多くの学生の就職活動がひととおり終了しつつある、今日この頃。
(今もがんばり続けている人は、もうひと踏ん張りです!)
後輩たちからもらうメッセージは「ESの添削のお願い」や「面接対策のアドバイス」から「内定報告」に変わり、最近はついに「内定ブルー」に関するものに変わっていった。
<内定ブルーとは>
就職活動で企業から内定を得た学生が、内定を受諾したものの本当にその会社に就職してよいのか、その会社で活躍できるのかと不安に思い、気分が沈む状態を指す言葉。
結婚前の花嫁の、漠然とした不安感を指す「マリッジブルー」になぞらえて、内定ブルーと呼ばれている。
※引用:en人事のミカタ「人事労務Q&A」
確かに学生にとって「内定を承諾する」ということは、今までの人生で経験した部活動やアルバイトのように簡単に決めたり、辞められたりするものでもない。さらに、結婚や子育てと同じレベルの重大な選択を初めてする機会だろう。
迷うのは当然だし、自分自身も迷った。
そして、内定ブルーになった学生の中には、現在の内定先を辞退して、新たに夏・秋採用に応募したり、次年度の就職活動に向けて活動したりする人が意外と多くいる。
「こうすればいいよ!」という画一化したアドバイスはできないが、僕の周囲で皆さんと同じように内定ブルーに悩んだ先輩、同級生、後輩を紹介し、彼ら彼女らが何を基準にどんな会社を選んだのかをお伝えしたい。
<目次>
●パターン1:興味や関心が広すぎて不安になり、むやみに受けまくる
●パターン2:イメージだけで会社を決めてしまい、仕切り直し
●パターン3:やりたいことができるか迷って「再出発」
●パターン4(箸休め):例外パターン
パターン1:興味や関心が広すぎて不安になり、むやみに受けまくる
広告代理店→音楽系事業会社
クリエイティブな仕事をしたいと思い、広告代理店や芸能事務所、映画会社などを受験した彼は広告代理店に内定をもらうも、周囲から「激務じゃない? 大丈夫?」、「そんなに広告好きだっけ? 好きなものを仕事にするとつらいよ」「代理店って、別にクリエイティブじゃなくね」などと言われて、悩み始める。
面接を受けているときは、考える余地もないほど志望度が高かったが、周りの話を聞くにつれて自信がなくなり、何だか違うような気がした結果、「そういえば音楽も好きだしカッコいいな。テレビもクリエイター気質だよな」と迷走。こっそり就職活動を続行し、音楽系事業会社の夏採用に合格。しかし、選択肢が増えたことで、さらに悩み始める。
それにもかかわらず「決められないから明日考えよう」と、遊びの予定を優先して決断を後回しにしていると、あっという間に内定式まで2週間を切ってしまった。迷った結果、最終的には、自分の恋愛のモットーである「2人の人を好きになったら、後から好きになった人を選ぶ。最初の人が本当に好きなら、2人目の好きな人などできないから」という論理に半ば強引に当てはめて、音楽系会社に就職した。
彼は今、この選択でよかったと思っているのか、はたまた後悔しているのか分からないが、内定ブルーの人は、このように「新たに受け直した会社」を最終的に選ぶことが多い印象だ。
パターン2:イメージだけで会社を決めてしまい、仕切り直し
大手電機メーカー→中堅半導体商社
彼はモノづくりに関心があり、電機メーカー、半導体、部品などのメーカーを受験し、最大手の電機メーカーに見事内定をもらうことに成功。
そんな彼だが、ある日、卒業旅行の下調べをしようと学内のラウンジに向かうと、電鉄会社に内定をもらっていたはずの友人に再会する。
いまだにリクルートスーツを着ている理由を聞いたところ、「内定者イベントで職場見学をしたらイメージが違ったから、就活やり直していて……」と言われたことに驚き、「うちの会社は大丈夫かな……」と不安になる。
その結果、内定を持っていることを隠し、主に3年生向けに開かれていた他社電機メーカーのインターンに参加し、実際に業界の仕事などを体験した。そこで、自分は商品企画やマーケティングよりも営業に関心があるということに気付くも、内定先では、営業業務の担当は全てグループ会社の社員に一任していることから「このままやってもいつか後悔する」と内定を辞退。中堅半導体商社を受け直して入社した。
周囲からは「大手に行って『違う』と思ったら転職すればいいのに……」と言われたことで、自分の選択に不安を感じつつ働き始めるも、メキメキ成績を伸ばして3年後には拠点のリーダーにまで出世する。彼は「この選択をしてよかった」と言いつつも、「インターンに行っていれば、もっと早くやりたいことに気付くことができたのに」と反省しているという。
インターンで実際の業務に近いプログラムを経験したり、社員と座談会をしたりするのはミスマッチを防ぐには一番だ。おすすめはオフィス見学。筆者は血がにじんだ竹刀や、アート作品にように拳の跡が大量に付いた机を見たことがあるが、やはり数年後に警察のお世話になっていた会社だった。
パターン3:やりたいことができるか迷って「再出発」
大手飲料メーカー→広告制作ベンチャー
彼女は高校時代から熱烈な広告代理店志望。宣伝会議を読みあさり、学内の広告研究会や動画制作サークルに所属。歴代彼氏の多くも広告マンと行った具合で「広告代理店に入るために全てを懸けた女」だった。
しかし現実は厳しく、知名度が高い広告代理店には全て撃沈。ネット広告のベンチャー企業を受けるか迷うも「私がやりたいのは、あくまでマスメディアの広告!」と再確認し、ネット広告のベンチャー企業は受けず、メーカーの広報部や宣伝部を目指すことにする。
多くのメーカーでは、特定の職種を熱烈に志望すると落ちるという話を聞いたこともあり、面接では「営業や商品企画など幅広い仕事に関心があります。あっ、そういえば広報や宣伝にも、実は少し興味があります」といったように、自分らしさをあまり出さずに面接をこなし、大手飲料メーカーに入社。
「大企業では最初からやりたいことができなくて当然。10年かかってもいいから広報や宣伝部に行ってみせる」と覚悟を決めて内定者懇談会に行くと、人事部の社員が「正直なところ、大学とか初期配属とかで大体その人のキャリアプランって決まるんだよね。どんな仕事も自分の力につながるし、もう大人なんだから『絶対にこれをやりたい!』っていう姿勢はあんまり持たないほうがいいよ」と話した姿にショックを受ける。
さらにその後、広告業界に進んだ先輩に相談しようと先輩の自宅に行くと、業界関連の雑誌や専門書であふれる本棚を発見。先輩の「この業界には仕事が好きで、なおかつ優秀な人が多いから、私が1日でもサボると勝てっこないんだよね」との言葉に衝撃を受ける。
「会社人生で2〜3年しかいれないような宣伝部や広報部に関わろうと、10年近く希望していない部署にいる間に、ライバルたちにどんどん人生の満足度や、業界での立ち位置で負ける」と思い、すぐに内定を辞退。設立3年目の広告制作ベンチャー企業を受け直して入社した。
彼女の親や親戚、友達は大反対したが「私の人生だし、私を信じる」と宣言。この記事を書くために彼女に久しぶりに連絡をしてみると、「やりたいことが分かっていることは、当たり前ではなく、とても幸運なことだと思う。不安もあったけど、本当にこの道に進んでよかったし、やりたいことを心の中で押し殺す後輩が増えないでほしい」とのこと。
外資系消費財メーカー→中堅出版社
彼は小さいころから抜群に数学が得意で、ゼミでマーケティングをやったところ面白さに気付き、漠然とマーケティング職で採用をする企業に応募し、外資系消費財メーカーに内定。
就職活動直後の夏、最も敬愛していたおじが若くして亡くなったことをきっかけに、「人生は予想できず、短くして終えるかもしれない。自分は今死んでも人生に満足できるだろうか」と思い始める。
彼は就職活動を振り返り、「自分の得意なことで仕事を探してきたが、やりたいことでは選んでなかった」と気付いた。その後、孫正義さんの講演会参加をきっかけに「後悔しないためには、何を仕事にすべきか」を考え始める。
よくよく考えると、小さいころから児童文学が好きだったが、文章を編集する能力があるのかも分からず、周りに編集者もおらず、目指そうとも思っていなかったことに気付く。彼は迷いながらも、内定先を辞退して「就活留年」を選択し、翌年に中堅出版社に入社した。
出版社では誰もが編集者を希望するも、新人はほぼ営業を担当し、成果を残した人間が編集者に昇格するという仕組みが多いという。彼は持ち前のマーケティングスキルを生かして、書店での営業でも結果を出し、もう少しで編集者としてデビューするという。
「僕は編集者として能力があるかは分からないけど、少なくとも本が好きだから、営業も頑張れたし、編集も頑張れると思う。でも、マーケティングは得意なだけだから、すぐに成長は止まっていただろう。外資系のマーケティング職であれば、能力があるのが当たり前で、その上で業務が好きな人だけが上に行くはず。自分が入社していたとしても、今頃くすぶっているか、『出版社に行きたかったな』とやさぐれていたのではないか」
2人とも「自分のやりたいことは何か」を考え直して再出発したパターンで、この悩みから内定ブルーになる人は非常に多い。
このような場合は、業務内容、待遇、勤務地、転勤などのさまざまな条件と照らし合わせて考えたほうがいいが、内定式前にバタバタと決めるのはリスクが高いので、ぜひ「自分にとって何が重要なのか」を常に考えながら就職活動をしていってほしい。
パターン4(箸休め):例外パターン
大手広告代理店→バンドマン
大学時代には軽音サークルに所属して、インディーズデビュー。ミュージックビデオ制作や物販の販売戦略までこなすなど精力的に活動。
大学は2年留年し、誰もが「そのままバンドを続ける」と思っていたところ、本人は「このバンドの名前を広めてくる」という謎の理由で広告代理店の面接に行き、なぜか合格してしまった。
思いもよらない結果に本人も「行きたくても皆が行ける会社ではないし、初めて得た『エリート的な肩書』。ここらへんで区切りをつけて、サラリーマンをやってみようかな」と周囲に話すも、「やっぱり絶対、後悔する!」と内定辞退。受験も内定も辞退も、全てが謎に包まれたこのエピソードは彼の母校で今も伝説になっている。
ここまでは連続で「やりたいことに気付き、最後は自分の気持ちに正直になった人」を紹介してきたが、そんなにうまくいかないのが人生だ。後編では、反対に「やりたいことからそうでもないこと」をあえて選択した学生たちを紹介していこう。
(後編へ続く)
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(Photo:alphaspirit , tomertu , Dumitru Ochievschi/Shutterstock.com)
※こちらは2019年8月に公開された記事の再掲です。