需要はあるのに、タクシーがつかまらない。そんな課題を目の当たりにし、既存の構造を根本から変えようとしているのが、モビリティスタートアップ・newmoです。
規制業種、レガシーな現場、乗務員の高齢化という、一見すると新しい挑戦とは対極にあるように思えるこの業界で、あえて変革に踏み出した背景には、どんな思いがあるのでしょうか。
「移動で地域をカラフルに」というビジョンを掲げ、現場から社会を変えようとする同社のCBO(Chief Business Officer)・宮崎聡氏に、その原点とこれからを伺いました。
<目次>
●なぜ今「タクシー」なのか──newmoを立ち上げた背景
●変化する「移動」の形──タクシーを基点に描く未来
●地方の交通をどう再建するか──M&Aと人材戦略のリアル
●変革の主役は若手──「現場発のイノベーション」に飛び込む
●newmoで描くキャリア──「社会課題のど真ん中」で変化を起こす
なぜ今「タクシー」なのか──newmoを立ち上げた背景
──newmoの事業モデルを教えてください。
宮崎:私たちのメインは「タクシー事業」です。許認可を取得し、営業所を運営し、1,000人以上のドライバーも雇用しています。創業時はライドシェアに参入したイメージが強かったため配車アプリなどの会社と思われがちですが、それらは周辺領域で、タクシーが事業の根幹です。
私たちが本腰を入れているのは、レガシーなタクシー業界を刷新すること。そのために業務を効率化するサービスを開発し、自動運転タクシーへの参入も決めています。
──どのような経緯でnewmoを立ち上げたのですか?
宮崎:もともとは、代表の青柳が2017年頃に、今のnewmoと同じような領域で会社を立ち上げようと構想したのが始まりです。しかし当時は、タクシー業界の人手不足も今ほど深刻ではなく、規制も厳しく、市場に参入するのも容易ではありませんでした。
社会的にも「移動難民」といった言葉を耳にすることはほとんどなく、結果的に事業化は見送ることにしたのです。
──そこから改めて事業を立ち上げた経緯も聞かせてください。
宮崎:きっかけは、2023年に入ってからです。コロナ禍を経て人流が戻ったことで「移動の問題」が、いよいよ社会課題として明確になってきました。コロナ禍や乗務員の高齢化により、地方を中心にタクシーの運転手がどんどん減っており、住民の足が奪われつつあるという危機感が高まっていたのです。加えて、公共交通機関の維持も難しくなっており、バスやローカル鉄道の廃止が相次いでいました。
それに伴い、国もようやく法制度の見直しに本腰を入れ始めました。2024年4月の日本版ライドシェア解禁に向けて、規制の在り方そのものを見直そうという動きが出てきたため、私たちも満を持して事業化に向けて動き出したのです。
変化する「移動」の形──タクシーを基点に描く未来
──移動の問題を解決するために、「ライドシェア」から「タクシー」に軸を移した理由を聞かせてください。
宮崎:移動という社会課題に向き合ううえで、タクシーのほうが影響力の大きい入口だったからです。すでに一定の制度と仕組みがあり、なおかつ現場がレガシーな分、改善の余地が大きい。そこにテクノロジーと近代的なオペレーションを持ち込むことで、構造的な課題を解決できる可能性があると考えました。
もちろん、ライドシェアという仕組みには一定の意義があると思います。しかし日本では、「白ナンバーの個人が有償でお客さまを送迎する」というモデルに対する抵抗がまだ根強く、既存のタクシー制度と真っ向からぶつかってしまう構造があります。それならば、制度の中で前向きに挑戦できるタクシー業界に正面から挑戦しようと判断したのです。

宮崎 聡(みやざき そう):CBO
サイバーエージェントで子会社社長や本体役員、本体取締役を歴任。退職後、2018年11月変革期のコンテンツ関連スタートアップにCo-CEO(共同最高経営責任者)として参画。2023年6月に同社を退職し、2024年1月にnewmo株式会社を共同創業。
──タクシー業界には、どのような問題が潜んでいるのですか?
宮崎:全国的には「準特定地域」と呼ばれるエリアが多く存在し、そこではタクシー車両の台数が制限されているため、新規にタクシーを増車できません。過疎地であっても、台数を勝手に増やすことはできず、新たに営業所をつくったとしても、走らせる車両がないという状況に陥ってしまうのです。
また、稼働率にも課題があります。乗務員の高齢化が進み年齢が高く、働ける時間帯が短くなったり、需要がある早朝や夜間にタクシーが少なくなったりして、マッチングがうまくいかないことも少なくありません。こうした複数の問題が複雑に絡み合い、業界全体の構造的な課題を深刻にしています。
──今後、どのような事業展開を考えているのでしょうか?
宮崎:引き続きタクシー事業の拡大とロールアップを進めます。一方で、自動運転についてもすでに開発・実証を進めており、タクシー事業と並行して「次のモビリティの形」をつくり始めています。
たとえば過疎地での移動手段として、自動運転の車両を活用し、タクシーと組み合わせた運用を行う。こうした取り組みによって、「移動のインフラ化」を進めていきたいと思っています。
地方の交通をどう再建するか──M&Aと人材戦略のリアル
──どのようにしてタクシー事業に参入したのですか?
宮崎:2024年3月に、大阪にある「岸交」というタクシー会社をM&Aでグループに迎え、それ以降「未来都」「堺相互タクシー」「タカラ自動車」と3社が加わりました(※)。今はその営業所を自社で運営しています。営業所の経営にnewmo社員が入り、現場の業務の見直しや改善に取り組むことから始めました。
具体的には、不要な作業を減らし、デジタルツールを導入することなどに着手してきました。電話対応、配車の割り振り、点呼など、これまでアナログでやっていたことを一つ一つ見直して効率化しています。
(※)……タカラ自動車は事業譲渡
──タクシー会社のDXを進めているのですね。
宮崎:はい。営業所の業務は本当にアナログなものが多く、たとえば乗務員が出勤したときの点呼も紙ベースで、配車の指示も経験則に基づいたオペレーションでした。そうした業務をすべてデジタル化し、効率よく回せる仕組みに置き換えています。
点呼システムやAI配車システムなど、必要なものはすべて自社で開発しており、もともとメガベンチャーにいたような優秀なエンジニアが社内で手がけ、未来都のすべての営業所に導入済みです。
──システムの導入によって、どのような効果が出ているのでしょうか?
宮崎:一番わかりやすいのは配車の電話対応です。人が対応していると、どうしてもすべての電話に出ることはできず、配車依頼の電話の約3分の1を取りこぼしていました。
AIによる自動応答を導入したことで、取りこぼしていた約3分の1の電話に対応できるようになりました。さらに、常連のお客様は情報が登録されているので配車の際に場所を伝える必要がなく、スムーズに配車できます。

──システム開発だけでなく、タクシーの営業所運営まで手がけている理由を教えてください。
宮崎:一見すると、システムだけを開発していたほうが効率的に見えるかもしれません。しかし、営業所を自分たちで運営しているからこそ、どこに課題があり、どう改善すればいいのかをリアルに把握できるのです。
そして、自分たちの営業所で見つけた課題は、同業他社でも共通しているケースが多い。つまり、そこでの改善をそのまま横展開することで、業界全体のDXをスピーディーに進めることもできるのではないかと思っています。
──規制産業に参入するうえで、制度との向き合い方についてどうお考えですか?
宮崎:「規制があるからできない」と言ってしまうのは簡単です。ですが、私たちはあえてその制約の中で「どうすれば実現できるか」を考えることを重視しています。制度に不満を言うだけではなく、まずはその枠組みの中でやれることを徹底的にやる。それが私たちの基本姿勢です。
たとえば「準特定地域」のように新規参入の障壁がある場合でも、それを前提に既存事業者のM&Aを行うなど、現実的な打ち手はあります。ルールがあるからこそ、逆に戦略をクリアに描ける面もあるのです。
今では国も危機感を持ち、制度改革に本腰を入れ始めています。だからこそ、現場を持つ私たちが「変革のモデル」となり、行政との共創を進めていくことが重要だと考えています。
変革の主役は若手──「現場発のイノベーション」に飛び込む
──地方のタクシー業界では、人材不足も大きな課題だと思います。その課題をどのように解決しようとされていますか?
宮崎:確かに、地方のタクシー会社にとって人材の確保は大きな課題です。ただ、それは現場が旧態依然としていて、若い世代に魅力的に映らない職場であることも一因です。
実際、現場の平均年齢は高く、「若い人が入ってもなじめないのでは」と思われがちです。そうなると、若い世代からの応募はなかなか期待できません。しかし、DXにや業務改善を進めていくことにより、若手こそがこの業界を変える主役になれると考えています。
──DXは単なる業務の効率化だけでなく、人材の若返りにもつながっているのですね
宮崎:そうですね。たとえば、営業所の内勤業務はこれまでベテラン社員が長年の経験で担ってきた領域でした。私たちはその知見を土台にしつつ、20代・30代の若手メンバーも現場に入り、デジタルツールを駆使して運営の在り方そのものを変えようとしています。
実際、未来都の営業所では、newmoの新卒や第二新卒の社員がシステムの導入や運用をリードしています。アナログな職場には年功序列のイメージが根強くありますが、熟練者の経験と若手の柔軟さを掛け合わせることで、双方の強みを引き出せるようにしたいと思っています。

──都市と地方では、抱えている課題も大きく異なるのでしょうか?
宮崎:おっしゃる通りです。都市と地方では戦いほうがまったく違います。たとえば大阪のような都市部であれば、採用は比較的スムーズに進みます。その分、採用した人材をしっかり育成し、安定的に運営していくことがポイントです。
一方で、地方では「人がそもそも採れない」「採っても定着しない」という構造的な課題があります。そのため、DXや自動運転を活用しながら省人化を進め、いかに持続可能な体制を構築するかが鍵です。
簡単に言えば、都市は「人」で勝ち、地方は「構造」で勝つ。それぞれの地域に応じた戦略が不可欠です。だからこそ、自社で営業所を運営し、現場の課題を肌感覚で掴んだうえで、最適なアプローチを取るようにしています。
newmoで描くキャリア──「社会課題のど真ん中」で変化を起こす
──newmoで働く魅力についても聞かせてください。
宮崎:「移動の担い手不足」という社会課題のど真ん中に関われる点は、非常に大きな魅力だと思います。私たちが手がけているのは、単なる「配車」や「便利な交通サービス」ではなく、「人々の暮らしそのもの」に直結するインフラです。
特に地方では、移動手段が失われることで病院に行けなくなったり、買い物ができなくなったりする。そうした問題に対して、現場から解決策を打ち出せるというのは、他ではなかなか得られない経験だと思います。
──「社会インフラを支える仕事」と言えそうですね。
宮崎:そうですね。タクシーは、普段の生活ではあまり意識されない存在かもしれませんが、電車やバスなどでの移動が困難な状況にある方や、地域によっては生活の足であり、まさにインフラそのものです。それを守り、より良くしていくことが、結果として社会全体の幸福度の向上につながっていくと信じています。
──若手社員には、具体的にどのような仕事を任せたいと考えていますか?
宮崎:経営視点を持って、現場のオペレーション改善、営業所のPL改善からそのための採用まで、幅広い業務を任せたいと思っています。単なる補佐的な役割ではなく、「どうしたらもっと良くなるか?」を自ら考え、実行していく。社歴に関係なく、裁量を持って挑戦してもらいたいですね。
私たちの事業は前例のない取り組みばかりですし、変化を起こすには、周囲を巻き込んだり、自ら仕組みをつくったりする力が必要です。そういった実践を通じて、ビジネスパーソンとしても大きく成長できると確信しています。
──どのような学生に興味を持ってもらいたいですか?
宮崎:一言で言えば、「変化を楽しめる人」です。今、タクシー業界は大きな過渡期にあります。規制が変わり、テクノロジーが導入され、プレイヤーも入れ替わっていく。そうした「うねり」の中で、「自分がこの業界を変えていくんだ」と思える人には、大きなチャンスがあると感じています。
また、「レガシーな業界に飛び込み、いろいろな制約の中で周囲を巻き込みながら変革を推し進める」という経験は、タクシー業界以外にも、今後さまざまなキャリアで応用の利くものになると思います。
地方の移動という社会課題の解決に関心のある学生にも、タクシー業界という巨大産業の再編を通じて自分を成長させたい学生にとっても、非常にやりがいのある仕事になるはずです。

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【制作/撮影:BRIGHTLOGG,INC./編集:小林 遼】