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「テーラーメイドエクスペリエンス」への挑戦。資生堂のデジタル戦略に迫る

日系 企業インタビュー インタビュー メーカー
2023年6月9日(金) | 38,189 views
sponsored by 資生堂

※こちらは2020年9月に公開された記事の再掲です。


日本発のグローバルビューティーカンパニーである資生堂は、2014年から始まった新たな経営体制の下で進化を遂げています。ワンキャリアはこれまで、各部署のインタビューを通じて同社の変革を伝えてきました。

・ミッションは「自分より優秀なマーケターを育てること」──資生堂のマーケティング、その強さの真髄・デジタル×リアルで「一人ひとりのBeauty Wellnessに向き合う」──資生堂が進めるDXの正体

資生堂は2020年の第2四半期決算で、デジタルを活用した事業モデルへの転換を掲げ、大きな注目を集めました。デジタル領域は、IoT(モノのインターネット)の広がりと新型コロナウイルスによる「新たな生活様式」の中で、あらゆる事業領域で期待が高まっています。

30〜50ものプロジェクトが同時に動いている──140年以上にわたる歴史とブランドを武器に、資生堂はどんなデジタル戦略を描いているのでしょうか。資生堂ジャパンのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するCDO(チーフデジタルオフィサー)のスギモトさん(写真:左)と、DX推進部の井上さん(写真:右)にお話を伺いました。

テクノロジーは人間の仕事を奪わない。資生堂が見据える「デジタル化」の姿とは

──今日はよろしくお願いします。スギモトさんはCDOとして、資生堂ジャパンのデジタルトランスフォーメーションを牽(けん)引する立場です。どのようなミッションを担っているのでしょう。


スギモト:資生堂ジャパンがデジタルを活用して目指す「Tailormade Experience(個人にぴったり合った体験)」を社内外に浸透させ、実現することです。幅広い年齢や地域、ジェンダーのお客さまに「Brand Lover」になってもらうために、必要な情報を分かりやすく、生活に寄り添った体験として提供することを目指しています。


──「デジタル化」と一口にいっても、その実態はマーケティングから業務効率化までさまざまです。資生堂はデジタルを通じてどんな未来を実現しようとしているのですか。


スギモト:例えば肌測定アプリの「肌パシャ」であれば、今の肌のコンディションを診断するだけではなく、キャリアやライフスタイルをふまえた「10年後になりたい私」のための肌をデザインできるようになるかもしれません。

通信機能を搭載した「インタラクティブミラー」が服装やTPOに合わせたメイクアップを提案してくれる未来もあるでしょう。例えば、今夜行くレストランの内装や照明のデータを取得して、最も魅力的に見えるメイクをおすすめする……というように。デジタル広告やSNSのコミュニケーションなど、顧客との接点作りにも注力していますが、デジタル化はスマートフォンの中だけで完結するわけではありません。

スギモト トシロウ:資生堂ジャパン株式会社 CDO(Chief Digital Officer)
デジタルやEコマースの領域を専門とし、クレディ・スイス、シティバンクを経てメーカーへ。前職のエスティ・ローダーでは日本市場のマーケティングを牽引。2020年に株式会社資生堂へ入社し、現職。(所属部署はインタビュー当時のものです)


──こうしたテクノロジーは人間の仕事と競合しないのでしょうか。


スギモト:人間の仕事を奪う・サポートするという次元ではなく、体験のデジタル化は、もはや新しい生活スタイルになると考えています。資生堂にはビューティーコンサルタント(BC、美容部員)たちが活躍していますが、現在の店頭でさまざまな商品を案内する働き方も変わっていくでしょう。

テクノロジーの力があれば、沖縄にいる「アイシャドウの達人」が北海道のお客さまにアドバイスできるようになります。一人のお客さまに対して、分野別の「専属ビューティーコンサルタント」が10人いてもいいんです。デパートで接客を受ける時間がないお客さまにもチャットで相談に乗れるようになります。私たちの目指すデジタルの姿は「Seamless(ライフスタイルに寄り添う)・Ubiquitous(いつでもどこでも)・Timely(必要なときに)」がキーワードです。


──テクノロジーがゲームチェンジャーになると。興味深いです。


スギモト:資生堂は美を通じて人と人とをつなぐ会社です。「デジタルが重要だから変革する」のではなく、社会が必要とする変化に適応するために変わるのです。資生堂のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、私たちが目指す世界を、新しい生活の中でカスタマーエクスペリエンスとして再現することなのです。

初のライブ配信で、社員が涙した。DXの熱さとダイナミクスに迫る

──井上さんはDXに関するさまざまなプロジェクトを見る立場だとお伺いしました。普段はどんな業務にあたっていますか。


井上:私はスギモトのもとでDXを実現するための「What」や「How」を担っています。資生堂ではTailormade Experienceを実現するため、社内横断で30〜50ものプロジェクトが動いています。私はこうしたプロジェクトの進捗(しんちょく)管理から事業推進まで、幅広く動いています。


──プロジェクトを通じて苦労することと、やりがいを感じることは何でしょうか。


井上:苦労するのはデジタルならではの「まずやってみる」「失敗してもいい」マインドを社内に浸透させることです。資生堂は長年築いてきたブランドがあり、優れた商品を世の中に送り出してきましたが、それゆえ意思決定に時間がかかってしまう側面があります。

一方で、成功の兆しが見えたら物事が大きく前進するダイナミックさは、大企業ならではの面白いところです。だからこそ、まずはプロトタイプ作成などでとにかく形にすることや、小さくても成功事例を作り出すことを心がけています。初めは3人くらいで始めたプロジェクトが事業部に伝わり、日本全国に展開する事例も多くあります。

井上 貴央(いのうえ たかひろ):資生堂ジャパン株式会社 DX推進部 UXUI推進グループ
2015年、新卒でリクルートホールディングスに入社後、起業を経て2019年に株式会社資生堂へ入社。DX推進部にて資生堂のプロジェクトマネジメントや新規事業企画に従事。
(所属部署はインタビュー当時のものです)


──関わったプロジェクトの中で印象的なエピソードはありますか?


井上:私が立ち上げに携わったライブコマースのプロジェクトです。「SHISEIDO」ブランドが三越伊勢丹ECサイト「meeco」と連携し、ライブ配信を行いながら商品を販売する取り組みが2020年7月に始まりました。配信をきっかけに、社内からは取り組みを広げたいという声が次々と出て、現在は阪急百貨店さんとも連携を進めています。


──まさに成功事例が生まれた瞬間ですね。


井上:初めての配信では、始まる前にメンバーで円陣を組んだり、配信後にプロジェクトに携わった社員が涙したりする場面もありました。私自身もウルッときてしまって……さながら「大人の文化祭」のようでした。

現場のBCも「チームの一体感を覚え、イベント終了後に仕事で久しぶりに充実感とやりきった感で自然に涙が流れてきた」「すごく楽しかった。店頭活動にも生かしていきたい」と、自分たちの働き方を前向きに変えようとしてくれています。事業面だけではなく「自分たちもやれる」という自信を築くことで、組織全体をドライブできるようになると思います。

新型コロナはデジタルの追い風。顧客の「Why」に1対1で向き合うブランド戦略

──昨今の新型コロナウイルス感染拡大により、人々の生活スタイルは大きく変わっています。外出の機会が減ったこともあり、美容業界は逆風を受けているのではないでしょうか。お二人から、課題や今後の見通しを伺えますか。


スギモト:私たちが直面している最大の課題は、日本の女性たちが美容のあり方を再検討していることです。日本では相手を敬う「きちんと感」を演出するためにメイクをする傾向があります。ニューノーマルな社交の場において、今までのメイクアップは「そこまでやる必要があるのか?」と問われているのです。だからこそ、化粧品にどのように付加価値を与えるかが重要です。「シワを改善する」という機能面だけでなく、「どうしてシワを改善したいのか?」というお客さまの「Why」に向き合う必要があるのです。

パンデミックの先を見据えても、ブランドに愛着を持ってもらうための戦略は不可欠です。例えば、これから音声テクノロジーがますます発達するといわれています。今もスマートスピーカーで商品を購入できますが、飲み物が欲しくなったらどんなふうにスピーカーに話しかけますか?

──「お茶を買って」と言いますね。


スギモト:そう、わざわざメーカーやブランド名を言いませんよね。メーカーの競争は、もはや「購入してもらうこと」ではなく「愛用してもらい、選ばれるブランドになること」に変わりつつあります。私たちメーカーは「社会的に求められているから」ではなく、「オンリーワンなあなただから」と、生活者の内面にアプローチすることがますます必要になります。そこで、デジタルを活用した1対1のコミュニケーションが力を発揮するのです。購入をスムーズにするだけがデジタルマーケティングではありません。


──生活者のライフスタイルに寄り添うためにも、デジタルの重要度が高まっているのですね。井上さんは、現場でどのような影響を感じていますか。


井上:化粧品はリアルの販路が売上の多くを占めているので、コロナ禍では、美容業界全体が少なからず打撃を受けています。しかし、その一方で企業のDX推進においては追い風にもなるでしょう。経営の安定性を確保するために、あらゆる業界のあらゆる企業でデジタルの販路を拡大する重要性が増しました。資生堂の社内でも、デジタルへの温度感は高まっていると実感しています。

全国8,000人のビューティーコンサルタント(BC)は、最強のマーケティングチャネル

──資生堂は2020年の第2四半期決算で、デジタルを新たな事業軸として打ち出しました。Eコマースの売上構成を10ポイント以上高める目標は挑戦的にも見えますが、どのような勝ち筋を見込んでいますか?

※出典:資生堂「2020年第2四半期決算説明資料 P.41」


井上:140年にわたって培ったブランドの力も大きいですが、全国に約8,000名いるBCたちの存在が最大の資産です。お客さまの情報を吸い上げ、購入の意思決定をサポートしてくれるBCたちをデジタルの力でエンパワーメントすることが重要ですし、資生堂にしか得られないデータがここにあります。これこそが他社との差別化のカギになるのです。


スギモト:ライブコマースの事例をお伝えした通り、BCのポテンシャルは非常に高いです。日本で化粧品の購買に最も影響を与えるのは、実は芸能人ではなくエキスパートと一般人です。


──そうなんですか? テレビCMなどでは芸能人が起用されるので、意外でした。


スギモト:前職の頃、女性の上司が急に紫色のアイシャドウをしてきたことがありました。きっかけを尋ねたらCMなどではなく、電車で年齢や顔立ちが近い人がしていたメイクを見かけて「私も似合うかもしれない」と思って買った、と。日本人女性は自分の顔立ちに「似合わせる」メイクを好むので、自分と似たスタイルの一般女性を参考にすることが多いのです。

8,000人のBCがいれば、きっと「私と同じ」と感じるマッチングが生まれるはずです。最近ではメイクアップブランドの「MAQuillAGE(マキアージュ)」のInstagram公式アカウントで、私服のBCによる配信を始めました。世界に目を向ければ、アメリカや中国では、ライブカウンセリングやライブチャットが進んでいますし、彼女らが活躍する場面はこれからさらに広がっていくでしょう。


──興味深いです。資生堂は「最強のマーケティングチャネル」を持っているのですね。


スギモト:はい。これからの3〜5年はこれまでの下準備が実を結んでいくのが楽しみです。

資生堂で経験を積めば、その先もうまくいく──「3年で辞めてもいい」? 資生堂でDXに取り組む魅力

──インタビューも終盤ですが、キャリアについてお聞きします。井上さんは社会人5年目で資生堂に転職されました。どんな点に着目して資生堂を選んだのでしょうか?


井上: (1)リアルをメインにした会社で今後リアル×デジタルの取り組みを加速させようとしていること(2)日本にヘッドクオーターがあること、の大きく2つを軸に転職活動をしました。学生時代からITに興味が強く、新卒で入社したリクルートでもITプロダクトに携わっていました。リアルの店舗や商材とデジタルをかけ合わせたビジネスに興味を持ったことと、若いうちに国際的な市場にチャレンジしたい気持ちがあったので、日系のグローバルメーカーを視野に入れました。


──日本企業にこだわった理由は何でしょう?


井上:外資系企業の場合は、どうしても本国の事業戦略に沿うことが前提です。実際に外資系企業に就職して「日本支社はつまらない」と退職してしまった友人もいます。周囲の意見を聞いていても、事業戦略の「Why」や「What」を決める立場にいた方が面白いと感じました。


スギモト:そうですね。私自身も、外資系の日本支社で思うように施策を実行できずにジレンマを感じたことは多々ありました。日本のユーザーは好みが細分化されていることもあり、アジア他国と比べてもマーケティングコストが圧倒的に高く、予算を投下しづらいとのことでした。

その点、日本企業の場合は日本市場を伸ばす必要がありますから、ヘッドクオーターと外資系企業の支社とでは、動かせる規模感が違います。資生堂では、私が想定していた20倍の金額が投資されていますよ。


──デジタル人材のバックグラウンドは理系が多いイメージです。実際は、どんな人が活躍しているのでしょうか?


井上:好奇心を持って学び続けられれば、学生時代の専攻やバックグラウンドは関係ないと思います。私自身も、大学では法学部でした。デジタル領域は、新しい概念やテクノロジーが日夜生まれています。飽き性で、新しいことにどんどん取り組みたい人にとって、デジタルは面白いと思います。


──多くの日系大企業がDXを推進していますが、今の資生堂でDXに取り組む魅力はどこにありますか。


スギモト:2つあると思います。1つはやりたいことが絶対にどこかで実現できること。資生堂ではセンシング、3Dプリント、SNS、コミュニティまで、幅広いプロジェクトが動いています。デジタルに興味があるなら、活躍の場がきっと見つかるはずです。

もう1つは、成長産業での経験です。猛スピードでデジタル化を推進する環境はさることながら、美容・ラグジュアリーはアジアで急成長が見込まれる領域です。資生堂で経験を積んだ人は、その先もきっとうまくいきます。成長が見込まれる領域の中で、貴重な経験を積んだ先に、転機や起業があっても良いと思っています。資生堂はパートナー企業とのつながりも大きな資産です。未来のパートナー企業を創業するような人材が育ってくれることを期待しています。


井上:将来的には資生堂も人材輩出企業と呼ばれるような企業になるとよいですね。


──ありがとうございました。最後にこの記事を読んでくれた就活生にメッセージをお願いします。


井上:資生堂に限らず、今からキャリアを選ぶならデジタルに関わる仕事をした方がいいと思います。成長産業であるデジタルの仕事を選ぶのは、新しいチャレンジをしたい人にとって、キャリア観点や成長観点などから良い選択だと考えています。その上で資生堂が魅力なのは、まだデジタル化の途上にあることです。既にできあがった環境よりも、白地しかない環境で自分がルールを作る側に回るのは、動かせる範囲が大きくて面白いですよ。


スギモト:最近の若い人たちはしっかりしているから、自分が楽しくやれそうなことに携わってほしいです。ドクター・スースという絵本作家の「Don’t cry because it’s over, Smile because it happened(終わったことを悲しまず、起こったことを喜ぼう)」という言葉があります。仕事も同じで、一緒に楽しくすごいものを作り、皆のために貢献して去っていくのもいいと思うんです。一緒にそれができたことが残ればいいんです。その上で「Beauty Tech」「Beauty Digital」に興味があったら来てほしい、それだけですね。

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【資生堂】2025年入社希望者向け ブランドマーケティング実践インターンシップ

申し込み締切:7月20日(木)

【インタビュアー、ライター:中山明子/撮影:赤司聡】

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