新型コロナウイルスは就活にも影響を及ぼしているらしい。
多くの企業の面接がオンラインに移行。最終面接でさえ画面の向こうにいる面接官と話して終わった、と友達が嘆いていた。「何を考えているかが対面のときよりも分かりにくいし、面接官がロボットに見えたよ」と笑っている友達と一緒に笑った。
友達と就活の話をした日の夜、自分が就活をしていたときに遭遇したことについて思い出していた。
ライター紹介:くるぶしさかな 都内21卒就活生。大学3年生の4月、就活ガチ勢の波に一緒に乗る。
うまく波に乗っているかと思いきや、社会の理不尽にたくさん出会ってしまい撃沈。良くも悪くも自分を見つめ直すきっかけになったと思っている。
そこそこ大きい、いや、かなり大きい会社の説明会。
8人くらいのグループに分かれて、会社説明を聞いて、グループディスカッション的なものをやって、そして社員への質問タイムへ。ごく普通の説明会だった。
グループメンバーの中で女子は私含めて2人。少なかった。
質問タイムは人事がローテーションで各グループを回る形式だ。もう1人の女の子が「女子ってどれくらいいるんですか?」と質問した。
「何人くらいだと思う?」
そう聞き返したのは、50歳くらいのおじさんだった。
そもそも、説明会で質問に対して質問で返す人って一体なんなんだ。分からないから聞いてるのに。質問が出てない微妙な空気を打破しようと頑張って絞り出して聞いてるだろうに。他の人も質問しにくくなるだろうし……。
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そんなことをぐちゃぐちゃ考えていた私とは対照的に、その子は少し考えたあと、「10人くらいですか?」と答えた。
正確な数字はうろ覚えだが、その会社の採用人数が60人くらい。女子の比率はかなり低いと思ったのだろう。
彼女の答えを聞いて、私もそれくらいだと思った。だって、説明会にいる人事は全員男性だったし、参加している女子学生が少ないのも明らかだったから。
ところが、人事の返答は想像を絶するものだった。
「6分の1ってこと?笑 さすがにそれはないでしょう。去年は30人くらいでほぼ50%。もしかして、女子が少ない方がモテると思った?笑」
その場にいた男性たちはみんな笑ってた。きっと私もその笑いにつられて笑ってしまっていたと思う。
でも、質問した彼女は全く笑ってなかった。自分も一緒に笑ってしまった罪悪感から彼女を直視できなかったけど、絶対に笑ってなかった。
自分がこんなことを言われたらと考えると、ゾッとする。彼女の気持ちになることはできないが、きっと恥ずかしくて、悲しくて、早くその場から立ち去りたかったんじゃないか。
説明会の参加者は圧倒的に男が多くて、それでも自分はその会社に興味を持っていて、もし女の人の同僚が多ければ働きやすいかも、と勇気出して聞いてるのにそれはない。
そもそも、モテたいから女子が少ない方がいいなんて思うわけないだろ。どんな発想だよ。
女子が少ないと思われていることを反省するわけでもなく、モテるモテないとかそんな安直な発想で、ましてやその発想を言葉にして、自分の会社を受けるかもしれない学生に投げるなんて。何を考えてるんだろうか。
あの時とっさに、「それ失礼ですよ」って言えていたら。今になってすごく後悔している。怒りはいつもゆっくりと、後からやってくる。遅すぎる、とは分かっているのだけれど。
現実社会があらわれた
これまでは「就活って、いろんな仕事してる社会人に話を聞ける楽しいイベント!」と思ってたけど、あの説明会以来、社会のリアルに遭遇する場なんだなとも考えるようになった。社会に出たらこんな人々ばかりかもしれないのでしょう? 知らんけど。
会社も人事も、みんな正しいことを言っていると思い込んでた。「正しい」の尺度は人それぞれだけど、こちらは20年そこそこしか生きていない。だから、もし違和感を持ったとしても、それは私が考えを改めればいいと思っていた。
でも、そうじゃないんだろう。違和感って間違ってないよな。言ってよかったんだよな、きっと。「それ失礼ですよ」って。
就活は、大学というユートピアと現実社会を結んでいたみたいだ。
もし私があの説明会の日に戻れるならば、おじさん人事に反論するし、あの女の子に声をかけるだろう。許してくれるなら。
「みんなと一緒に笑ってごめん。会社に気に入られなきゃと思って周りと合わせてしまったけど、私は嫌な気持ちだった。就活で違和感を覚えることは多かったけど、その違和感を大事にしていこう。社会に飲み込まれずに生きていこう。またね」
あの子は今、何をしているんだろうな、就活、うまくいってるといいのだけれど。
▼くるぶしさかなの記事はこちら
・なぜ、私はあのときセクハラ人事に言い返さなかったのだろう
・内定と性差別を「天秤にかける」私たち──モヤモヤを受け入れる女子就活生のホンネ
(Photo:fizkes/Shutterstock.com)