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就活サイトトップ就活記事「生きもの」感覚を大事に、「いい大人」とめぐり会い、「...

「生きもの」感覚を大事に、「いい大人」とめぐり会い、「一生考えましょうよ」──中村桂子さん(前編)

一目惚れ キャリア インタビュー
2020年9月17日(木) | 13,279 views

およそ10年前。大学生活最後の年の5月、スタジオジブリへ手紙を送った。鈴木敏夫さんの転機を聞きたかった。

数週間後、地方から東京へ向かい、ジブリで取材をした。数カ月後、上京し、ジブリでアルバイトが始まり、翌年の春、社員になった。


取材とは、不思議なコミュニケーションだ。

取材をするこちら側は相手のことを遙(はる)か前から知っている。そして、たっぷりと準備をして、さまざまな仮説を立て、取材の場へ向かう。

一方、取材をされるあちら側は、取材者であるこちら側のことを知らない。取材の場で初めて、こちら側のことを知って、話し始める。

こちら側も、あちら側も、試される。

そして、たった一度の出会いが、その後の人生に大きな影響を及ぼすこともある。

私は、取材の緊張感が好きだ。


今回、取材依頼の文章を書きながら、気持ちが昂(たか)ぶっていた。

その人のことを知ったのは、テレビ番組で話している姿を見たときだった。

「なんていい顔なのだろう……」

その表情に見とれた。

すぐにその人の著書を手に入れた。自分の直感は当たっていた。この人の言葉を、もっと聞きたい、と思った。

取材依頼の文章を書いた。依頼とは、焦がれた人へ送る恋文のようなものだ。取材OKの返事が、その人からすぐに届いた。


翌週、東京で暮らすその人の自宅へ向かった。

待ち望んだ「出会い」の予感で、手足が震える。

そんなことは、10年ぶりだった。

特集「あなたのキャリアに一目惚れしました。」
本特集では、ワンキャリ編集部が「一目惚れ」したキャリアの持ち主にお話を伺います。就活に直接関係ない話も多いです。いつか、あなたがキャリアを決めるときの一助となることを願って、お届けしたいと思います。


今回の惚れられた人:中村桂子さん(JT生命誌研究館名誉館長、理学博士)

1936年、東京都生まれ。1959年、東京大学理学部化学科卒業、1964年、東京大学大学院生物化学専攻博士課程修了、江上不二夫(生化学)、渡辺格(分子生物学)らに学ぶ。国立予防衛生研究所を経て、1971年、三菱化成生命科学研究所に入り(のち人間・自然研究部長)、日本における「生命科学」創出に関わる。しだいに、生物を分子の機械ととらえ、その構造と機能の解明に終始することになった生命科学に疑問をもち、ゲノムを基本に、生きものの歴史と関係を読み解く新しい知「生命誌」を提唱。その構想を1993年、大阪府高槻市に「JT生命誌研究館」として実現、副館長に就任。2002年から館長を務めたのち、2020年3月に退任し、名誉館長に就任。そのほか、早稲田大学人間科学部教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。主な著書に『いのち愛づる生命誌Ⅳ はぐくむ 生命誌と子どもたち』(藤原書店)、『「ふつうのおんなの子」のちから』(集英社クリエイティブ)、『こどもの目をおとなの目に重ねて』(青土社)など、多数。2007年に大阪文化賞、2013年にアカデミア賞を受賞。


今回の惚れたインタビュアー:佐藤譲(編集者、コーチ、プロデューサー)
1986年、福岡県生まれ。2009年、京都大学法学部卒業、2010年、株式会社スタジオジブリ入社。鈴木敏夫プロデューサーと同じ家に住みながら、編集者として働く。2015年、日本テレビ放送網株式会社に入社。実写映画・アニメーション映画のプロデューサーを務めたのち、2018年に独立し、地方へ移住。現在は、『100年ドラえもん』の宣伝ディレクションや、スタジオジブリ最新作のアート本の制作を担当するほか、TCS認定コーチとしてクリエイター向けにコーチングを行う。また、大学生向けのキャリア支援としてWividとワンキャリアに関わり、ワンキャリアでは「あなたのキャリアに一目惚れしました。」特集の立ち上げから参加。

<前編 目次>
●嫌気がさす、という感覚
●「上から目線」を、「中から目線」へ
●生きものとして見事に生きる
●予測不能性とブリコラージュ
●全員欠陥商品であり、全員大丈夫商品

「こういうインタビューって初めてですよ」という中村桂子さんの言葉とともに、取材はスタートした。「初めて」と言われるのは、インタビュアー冥利(みょうり)に尽きる。

静かに、中村さんは言葉を続ける。

「私には、研究館で禁句にしている言葉があるんです」

研究館とは、中村さんが1993年に設立したJT生命誌研究館のこと。そこで、長年、館長を務めた。

中村さんは力を込め、私の目を見て、言った。

「それは、普及と啓蒙と教育、です」

意表を突かれる。

どれも、立派な言葉に思える。

中村さんへの取材は、20代の若者に向けた言葉をあの手この手で引きだそうと考えていた。それは、「教育」や「啓蒙」にも、きっと絡むだろう……。

禁句にしている言葉を聞かされるのは、取材者である私にとっては、先制パンチだった。

嫌気がさす、という感覚

──「教育」や「啓蒙」を禁句にするのは少しだけ分かるのですが、なぜ「普及」という言葉も禁句にされたのですか?


中村桂子(以下、中村):だってね、音楽を一生懸命やっていらっしゃる音楽家の方が、教育や普及や啓蒙って、おっしゃる?「僕は、音楽を普及と啓蒙したいからやっている」とおっしゃる? バンドを一生懸命楽しみにやっているときに「普及と啓蒙と教育のために、僕は音楽をやっているんです」と言う人を見たことがありません。

でもね、テーマが「科学」になった途端に、「あなたは何をやっているんですか?」と問われると、「普及と啓蒙と教育は大事です」って答える方がいるんです。

科学者はどうして音楽家と同じようにしてはいけないの? って私は思います。そこで、生命誌研究館を作るときに、この三つの言葉を禁句にしようと決めたんです。

したがって、こういうインタビューを受けるのは苦手です。


──今日のインタビューは、20代に向けて、中村さんの言葉を伺おうと思っていました。


中村:若い方が何かをやりたいというときに、上から何かを「普及」したり、「啓蒙」されたりするのって、嫌じゃない? 私だったら嫌です。

いろいろなものがあって、そこを眺めてみてから「これがいいな」と思ってやりたいのに、「これやれ」「あれやれ」とか、「今これが大事だぞ」「社会のためにはこれをやれ」とか言われたら、途端に嫌気がさしません?

──「嫌気がさす」という感覚って、……言われたら分かるんです。言われたら確かに嫌だったな、と。でも、言われるまで、なかなか「自分って、嫌気がさしていたんだな」と分かりません。


中村:私は「生きもの」が専門なので、「生きもの」感覚というものを大事にしています。

嫌気がさしたり、怖かったり、危なかったり、そういう感覚を失ったら……明日、死にますよ?

「上から目線」を、「中から目線」へ

──歳を重ねれば重ねるほど、その感覚の大事さを痛感しています。今回の取材は、中村さんの「生きもの」感覚を、私の言葉で捉え直すことを目標にしたいと思います。


中村:私が今の仕事を始めるときに、最初に作ったのがこの絵です。これは世界中どこの方も気に入ってくださるの。

『生命誌絵巻』:中村桂子さんが、ひとつひとつの生きものがもつ歴史性と多様な生きものの関係を示す新しい表現法として考案した図。扇の要は、地球上に生命体が誕生したとされる38億年前。以来、多様な生物が生まれ、扇の縁、つまり現在のような豊かな生物界になった。多細胞生物の登場、長い海中生活の後の上陸と種の爆発など、生物の歴史物語が読み取れる。(原案:中村桂子、協力:団まりな、絵:橋本律子、提供:JT生命誌研究館)


中村:これは何かというと、「いろいろな生きものがいるよ」ということを表しています。人間がいて、バクテリアもいて、生きものは何千万種もいて全部書けないから、代表選手を書いています。

ものすごく多様で、みんな生き方も違うし、大きさも違います。だけど、みんな細胞でできている、DNAを持った細胞でできているから、祖先はひとつだろう、と。いつ、どこで、何が生まれたか、まだ分からないのですが、38億年くらい前には、祖先細胞がいただろうと思われるので、この絵の扇形の一番下のところは38億年前になります。

そこからみんな、38億年かけて、生きてきました。どんな生きものもね。

ここにゴリラがいて、ヒマワリが咲いていて、キノコがあります。その細胞のDNAを調べると、ゴリラがどうやってゴリラになってきたか、キノコはどうやってキノコになってきたか、という歴史がその中に書かれているのです。

生きものって、ものすごく多様なのに、お互いに関わり合いながら存在していて、しかもそれが38億年続いているのです。すごいことでしょう? 私が威張ったってしょうがないけれど。


──生物多様性という言葉を、よく耳にします。


中村:あなたの、その言葉って、どこから言っています?


──……分かりません、どういうことでしょうか。


中村:今の人々は、この絵についての知識は持っていると思います。あなたがおっしゃったように「生物多様性」という言葉とともにね。

ところが、「生物多様性」という言葉は、この絵の扇形の外側から言っているの。自分は扇形の外側にいるから、上から目線よね。

みんな、「地球に優しく」とおっしゃるでしょう? その言葉も、きっと、扇形の外側にいる言葉ね。

違うのよ。あなたは、ここにいるんです。 

「違うのよ。あなたは、ここにいるんです」と言いながら、中村桂子さんが扇形の内側にいる、ヒトを指さす。


──たしかに、自分も他の生きものと同じように「生きもの」なんだという感覚を持たずに、ぼくは「生物多様性」という言葉を使っていたかもしれません。


中村:この絵は、人間は生きものであり、そして、自然の一部だということが分かる絵なんです。

人間は人間らしく、コンピューターも使っていいんですよ。空も飛べないし、泳ぎも上手じゃないのだから、ちゃんといろいろと工夫するのはいいのですよ。今やっていることを否定することは全くありません。

だけれど、ここ(※中村さんが扇形の外側を指す)にいてやってはいけない。「私、ここにいる」という感覚だけを持ち込んで、コンピューターもやり、ジェット機も飛ばす。私は「自分が扇形の外側にいる」という見方を「上から目線」と申します。

そして、扇形の内側からを「中から目線」と申します。

生きものとして見事に生きる

──中村さんが言う「生きもの」感覚の一つの特徴が、「中から目線」ということなんですね。


中村:生きものって、みんな、自分が生きることを考えています。自分が生きようとすると、食べなくては生きられないじゃない? だから、生きものの世界って、きれいではありませんよ。

私は、生きものは素晴らしいという言葉を書いたことはありません。……もしかすると昔、若気の至りで書いたかもしれないけれど。でも、きっと書いていないわ。

私は、生きものはヘンテコだと思っています。ヘンテコだから、面白い。

そして、自分も生きものなのだから、生きものとして見事に生きるということをやってみたい、と思っています。


──中村さんの言う「ヘンテコ」って、どういう感覚でしょうか?


中村:整ったものって、私はあまり好きじゃないです。ものすごく整っているものって、つまらないじゃないですか? 人工のものって、ちょっと整いすぎていますよね。

私は、人間でも、あまり整っている人は好きじゃない。ヘンテコな人のほうが面白いと思います。……学者なんてヘンテコな人ばかりでしたから、すごく楽しかったわ。


──整ったものに対して、抵抗があるんですね。


中村:へんてこりんさが生きものの面白さだし、自分は生きものとして生まれたのだから、このへんてこりんさの中で生きていく。

そして、どうやったら一番良い生き方なのだろう、って私は考えます。

予測不能性とブリコラージュ

──中村さんは、38億年の扇形の「中から目線」で、ヘンテコな生きものに魅かれ続けてきました。中村さんにとって、そもそも「生きもの」って、なんなのでしょう?


中村:「生きものってなあに?」への答えは、私がまだ学生の頃、1970年代にフランソワ・ジャコブという科学者が書いた言葉が好きです。

彼は『可能世界と現実世界―進化論をめぐって』(みすず書房)の中で、生きものとは、「予測不能性、ブリコラージュ、寄せ集め、偶有性」が特徴だと書きました。規則で作られたものではなくて、「ここにあるから、これを使おう」という、たまたまな寄せ集めだ、と。生きものって、そういうものですよ、とフランソワ・ジャコブは書きました。私もそう思います。

皆さん、コンピューターとかやっていらっしゃる方は、全て予測をしようとしてらっしゃるでしょう? 世の中を予測可能にしようとしていらっしゃるでしょう?

でも、世界は、本質的に予測不能なんです。予測不能の中で上手に生きる。その生き方を探らなきゃ。

「いつ、何が起こるか分からないぞ」という感覚を持ちながら、「そういうことが起きたときに、私は上手に振る舞えるぞ」と思えるような人間になっていないといけないのではないかな。必ず思いがけないことって、起こるものなので。


──子ども時代にはすでにコンピューターや携帯電話があったせいでしょうか、ぼくは中村さんよりも、「予測不能」という感覚が薄いな、という実感があります。「ブリコラージュ」とは、どういうことでしょうか?


中村:アゲハチョウの親って、ミカンの葉っぱにしか卵を産みません。どうしてか? 子どもがミカンの葉っぱしか食べないからです。青い葉っぱはいっぱいあるのに、ミカン以外の葉っぱだと、子どもが食べません。


──初めて知りました。


中村:蚕が桑しか食べないのは知っているでしょう? 蚕は蛾(が)ですから、チョウの仲間。チョウの仲間って、子どもが偏食なのよ。

シジミチョウはカタバミ、アゲハチョウはミカン、モンシロチョウはキャベツ。そんな風に決まっているわけ。

親はヒラヒラと飛んで、いろんな葉っぱがあるけれど、好き勝手な緑に卵を産んだら大変なんです。

アゲハチョウは、ミカンを探して産まなくてはいけない。どうやって探すと思いますか?

中村:調べたら、メスの前脚に感覚毛というものが生えているんです。メスは葉っぱに止まったら、トントントントンとドラミングということをやる。たぶんそれで、先っぽがちょっととがっているから、葉っぱに傷が付いて、そこから成分が出てくる。

葉っぱはみんな成分が違います。アゲハチョウは、感覚毛で、「この葉っぱからミカンの成分が出てきたぞ」と、安心して卵を産む。

そのとき、葉っぱの成分を味見する細胞が必要ですよね。その細胞を調べると、われわれの味蕾(みらい)と全く同じなんです。


──え? ぼくらの舌と同じなのですか?


中村:私たちが味をみるときに使っている味蕾と全く同じ。ブリコラージュとはこういうことなんです。

チョウチョの親は、自分の味見のためにこの細胞を作ります。私たちは人間なんだからチョウなんかとは全然違う上等に味見ができる細胞を使います、なんてことはありません。

「味見するなら、みんなこれを使いなさい」ということ。寄せ集めの細胞なんです。

あなたの味蕾を作っている遺伝子は、チョウチョのお母さんも作っている遺伝子と同じはずです、基本的には。

それぞれの生きものは、環境の中で生きていくうちに、うまく生きられるようになってきて、今があります。

どの生きものも、もともとは全部同じ。この絵のいいところの一つは、コンパスで描いていますからね。人間もバクテリアも同じ高さにいるわけ。

皆さんの感覚だと、バクテリアはここ(下)で人間はこっち(上)でしょう?

そんなことはあり得ないんです。同じで、違うだけ。

区別はあるけれど、差別はありません。

全員欠陥商品であり、全員大丈夫商品

──生きものの「ブリコラージュ」という特徴をもう少し伺わせてください。


中村:ブリコラージュ、寄せ集めというのは、別の言葉では「いい加減」とも言えます。「絶対これが正しい」「これが答えだ」というのが、ないんです。

生きものを見ても、どれが一番いい生きものかを言えないでしょう? みんな、それぞれに欠陥を持っている。だけど、それなりに生きていて、うまくやっているわけでしょう。

「いい加減」というのは、でたらめという意味ではありませんよ。でたらめだと、生きものになれません。でも、ある種のゆるさみたいなものがあるの。

私は生きものを勉強しているうちに、「生きものって、いい加減だなぁ」と強く実感します。


──いい意味での「いい加減」って、なかなか捉えにくいです。


中村:たとえば、車なら規格品があって、みんな規格に合わないとダメでしょう。皆さん、それを「普通」とおっしゃるのよ。「普通」じゃないのはダメ、みたいな。

でも、生きもののゲノムに、規格はないんですよ? 規格品がないということは、別の言葉で言えば、全部欠陥品なんです。

ゲノムの中に欠陥がない人は、一人もいません。だってゲノムは32億も並んでいて、一つも間違いがない、なんてのは無理です。どんな人も、間違いが平均10個くらいあると言われています。

全員に間違いがあるの。だから、もし間違いがあることを欠陥と言うなら、全員欠陥アリです。

だけど、逆に言えば、全員大丈夫ということ。ダメな人は、一人もいないんです。

「これに合わないものはダメだぞ」と言ったら全員ダメ。そうじゃなくて、「寄せ集めで、とにかくこうやって生きているんだから、いいでしょう」という感覚で言ったら、全員OK。みんな欠陥を持っています。全員欠陥商品であり、全員大丈夫商品なんです。

それが機械と違うところでしょう。機械は欠陥商品と完璧商品があるでしょう?

人間は完璧もなければ、欠陥もありません。

中村:明日、足をケガして、もしかしたら全然動かなくなるかもしれないじゃない? 明日脳いっ血か何かで倒れて不随になるかもしれない。

生きものは、状態なんです。一生の間、同じではありません。年を取ることもそうですよね。赤ちゃんは自分で何もできないけれど、だんだんとできるようになるでしょう。そして、年寄りになると、だんだん介護が必要になりますよね。

同じ人がそうなるわけだから、状態なの。機械なら「これはこうだ」と言えるけれど、人間の場合は、一人の人をとってみても、状態が変わっていくわけです。


●


この後、いよいよ、中村さんのキャリアの話になるのだが、前編はここまで。


中村さんは麹町中学校出身で、その後、高校は日比谷高校に行く可能性があったが、お茶の水女子大学文教育学部附属高等学校(現在の、お茶の水女子大学附属高等学校)へ進学した。というのも、日比谷高校の文化祭に行ったとき、当時は戦後間もないころで、汚い校舎で、また、バンカラの男の子たちがたくさんいて、女の子が少なかった。

中村さんは思った。「こんな学校、やだ」。

そして、お母さんに「私、やだぁ、あそこ」と相談し、お茶の水を紹介された。中村さんにとって、「競争」のない風土の、お茶の水はとても良い場所だった。自分に合う学校に出会えた。


取材中、中村さんが「なんか、やだったの」と笑う、その無邪気な表情や姿を見ながら、中学生のときの中村さんもきっとこうだったのだろう、と私は思った。

「『これやれ、あれやれ』とか、『今これが大事だぞ』、『社会のためにはこれをやれ』とか言われたら、途端に嫌気がさしません?」

中村さんがこの言葉を言ったとき、私にとって「大事なポイントだ」と思った。

自分は、ちゃんと、やなことを、やだと感じられているだろうか?

「生きもの」感覚を持てているだろうか?

この感覚こそが、キャリア選択の礎になるものではないか?

そんなことを考えながら、中村桂子さんの話に、引き続き耳を傾けた。

(後編へ続く)

【撮影:保田敬介】

【特集:あなたのキャリアに一目惚れしました。】
・「生きもの」感覚を大事に、「いい大人」とめぐり会い、「一生考えましょうよ」──中村桂子さん(前編)
・一生懸命に生きている「いい大人」と出会う。そして、一生考えることが、好きになる。──中村桂子さん(後編)
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佐藤譲
編集者、コーチ
佐藤譲

1986年、福岡県生まれ。2010年、株式会社スタジオジブリ入社。鈴木敏夫プロデューサーと同じ家に住みながら、編集者として働く。2015年、日本テレビ放送網株式会社に入社。実写映画・アニメーション映画のプロデューサーを務めたのち、2018年に独立して京都へ移住。ゲームベンチャーの立ち上げに関わったのち、現在は、作家・クリエイター向けの編集者・コーチとして働くほか、藤原和博氏が立ち上げた『朝礼だけの学校』プロデューサーも務め、ワンキャリアには2020年から関わっている。日本で唯一の「人形劇」に関する専門図書館の研究員でもある。

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