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南米では車で川を渡る?世界的自動車メーカーの海外営業マンに直撃取材

営業 インタビュー OB訪問 メーカー
2019年12月11日(水) | 10,054 views

こんにちは、ワンキャリ編集部の辻です。


日本を代表する巨大産業・自動車業界。

日本企業の売上高ランキングTOP10のうち3社は自動車メーカーであり(※1)、まさにGDP(国内総生産)を支える仕事です。

また、日本の総輸出額の15.1%は自動車が占めており(2018年)(※2)、入社後に海外で活躍するチャンスも豊富といわれています。総合商社などと並び、「海外で活躍したい!」という学生なら必ず見ておくべきでしょう。

今回は、新卒で自動車メーカーに就職し、現在は海外営業を担当しているBさんに、海外営業の魅力を聞いてきました。


(※1)出典:Stockclip「2018年 日本企業 売上高 ランキング」
(※2)出典:財務省貿易統計「対世界主要輸出品の推移(年ベース)」

<目次>
●南米では「川を渡れる車」が求められている?
●新卒1年目から1国を担当! のしかかる数十億のプレッシャー
●海外経験を積んだ人から会社を辞める? 残るのはパブリックマインドのある社員
●MaaSか、クビか。岐路に立たされる自動車業界
●自動車メーカーに向いているのは「サッカー部のディフェンスにいそうなやつ」
●学生は「名前も聞いたことのない部署」の社員を訪問せよ

南米では「川を渡れる車」が求められている?

カフェに着くなり、迷わずタピオカを注文したBさん



辻:Bさんは入社してから海外営業に携わってきたと聞いています。現在の業務について教えてもらえますか?


Bさん:僕は南米のA国を担当していて、その地域で求められる仕様やスペック、シートの種類や色、安全性、価格戦略や販売方法を、現地の人と議論するのが仕事です。


辻:営業が現地の人と一緒に車を企画するんですね。何かエピソードを教えていただけますか?


Bさん:そうですね。特に、2年目のときに僕の担当車種のチーフエンジニアと一緒に現地に出張したときのことはよく覚えています。現地でうちの車がどんな使われ方をしているかを調べに行ったのですが、新興国ということもあって、日本では考えられないような道を走っていました。実は動画があるんですけど……(スマホで動画を再生するBさん)


辻:……車で川を渡ってますね(笑)。


Bさん:そうそう(笑)。他のメーカーの製品では川を渡れないから、うちの会社の車を買ってくれてるっていう人もいるんです。ここまでくると「現地の人の命を背負ってる」って感覚になるんですよね。こういう光景をエンジニアと一緒に見て、製品の性能を改善していけるのはこの仕事の面白いところです。


辻:実際に、どのような改善をするんでしょうか?


Bさん:例えば、現地から「泥の中を半ギアの状態で走ると不具合が起こる」というクレームがありました。同じ環境でも他社製品にはない現象ということで、うちの車と他社の車を解体して比較し、みんなで議論。すると、ベテランのチーフエンジニアが熱々のギアを観察して、不具合の原因を見つけてしまったんです。どんなクレームもすくい上げるベテランの技は本当にすごかった。あれを目の前で見れたのは、とてもいい経験でしたね。


辻:普通に考えれば、「泥の中を半ギアで走る方がおかしいだろ」となると思うんですが……。


Bさん:確かに日本人から見るとそうなんですけど、現地の人にとっては悪路を走るのは珍しくないことなんですよ。現地の事情をちゃんと吸い上げて、原因究明までやるのがプロフェッショナルだというスタンスが貫かれていますね。


辻:そういう「職人魂」に触れられるのは、メーカーならではです。

新卒1年目から1国を担当! のしかかる数十億のプレッシャー

辻:Bさんは1年目から今の部署ということですが、もともと海外営業を希望されていたんですか?


Bさん:いや、まさか1年目から海外を担当するなんて思ってませんでしたよ。英語も全然得意じゃないですし。

配属が決まったとき、上司から「君は国内でコーポレートの仕事をやったら活躍できることは分かっている。まずは海外で苦労してこい」って言われて(笑)。新興国での営業は苦労ばかりです。最初のうちは現地人の英語がなまりすぎてて、何を言っているのか聞き取るのも大変でした。それに、そもそもロジックが全然通じないことも珍しくありません。


辻:ロジックが通じないとはどういうことでしょう?


Bさん:例えば、現地政府がガソリン車を規制したいから、ハイブリッド車の割合を増やせって言ってるんですが、現場の販売店はハイブリッド車なんて売れないからいらない。だから、販売店と価格を決める協議をしても「ガソリン車と同じ価格じゃなきゃハイブリッド車は売らない」なんて無茶(むちゃ)を言われることもありました。


辻:世界的な自動車メーカーが相手なのに、現地の人たちは強気なんですね。


Bさん:はい。うちの会社が出資している代理店ならそんなことはないんですが、独立系の代理店相手の交渉は結構なガチンコ勝負ですよ。「この条件を認めてくれないなら、他社の車を売る」なんて言ってくるから、対等どころかむしろ向こうの方が強いかもしれない。


辻:1年目からそんな経験をするとは(笑)。


Bさん:それに、最初の1、2カ月は先輩が一緒にやってくれましたけど、それ以降はもう1国を任されますからね。自分以外ではA国の事情やその国で売られている車種をよく分かっている人はいないので、僕1人でA国全体の代理店をマネジメントしている状態です。


辻:それは意外です。御社は大企業ですし、若手の育成も丁寧なイメージでした。


Bさん:僕も配属される前は、てっきりチームがあって、その中で若手がやる仕事があるのかと思っていたんですが、全然そうじゃなかったですね。

今のところこれといった失敗はないですが、僕が「現地が望む仕様を入れ忘れた」なんてことになったら数千台に影響が出て、何十億の損害が出ます。もちろんプレッシャーはすごく大きいですが、やりがいは大きいですよね。

海外経験を積んだ人から会社を辞める? 残るのはパブリックマインドのある社員

辻:Bさんのように、グローバルに働きたいという理由で自動車メーカーを検討する学生は多いと思います。御社に新卒入社すると、どれくらいの割合で海外に行けるんですか?


Bさん:海外は希望すれば絶対に行けます。僕のように営業で行くこともあるし、生産系の部署でも海外の工場に出張する機会は多いです。たとえ国内の部署にいても海外とやり取りする仕事はあって、よほど限られた部署でない限りはグローバルに働けると思いますよ。


辻:具体的に言うと、何年目でどのように海外に出られるのでしょう?


Bさん:2〜3年目では年数回の海外出張がありますし、4年目以降は1~2年間の駐在もあります。うちの会社は若手に海外経験を積ませたいと考えていて、他の自動車メーカーより海外駐在のタイミングは早いらしいですね。

ただ、海外駐在から帰ってきたアラサーの社員が次々辞めちゃってて、社内で問題になっています。うちみたいなグローバルメーカーにいて、20代で海外勤務まで経験している人って、市場価値がすごく高いんですよね。


辻:社員教育に投資しているのに、育った社員からやめてしまうのは皮肉です……。どういった社員が外に出るのでしょうか?


Bさん:能力が高くて、スマートなタイプの人は外に出ちゃってる印象です。コンサルとか商社とかに転職する人は多いですね。MaaS(※3)系ベンチャーに行く人もいます。

一方、馬力があってゴリゴリしてるタイプの人、あるいは「自動車産業が日本経済を引っ張っている! 世界の人々の生活を支えている!」みたいなパブリックマインドに目覚めた人は社内に残って活躍している印象です。


辻:ちなみに、Bさんご自身は転職を検討していますか?


Bさん:逆に言うと、海外駐在を経験するまでは頑張る理由があるということなんで、僕もそれまではこの会社で頑張るつもりです。そこから先は……パブリックマインドが芽生えるか次第ですね(笑)。


(※3)……Mobility as a Serviceの略。レンタカー、バス、電車、飛行機など、これまで独立していた交通手段をプラットフォーム上でつなげ、「移動」という1つのサービスとして捉える考え方。自動車メーカー各社も、「モビリティ・カンパニー」への転換を図ろうとしている。

MaaSか、クビか。岐路に立たされる自動車業界

辻:MaaSの話が出ましたが、近年は車を持たない人が増えていますし、GoogleのようなIT企業が自動運転車を開発するなど、自動車業界に激震が起こっています。多くの自動車メーカーが改革の必要性を訴えていますが、Bさんの会社でもそういう雰囲気を感じますか?


Bさん:めちゃくちゃ感じますね。「車を作って売ったら終わり」という今までのビジネスモデルではやっていけなくなることはよく分かっていて、MaaSを前提にした新しいビジネスモデルを作ろうとしています。


辻:Bさんはお若いから大丈夫そうですが、売り切り型のビジネスに慣れている年配の社員だと、新しい取り組みにも戸惑いがあるのでは?


Bさん:人によってはあるかもしれないけど、うちの部署はベテランも一緒になってガツガツ挑戦してます。僕も学生のときは、大企業は保守的で、社員はオペレーションを回していくだけなんじゃないかとも思っていたんですが、入社してからは開拓者精神を持って新しいフィールドにチャレンジする気風を感じています。移動の世界を担っていくのは自分たちだっていうパブリックマインドが共有されているのかもしれません。

あと、「新しいことをやらなきゃ生き残れない」っていう危機感が全社的に共有されているんですよね。採用の現場でも、学生に向けて「強烈な危機感を感じている」「私たち自動車メーカーは変わっていかなければならない」と発信していたことは印象に残っています。まあMaaS化に失敗して業績が悪くなったら、僕らもクビですしね!


辻:なるほど、「MaaS or Out」だと(笑)。

自動車メーカーに向いているのは「サッカー部のディフェンスにいそうなやつ」

辻:御社の社風についてもお聞きしたいです。Bさんの周囲にはどのような方が多いのでしょうか。やっぱり車好きな人?


Bさん:いや、全然そんなことないです。うちの会社は車好きな人が他の自動車メーカーに比べて少ない印象です。車というよりも、「巨大ビジネスを学べる会社」というイメージで入ってくる人が大きいのかもしれません。


辻:Bさんご自身も、車好きだったわけではないのでしょうか?


Bさん:はい、僕も自動車にはそんなに興味なくて、うちを知ったのは合説でブースがきっかけでした。友達に誘われてブースに入り、「自動車に興味ないけど大丈夫ですか?」と聞いたんですが、社員も「俺は入社するまで、車種を1つしか知らなかった」と話していて、それなら大丈夫だろうと。

技術系職種だとマニア気質の人もいるんですが、総合職はむしろスポーツマン気質の人も多い。例えるなら、花形運動部で縁の下の力持ちをやってるような人。サッカー部でディフェンスをやっている人のイメージです。


辻:そう聞くと、Bさんは御社の社風に合っていそうです。


Bさん:んー、そう思う側面はありますね。フォワードってタイプではないし(笑)。

あとは、自分で何か新しいことをやっていこう、っていう人が多いですね。前のめりで、ガツガツしてて、貪欲。言われたことをやっていないって人はもちろんいなくて、自分で考えたプラスアルファの仕事までやっていく能動的な人が多いかもしれない。

学生は「名前も聞いたことのない部署」の社員を訪問せよ

辻:自動車メーカー志望の学生に向けて、これだけは伝えたいということがあれば教えてください。


Bさん:2つあります。1つ目は、地方勤務だけは本当に覚悟して入った方がいいということです。

ジョブローテーションの中で勤務地は変わっていくので、社歴が長い人でずっと東京にいるという人はいないと思います。面接でも「地方勤務あるけど大丈夫?」と何回も聞かれますし「大丈夫」と答えた人だけが入社しているわけですが、それでも「東京生まれの東京育ち」みたいな人はきつそうです。僕は地方出身なので大丈夫ですが。


辻:確かにネットのクチコミを見ていると、御社には「地方で刺激のない生活が耐えられない」と言って転職してしまう人も少なくないようです。2つ目は何でしょう?


Bさん:2つ目は、社員訪問でいろんな部署の人の話を聞くこと。自動車メーカーの生産工程は長くて、入社してみると聞いたことがない部署って結構あります。

「海外営業部門」などはイメージしやすいですが、「生産管理」とか「調達」とかって分からないじゃないですか。ついつい興味がある部署、花形部署の話ばかり聞いてしまいがちですが、どこに配属されるかは分からないので、入社後のギャップに驚かないためにもいろんな部署を知っておいた方がいいと思います。

ホームページにもいろんな部署の名前が載ってるので、聞きなれない部署があったら社員訪問のときにそこの部署の社員につないでもらうのもいいかもしれません。


辻:Bさん、ありがとうございました!


【執筆協力:下原マヤ】

(Photo:jgolby/Shutterstock.com)

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ワンキャリ編集部
辻 竜太郎

2019年、ワンキャリアに新卒入社。学生時代からワンキャリ記事のファン。
大学時代のアルバイトは特技の社交ダンスを生かし、マダムのダンスパートナーを務める。
現在の趣味は筋トレ、エクセルいじり、業務フロー作成。

■好きな記事
「ゴールドマン・サックスを選ぶ理由が、僕には見当たらなかった(https://www.onecareer.jp/articles/168)
「上司の唱えた『当事者意識を持て』という恐ろしい呪文。そうそれはマダンテ」(https://www.onecareer.jp/articles/501)

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