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BCGで手に入れた、誰かのビジョンを形にする力。NewsPicks野村高文が考える「新卒・畳み人」という選択

コンサル コロナ時代のコンサル就活 インタビュー IT 日系
2022年6月9日(木) | 18,287 views

ビジネスの世界で活躍する人間は2種類に分けられるという。

一つは、ビジョンや理想を掲げ、アイデアをどんどん出す「大風呂敷を広げる」人間。その発想は時に世間を驚かせ、新たなサービスの源流となる。

もう一つは、そのアイデアを着実に実行へと移す人間だ。この「風呂敷を畳む」人材がいなければ、どんなビジョンも形になることはなく、世界を動かすこともない。

この「畳み人」の価値や必要な能力を発信しているのが、NewsPicksエディター・音声事業プロデューサーの野村高文氏だ。幻冬舎「あたらしい経済」編集長の設楽悠介氏とビジネスユニット「風呂敷 畳み人」を組み、2人がパーソナリティーを務める音声番組はVoicyの人気番組になっている。

野村氏はニューズピックスに入る前、ボストン コンサルティング グループ(BCG)で働いていた。「BCGの在籍期間は短かったことを前提に聞いてほしい」としつつも、「コンサルタントは、最初は畳み人」と語ってくれた。

ワンキャリアがお届けする特集「コロナ時代のコンサル就活」。今回は野村氏のキャリアから新卒でコンサルタントという「畳み人」を選ぶ意味について考える。

新卒のコンサルタントは「畳み人」の仕事が求められる

──野村さんはBCG出身で、現在は「風呂敷 畳み人」というビジネスユニットを組んでいらっしゃいます。そこで、まずお聞きしたいのは、コンサルタントは「畳み人」か「広げ人」か、という問いです。戦略を考えるのは「広げ人」の仕事という気もしますが……。


野村:どちらの要素もありますが、最初は畳み人だと思います。

野村 高文(のむら たかふみ):NewsPicks編集者、音声事業プロデューサー。
新卒でPHP研究所に入社し、雑誌編集などを担当し、ボストン コンサルティング グループ(BCG)に転職。2015年にニューズピックスに入社した後は、NewsPicksアカデミアのマネージャーを務め、現職。幻冬舎の設楽悠介氏とビジネスユニット「風呂敷 畳み人」を組み、Voicyで音声番組「風呂敷『畳み人』ラジオ」の配信などに取り組む(所属部署はインタビュー当時のものです)


コンサルはパートナー、プロジェクトリーダー、アソシエイトでやることが全然違います。新卒だったら基本的にアソシエイトからスタートするので、すでに目標が決まっているプロジェクトに対して、自分がどう価値を発揮できるか、考えることが求められます。


──役職によって、畳み人にも広げ人にもなり得るということでしょうか。


野村:はい。まず、クライアントとプロジェクトの目標やスコープ(範囲)を決めるのが、パートナーです。それをチームとして差配するのがプロジェクトリーダーで、アソシエイトはチームの一員として現場で働きます。

例えば、クライアントが悩んでいる事業の組織課題を解決するプロジェクトがあったとしましょう。

アソシエイトに来る仕事は「課題を解決するために、この情報を調べて」といった具体的な内容が多いです。これがプロジェクトリーダーになると「この組織のどこに課題があるのか」を考えることが仕事になります。

さらにパートナーになると、「この事業、なんか調子悪いけどどうしたらいい?」というクライアントのオーダーに答えることが役割になります。つまり、課題が「組織」にあるかどうかも分かっていない状況で、イシューを見つけないといけない。どんどん課題が抽象的になる問いに対して仮説を立てないといけないので、広げ人的なスキルが必要なんです。


──アソシエイトがキャリアアップするには、何が必要なのでしょうか。


野村:まずは、言われたことをきっちりやる。ですが、それはマニュアル的に仕事をやればいい、という話ではありません。

オーダーが上から来るといっても、「○○の情報を集めて」という抽象的な内容がほとんどです。最初は何をしていいか分からないので、一つ上の先輩に「この事例について、これくらいの深さで調べようと思いますが、合っていますか」「この半日でのゴールは何ですか」と自分で聞き、これからやろうとしていることと、上の人の期待していることが合致しているか、すり合わせていく必要があります。


──方向性が決まっていている中で、良い形で実現するために自ら考えて動く。この点が、畳み人の仕事だと思う理由ですか。


野村:付け加えると、事業をより良い形にするため「もっと、こうなんじゃないですか」と軌道修正するのも、畳み人の仕事です。最初に立てた仮説が間違っている可能性もあるので、「やってみましたが、実は原因はこっちなんじゃないですか」と提案できるのはいい若手です。


──事業を進める上での右腕的存在が畳み人であり、良いアソシエイトなんですね。

「広げ人」なら新卒で起業もあり。コンサルは「耐えられたら」の条件付き

──これまでのお話を踏まえると、新卒でコンサルに入るなら「自分は畳み人が向いている」と思っている人の方がいいのでしょうか。


野村:短期間でワーク(機能)するのは、実行が得意な畳み人のタイプですね。でも、広げ人的な人が耐えられるなら、入社する価値はすごくあります。


──耐える、ですか?


野村:最初は数人のプロジェクトメンバーの中で、価値を発揮しないと話になりません。広げ人のビジョナリー(先見的)な部分が魅力的なのは分かりますが、基礎的なことを一歩一歩できることの方が求められるのです。

もしそれができる広げ人になれたら、ものすごく価値になると思います。


──耐えられそうにない広げ人は、別の道を探した方がいい、と。


野村:もし耐えられそうにないなら、起業するか、裁量が大きい企業に就職した方が良いと思います。

コンサルはチームプレーです。一人ではできない価値を集団で出すのが、コンサルタントの仕事です。広げ人的な人は、基礎を身に付ける時期と捉えてコンサルに入社するか、リスクをしょってでも早く起業するのかが良いと思います。

あとは広げ人・畳み人のタイプに関わらず、精神的にハードな現場が多いので、メンタルタフネスな人が向いています(笑)。


──確かにコンサル業界はハードワークなイメージがあります。


野村:人の2倍働くと思っていた方が良いです。ただ、常に日光を浴びて光合成をしているようなもので、そこでやりきれたら人の2倍育ちます。最近は「ニューズピックス、忙しそうですね」とよく知り合いに言われるのですが、あのころよりは全然ましだと思えているので(笑)。

20代後半でBCGに転職。編集者が内定を獲得できた理由は逆質問?

──野村さんは、なぜ出版社からそこまでハードなコンサル業界に転職されたのですか。


野村:仕事はとても楽しかったけれど、このままだとキャリアが頭打ちになるという危機感からでした。

学生時代はメディアの仕事がしたくて、就活ではコンサルや商社のような今の学生に人気の企業は受けていませんでした。そして、PHP研究所という出版社から内定をもらい、雑誌の編集者になりました。仕事自体は面白くて「向いているな」と思っていました。

一方で、出版業界全体でみると市場が急速にシュリンク(収縮)していました。実際に携わっていた雑誌も売れなくなっていくのを見て、「もっとビジネスのことを知らないといけない」と思いました。ビジネスを学べる場所がどこかを考え、コンサルへの転職活動を始めました。今考えると、短絡的ですよね(笑)。


──未経験からコンサルに転職するために、どんなことをしたのですか。


野村:コンサル業界で有名な企業から順番に問い合わせ窓口へ書類を送ってみました。そうしたら2つだけ面接に呼んでくれた会社があって。1社は1次面接で落ちてしまったのですが、もう1社のBCGだけが未経験の私に内定をくれたんです。

でも、面接の場では、正直大したことは言えませんでした。そりゃそうですよね、ビジネスの経験なんてゼロなんですから(笑)。ただ、「最後に質問はありますか?」と聞かれ、根ほり葉ほり面接官の方にコンサルの仕事を伺った覚えがあります。

編集者をしていたので、「聞くこと」に関してはプロという自覚があったんです。とにかく自分の好奇心に従い、取材をするつもりで面接官に逆質問をしました。今考えると「よく付き合ってくれたな」と思うのですが、逆質問だけで1時間使ったこともありました。


──逆質問はコンサルでいう「顧客ヒアリング」に近いので、BCGも採用するイメージが持てたのかもしれませんね。


野村:分かりませんが、もしかしたらここまで根掘り葉掘り聞いてくる人は、単純にレアだったのかもしれません(笑)。

「これ、面白いんです」。ロジックにはない喜びをニューズピックスが思い出させてくれた

──BCGでは、どんなスキルが身に付いたと思いますか。


野村:畳み人の根幹にある「プロマネ能力」は身に付きました。

私は20代後半の中途採用ということで、一番下のアソシエイトの次にあたるシニアアソシエイトという階層でした。携わった業界は幅広かったのですが、印象的なプロジェクトに、あるプロダクトを作りたいクライアントのプロジェクトマネジメントをするものがありました。


──プロジェクトマネジメントとは、具体的にどんなことをするのでしょうか。


野村:いろいろな職種の人がプロジェクトに参加する中で、工数を見積もり、スケジュールを引き、遅延しそうな人があったら前もって声をかけたり、腑(ふ)に落ちていない人がいたら個別に声をかけたり……と、なんでもやる仕事です。プロジェクトの進め方を肌で感じることができたのは非常に勉強になりました。IT企業では当たり前にやっていることかもしれませんが、紙の編集者としてこのような経験はなかったので。

また所属時には、「今の環境で自分は何で貢献できるのか」を徹底的に考えるビジネスマインドも、身に付けることができました。

例えば、外国人と一緒に動くプロジェクトだと、私は英語がそこまで得意ではないので、議論ではなかなか貢献できません。しかし、データ分析やモデリングなど、できることで貢献する。自分にとっては普通の分析でも、他の国のメンバーからは「君の分析は精密だ」と言われたこともあります。チームの中で相対的に自分が得意なことは何か、今一番価値を発揮できることは何かと考えられるようになりました。


──そこからニューズピックスに転職をされたのはどうしてでしょうか。BCGに在籍し続けてキャリアアップする選択肢もあったと思いますが……。


野村:決してコンサルとして一流になれたわけではなく、むしろドロップアウトしてしまったのですが、ひととおりの業務を経験した中で、少しずつカルチャー的な違和感も出てきて。

コンサル業界ではすべての発言に対してロジックが求められるように、私の目からは見えました。一方で、編集者のころはロジックよりも、作家の人との酒の席で企画が決まる経験をたくさんしてきたんです(笑)。編集長に企画を通すときも、「これ、面白いんですよ」と言うだけだった。ロジックよりも面白そうに話しているかという情熱が意思決定を左右するんです。


──「So What?」と意味を求められるコンサルのカルチャーとは、真逆ですね。


野村:コンサルとしては極めて正しいやり方だと思うのですが、打ち合わせでは、「ちょっと息苦しいな」と思うこともありました。実力不足を棚に上げて言えば、理論構築が自分の中でできていないと、発言できないように感じていたのです。

そんなとき、当時立ち上がったばかりのNewsPicksの編集長だった佐々木紀彦(現・ニューズピックス取締役、NewsPicks Studios代表取締役社長CEO)ら、ニューズピックスのメンバーに飲みに誘っていただいて。その時になぜか、初対面の著者の方もいらっしゃったのですが、佐々木さんらが著者の方と「面白いですね! それちょっと書いてみませんか?」みたいな会話をしていたんですよ。

そのときに思い出したんです。「ああ、これだわ」と。


──酒の席で企画が決まる喜びを(笑)。


野村:そのときに、自分はこっちの方が向いていると思ったんです。その後、佐々木さんから「良かったらうちに来ませんか?」と言ってもらって。BCGではやっと育成フェーズが終わったところだったので「申し訳ないな」と思いつつ、転職を決めました。ちなみに飲み会に著者の方がいらっしゃったのは、単に佐々木さんがダブルブッキングをしただけだったようですが、人生、何がどのように転ぶか分からないものです。

「80点は出せるけど、100点は出せない」という危機感

──「畳み人」という言葉も、ニューズピックスに転職されてから生まれましたよね。


野村:NewsPicksアカデミア(※)の立ち上げのころですね。佐々木さんと幻冬舎編集者の箕輪厚介さんが出すアイデアを実行に落とし込んでいたのが、私と幻冬舎の設楽さんでした。そのとき、箕輪さんが同僚の設楽さんを「僕の大風呂敷を畳んでくれる、畳み人ですよ」と言ったんです。

(※)ニューズピックスと幻冬舎が協業で立ち上げたビジネスパーソン向けの会員制サービス。動画やイベント、オンラインコミュニティへの参加を通した学びを提供している。


──佐々木さんや箕輪さんが広げた大風呂敷を、畳むのが野村さんたちだった、と。


野村:あの2人は圧倒的にビジョナリーで、面白いんですよね。その発散したアイデアを、実働する現場の人が動きやすい仕組みをつくる、地ならしをするのが畳み人です。


──具体的にどんなことをやったのですか。


野村:とにかく何でもやりました。箕輪さんから「何か一緒にやりませんか?」と持ちかけられた、形もないころから携わらせてもらいましたので。結果的にイベントの企画、モデレーター、本のライティング、動画コンテンツの企画も経験しました。その上で、チームのマネジメントや会員をグロース(急成長)する方法などビジネス面も見ていました。他にもコミュニティを手伝ってくれるボランティアスタッフを募集し、自分がいなくても回る体制づくりを進め……。


──すごい。本当に何でもですね……。


野村:大変なことも多かったですが、新卒での編集者としての経験と、コンサル時代に学んだプロマネ力、そして「この集団で自分は価値を出すんだ」というマインドセットを常に持っていたからこそ、やりきれたと思っています。


──現在はアカデミアを離れ、エディター・音声事業プロデューサーという肩書です。


野村:サービスの立ち上げから全体のマネジメントまでひととおりやりましたが、「何でもできる」って「何にもできない」のと同じで、個々の業務でみると自分より得意な人はいっぱいいると思ったんです。どれも80点は出せたけど、100点は出せないみたいな。そこで、改めてコンテンツを突き詰めたいと考え、新たなフィールドとして「テキスト+音声」の表現に挑戦することにしました。

就活生はまだ畳み人でも広げ人でもない。貢献できる価値を考えよう

──野村さんから見て、コンサル業界で活躍する人の特徴はありますか?


野村:活躍している人は、成果に対するこだわりが圧倒的に強いですね。成果を出すまで時間を惜しまずにコミットするバイタリティがある人がいます。


──これからコンサルに入る学生たちにアドバイスするとしたら何を伝えますか?


野村:「あなたは何ができる?」と聞かれたときに、「◯◯ができます」と明確に言える状態になることを目指してほしいです。エクセルの分析が得意とか、デザインができるとか、プロジェクトの管理が得意とか何でも良いです。人間関係も業種も全く違うところに転職したときに、「自分が何で貢献できるか」が明確になっていたら、コミュニケーションがしやすくなるので。それが分からなかったら、受け入れた企業も困りますよね。


──最後に、就活生へのメッセージをお願いします。


野村:就活をしている段階と、会社に入ってからの段階で2つあります。

まず就活中は、業種にこだわらず、「話を聞いてみたいな」と思う企業があったらぜひエントリーしてみてほしいです。今振り返ってみると、21歳時点で見えている世界は思った以上に狭いなと。当たり前なのですが、意識して多様な世界を見た方が面白いと思います。

会社に入ってからの話だと、最初は貢献できることをひたすらやった方が良いです。望まぬ配属になるかもしれないですし、やりたくない仕事をふられるかもしれないけど、「この集団の中で自分はどう価値を発揮できるか」をひたすら考えてみてほしい。その積み重ねによって、全体が見えるようになったり、次の一歩になったりすると思っています。


──まずは畳み人的な動きをした方が次につながる、と。


野村:前提として、畳み人と広げ人に優劣はありません。持っている理想を実現したいなら、広げ人の仕事を増やしていかないといけないですし、「ビジョナリーな人の世界を実現するために力を尽くしたい」と思うなら、畳み人を極めればいいと思います。

その上で、会社に入ったばかりのころは、畳み人でも広げ人でもない状態です。会社も営利組織なので、まずは畳み人的な方向を目指した方ができることは多くなりますし、信頼されやすいです。成果を出している人がたまにわがままを言ったりすると、聞いてもらえます(笑)。

それを全部すっ飛ばしたい人は起業したほうが良くて。リスクと引き換えになりますが、そのトレードオフも含めて理解し、就活生の皆さんにはいろんな選択肢を考えてもらえるとうれしいです。

【特集:コロナ時代のコンサル就活】
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【取材、編集:吉川翔大/撮影:保田敬介】

※こちらは2020年6月に公開された記事の再掲です。

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庄司智昭
編集者
庄司智昭

大学時代に、被災地にメディアを立ち上げるプロジェクト「大槌みらい新聞」、ハフポスト日本版でインターンを経験。卒業後は、アイティメディア株式会社と株式会社am.で編集記者を担当する。2017年12月からは株式会社inquireとシビレ株式会社に所属。関心のある領域は、ローカルとテクノロジー。夢は、情報発信を通して"挑戦する人"を後押しすること。
・Facebook:https://www.facebook.com/yamukun

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