ワンキャリ編集部の辻です。
今回は外資メーカーの若手マーケターの話を伺います。
ブランドをゼロから作り出し、海外にある本社と英語でやりとりし、莫大(ばくだい)な広告費をかけてCMを打つ──
華やかなイメージがあるマーケターですが、その裏側には知られざる努力がありました。
<見どころ>
・営業がポケモンなら、マーケティングはシムシティ?
・責任範囲は「売りに関わるすべて」──マーケターが持つのは経営者の視点
・20代のマーケターが50代のベテランを説得。NoをYesにするための泥臭すぎる社内調整
<プロフィール>
・辻:ワンキャリの新米編集者。大学時代は社交ダンスに熱中し、バイトではマダムのダンスパートナーを務めた。好きな記事は「ゴールドマン・サックスを選ぶ理由が、僕には見当たらなかった」と「上司の唱えた『当事者意識を持て』という恐ろしい呪文。そうそれはマダンテ」。・Aさん:外資メーカーのマーケティング担当。かつては営業も経験したのち、マーケターに転身した。
営業がポケモンなら、マーケティングはシムシティ?
辻:「マーケティング」は学生に人気の職種ですが、マーケターの具体的な仕事内容をイメージできている学生はあまり多くないように思います。Aさんはマーケティングと営業の2職種を経験されているとのことですが、双方を比較しながら特徴を教えていただけますか?
Aさん:そうですね、営業は「決められたゴールに向かって試行錯誤しながら、コツコツ積み重ねる仕事」。目標に向けて、1つ1つ売り上げを積み重ねていくようなイメージです。例えるなら、「ポケモン」に近いかもしれません(笑)。
辻:ポケモン……?
Aさん:あのゲームは、最終的にポケモンマスターになるというゴールを目指して、レベルに応じたジムバッジを1つ1つ集めていきますよね。レベルアップや強敵の出現などきつい部分もあるけど、好きな人にとってはそれも含めて楽しいというイメージです。
辻:バッジ集めがマイルストーンとなり、全てをクリアするころには目標を達成しているといったところでしょうか。では、マーケティングをゲームに例えると何ですか?
Aさん:シムシティですかね。マーケティングの本質的なやりがいは、「今は世の中にないが、潜在的にあるニーズをとらえて新しいものを生み出すこと」にあります。それは、何もない原っぱに街をつくりあげていく感覚に近い。世の中のニーズを把握して、自分でビジネスチャンスを見つけて、最適なソリューションをゼロから作りたい人には向いていると思います。
辻:積み上げで考える営業と、ゼロから作り出すマーケ。子供の頃、どちらのタイプのゲームに熱中したかで、職種の適性が分かるかもしれませんね。では、Aさんがマーケに異動したのは、やはりゼロからのものづくりに興味があったからでしょうか?
Aさん:そうです。マーケに興味を持った最初のきっかけは、うちの会社の日本支社から世界初の商品が生み出されたことでした。私もよく知る若手の営業社員が、自身が担当している商材に関して、「こういうものって作れないの?」とポロッと話したのですが、その声がマーケターの耳に入って実際に商品化され、世界初の商品として世界中の拠点で売られることになったんです。この話を聞いて、私も自分の手で新商品を生み出したいと思い、マーケティングへの異動願いを出しました。
責任範囲は「売りに関わるすべて」──マーケターが持つのは経営者の視点
辻:マーケティングは「街づくり」に近いとなると、その業務範囲は非常に広く思えるのですがいかがでしょうか?
Aさん:はい、マーケティングの仕事は「売りに関わる全ての行動に携わり、その内容に責任を持つこと」です。一つのブランドに数人のマーケターがつき、商品のコンセプト作りから値付け、販売まで一貫して担当します。自分で考えたコンセプトを形にし、値付けや売り方まで考えるのは面白いけど、あまりにも範囲が広いので正直めっちゃ大変です。
辻:数人のチームで上流から下流まで責任を持つとは、まるで会社の経営者みたいです。
Aさん:確かに、子会社経営みたいに見えますよね。1つのブランドの売上や利益までマネジメントしますし、製品戦略や販売戦略も私たちが考えますから。
辻:その戦略について、具体的に教えていただけますか?
Aさん:製品戦略は、例えば消費者の心に響くような商品パッケージ作り。同じ商材でも、ブランドによって「価格センシティビティが高い人向け」「エモーショナルな価値を大切にする人向け」「ブランド決めて購入する人向け」などターゲットが異なるから、表現の仕方も変わります。
20代のマーケターが50代のベテランを説得。NoをYesにするための泥臭すぎる社内調整
辻:マーケティング業務の幅広さが分かりましたが、マーケターが担う仕事が広すぎて捉えにくい印象も受けました。
Aさん:確かに、おっしゃる通りマーケターは売りのすべてに責任を持ちます。でも、すべての業務を担当するわけではなくて、他部署と一緒に仕事をしています。
辻:リーダーシップをとって、他の部署をマネジメントするということでしょうか?
Aさん:うーん、個人的にはマネジャーというより「旗振り役」のイメージです。あらゆる部署の人に業務をお願いして回っています。他部署との交渉や社内調整に苦労しなかったことはありませんね。時には親子ほど年の離れた50代のベテラン営業を説得することもありますから。
辻:それは大変そうだ……。Aさんが営業社員との折衝で意識していることは何ですか?
Aさん:営業が「やりたい」と思うような提案やビジョンを描くことです。例えば、10万円のスマートフォンをマーケターが50万円で売りたいとします。当然、相場観を知る営業からは、「高すぎて、売れないだろう」と開口一番に反対される可能性は高いです。
しかし、マーケターに求められる要素のひとつに、相手の「No」を「Yes」に変えていく能力があります。だからこそ、私たちは営業からのNoに挫けず、「ぜひ50万円で、その商品を売ってみたい!売れる!」と、前向きに思ってもらえるような提案やストーリーを考え、一緒に未来をつくっていくように働きかけています。
辻:非常に泥臭いですね! 多くの学生はマーケティングに華やかなイメージを抱いていると思います。
Aさん:商品の販売やCMの企画といった「アウトプット」は華やかに見えるかもしれませんが、世の中に公開するまでのプロセスはどれも泥臭いですよ。かく言う私も、学生時代には表面的な部分しか見れていなかったのですが……。
──後編へ続く
【執筆協力:川島洋人、スギモトアイ】
(Photo:Viktoriia Photographer/Shutterstock.com)
【代わりにOB訪問】
<外資コンサル>
・「戦略ファーム>総合ファーム」の嘘。総合系でも戦略案件に携われる?
・コンサルタントの半分が、3年以内にファームを辞める理由
<外資金融>
・外銀では、オンもオフも全力なヤツが頭ひとつ抜け出せる
<外資メーカー>
・華やかなる外資マーケターの泥臭すぎる社内調整
・日本に初進出してきた外資系企業への転職も。マーケターのセカンドキャリア