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徹底解剖、策士くつざわ(前編) 突然バズった20歳、見えたSNS世界の光と闇

女性 インタビュー
2020年5月7日(木) | 35,167 views

たった1つのツイートをきっかけに、「平凡」な生活を送っていた女子大生の人生が一夜にして変わった──。


「令和最初のバズ」「3日でフォロワー5万人増」「女子大生SNSマーケター」など、センセーショナルな言葉に覆われ、各方面から注目を浴びている女性がいる。都内の大学に通う2年生、くつざわさんだ。


バズってからは、Twitterだけではなくnoteを始めたり、マーケターとしてセミナーを行ったりするなど、活躍の場を広げている一方で、心療内科でうつ病と診断されたことを告白するなど、有名になった彼女の道は決して平坦(へいたん)なものではない。


ただ、友達を笑わせるためだけにやっていた「女子大生あるある」のモノマネで突然バズった20歳に一体何が起こったのか。バズの裏にあるしたたかな戦略も含め、「策士」くつざわの正体に迫った。


「3日でフォロワー5万増」は偶然じゃない その裏に隠された地道な努力とは

──くつざわさんが、Twitterに動画を投稿し始めたのは大学1年生のときですよね。ぶっちゃけ、これはバズると思ってたんですか?


くつざわ:そんなことないですよ! もともと遊び半分で始めたことですし、最初の2つくらいは「これバズるんだ、ウケる」くらいの感覚でした。ただ、仲のいい友達や彼氏がマーケティングの仕事をやってたこともあって、どうしたらもっと伸びるのか、いろんなことをメモしてました。Twitterはリアルタイムでデータが取れるので、仮説検証を繰り返せるいい独学の場だったと思います。


──実際、どんなことをやっていたんでしょう。


くつざわ:こういうコンテンツを出したら、こんな反応があったとか、どうしたらフォロワーボタンにつながりやすい作り方ができたとか。そもそも、Twitterというプラットフォームを選んだのも理由があるんですよ。


──確かに、動画だったら「YouTube」や「TikTok」でもいいですよね。


くつざわ:Twitterは文章と動画を同時に投稿できるという点が大きいんです。「女子大生あるある」の場合、前提として動画のシチュエーションなどを提示しておくんです。例えばくねくねしてるとか、唇をかんでるとか。そうすると、ユーザーは必ずその部分に注目するじゃないですか。そうすると共感が生まれやすくなる。多分、同じものをYouTubeで投稿してもそんなにウケなかったと思います。

SNSって結局マウンティングツールみたいなものなので、動画に対して「確かにこんな女いたわ」と引用RT(リツイート)でもしてくれればしめたものです。コンテンツを拡散するには、自分でボンボン出していくよりは、他人に広告になってもらうのが一番効率いい。

RTもアカウントのコンテンツになるので、その人のイメージ付けに影響します。だから、「自分もこういう経験をした」というようなアピールや、大学生がマウンティングに使える動画になるように意識してました。


──なるほど。最近はマウンティングのためにあるんじゃないかと感じるようなサービスもありますし……(笑)。そこまで狙いや拡散の仕方まで細かく設計したのはなぜなんですか?


くつざわ:今の世の中、バズってめちゃくちゃ多いんですが、ただタイムラインで流れて、面白いね、いいねで終わることがほとんど。フォローにまで結びつくケースってほぼないんですよ。

だから「この人ってなんだろう」「この人は普段どんなことしてるんだろう」と思わせるための投稿にしておいた上で、アカウントページに移行させるわけじゃないですか。アイコンの背景を黄色くして明るそうなイメージにしてみたり、自己紹介の文章も工夫したりして、フォローにつながるように設計する必要があるんです。タイムラインに出たときから、フォローボタンを押すまでの導線をがっつり作っていた時期もありました。


──そこまでフォロワー集めにこだわっていたんですね。


くつざわ:コンテンツを出したときに見る人って、コンテンツ自体が好きで見る人と、その人が発信するから何でも見るという人に二極化しています。発信者とコンテンツ自体が分かれているような感じ。後者のような「ファン」が作られれば、将来ビジネスにつなげられるかも、くらいの感覚でやっていました。

ただ、ここが私の考えが本当に甘かったところで、特に目的やターゲットも考えず、安直にフォロワーを増やしに走ってしまった。結果、バズってフォロワーは激増したんですが、そこから、くつざわ自身が好きだというファンを増やすことが本当に難しかったんです。

フォロワー増が「成功」だと思っていた くつざわが振り返る大失敗

──そうなんですか? 有名になった後も、とんとん拍子でうまく進んでいる印象を持っている人は多い気がしますけど。


くつざわ:やっぱり「女子大生あるある」しか求めてない人は多くて、別のコンテンツを出すと「そうじゃないだろう、おまえは」みたいな反応をされることも多かったですよ。自分の中でも、ものまね女という枠から外れられなかった。すごくコスパが良くて、フォロワーも順調に増えて、いろいろな仕事がもらえているとなると、成功しているように思えてしまう。そう勘違いしていたことが最大のミスだったと思ってます。

それまでは好きなことを好きなようにやってたんですが、ものまねによって、理想像やイメージが固定化しちゃって、義務で動画を上げているような感覚になっちゃったんですよ。自分で自分の首を絞めてしまった。

そこから、いかにマイナスイメージを作らずに、今までのコンテンツで見せてきた自分を見せつつも、それでも徐々にファンに変えていくという動きがすごく難しくて。Instagramやnote、LINE@を始めたのもその一環です。そこでは真面目な話やビジネスの話をするなど、全く別の一面を見せていく。


──プラットフォームごとに目的やキャラを出し分けるのは面白いですね。ユーザー層も違うでしょうし。


くつざわ:それから、徐々にものまねの動画を上げる回数を減らしていったんです。noteで文章を出したときは、「長くて読めないから短くして」と言われて驚いたこともありましたが、「noteのくつざわさんのほうが好きになりました」「文章が好きなので、今後も書いてください」と応援をしてくれる人が出てきたので、一気に方針を変えました。捨てるものは捨てて、つなぎ留めるものはつなぎ留めるようなやり方へ。

バズやインプレッション自体に意味はないと痛感しました。だからこそ、今Twitterではものまね動画を全く上げていません。フォロワー数も求めていないです。

くつざわさんのnote


──最近は「インフルエンサー」に憧れる人も多いと思いますし、それを利用したマーケティングも増えてきています。


くつざわ:有名になりたい一心でフォロワーを増やしたいという人もいると思います。別にそれ自体は悪いことではないですが、「発言力=リスク」とも言えるこのSNS時代で、影響力を持つことは、周囲の作った「こうであってほしい」線から一歩でもズレたらマイナスにつながることは認識しておくといいと思います。

作られた線の上をうまく歩くことを頑張るのではなく、自分の歩きやすい線を作ってもらうような層を取り込むことを頑張るべきでしょう。最終的にどうなりたいか、どんな人たちに見てもらいたいのかを設定しておかないと、私のように痛い目を見ることになる。あとは、悪いオトナに消費されないことですかね。


──若者を食い物にするオトナですか……。いたずらに消費されないためにはどうすればいいんでしょう?


くつざわ:「インフルエンサー」として案件が来ると、最初は絶対うれしいんですよ。でも、実際は自分のアカウントで出すと違和感のあるものを依頼されることがほとんど。インフルエンサーに憧れている人の多くは学生で、それをなりわいとはしていない存在です。お金を稼ぐことが目的じゃないので、断ることだってできる。

ただ、そんな状況に対して、報酬をつり上げて取り込もうとする人たちが多いんです。本質的じゃないし、悲しい話ではあるんですが、それに目がくらんで案件を受けてしまう子もいる。

私はインターネットをずっと使っていた人間なので、友達のツイートとかで、「Instagramであの子こういう商品の紹介してるけど、実際どうなの?」とか、「めちゃくちゃこの商品、みんなが同じような感じで紹介してるけど、逆にだるくない?」みたいな意見が見えるんです。こうなるとフォロワーに不信感を与える原因にもなりますよね。


──「やらせ」でたたかれるリスクはありますね。昔は「ペニーオークション」で同じような話がありました。歴史は繰り返している感じもします。


くつざわ:企業は、企業自体に人格がないからインフルエンサーを起用するわけで。でも、オススメしているものの良さが出てなければ何のPRにもならないんです、結局。それに気付いていない企業とインフルエンサーが多い。フォロワー数で人や報酬を考えているようなところは特に。

ファンからの信頼も減るし、企業のイメージも落ちるし、自分自身の消費にもつながってしまうし……得られるのはお金だけじゃないですか。となると、長い目で見て、それがいいのか悪いのかをちゃんと自分で判断できるようになったほうが、インフルエンサーとして、今後活躍していく上でいいのではないかと思います。

「まだ若いから大丈夫」という甘えからの脱却

──逆にバズったことで、得したなと思うことってあります?


くつざわ:私に無条件で興味を持ってくれる、提供できるものが何もなくても「会いたい」と思ってくれる人が増えたことですね。今まで交わるはずのなかった、いろんな職種の人と知見を交換できたし、自分を成長させてくれるような機会をいただくことも多々あります。その中で、自分の年齢に対する意識も変わりました。

すごく若いのにここまでやっているんだという人や、実際に会ってみて「マジでえげつないこいつ」みたいな人が、やはりいるんですよ。年上の方でも「20歳のときはこんなことをやっていた」みたいな話を聞くと、私はこのままでいいのかな? みたいな。でも、それを感じる一方で「私は若いからまだ大丈夫」みたいな認識……というか甘えがあって。

でも、最近は「まだ20歳だから」ではなく、むしろ20歳だからこそ、若さをうまく使おうという考えになりました。


──面白い! 具体的に「若さ」ってどういう場面で生きるんですか?


くつざわ:最近、「学生という立場ってめちゃくちゃ強いな」と感じているんです。私、実家が居酒屋なんですけど、昔からお客さんに「娘みたい」「孫みたい」みたいな感覚で好かれて、常連になってもらえていたところがあって。

今いろいろな大人の人と仕事をしてますけど、形式張ったやりとり、すごく嫌いなんですよ。「大変お世話になっております」とか。正直「りょ」でいいじゃないですか。「OKです」みたいな。それにすごく違和感があるんです。結局、皆さんそうしたいわけじゃないじゃないですか、たぶん。それなのに、お互いやりたくないことをやってるのが不思議で。


──確かに。僕も嫌いですね、そういう固いやりとり。


くつざわ:この半年くらいで、いきなり社会人みたいな扱いをされてきたから戸惑ってるという部分もあるんですけどね。ただ、そういうときは、ちょっとはしゃぐくらいのほうが、人として距離が近付くので、実家の看板娘の私と、仕事っぽい私というかを織り交ぜてます。仕事として好かれるよりは、人として好かれるほうが、きっと今後の自分のためになるかなぁ、と。

それこそ、若い子の「分からなかったです、今のカタカナ」みたいなほうが近付きやすい。カタカナ分からないままでいます、私。25歳くらいまで(笑)。「KPIって何ですか?」みたいな。無駄に背伸びをしていると結局バレるじゃないですか。絶対に等身大のままでいい。分からないままでいいんです。


──ちなみにもう1回、大学1年生の冬に戻ってTwitterで動画を上げられるとしたら、どんなものを投稿しようと思います?


くつざわ:そもそも動画を投稿するかも分からないですね。ただ、モノマネは確実にもうしないと思います。


──え、それはどうしてですか?


(後編に続く)

※こちらは2019年10月に公開された記事の再掲です。

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池田憲弘
ワンキャリ編集部
池田憲弘

新卒でアイティメディア株式会社に入社後、PC専門メディア、ビジネスメディア、企業向けITの専門メディアを経験。データ活用分野を中心に、AIやIoTなどのトレンドや最新事例を多数取材した。連載をまとめた書籍「AIは人間の仕事を奪うのか? 〜人工知能を理解する7つの問題(https://www.amazon.co.jp/dp/4863542429) 」が2018年4月に発売。

2017年からは「Gallup認定ストレングスコーチ」としても活動。ストレングスファインダーを使い、仕事や日々の生活を楽しく過ごすための方法を教えたり、若者向けのイベントを開催したりしている。2019年4年にワンキャリアに参画。2022年まで編集長を務める。

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