今回の相手はサイバーエージェント(以下、CA)取締役の曽山哲人(そやま てつひと)氏。

IT人事業界では知らない人はいない、日本を代表するCHROです。


2時間にも及んだ対談の末に見えてきた、曽山氏ならではのCHROの流儀とは……?

経営人事の5大ミッション「HRペンタゴン」とは?

曽山 哲人(そやま てつひと):株式会社サイバーエージェント取締役人事管轄。1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。1998年、伊勢丹に入社、紳士服配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、20名程度だったサイバーエージェントに入社。インターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任、2008年より取締役、2014年に執行役員就任などを経て、再度2016年に現職。


北野:今日はお忙しいところありがとうございます。早速ですが、曽山さんがCHROとして行っている業務はどのようなものがありますか?


曽山:私の場合、CHROの業務は「採用」「育成」「活性化」「適材適所」「企業文化」という5つのカテゴリに大別しています。この5つをまとめて「HRペンタゴン」と呼んでいます。CAの人事幹部では共通言語になっていますね。


北野:面白いコンセプトです。では、経営人事として働く中で、曽山さんが最も重要だと思うことは何ですか。


曽山:いろいろありますが、一番と言われると間違いなく「AND思考」です。経営と現場、開発と現場のように、経営人事には「あっちを立てれば、こっちが立たぬ」ように見える課題が本当に多い。その一見矛盾している状態に対応するのに必要なのがAND思考。「AとB、両方を成立させる方法はないのか?」を常に自問するのです。回答が出ないかもしれないけれど、とにかく自身の解を考え、行動する。これが経営人事において、一番重要な能力です。


北野:確かに、CHROは「強さと優しさ」が最もバランスよく求められる職種ですからね。実際に1週間、どのように動いているんですか? 直近のお話でいいので教えてください。


曽山:まず、月曜日と木曜日の50%くらいは適材適所の実現に向けた業務に当てていますね。社員が2,000人を超えたあたりから強く意識するようになり、個人的に一番注力しているポイントなので。週前半は役員など経営陣との会議が多く、逆に金曜日はフレキシブルに対応できる時間を確保しています。


北野:なるほど。ちなみに5つのカテゴリの中で「採用」や「育成」は分かりやすい。ただ、「活性化」という表現はあまり聞いたことがありません。具体的にはどういったミッションなんでしょうか。


曽山:活性化を端的に表現すると、全体の利害を一致させ、業績を上げるための行動です。どこの会社でもそうですが、CAでも社内全体で高い目標を持って日々仕事をしています。ただ、それもやるなら楽しんで取り組めるようにと、チーム対抗戦や会社全体のキャンペーンなどにするのが活性化です。そうすることで全体の利害を一致させられるため、組織と個人を結び付けることが可能となるのです。意識付けのために、社内のいたるところにポスターを貼っています。


北野:確かに、この部屋に来るまでにいくつもポスターを見かけました。「育成」についても気になります。多くのベンチャーは、とにかく採用に注力する傾向にありますし。


曽山:ここでいう「育成」というのは、才能を開花させることを目指す施策です。私自身、才能を開花させるアプローチは「裁量」「配置」「決断経験」の3つだと考えています。分かりやすいのは、マネージャーやリーダーなどの肩書きを与えること。先輩がやったことのない内容を若手に任せることで、決断経験の環境を提供するのも重要です。

「挑戦した敗者に新たな挑戦の機会を」 セカンドチャンスは伸びるところに

北野:それ以外に、あえて配置を換えるケースはありますか?


曽山:「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」というのがCAの文化ですが、これを体現するためにやっていることが、別の伸びるところに異動してもらうこと。あるいは、エース級の人材が今いる部署から外に飛び出しやすくするために辞令を活用することがあります。成果を出している人ほど責任感があるため、例えば、「他の部署で働いてみたい」と思っても、なかなか言えないものです。そこで、人事が辞令という体裁をとることで、双方がハッピーになるケースもある。こういうことです。


北野:つまり、辞令という形で「外に出られる理由」を人事が作ってあげると。これが適材適所へとつながっていくというわけですか。でも、これって言うは易しで、実行は難しいですよね。曽山さんなりの哲学はありますか?


曽山:大事なのは「今の配置は100点満点で何点?」と常に問い続けることですね。部署全員の配置が満点なのか? を無理に目指すのではなく、考えることに意味があります。部署によって、ハマっていないこの人、ハマっているあの人など状況はさまざま。その本人に変化を促すことで、最適な配置を目指します。だから、CHROが問うべきなのは「今の配置は100点満点で何点なのか?」なんですよ。

北野:これはめちゃくちゃ面白い。確かに「配置に満足しているか?」というのは哲学的な問いです。なぜなら、「機会損失」を発見できるから。すごい。

北野 唯我(きたの ゆいが):1987年兵庫県生まれ。新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局で勤務し、米国留学。帰国後、ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画し執行役員就任。2019年1月から子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問も兼務。30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が14万部。2作目『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)が発売3カ月で9万部。編著に『トップ企業の人材育成力』。


曽山:ありがとうございます。あと、気を付けているのは異変をGEPPO(ゲッポウ:従業員のコンディション変化発見ツール)から発見することですね。例えば「あなたのチャレンジ度合いを天気で回答すると?」といった項目を作っています。部署、個人で比べてみると、面白いぐらいに差がありますよ。MVPを取るようなエース級の社員が「曇り」をつけていることで面談をして見ると、成果は出ていても「もっとやれる」という余力があるということが分かることがあります。


北野:そうすると、まさに、活躍しているように見えるエースも「実は悩みがある」ということも分かるわけですね。


曽山:そうです。人事はこれを毎週の定例会議で500人から1,000人分のコメントを確認しながら、そのうち200人くらいには個別で面談やメッセージなどでやりとりをしています。通常だと、上司や人事から見た「定性的な第三者視点」のみが反映されやすいですが、ここにGEPPOで得たその人自身の主観情報を入れることで多面的に見られるのです。私を入れた5名の社内ヘッドハンターで、GEPPOのチェックをはじめ、期待する人材の発掘なども行っています。


北野:こうした取り組みはすんなり動き出したのでしょうか。始まった当時、悩みはありませんでしたか?


曽山:確かにありました。人を大事にするCAだからこそ、とにかく採用強化と才能発掘の両方を生かす制度を作りたかった。しかし、私が2つとも見ていると中途半端になってしまう。「そもそも成功の定義としてKPIに何を設定するのか?」「そもそも何が100点か」といった点にも悩みました。その後、紆余(うよ)曲折を経て、新卒採用は石田裕子という執行役員が新しく採用戦略本部を新設して一気に加速しています。


人事で最も大切なことは何か、どうしても1つ選べと言われたら、それは採用です。スピードと成果を上げるために、採用戦略本部を新設してもらったおかげで、私はその分、適材適所の実現に時間をかけることができるようになっています。


北野:まさに、権限委譲ですね。

新卒採用のコンセプトは「今の1年目よりも良い人材を採ること」

北野:CAにおける、採用の哲学やルールって何でしょうか? 正直な話、これだけ採用の土台ができていたら、多少、気を緩めても大丈夫じゃないのかと思ってしまいまして。


曽山:いいえ、全くそう思いません。むしろ危機感が高まっています。企業が成長したからこそ、次はCAに合う人と合わない人のマッチングの判断を強くすることが求められてきます。数ではなく、CAに合う人に来て欲しい。100人採用するのも努力が必要です。私は毎年、「今の1年目よりも良い人材を採ること」を大事にしています。悩むときは「今の誰より優秀か?」を考え、優秀なポイントがあったら採用します。


北野:まさに、採用の哲学。曽山さん、まるで、求道者みたいな戦い方ですね(笑)。


曽山:決めて戦わないと、緩むことが分かっているから。私は、エニアグラムでもタイプ1、完璧主義者のストイック野郎なので(笑)。


北野:曽山さんっぽいです(笑)。それだけ毎年優秀な人材を採用していたら、上の人たちは苦しいんじゃないですか?


曽山:当然、突き上げられているでしょうね。私も若手から突き上げられています。しかし、先輩には「先行者優位」による経験がある。挑戦と学習を続けていけば、恐れる必要はありません。先輩は経験や人脈で勝負、若手はそれを突き上げることでプレッシャーをかけながら勢いで戦っていく。

それこそ私が65歳になるころ、新卒に「みんな、大きな挑戦してる? 私もこんな挑戦してるよ」って突っ込んだら、「曽山さん、私たちはもっと挑戦してますよ。もう大丈夫なので、早く引退してくださいよ」って笑って返してくれるぐらいがいい。シニアも若手も共に育つ会社を作りたいんです。

部下を成長させられない「ワンパターン」のマネジメントスタイル

北野:曽山さんは今、CHROとして生き生きと働いているように見えますが、苦労したり挫折したりした経験とかあるんですか?


曽山:大きな挫折は営業時代にありました。部下の成長を通して、自分のマネジメントがいかにワンパターンだったかを思い知ったんですよ。自分の下にいるときに成果を出せていなかった部下が、隣の部署へ移動した翌月にいきなりMVPを取ったのです。


北野:それは衝撃的な話ですね。


曽山:本当に自分が情けなかったし、恥ずかしかった。この時に、彼がなぜ成果を出せていなかったのかを振り返って、私のマネジメントスタイルが指示命令型のみだったことに気が付いたのです。「俺が成功したパターンをなぞれば成功する」と考えてしまったのが、失敗の原因でした。それは彼の「楽天的」というエニアグラム診断を見ても、私のスタイルと合わないことは明らかでした。

10人の部下がいれば、個人個人に合わせたマネジメントの形があること。それにやっと気が付いたのです。そこからコーチングなども学び、30歳になる前までに、相手に合わせるマネジメントスタイルを身に付けました。


北野:同様の問題に多くのスタートアップの役員やマネージャーが直面していると思います。こうした問題への接し方として、役員やマネージャーにはどのような対応が必要か教えてください。


曽山:マネージャー本人はもちろん、メンバーも含めて「他人と自分は違う」ということを心から納得しないとダメです。エニアグラムやEQなど、可視化のツールもたくさんあります。ツールを使わなくても、よく対話して聞いてあげたり、よく観察したりするだけでも違います。

私が必ず実践しているのは「分かった」だけではなく、その人がどのような行動をするかを見ることです。マネジメントができる人ほど、「その人が波に乗れるようなやり方を見つけること」を意識します。

突然の辞令でCHROに、即答で引き受けた理由とは

北野:さまざまなステップを踏んで曽山さんはCHROになったわけですが、就任したときやその背景は何だったのでしょうか。


曽山:実は、人事への異動の話は社長の藤田からいきなり来ました。役員合宿の直後に急に藤田が私を呼び出して「役員合宿で、曽山くんに人事本部長をやってもらおうとなったんだけど、どうかな」と言われたのです。かく言う私も、「はい、やります!」と即答しました。

北野:え、即答なんですか!? 営業から全く畑違いの人事へ行くのに、不安はありませんでしたか?


曽山:全くありませんでした。というのも、ずっと「抜擢(ばってき)されたい」という欲求が根底にあったからです。地道に仕事をし、毎月コンスタントに成果も出してきたのに、なぜか自分は取締役や子会社社長といった責任のあるポジションに選ばれない。「次こそは自分」と思っていても、周りの人が引っ張り上げられる場面を何度も経験してきたのです。


北野:何でですか?


曽山:数年後、その抜擢された人たちに当時の話を聞いて分かったのですが、彼らは『社長になりたい』って藤田に言ってたんですね。そして彼らは、話すたびに「今の能力では無理だから、チームで結果を出して」というように課題を与えられていたそうです。振り返ると、私は特に自身の思いを藤田に伝えていなかったのです。今、経営人事として突き抜けたいと思っているので、社内はもちろん、社外に向けてもブログやSNSでも発信しています。


北野:つまり、「ちゃんと宣言しろ」と。そりゃそうですね。それがしっかりと実践できている社会人は少ないです。

「経営陣や社長と同じものを見ろ」 CEOに信頼されるCHROの要件

北野:視点を変えて、曽山さんがCHROとして、藤田さん、つまりCEOに信頼されるために重要だと考えていることはありますか?


曽山:経営目線です。社内外問わず、「経営者とよくしゃべること」ですね。人事ってどうしても人事だけで話してしまいがち。だからこそ、CHROはもっと社外でも経営者と対話した方がいいと思います。とはいえ、他社の経営者に会いに行くのはなかなか難しいから、気になる社長のセミナーや講演を聞きに行くことで、会う時間を作っていました。


北野:へー、そうなんですか! その時に意識していたことがあったら教えてください。


曽山:「最前列に座り、頑張って相手にぶっ刺さるような質問をすること」です。例えば、ある有名な経営者の講演会に20代の頃参加したのですが、質問タイムになったらすぐに手を挙げて、「一番記憶に残っている人生経験を教えてください」と聞きました。私も本気で経営者になりたかったので、とにかく相手の経営経験を聞くとともに、印象に深く残る質問を考えます。


北野:その様子を想像すると、格闘技のようにボディブローで効いてくる感覚ですね(笑)。曽山さんと経営者が、1つの質問を通して戦っている。


曽山:そういえば北野さんは、ワンキャリアCEO宮下さんの愛読書を知ってますか? 好きな雑誌や本、何を定期購読しているかとか。


北野:孫正義さんの本は最近読んだと教えてくれました。正直、社内SNSで上がっているものや直接話したものぐらいしか分からないです。


曽山:そうなんです。経営者が何を見ているかを周囲の役員や従業員はびっくりするほど知らない。CAは経営者や社員がSNSを活用しているから、藤田のブログなどから、何を見ているか、何を考えているのかは分かりますが、普通の会社は難しいと思います。だからこそ、社長と同じものを見ることが大事なんです。経営人材になりたいと思う一方で、社長と同じ目線になれていない人はきっと多い。そのための一歩が、何を読んでいるかを知ることなのです。

規模は小さくても構わない 「人を率いて結果を出す」ことが大切

北野:僕は思うんですが、ある意味、CAの人事って大変だと思うんですよね。なぜかというと、曽山さんという有名人がいるから。曽山さんに続く次世代のCHROを育てるために必要なことは何でしょう?


曽山:私が思うに、2つの要素があります。1つは「哲学を共有すること」、もう1つは「私がやったことがない新しい分野で、経営に携わってもらうこと」です。

前者は言葉通りです。人事が大切にしている考え方を伝えることです。後者の話ですが、次世代のCHROは私のコピーにならなくていいし、狙ってもいけないと考えています。私がやってないところや空いているところを見つけ、結果を出して欲しい。だからこそ、「私の真似をしなくていい」と周囲に伝え続けることが大切だと思っています。


北野:最後に将来のキャリア選択として、CHROになりたいと思っている学生や若手向けに、曽山さんが必要だと思うことを教えてください。


曽山:「CHROになりたいのなら、小さな規模からで良いので、人を率いて成果を出せ」です。「大人数じゃなければ、ビジネスじゃない」と考える人もいますが、そうではありません。その対象が5人のサークルでもゼミでも構わない。とにかく目標を決めて、結果を出す。ニーズを見つけ出す。そこから規模を10人、20人とどんどん増やしていくのです。この繰り返しで、周囲にどんどん実力を見せていくのです。

北野:とにかく小さいところから成果を出していく。目標は高くても第一歩はどこからでもいいということですね。勇気付けられます。曽山さん、ありがとうございました。


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▼過去のインタビュー記事

・「じゃあ、曽山さんなら、どんな就活するんですか?」【サイバーエージェント:曽山哲人】

【経営人事「CHRO」特集:なぜ組織が強い会社は事業も強いのか】
<Vol.1>社内の「矛盾」を超え、社長と同じものを見ろ──サイバーエージェント取締役曽山哲人が考えるCHROの流儀
<Vol.2>2030年、メルカリが世界中に広がるためにCHROは何をするべきか【メルカリ木下達夫氏×北野唯我】
<Vol.3>これからのDeNAに必要なのは組織改革だ 事業部出身のHR本部長、崔大宇氏の挑戦

【執筆協力:スギモトアイ/撮影:加川拓磨】

※こちらは2019年5月に公開された記事の再掲です。

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取締役
北野唯我(KEN)

北野 唯我(きたの ゆいが):株式会社ワンキャリア 取締役CSO/作家
新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局勤務。米国・台湾留学後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役として戦略・採用・広報部門を統括。2021年10月、同社は東京証券取引所マザーズ市場に上場。作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が20万部、他に『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)などで、著者累計40万部。

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