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激務に就く学生に届け。それでも「仕事は楽しい」と思える未来のために書いた、アサキヒロシからの手紙

手紙 激務 コラム
2023年2月20日(月) | 32,839 views

拝啓

大学生のアサキヒロシさま


こんにちは。ギリ「若手社会人」の部類に入る未来のアサキヒロシです。

これを書いているのは2020年1月1日だけど、僕は今日朝5時から出勤しています。

ちなみに社会人になってから年末年始の休みなどはありませんでした。

あなたはちょうど、お年玉を両手で握りしめ、祖父母との再会を喜び、テレビの格付け番組をゆっくりと見ているころでしょう。どうぞ、「映す価値なし」と言われて騒ぐ芸能人たちを堪能してください。それが、「休みなし」という判決が確定した君の執行猶予です。

<目次>
●激務に憧れた「過去の自分」に、この手紙を送ります
●朝4時、モーニングコールで上司に詰められる
●大人の叱責は、部活の比ではなかった
●コンビニのトイレで2時間寝落ち、大騒ぎに
●貯金は想像の3倍。接待とタクシー以外でお金を使うタイミングはない
●元カノの結婚をインスタで知り、絶望する
●仕事で命を断つ。「やりがい至上主義」が過熱した結末を、そんな悲劇にしたくない
●「仕事はやっぱり楽しいし、かっこいい」。未来のあなたがそう思える記事を届けます

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激務に憧れた「過去の自分」に、この手紙を送ります

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。アサキヒロシの2020年最初の記事を皆さんにお届けします。

就職活動、就職を控える学生さんの中には、激務の会社や職種を志望、就職する人もいるはず。だって仕事の規模は大きいし、裁量があって楽しいはずだし、給料も高いもんね。

そんな皆さんは、今年が最後のお正月になるかもしれません。

大晦日(おおみそか)も元旦もなく働いている人、あなたが思っている以上にいるんですよ。

学生だった僕も、「激務の会社に勤めたい」と思っていました。

そして、そんな会社、職種で今もご飯を食べています。

馬車馬のように毎日働き、お盆も葬式も結婚式も存在しない世界で働く僕も、正月は「どうして激務に憧れたのか」といつも以上に思う季節です。

もちろん、激務の中でも生き生きと働いている人もたくさんいます。社員のことを考え、労働環境を改善しようと頑張っている企業もたくさんある。でもその一方で、過酷な労働でつらい思いをする人がいるのも事実で、時には命を断ったというニュースも耳にします。

だから。「激務」の仕事を志望するなら、きちんと「激務」を理解し、覚悟した上で泥水すすって働いてほしい。部活動のノリで会社に入ってつぶれる人を二度と出したくない。

「激務」の仕事をしているアサキヒロシから、「激務の仕事」に憧れていた大学生のアサキヒロシへの手紙です。「人気だけど激務」と言われる仕事を志す方も、自分ごととして、この手紙の続きを読んでみてください。

朝4時、モーニングコールで上司に詰められる

さて、君は忙しい仕事に憧れを持っているね。親の仕事や見ていたドラマの影響から「呼び出される」ほど、社会に必要とされている重大な職責であると感じているものね。20歳を超えても真顔で「スパイダーマンになりたい」と話していたあなた。確かにヒーローは急に助けを求められ、華麗に解決し、多くの人に喜ばれるもんね。

「親友や奥さんが近くにいれば、あとは全て仕事に打ち込みたい。忙しいくらいがちょうどいい」。

そう思っているあなた。社会人をなめちゃいけないよ。忙しさは想像をはるかに超えていて、そもそも多忙で会えないから恋人も離れていくし、友人も意図せぬ転勤で会いづらくなる。激務を耐えられる条件であった「恋人や近しい友人の存在」は贅沢(ぜいたく)すぎる条件で、チートなんだ。

学生は「携帯電話の存在が不可欠」と言うけど、開発者を末代まで呪う労働者もたくさんいるんだ。君も朝の4時から電話でスピーカーフォンと聞き間違うレベルの怒鳴り声を聞き、着信音の幻聴が聞こえるようになると呪うようになるよ。「寝るだけの平日はつまらない」と言うけれど、大人は平日に寝られるだけでうれしいんだ。

大人の叱責は、部活の比ではなかった

転勤した君は聞いたこともない町で、知らない人から罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びて仕事をするんだ。君がどこに住みたいかなんて会社の誰も興味ない。携帯電話の電波すらおぼつかない土地に永住しろと言われた大人はたくさんいる。その中で、結婚相手を見つけたり、旧友と変わらぬ友情を結んだりすることは奇跡レベルで難しいんだ。旅行感覚で、「転勤をいっぱいしたい」なんて言ってはいけない。大人の叱責(しっせき)は部活とは比較にならないよ。

的確なお叱(しか)りもつらいけれど、もっとつらいのは、上司の腹の虫がおさまらないことによるサンドバックの怒り。「自分はメンタルが強い」なんて嘘(うそ)でも言ってはいけないよ。言っているだろうけどね。君が最も精神力が強いと思っている、ラグビー部でヒーローだったT先輩も社会のタックルにやられ、ストレスから円形脱毛症と対人恐怖症になり、今は家で引きこもっているよ。

コンビニのトイレで2時間寝落ち、大騒ぎに

大学みたいに眠ければ授業をサボって寝て、最悪単位を落とすなんてこともできない。「やれ」と言われた仕事は絶対で、約束を守れない人間への信用は本当にないよ。

社会人はルールを守れ、と言われた場合は、守らないと社会で生きていけないけど、逆に自分からその言葉を言うことはできないよ。土日だから休み、人事部が有給を消化しろというから休みになるわけではなく、書類上休みにして、いつも以上に働くのだよ。

君は「夜のバイトしてたし、サークルや課題でオールは日常茶飯事だったからいけるっしょ」と言うよね。仕事は学生のするそれとは異なり、難易度、プレッシャー、責任、社会的影響力が大きく違うんだ。きつければ休める授業やバイトと違い、仕事は休めないし、休んだら気持ちいいくらい評価が下がるんだ。

体力だけは自信があると言っていた君は、入社1カ月でセブン-イレブンのトイレで2時間寝て大騒ぎになるよ。世の中には法律があって、それを破らず生きてきた君だけど、会社という組織の中では、時にグレーゾーンや、上司がシロというから「シロ」になったクロの部分に片足どころか頭からつっこむんだよ。ビジネスにきれいごとはなくて、仁義なき汚い大人同士の戦いに挑むことになるんだ。大人は本音と建て前が大事というのは本当なんだよ。

やりがいがあるからきっと大丈夫。君はそう言うだろうね。社会にインパクトを与えて、新聞やテレビで派手に自分の仕事が紹介されて、女の子に「かっこいい~すごい!」と言われて、OB訪問で後輩から羨望(せんぼう)のまなざしを向けられたら、承認欲求が強い自分は大丈夫だと思ったんだよね。

でも、どんなにかっこいい仕事でも、他者の評価がやりがいの基準だと、1週間も持たないよ。やりたくないことをつらそうにしていると、他人の「すげえ」という声は喜びに変わらないどころか、雑音にさえ聞こえる。人に会うのが大好きで、毎日誰かと会話する仕事がしたいと話していた君は、たまの休みは誰とも一切口をきかないことが幸せに変わるよ。

貯金は想像の3倍。接待とタクシー以外でお金を使うタイミングはない

お金がもらえれば大丈夫。なお君は反論するんだろうね。お金は使わないとただの紙切れだよ。田舎に左遷されたら君の好きな最先端の服も、話題のデパ地下グルメも、わくわくするレジャー施設も、いくらお金を積んでもいけないよ。そもそも時間がないから、飛行機や新幹線が発達したって満足するほどは行けないさ。

さてここでようやくいいニュース。君の想像の3倍はお金がたまるよ。日々の忙しさでカード明細はコンビニだらけ、銀行口座を見るのは半年に1回。自分が失った若い大切な時間やプライスレスのはずの経験の対価が、たった数百万円の値札を張られるんだ。お金の使い道は、あまりの眠さからくるタクシーの多用、仕事の利害関係者に飯をおごって成果をつくることなどになり、ろくな金の使い方ができない。家族ができれば、今度はお金がどんどんなくなって嘆くんだ。この世はなんて恐ろしいんだろうね。

元カノの結婚をインスタで知り、絶望する

それでも僕は「何にでも興味関心があるから耐えられる」というね。時間がなくなると、すべて仕事のことしか考えられなくなるよ。

大好きな洋服も関心がなくなって、私服ですらスーツで過ごすようになる。だってストレスで髪がなくなってファッションがむなしく思えるんだ。部屋のインテリアを考えること? そもそも家に帰らなくなるから忘れるよ。かわいい女の子? 寝る時間のないやつに出会いなんてあるわけもない。性欲もなくなり、インスタで元カノの結婚を知って、昔を懐かしんで、自分の人生の選択肢のなさに絶望するんだ。

ここまでいうと、無理なら転職すればいいというのかな。転職する時間もなければ、面接に行く身体的自由など君には与えられないよ。

君が小馬鹿にしている、システマチックな仕事、ワークライフを突き詰める労働者がうらやましく思えるときがたくさんあるよ。仕事だけを徹底的にやることが正義だというのは君のエゴでかわいそうな価値観だ。私生活を充実させるために、お金を稼ぐ目的だけで仕事をしてもいいじゃないか。

そうはいっても、今もその価値観はあまり変わらず、相変わらず仕事に情熱とやりがいを求め、見いだそうとしているよ。そんな僕でもギリギリで、半分崖に落ちかかっているんだから、やっぱり人間らしい生活は大事だね。

やりがいある仕事、高い報酬、社会的ステイタス。美しいバラにはトゲがあるように、すべてそれらの利点以上を犠牲にして何かを得ているんだ。もっと普通の暮らしができたら、僕の人生はどう変わっていたんだろうと思う。君はその道を本当に進みますか?


大学生のころのアサキヒロシへ

社会人になったアサキヒロシからの忠告

敬具


仕事で命を断つ。「やりがい至上主義」が過熱した結末を、そんな悲劇にしたくない

これは僕が書いた手紙の抜粋だ。

自分が専門職をしているということもあり、分かりやすく、どの職種にも当てはまるであろう部分のみを挙げてみた。

最も厚く書いているメンタルや健康、体力部分は長すぎるため割愛したが、後日開設するSNSアカウントで適宜、発信したり、質問に答えたりしていく予定なので、ぜひチェックしてほしい。


今、「激務だ」と言われてきた業界に入社、志望する学生さん。

本当にそれでいいのですか? ダメだったらその時考えることもできるけど、キャリアはやり直しが難しい。仕事に情熱は必要だ。大きな仕事は楽しい。でも、誰にでもできるわけではないし、向き不向きもある。そのことを納得した上で、大きな仕事のためにすべてを捧(ささ)げようとする学生さんは、厳しさを感じながらも飲み込み、春からのエネルギーにしてください。

君はどうですか? 大きな会社、かっこいい仕事、巨大な職責に飲み込まれて、倒れ、社会から消え、時に命を断つ人も見てきました。恐ろしさを感じた方は、よく考え直してください。逃げることは恥ずかしいことじゃない。

怖さを感じて前に進む人も、別の道を探す人も、どちらもその選択肢を正しいものにできるよう未来に進んでほしいと思います。

長時間労働をずっと経験してきた僕も、いくら「アサキヒロシ」として記事を書くのが好きでも、気合の入った文章を学生さんに書き続けるのは楽ではない。この文章を書かずに寝ればいいのに、と我ながら思う。

それでもなぜ書くのか。

仕事に殺される人を減らす、さらに細かく言うと、仕事のやりがいや面白みを伝えつつも、仕事で壊れる未来に行こうとする学生を減らすのが「アサキヒロシ」の数あるテーマの1つだから。若くして激務で命を断った人の墓前で誓いました。

そして、今年はそれを主題にしていきたいからだ。2019年、いまだに仕事を苦にして壊れる若手もいたし、僕も楽しいがゆえに「おもしろい記事」「学べる失敗談の記事」を中心に書いてきたが、ある意味逃げだったとも思う。2020年、「仕事はつらい」という考えが残る現代社会への反撃ののろしを、この記事にするつもりです。

「仕事はやっぱり楽しいし、かっこいい」。未来のあなたがそう思える記事を届けます

アサキヒロシに何が語れるのか、おまえはどんな人間なのか、そもそも何の仕事をしているのか、今まで隠してきました。身バレは怖いし、いろんな記事を訳知り顔で書けるから。

でも、やめます。出せるプロフィールは出して、学生さん、若手の社会人の役に少しでも役に立ちたいと思います。ワンキャリアに出稿して、今年で3年目。このワンキャリアも編集長が変わって記事やライターも大きく変わり、社会のキャリアに関する視線、配慮、苦労も変わってきたと、HR業界の末席中の末席を汚すものとして少なからず感じています。アサキヒロシも変わります。

秘密の酒場での人事やエリートサラリーマンの裏話、過酷な企業で働く社員の裏側、そして大人たちのふとした自省や嘆き。これに加えて、過熱する「やりがい至上主義」に少し水を掛けることになろうとも、若い人が仕事にすべてを壊されない記事を今年も書いていきます。とはいえ、仕事はやっぱり大事なもので楽しいし、かっこいいものです。それも忘れずこれまで通りお届けします。

これは現在のアサキヒロシから読者の皆さんへの手紙でした。

今の第一志望の内定よりも、振り返っても第一志望と言える内定を取ってほしい。

就活ではなく、キャリア選び、社会人のスタートの切り方のアドバイスを目指します。

今年もよろしくお願いします。

令和2年、あなたの人生が大きくかわる元年です。


元日でも騒がしいオフィスでひっそりキーボードをたたきながら

アサキヒロシ

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(Photo:New Anawach , WHYFRAME, BalenkoPhotography, Dean Drobot , ESB Professional , Roman Samborskyi/Shutterstock.com)

※こちらは2020年2月に公開された記事の再掲です。

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アサキヒロシ
(元)大学生バーテンダー
アサキヒロシ

ワンキャリ執筆3年目。学生時代は政治家、経営者、芸能人が夜な夜な足を運ぶ会員制バーに勤務し、仕入れた業界裏話をリポート。有名企業から多々お祈りされるものの、その情報量から某週刊誌にスカウトされた経験有り。人事や経営者、エリートサラリーマンの酔いからこぼれる本音や苦悩、内輪話などの「リアル」を伝える。現在はメディア系企業で勤務しており、業務内容はまさしく「アウトレイジ」かつ「クレイジージャーニー」。「ブラック企業」の実態、有名企業やハードワーカーなど「勝ち組」の悲哀、失敗談を守備範囲とする。ことしは就活生向けに労働災害、「やりがい至上主義」に関する記事を執筆するのがテーマ。

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