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「MBAで流行ってる業界には行かないこと」。就活生へメッセージ

コラム インタビュー
2017年4月18日(火) | 24,991 views

今週からワンキャリアで始まる「WORLD5特集」。

この特集では、世界経済フォーラムに選別されたYGLの5名(岩瀬大輔氏、山崎直子氏、遠藤謙氏、中村俊裕氏、南壮一郎氏)が登場し、キャリア論・世界情勢について話し合います。


今回は、「世界経済フォーラム」で、YGLのアジア地域の事務局をされていた長尾氏にお話を伺いました。

「MBAで流行ってる業界には行かないこと」。就活生へのメッセージ

KEN:長尾さんは、モルガン・スタンレーで勤務後、フランスでMBAを取得し、スイスにて世界経済フォーラムで勤務と、全世界を拠点に働かれてきました。もし子どもがいて、21歳の就活生だとしたらどのようなアドバイスをされますか。


長尾:2つあります。1つは「食わず嫌いをしないこと」。もう1つは「MBAで流行っている業界には行かないこと」だと思います。

まず1つ目の「食わず嫌いをしないこと」に関しては、食わず嫌いにならないようにいろいろな企業を受けさせ、しっくりきたのはどの企業かを毎日問い掛けますね。これだけやれば大丈夫だよ、ここに行ってきなさいという形ではなくて、しっくりきたかどうかをその子に聞いて考えさせると思いますね。本人が納得できたところに行く手助けをしたいです。


KEN:コーチングに近い指導法ですね。では、2つ目の「MBAで流行っている業界には行かないこと」とは一体どういうことでしょうか?

長尾俊介:

慶應義塾大学商学部を卒業後、新卒にて外資系投資銀行にてバック・ミドル・フロントの各部署で勤務。その後、アジア経済研究所のIDEASで開発経済学コースを修了、INSEADにてMBAを取得。フランス・パリにて食品流通ベンチャーを立ち上げ、幅広く経営に携わった後、世界経済フォーラムにて、スイス・ダボスで行われる「ダボス会議」をはじめとしたさまざまな会議の企画・運営を行う。また世界経済フォーラムが毎年選ぶ40歳以下の若手リーダーであるヤング・グローバル・リーダーズのアジア地域を担当。現在、ユリーカ・ジャポン有限会社代表取締役社長及びシリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム事務局長を兼職。


長尾:もちろんこれは極端な一般化ですが、これまでの歴史を見ても、MBAってどこか「ババ抜き」をしているようなものなんですね。

というのもMBAプログラムを行う大学はMBAランキングを非常に気にします。フィナンシャルタイムズをはじめとした諸々のMBAプログラムランキングの評価要素の一つが、そのプログラムの学生が学校に入った時よりも出た時の給料が高くなっているか、です。当然ランキングが上位になるとさらに優秀な学生が応募をしてくるのである意味良い循環が生まれるわけです。当の学生たちも、多くがMBAプログラム以前よりも高い給料を欲します。これがMBA生がこぞってここ20年くらいはウォールストリートなどの金融界やシリコンバレーなどのハイテクセクターの集積地に向かう背景の一因です。卒業後に給料が上がるか下がるか一か八かの企業にチャレンジして給料が下がると、学校のランキングが下がってしまう。それだったら多少、卒業後の就職先として偏るかもしれないけれども、給料の期待値が高い会社を学校側はオススメするんです。

しかし、優秀な人が集まりすぎることは一種の「バブル」で、将来的に「バブルが弾ける」かもしれないというリスクも生じているわけです。「バブルが弾ける」それまではみんなで一生懸命リスクの「ババ抜き」をしているような状況ですけれども、MBAにとってそこに送るインセンティブはあるんですよね。


KEN:面白いです。今バブルになっている就職先はやはり、シリコンバレーですか?


長尾:そうですね。高成長をしている新興企業がある程度の組織規模になってくると、組織・経営管理をする必要性が増すので経営学を叩き込まれた人材を欲します。一方今は、たくさんの資金がシリコンバレーのスタートアップに還流しているので、MBA卒業生も成功すれば投資銀行で働くよりも何千倍も稼げます。ですので相思相愛の状況です。みんな行くんですけれども、これはバブルなんじゃないかなっていう風に思いますね。

今後注目すべきは、アフリカのマーケット

KEN:なるほど。では、投資銀行もダメで、シリコンバレーもダメだとすれば、具体的にはどんなマーケットを長尾さんはオススメしますか?


KEN(聞き手):

ワンキャリアの若手編集長。広告代理店、コンサルティングファーム出身。長尾氏とプライベートでも親交がある。


長尾:アフリカですかね。その中でもサブサハラアフリカです。DMM.com(以下DMM)さんとかも進出されているんですけど、DMMさんってとても面白くて、亀山さんがトップから退きましたよね。でも引退したわけではなく今もしっかり仕事をされていて、亀山さんの担当案件は通称「亀直案件」って呼ばれているそうです。これはCEOの片桐さんがやらないものをやるという住み分けだそうで、アフリカもこの中に入っているんですよね。

ではなんで亀山さんがアフリカをやっているかというと、アフリカは将来的にどうあっても見逃せないマーケットになるからなんです。DMMはまずは拠点をルワンダに置いているそうですが、例えばサブサハラアフリカで最大の国のナイジェリアの例を取ると、人口動態はほぼ2億人で日本よりも人口は多いことと、35歳以下の人たちが65%もいて、その人たちがこれからどんどん中流階級になっていきます。そんな彼らのエンターテイメントは何になってくるのかというと……家に必ずしもテレビはないんですね。けれどみんなスマートフォンは持っているんです。だからこそスマートフォンで彼らにコンテンツを提供する必要がある、ということで DMM はナイジェリアをはじめとするアフリカに参入しているのではないでしょうか。


KEN:すなわち、伸びるマーケットを押さえるために、張っていると。


長尾:そうです。加えて、ただエンターテイメントを出すんじゃなくて、スマホという媒体を使って、教育コンテンツとかも流せるでしょうし、第3次産業のエンターテインメントでいくらでも拡張性はあるのかなっていう風に思いますね。あとはナイジェリアだけではなくアフリカは、国境も全部取っ払って市場として見ると大体10億人ぐらいにもう今もなっていて、そう遠くない将来に20億人になります。中国とインドを足したぐらいの市場になるわけですよね。

それなのに、その市場に注目してる人があまりにも少なくて、実際にアフリカの人達と話していると、彼らは「自分たちのことをマーケットとして見ていない。生産工場とか1次産品だけを依頼する地域としか見ていない」と言うんですね。

そうじゃなくて市場として見ていくと面白いのにと思います。アフリカで消費されるものは当然アフリカで作れるようにして……トヨタとかはもう自動車工場を作ってると思うんですけれども、同じような形でいろんな生活必需品が必要になってくるので、これから2次製造業とか農業の加工品とかもどんどんでてくるはずなんですよね。


KEN:つまり、地域としてアフリカで働くのが熱いと。


長尾:はい、2030年から2050年は想像できないような仕事がいっぱい作られているでしょうから、アフリカは地域として面白いだろうなという風に思います。

パリでの魚屋経営が、世界経済フォーラムに入ったキッカケ

KEN:長尾さんのキャリアで面白いのは、MBAに行ってその後「世界経済フォーラム」に就職されたところです。なかなか耳にしない就職先ですが、これはなぜでしょうか?


長尾:「世界経済フォーラム」の名前があまり浸透していないのは、日本はじめ多くの国で「ダボス会議」という世界経済フォーラムが行う年次会議の名前の方が有名になっているからだと思います。実はMBAを卒業してから世界経済フォーラムに就職するまでの間に謎の1年がありまして、パリで魚屋さんをやっていました。世界経済フォーラムに勤めるようになったキッカケは、この魚屋の経験が大きいです。


KEN:パリで魚屋ですか! どういうことでしょう?


長尾:フランスのMBA(INSEAD)で魚が大好きなフランス人と知り合ったことがきっかけでした。

元々僕は卒業してから何かしら自分でビジネスをやりたかったんですけれど、そのネタを探していたところにその出会いがありました。結局、彼が一番やりたがっていた「魚を世界中から集めて、フランス、特にパリのレストランやホテルに卸売をする」という企業を作って1年間ぐらい共同経営していました。


KEN:そのキッカケが、なぜその後世界経済フォーラムに転職されることにつながるのでしょうか?


長尾:それは、魚屋や飲食業はどこの国に行っても古い業態で、そこには既得権益があるということに関連します。そこに新参者として入るのは結構しんどくて、いろいろ嫌がらせをされたりされます。そのとき、降りかかる火の粉を払う手段が必要で、それは僕の将来の夢であるアフリカに行って起業家支援をしようってなった時も同じだと想像できました。

例えば、ものすごい熱意のある起業家が「自分はこういうレストランをやりたい」って言った時に、もうすでにそのマーケットは寡占状態で既得権益があるわけです。相手にも大きなメリットがあることを説明しても、それでも嫌がらせをしてくる人がいることもあります。その時に「バックにはこういう人はいますよ」っていうカードがあれば相手に聞く耳を持たせることができます。

そういう影響力のある人が集まる所としてダボス会議がベストだと思いました。


KEN:つまり「既得権益に戦うためのカードを得る。そのために、世界経済フォーラムに入った」と。面白いです。では、その中でもYGL(ヤンググローバルリーダーズ)を主に担当されているのはなぜですか?


長尾:それは、自分と比較的年齢が近く、例えば自分がかねてから興味を持っている国際協力を民間の資金のメカニズムを使って行うという、比較的先進的な事を考えている人が多いと思ったからです。そういう人たちと関わりたいなと。

単一の組織体では解けない問題に立ち向かう、そのために存在するのが世界経済フォーラム

KEN:そもそもなんですが、YGLや世界経済フォーラムっていうのは何を目的にした団体なのかを伺っていいでしょうか?


長尾:そうですね、まずスローガンは「Improving the State of the World」で、より良い世界のためにという、何でも含まれるスローガンにはなっています。これを世界経済フォーラムではどのようにしてやるかと言うと「多面的な角度で話し合わないと解けないような問題を、話し合う場所を提供しましょうよ」というものです。

世界の問題っていうのはどんどん複雑化しています。環境問題・教育問題・富の再分配問題、どれを取っても解き難い問題増えています。ビジネスパーソンであれ、政治家であれ、教育界の人間であれ複数の主体が関わっていて複雑化しています。なので、関係する全員が議論のテーブルに入って、その問題を多面的な角度で話し合わないとなかなか良い解決策は出てこないんですね。


KEN:簡単にいうと「めっちゃ難しい問題を、すごい人たちで話し合おうよ」ということですね。インプリメンテーション(実行)はあくまで行わないわけですか?


長尾:しません。実際に示されたその解決策をインプリメンテーションするのは世界経済フォーラムではなく、各国政府だったり、企業だったり、連合体だったり、国際機関だったりするのですが、そのための議論のプラットフォームとして最高の場を提供するというのが目的になっています。


KEN:それはまた、知的好奇心をそそる組織ですね。


ーー後編「僕らは多分、100歳まで働くことになる」

「WORLD5特集」の公開スケジュール

ライフネット生命社長 岩瀬大輔 
 ・99%の人は天職に出会えていない。でも、それでもいいと思う
 ・パワポで世界は変わらない。彼がハーバードを経て起業した理由 宇宙飛行士 山崎直子 
 ・地球から「8分30秒」の職場。それが宇宙
 ・苦しい業務も、全てが楽しい。きっと、それが「天職」
Xiborg代表/義足エンジニア 遠藤謙
 ・「パラリンピックは人類の未来」
 ・最短距離で世界一になるため、根回しなど面倒なことは不要だ
国連出身・コペルニクCEO 中村俊裕
 ・官最高峰の国連を経て、彼が「コペルニク」を創立した理由
 ・今、国連に入るってどうなんですか?就職先としての「国連のリアル」
投資銀行出身・ビズリーチCEO 南壮一郎  ・「世の中にインパクトを与える事業を創りたい」南氏の天職と理想のリーダー像に迫る  ・自分のことを信じよう!就活生に贈るメッセージとは?
世界経済フォーラム出身/コーディネター 長尾俊介
 ・「MBAで流行ってる業界には行かないこと」就活生へメッセージ
 ・僕らは多分、100歳まで働くことになる

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北野唯我(KEN)
取締役
北野唯我(KEN)

北野 唯我(きたの ゆいが):株式会社ワンキャリア 取締役CSO/作家
新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局勤務。米国・台湾留学後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役として戦略・採用・広報部門を統括。2021年10月、同社は東京証券取引所マザーズ市場に上場。作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が20万部、他に『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)などで、著者累計40万部。

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