印刷、広告、物流、そして金融。ラクスルは、デジタル化が遅れていた産業領域にITを持ち込み、構造そのものを変革してきたプラットフォーム企業だ。シェアリングモデルによって非稼働時間を価値に変え、ソフトウェアによって企業のオペレーションを効率化する──。同社の事業領域は現在、金融にまで広がり、中小企業の経営課題をEnd-to-Endで解決するビジネスプラットフォームへと進化を続けている。
こうした環境で求められるのは、サプライチェーンから販売、さらには事業の仕組みそのものまで見渡しながら意思決定できる人材だ。ラクスルでは、新規事業の立ち上げや既存事業の拡張に関わる中で、担当領域を固定せずにキャリアを広げていくケースも少なくない。レールのない環境の中で、自ら事業をつくる側に回ることが求められる環境なのだ。
本記事では、同社でサプライチェーン改革、新規事業の立ち上げ、M&A、金融領域の立ち上げまで幅広く携わってきた丸山氏へのインタビューを通じて、「レールのない環境」で働く魅力に迫る。
<目次>
●自ら手掛けるビジネスで社会を動かす思いが、キャリア選択の軸
●最適化するだけでは意味がない。ITと現場の間で浮かび上がってきた課題
●0→1から事業の拡張、そしてM&Aへ。「仕組みで成長をつくる」発想の正体
●中小企業の経営を変えるプラットフォーム構想。ラクスルが金融事業に踏み込む理由
●決められた道はない。複数事業を横断して広がるキャリア
自ら手掛けるビジネスで社会を動かす思いが、キャリア選択の軸
──丸山さんは前職のミスミで10年半という長いキャリアを積まれています。なぜそこからラクスルへの転職を決意されたのでしょうか?
丸山:私のキャリアの原点は「経営者人材の育成」を掲げ、製造業向けの機械部品・金型部品のカタログ販売・ECを展開するミスミにあります。約10年半在籍し、前半の5年間は営業として顧客と向き合い、後半は商品企画からサプライチェーン設計、販売戦略までを担う事業開発に携わりました。製造から販売までを一気通貫で設計し、自分の意思決定が事業の成果に直結する。そういった環境の中で「ビジネス全体を掌握して動かすこと」の面白さと難しさを徹底的に叩き込まれました。この経験が、今のキャリア観の土台になっています。
ただ、会社の売上が拡大するにつれて組織は細分化され、役割も高度に専門化していきました。確かに分業が進むことで質や効率が上がる側面はありますが、その一方で自分が関われる範囲はどうしてもビジネスの一部分に限定されていきます。巨大な組織の中でその一翼を担い、社会に大きなインパクトを残すことも、もちろん素晴らしいことです。ただ私はもう一度、より小さな単位で、事業全体を見ながら意思決定できる環境に身を置きたいと考えるようになりました。自分の判断が事業の方向性に直接影響を与えるような「手触り」を感じながら仕事がしたい。その思いが強くなり、転職を決意しました。

丸山 諒(まるやま りょう):ラクスルグループ ラクスルバンク株式会社
早稲田大学を卒業後、2008年に株式会社ミスミに入社。現場での営業経験を経て事業開発へ転じ、グローバル展開や現地法人の立ち上げを主導。2018年、「ビジネスを一気通貫で動かしたい」という思いからラクスル株式会社へ参画。 入社後は印刷事業のSCM部長としてアルゴリズムを活用したサプライチェーンの構造改革を牽引。その後、ノベルティ事業の売上を1年で4倍に急拡大させた実績をもとに、アパレル・ユニフォーム事業を自ら起案しゼロから創出した。2023年には両事業を束ねる統括に就任し、M&Aも実行。現在はラクスルバンク事業にて中小企業向け金融プラットフォームという未知の領域に挑んでいる。
──数ある企業の中で、最終的にラクスルを「ここだ」と思えた決め手は何だったのでしょうか?
丸山:決め手になったのは、選考過程で行われた「ワークサンプル」です。入社後に想定されるミッションを課題として提示され、その場で考えた内容をもとに経営陣と議論するというものでした。そこで感じたのは、ラクスルの議論のレベルと視座の高さです。例えばマーケティングの数値や施策を議論するのではなく、産業の構造そのものをどう変えるかという話が繰り広げられていました。自社のビジネスだけではなく、産業や社会全体をどう設計するかを本気で議論しているこの人たちとなら、自分がこれまで大事にしてきた一気通貫のビジネスづくりをより一層、社会的意義が大きな形で実現できるのではないかと考えました。
最適化するだけでは意味がない。ITと現場の間で浮かび上がってきた課題
──入社後、最初に担当された印刷事業のサプライチェーン開発では、かなり「泥臭い経験」をされたと伺っています。どのような壁にぶつかったのでしょうか?
丸山:特に印象に残っているのは、印刷の最適発注プロジェクトでした。ラクスルは自社工場を持たず、パートナーである全国の印刷企業の非稼働時間をシェアリングするスタイルをとっています。また、これは印刷業界における豆知識ですが、大量のチラシを印刷する際はコピー機のように1枚ずつ印刷するのではなく、まず大きな紙に印刷して、それをカットすることで皆さんがよく見るA4サイズなどのチラシになります。印刷業界ではこれを「面付け」と呼びますが、ラクスルでは異なる顧客の注文を1枚の大きな紙に効率よく配置することで、材料費や稼働に伴うコストを抑え、高品質な印刷物を安く提供することを目指しています。部数、納期、カラー、サイズといった条件をもとに、どの注文をどの組み合わせで印刷するのが最も効率的かを数理的に計算すれば、理論上の最小コストは導き出せます。しかし実際の運用では、その通りにいかないことがほとんどでした。
理由は、パートナーごとに設備や稼働条件が大きく異なるからです。持っている機械の種類はそれぞれ違い、昼夜動く工場もあれば昼のみの工場もある。土日稼働の有無も異なります。工場が動くということは人が動くということです。数学的なロジックで最適解を出しても、リアルなモノが動く産業では簡単には変えられない制約があり、現場に落とし込めないという状況が生まれます。机上のロジックだけで完結させず、その裏側で働く人まで想像してビジネスを設計することが求められました。
──そのギャップをどのように埋めていったのですか?
丸山:コアとなる稼働をラクスルの案件専用の製造ラインとして固定的に確保しつつ、変動分はシェアリングで吸収するという形に構造を組み替えたことで、初めて理論と現実が1本の線でうまくつながりました。ITだけで完結するのではなく、物理的な制約や現場の状況を前提に仕組みを作る。その往復の中で事業を成立させていく難しさこそが、ラクスルの事業開発の特徴です。

0→1から事業の拡張、そしてM&Aへ。「仕組みで成長をつくる」発想の正体
──その後は新規事業開発も担当されたと伺っています。
丸山:印刷事業のSCM部長を2年経験した後、当時売上1億円程度のノベルティ事業を担当したのですが、顧客の注文データを詳しく分析する中で、大きなビジネスのヒントが潜んでいることに気がつきました。
きっかけは、Tシャツの注文データを見ていたときの違和感です。ノベルティというのは本来、イベントなどで外部のお客様に配るためのものです。しかし注文の中には、自社のロゴや社員の名前を入れているものがありました。配布用のノベルティではなく、「自分たちのスタッフが着るユニフォーム」として発注されていたのです。
私は、ここに大きな商機があると考えました。企業のお金の使い方や予算管理には厳密なルールがあり、チラシやお客様に配るノベルティの制作費は、売上を作るための「広告宣伝費(販促費)」として計上されます。一方で、スタッフが着るユニフォームは「福利厚生費」や「消耗品費」として処理されます。つまり、同じ企業のお客様であっても、使われる予算が違うのです。
これはお客様にラクスルが提供するサービスをご利用いただけるタッチポイントの増加を意味します。
その後、アパレル・ユニフォーム事業をゼロから立ち上げ、2年で年商10億円を超える規模まで成長させることができました。
──ノベルティ事業とアパレル事業を統括する立場に就任した後にはM&Aにも関わられたそうですね。
丸山:トートバッグのECで国内トップクラスのエーリンクサービス社に参画していただくM&Aを主導しました。ラクスルにおけるM&Aは、投資として行うものではなく、事業を成長させるための手段として使います。より大きな価値提供のためにサプライチェーンの内製化が必要だと判断すれば、自分たちで探し、対話して、統合まで進める。事業開発の延長線上にM&Aがあるという感覚です。
幸いなことに私が未経験の領域でも成果を出せたのは、特定の業界知識があるからではなく、必要なことを学習しながら壁を乗り越えていく意思を持ち続けてきたからだと思います。
中小企業の経営を変えるプラットフォーム構想。ラクスルが金融事業に踏み込む理由
──現在のご担当である金融事業(ラクスルバンク)について教えてください。なぜ今、ラクスルが金融領域に踏み込むのでしょうか?
丸山:私たちは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」のビジョンを掲げ、中小企業の経営課題を解決することに注力しています。これまで印刷やノベルティを通じて販促費の最適化、マーケティングの支援などをしてきましたが、お客様の声を伺うと資金繰りや振込手数料など金融面の負担も大きい。そこまで踏み込んでこそ、本当に経営課題を解決できると考えています。
ただし目指しているのは従来型の銀行ではありません。ECや決済などの基盤を活かし、サービスを横断して「使うほど経営がラクになるBtoB経済圏」を構築する構想です。

──具体的には、どのような体験を提供しようとしているのですか?
丸山:BtoCにおいては流通系の企業やECの企業がクレジットカードや決済サービスなどを提供し、お客様に大きな利便性を提供してきましたが、それをBtoB領域で構築するイメージです。
中小企業の経営者にとって、毎月の振込手数料や資金管理のコスト、煩雑さは本業を圧迫する重荷です。ラクスルのプラットフォームをご利用いただくことで、意識せずともコストが下がり、キャッシュフローが改善されていく。テクノロジーの力で、中小企業の経営を「ラクにする」体験を創ろうとしています。
──金融領域ならではの難しさはありましたか?
丸山:金融領域は規制産業で、これまでとは質の異なる難しさがありますが、今まで培ってきた経験が活きることも多くありますし、解くべき課題が複雑かつ普遍的であるからこその面白みを感じています。印刷から始まり、いまは中小企業の資金の流れにまで踏み込もうとしている。これほど振れ幅があり、スケールの大きな事業開発に挑戦できる点がラクスルの魅力だと思います。
決められた道はない。複数事業を横断して広がるキャリア
──企業に「明確なキャリアパス」を求める学生も多く見受けられます。丸山さんはラクスルでのキャリアの広がりをどう捉えていますか?
丸山:ラクスルにはいわゆる「敷かれたレール」はありません。私自身も印刷事業のSCM、ノベルティ事業、アパレル事業、M&A、そして金融と、入社時には想像していなかった領域を経験してきました。あらかじめ決められた道を進むのではなく、必要に応じて役割が広がっていく。その結果としてキャリアが形作られていく環境です。
1つのプロダクトを深掘りするスタートアップ的な企業とも、大きな組織で順番にさまざまな経験を積む企業とも違い、ラクスルには複数の産業と事業フェーズが同時に存在しています。同じ会社にいながら異なる領域に関われる感覚は、まるでパラレルワールドを渡り歩くようです。すべてが「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンにつながっている点も特徴だと思います。
──どんな人が成長できる環境でしょうか。
丸山:自分から打席を作りにいける人です。当社では意志と実行力が伴えば、希望する環境で大きな裁量を任せてもらえる風土があります。5年後や10年後、自分がどんな仕事をしているか想像もつかない、そんな驚きと挑戦に満ち溢れた環境の中で、社会の未来を創るために働きたい人に向いている会社だと思います。

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ラクスル
【制作:BRIGHTLOGG,INC./撮影:阿部 拓朗/編集:鈴木 崚太】