歌を歌う。文章を書く。絵を描く。
この世には「誰でもできるが、誰でもは上手くできないこと」が存在する。
例えば、文章を書くこと。単に文章を書くことなら誰でもできる。一方で「上手い文書」を書くことは誰にでもできるわけではない。絵を描くこと、歌を歌うことも同じだ。
そしてこれらの能力は大体、不当に低く評価されている。多くの人に「なんとなく自分もできそう」と思われるからだ。
では、一体、「人を評価すること」はどうか?
どんな人でも、日常、人を評価している。「あの人はせっかちだ」や「あの人は賢い」といった風に。しかし、実は「人を評価する」というのは極めて高い技術だと思うのだ。そして不当に低く評価されすぎている。
結果、市場には「素人面接官」が溢れかえっている。
春になると、現場社員が新卒の場に駆り出され、リクルーター社員が一次面接官となる。彼らの多くが片手間で面接を行う、いわば「素人面接官」だ。
私がこの文章で、言いたいことは1つ。
「向上心のない人事は、社会の悪である。
学生よ、気をつけよ」。
人間「全体」を評価することは、できない
そもそも、「人を評価する」とはどういうことだろうか。
もし全人類を1軸上に並べて上下関係をつけられるような、完全に「公平な評価指標」があれば問題ない。しかし、その軸は現時点では存在していない。よって、「公平に評価できる指標」と「公平に評価できない指標」を使って人は人を判断する。
ということは、「人を評価する」とは
1. 公平に評価できる部分は、どこなのか?
2. 残りの部分は、どうやってできるだけ公平に評価するのか?
という論点に分けて考える必要がある。
1つずつ考えていきたい。
まず、第一に、「公平に評価できるもの」とは何だろうか。これは「機械で測れるもの」だと捉えれば分かりやすい。代表的なものは「基礎的な学力」や「カルチャーフィット」だろう。前者は、SPIやウェブテスト等で判断することができる。後者の「カルチャーフィット」を定量化するツールには「V-CAT」などが存在する。これらが公平に評価できる領域だ。
面接には「3つの評価バイアス」が存在する
第二に上記のように「公平に評価できない領域」について考えてみよう。面接には少なく見積もっても3つのバイアスが存在する。
1.【親近感バイアス】自分と似た人を実際より高く評価する
2.【実力差バイアス】自分より優秀な人を、人は正確に評価できない
3.【時間差バイアス】候補者の伸び代を逆算できず、現時点の能力のみで候補者間を比較してしまう
優秀な面接官は、この3つのバイアスを自覚し可能な範囲で排除し、評価している。技術を高める意識がある。一方で、素人面接官はそもそも自分に「バイアスがかかっていること」を認識していない。
欲しいと思った学生の志望動機を高める「アトラクト面談」こそ、人事に与えられた重大な役割
もう一つ、「面接」は実は人事が持つべきスキルのうち、比較的簡単な技術だ。人事のバリューがもっとも問われるのは「アトラクト面談」だ。
そもそも面談には4つの種類がある。
・見極め面談 (=面接)(M)……候補者を評価するための面談
・アトラクト面談(A)……候補者を魅力づけ、志望度を高めるための面談
・調査面談(C)……インタビューや調査など、情報を獲得するための面談
・相談(S)……対象者の悩みや不満を聞き、信頼関係を構築するための面談
我々はこれを、MACS(マックス)と呼んでいる。
この中で、「人を見極める面談」はそれほど難しいスキルではない。飛び抜けた人材と、基準値を大きく下回る学生は見た瞬間に分かるからだ。問題は「活躍できるかどうか微妙な学生の見極め」に限られる。
そして、この面接で欲しいと思った学生の志望動機を高める「アトラクト面接」こそ、人事に与えられた重大な役割だといえる。
人事は「家より高いものを売る、営業」に似ている
人事はある種の営業に似ている。自社の魅力を伝え、ファーストキャリアの決意をしてもらうという意味で、「家より高いもの(=重要なもの)を売る」とも解釈できる。人事の本来のバリューは、アトラクト面談にある。興味がない学生に自社の魅力を伝え、気持ちを動かすこと。人事の最大のバリューの出し場所だ。
何が言いたいのか?
それは
1. 自分のバイアスを、認識してすらいない
2. アトラクト面談ができない
上記2つに当てはまる人事は、専門職として付加価値がない。むしろミスマッチを起こさせる一因になるため、社会にとって悪であり、すぐさま人事市場から立ち去るべきだ。
……。
言いすぎた。が、それぐらい、「人を評価する技術」は本来、専門性の高い技術だと思うのだ。作品や製品を評価するのは良い。だが、人を評価するというのは本来もっと専門的であるべきだ。特に最近のネット上の多くの示唆や愛のない中傷や非難を見ているとより強く感じてしまうのだ。
ジョブローテの腰掛け「人事」は、PDCAを回す機会がない
これだけ専門性の高い技術であるにも関わらず、現状、日本で働く人事の多くは「ジョブローテ」がメインだ。3年程度、その部署を務め、次の領域に飛び込む。中には、後ろ向きな気持ちで人事に来た人もいる。
本来、自分が担当した学生が、「入社後に本当に活躍しているのか?」を見なければ、先の「絶妙な学生を見極める技術」を高めることはできない。その成果を見るのに「3年」という期間はあまりに短すぎる。PDCAを回す時間的余地がないのだ。
参考:「学生よ、ジョブローテがある会社には行くな」KENが考える現代の就活が抱える3つの課題【外資BIG5:対談後記】第二弾
今でも思う、「あの子を落とすべきだったのか?」
我々は、年間数千名の学生と面談する。その中でも私が担当するのは「特に優秀だと思われる学生」がメインだ。だが、それでも高く評価することもあれば、低く評価することもある。高く評価した学生に関しては、これまでその評価を後悔したことはほとんどない。
だが、低く評価した学生に関しては常に思う。
「本当に、低く評価すべきだったのだろうか?」
私は人事のプロではないが、それでも常に「人を評価する技術」を高めようとする訓練を積んでいる。素人の私でもそうなのだから、少なくともプロとしての人事はそうあるべきだ。
学生が、素人面接官を見極める「必殺技」。
ここまで「素人面接官」について述べてきた。
では、学生側は、どうすればいいのか? どうやって素人面接官かを見極め、対処すればいいのだろうか?
まずは素人面接官と、プロの面接官を見極める「技」を紹介したい。魔法の質問だ。
「これまで人事として採用してきた候補者のなかで、評価が適切ではなかったな、と思った人はいますか?」
と聞けばいい。専門性の高い人事であれば、この質問に体系だって答えられるはずだ。
もし面接の場でこれを聞くのは至難であれば、もう少しマイルドに聞けばいい。
「御社で、どんな人が活躍しているか? 逆に入社後に思ったより活躍していない人はどんな特徴がありますか?」
もしその人事が、自分の同期など周りの人だけの答えを提示してきたのであれば、それは素人人事だ。プロ意識のある人事は幅広い年齢かつ、職種を横断して語ってくれるはずだ。
そして、学生は「最大公約数」の志望動機を語るようになった
次にもし、面接の場で「素人面接官」に出会ったとすれば、どうすればいいのだろうか?
答えは「最大公約数的な答えを用意しておくこと」に尽きる。本当に自分が成し遂げたい夢ではなく、堅実な目標を掲げる。過去の経験に基づき、論破されづらい答えを用意すればいい。悲しいが、それが現実だ。
そして「どこでもあるような学生の志望動機」が出来上がるのだ。
我々はファーストキャリアにはびこる、「ブラックボックス」を破壊したい。その変革は、ビジネスモデルだけでは達成できない。人事という専門技術が適切に評価され、技術の低い人事が淘汰され、フェアな世界が実現されることを願う。
最後に今回「素人面接官」というテーマのインスピレーションは、日本経済新聞出版社の『早期内定のトリセツ』から得た。素人面接官の更なる詳細はそこに書かれているし、私も何テーマか寄稿させていただいた。全国の本屋で手に取ってみてほしい。
取締役 北野唯我(KEN)
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※こちらは2016年12月に公開された記事の再掲です。