大手組織設計事務所、不動産デベロッパー、ハウスメーカー、そしてアトリエ系事務所。これまで、建築を志す学生のキャリアパスは、いくつかの「王道」に限られていた。しかし今、独自のビジネスモデルで、新しい建築のあり方を探求する「第三極」の存在が注目を集めている。それが「NOT A HOTEL」だ。
組織設計事務所で大規模な超高層ビルなどの設計を担ってきたリードアーキテクト・杉山 竜氏。そして、大学院で「建築×AI」を研究し、新卒第一期生として入社したアーキテクト・坂井 星舞氏。なぜ彼らは、この新たな舞台を選んだのか。メンターとメンティーという関係性でもある2人に、クオリティを最優先する組織のリアルを伺いながら、それぞれの視点とその選択の理由に迫る。
<目次>
●組織設計でもアトリエでもない、NOT A HOTELという新たな選択
●予算に縛られない。プロダクトアウト思想のアプローチ
●NOT A HOTELが大事にする4つのデザイン・プリンシプル
●1年目から第一線へ。圧倒的な経験の密度
●世界的建築家と同じ土俵で表現できる喜び
組織設計でもアトリエでもない、NOT A HOTELという新たな選択
──まず最初に、NOT A HOTELという「第三極」を選ばれた理由を教えてください。
杉山:私は前職時代、都心の超高層ビルや大規模再開発の意匠設計を担当し、大きなやりがいを感じていたのは事実です。
しかし、プロジェクトの規模が大きくなればなるほど、1人のデザイナーが最後まで深く関われる領域はどうしても限られてしまいます。もちろん関わった建築には愛着がありましたが、次第に「もっと細部のディテールにいたるまで、自分自身の手でコントロールし尽くせる建築をつくりたい」という思いが強くなっていきました。
そんなとき、完成したばかりの「NOT A HOTEL NASU MASTERPIECE」を見学する機会がありました。そこで目にした光景には胸を打たれましたね。一般的な設計の現場では、予算や工期の都合からどこかで妥協せざるを得ない場面も少なくありません。しかしそこには、隅々までこだわりが丁寧に具現化されていたのです。「ここなら理想の建築を追求できる」と確信し、参画を決めました。

杉山 竜(すぎやま りゅう):Lead Architect(意匠設計リーダー)(中途入社・入社4年目)
県立大宮工業高校卒。池下設計にて現場管理従事後、CTSにて大規模再開発案件の設計に従事。2023年1月、NOT A HOTEL参画。主にTOKYO THE NIGO HOUSE、MIURA POOL CLUBの企画・設計を担当。一級建築士。パーマカルチャーデザイナー。
坂井:私は、AI関連のイベントでNOT A HOTELの建築メンバーの方と出会ったことがきっかけでした。そのなかでも、参画を決めた1番の理由は「働く環境」にあります。年齢やキャリアの壁をまったく感じさせないフラットな距離感のなかで、さまざまな専門性やバックグラウンドを持つ先輩方が活躍されていました。そんな皆さんと密にコミュニケーションが取れる環境だからこそ、多くのことを吸収して成長できると直感したんです。
もう1つの理由は、大学院で研究してきた「AI」の知見を、すぐに実務へ活かせる柔軟なカルチャーです。一般的な組織では、新しいデジタルツールを1つ導入するのにも、多くの承認プロセスを経て時間がかかることが多いと思います。しかし、NOT A HOTELでは経営陣が「これは良いね」と判断すれば、その瞬間に導入が決まります。時代の変化や新たな技術を的確に捉え、迅速に実務へと落とし込む圧倒的なスピード感と柔軟性は、私にとって大きな魅力でした。
予算に縛られない。プロダクトアウト思想のアプローチ
──これまでの建築・不動産業界の常識とは全く異なる、NOT A HOTELならではのビジネスモデルの独自性はどこにあるのでしょうか。
杉山:一言で言えば、つくり手の思想や「ここでしか味わえない理想の体験」を先に提示し、共感してくださる購入者(オーナー)の方々と形にしていく、プロダクトアウト思考に基づいたモデルです。
市場のニーズをリサーチして進める一般的な開発とは異なり、私たちはまずデザイナー自身が「その土地で得られる豊かな体験」を想像し、精緻なCGパースとして描き切ります。そして、それを年間10日単位のシェア別荘として建設前に販売する仕組みです。
私たちの提案に共感してくださる方々が集まった時点で事業が成立するため、いちクリエイターとしても、守りに入らずに「全力でバットを振る」ような思い切った提案ができるんです。こうした環境で、純粋に良いものづくりに向き合えるのは本当にありがたいことだと感じています。
坂井:このプロダクトアウト思考は、私たちの設計プロセスにも心地良い変化をもたらしています。一般的には、あらかじめ決められた条件や予算の枠組みの中でオーダーを受けて設計を進めるケースが多いかと思います。
しかし私たちは、事業開発(BizDev)チームが提案してくれた土地情報に対し、デザイナー自身が土地探しの続きにあたる上流フェーズから関わることができます。土地の歴史や文脈、素材、ときには太陽の動きや風向きといった環境まで深くリサーチし、「ここでどんな心地良い体験が生み出せるか」をマインドマップのように発散させて、コンセプトから創り出していく。つまり、与えられた条件を満たすだけでなく、「デザインの前段階の構想」から自分たちの手で組み立てられる面白さがあります。
──そうした「デザインの手前」から仕掛けたからこそ突破できた、具体的なプロジェクトはありますか。
杉山:現在進行している、世界的クリエイターのNIGO®氏と協働している「NOT A HOTEL TOKYO THE NIGO HOUSE」がまさに好例です。約30メートルの高低差があるダイナミックな崖の地形を、NIGO®氏とともに初めて目にしたとき、そのポテンシャルの大きさに私たち設計チーム全員が、クリエイターとしてこれ以上ないほど心を躍らせました。
NIGO®氏の持つ独自の感性やこだわりをどのように形にするか、対話を重ねながら、ただセオリー通りに建物を配置するのではない新しいあり方を模索しました。地形に1本のスリットを入れ、そこから建築が自然に顔を覗かせるような、ランドスケープと建築が優しく溶け合う体験を、初期段階の設計構想から私たちが主体となって形にしていきました。
坂井:その土地が持つポテンシャルをどう引き出すか、デザイナーが主体となってゼロから構想を描き切ることができる。それこそが、このチームで建築に向き合う、何よりのやりがいだと感じています。
NOT A HOTELが大事にする4つのデザイン・プリンシプル
──外部の著名な建築家やクリエイターとのコラボレーションが注目されがちですが、実際の設計体制はどのようになっているのでしょうか。
杉山:外部の建築家やクリエイターにデザインを依頼している会社とよく思われがちなんですが、実は少し異なります。現在進行しているプロジェクトの約7割は、インハウスの設計チームが基本構想から手がける「自社設計」です。
直近でも、先ほども触れた「NOT A HOTEL TOKYO THE NIGO HOUSE」をはじめ、「NOT A HOTEL MIURA POOL CLUB」や「HERITAGE by NOT A HOTEL KYOTO TOJI」など、多くの拠点を自社設計で推進しています。もちろん、素晴らしいクリエイターの方々との協働も継続しており、そこから得られる知見は私たちにとって大きな財産です。同時に、自社設計のノウハウが蓄積されたことで、デザインの表現の幅や、意思決定の柔軟性はさらに広がっていると感じます。
──NOT A HOTELの建築デザインにおいて、大事にしている哲学のようなものはあるのですか。
杉山:根底にあるのは、「Landscape First(その土地だから成り立つデザインであること)」「Make the Scene(情緒あるシーンを切り取れる空間であること)」「Sense of Materiality(五感に訴えかける質感の素材で仕上げること)」「High Quality, Not Luxury(高級ではなく、上質であること)」という、4つのデザイン・プリンシプル(建築哲学)です。特に、素材の質感を大切にする「Sense of Materiality」や、ただ豪華にするのではない「High Quality, Not Luxury」への徹底したこだわりは、これまでの設計の現場を経験してきたデザイナーほど、新鮮に驚くポイントかもしれません。
──素材を吟味し、徹底して上質さを貫くとなると、コストの面でのハードルも高いはずです。ビジネスとクオリティをどのように両立させているのですか。
杉山:一般的な請負設計や開発の現場と大きく異なるのは、コスト管理を最優先するあまり、本来目指すべきデザインや素材をあきらめるという選択肢が基本的にはない点です。「見た目が似ているから安価な代替品に差し替えよう」といった妥協は、私たちのチームでは良しとされません。
私たちが目指しているのは、プリンシプルにもある通り、単に豪華な空間(Luxury)ではなく、五感に響くような「上質な体験(High Quality)」をつくることです。コストとの兼ね合いが難しくなった際も、そこで妥協するのではなく、社内のセールスチームと真摯に議論を重ねます。「これだけ素晴らしいデザインであれば、その価値に見合う最適な事業計画をどう組み立てられるか」と、クオリティを死守するために事業側と一緒にアプローチを模索する。いちデザイナーとして、これほどものづくりに誠実に向き合える環境は本当にありがたいことだと思います。
1年目から第一線へ。圧倒的な経験の密度
──改めて、建築を学ぶ学生にとって、NOT A HOTELでキャリアをスタートする最大のメリットは何でしょうか。
坂井:1年目から第一線に立つことですね。もちろん、大手の組織設計事務所やゼネコンなどの環境には、丁寧な作図や模型の製作などを通じて、建築の確かな基礎や大規模プロジェクトならではの緻密なプロセスをじっくり学べるという、他には代えがたい素晴らしい価値があります。そこでしか築けない強固な土台があるのは間違いありません。
一方で、そうしたプロジェクトは完成までに5〜10年かかることも珍しくないため、20代のうちに、自分が0から構想に関わった建築が形になるというサイクルを何度も経験することは、環境の性質上難しい側面もあります。
その点、私たちのプロジェクトは独自のスピード感で進行するため、入社直後から多くの案件に深く関わり、数多くの打席を経験することができます。「手を挙げた人が主体になれる」というフラットで自律的なカルチャーがあるため、新卒であっても遠慮なくアイデアを提案し、それをチームが温かく受け止めてくれる環境があります。

坂井 星舞(さかい しょうま):Architect(意匠設計)(新卒入社・入社2年目)
芝浦工業大学大学院を修了。在学中は「建築×AI」をテーマに研究を行う傍ら、建築系雑誌『Archies』を企画・発行。2025年4月、新卒一期生としてNOT A HOTELに入社。
──実際に、坂井さんご自身も1年目からそうした環境のなかで経験を重ねてこられたのでしょうか。
坂井:はい。入社1年目の半ばから、強みである「AIを用いた高速なビジュアル化」を評価していただき、最上流の基本構想フェーズに関わる機会を得ました。さらに自社設計案件として「HERITAGE by NOT A HOTEL KYOTO TOJI」のプロジェクトが立ち上がった際、自ら手を挙げたところ、初期段階から重要な役割を任せていただけたんです。
もちろん、すべてを1人に任せきりにするのではなく、経験が豊富な先輩方がフェーズごとに丁寧にフォローしてくださるため、失敗を恐れずに構想から現場まで一気通貫でナレッジを吸収できています。
杉山:私たちの組織では、個人の強みや適性を真摯に見極めてプロジェクトへアサインを行います。坂井のようにゼロから構想を膨らませるのが得意な若手は基本構想へ、逆に施工や現場の細かなディテールを泥臭く学びたいというメンバーには、初めから現場のフェーズで経験を積んでもらい、それぞれの実力を引き上げていきます。
1年の中で複数のプロジェクトを最初から最後まで俯瞰(ふかん)し、そのサイクルを経験していく。この環境で過ごす時間は非常に密度が濃く、まさに坂井の言う「1年目から第一線」という言葉通り、一般的な環境の数年分にも匹敵するような大きな成長の場になると実感しています。

世界的建築家と同じ土俵で表現できる喜び
──最後に、建築を志す学生の皆さんへメッセージをお願いします。
杉山:NOT A HOTELは建築家を深くリスペクトする会社ですが、それは社内デザイナーに対しても、世界の第一線と同じクオリティを求めるという高い期待の裏返しでもあります。
ジャン・ヌーヴェル氏や藤本壮介氏といった世界の巨匠たちの建築と並んで、自分たちの設計した建築も同じようにWebサイトで販売される。つまり、彼らと同じ土俵でクリエイターとして評価されるわけです。世界の巨匠たちと比肩する責任や重圧は計り知れません。しかし、単なる憧れで終わらせず、その壁を乗り越えようと挑むプロセスには、他社では絶対に味わえない大きな喜びがあります。
坂井:入社2年目の私から伝えたいのは、ここには想像を超えるエキサイティングな景色がある、ということです。1年目から自分の関わった空間が実際に形になりますし、歴史がある特別な立地で、トップクリエイターの方々と対話を重ねていく。
自らの強みを武器に、スピード感のある環境で数多くの打席に立ちたいという人には、本当に最高の舞台だと思います。
杉山:組織の枠に収まることなく、自律性を持って新しい建築のあり方を切り拓いていきたい。そんな強い想いを持った学生の皆さんと一緒に働きたいですね。実際、将来の独立を見据えて、ここを成長の場として選んでくれる仲間も増えています。
ここで培われる「事業と体験を最上流から組み立て、高速で形にする力」は、将来どのようなキャリアを選択しても、自分を支える確かな財産になります。自分の可能性を信じて挑戦したい皆さんと、現場でともにものづくりができる日を楽しみにしています。

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