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官僚とコンサル、ファーストキャリアでどちらを選ぶ?BCG出身のキャリア官僚 片岡修平と考える

公務員 コロナ時代のコンサル就活 インタビュー コンサル 外資系
2022年6月16日(木) | 26,750 views

ボストン コンサルティング グループ(BCG)に新卒で入り、現在はキャリア官僚として働く片岡修平さん。前編では、アフターコロナの時代に官僚とコンサルはどのような役割を果たし、どのようなキャリアを歩むべきかについて、話を聞いた。

後編で考えたのは「官僚かコンサル、ファーストキャリアではどちらを選ぶべきか」というテーマ。人材育成の方針の違いから、向いている人・向いていない人などを聞いた。

▼前編はこちら

・官僚「冬」の時代、BCG出身・片岡修平が見る霞が関。官民コラボで切り開く、アフターコロナのキャリアパス

留学システムと昇進の確かさは、リターンを「長期」で待つ役所ならでは

──後編では、個人のキャリアの視点から、官僚とコンサルの違いをお聞きできればと思います。官僚は「下積みが長い」、コンサルは「短期でスキルが身に付く」と対極のイメージがあります。


片岡:「どこをゴールに見据えるのか」の違いだと思います。

BCGでは、私が持ってきた50枚のスライドにマネージャーがめちゃくちゃ赤ペンで直しを入れていました。これが木曜日の夜で、それを火曜日の朝までに修正しなければいけない。どう考えても土日を全部使わないと間に合わない。こういう場面は日常茶飯事でした。

でも、そうやって怒ってもらえるうちは花です。マネージャーが自分で巻き取った方が早いのに、指導するのは「こいつを戦力にしないと」という思いがあるから。成長環境という意味では、コンサルはそういった温かさもあったと思います。

片岡 修平(かたおか しゅうへい):京都大学農学部卒業後、2007年に新卒でボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。プライベート・エクイティ・ファンドの投資主担当を経て、経験者採用で2012年にキャリア官僚へ転身。財務省、農林水産省、内閣官房で働き方改革、フィンテック支援などを担当した。現在は英国日本大使館1等書記官としてロンドンで働く。(写真は本人提供)


ただ、「入社してから、意思決定をできるポジションにどれくらいの人が残れるか」という点にも注目してほしいです。


──「外資系ファームは『スター』を作る。それ以外の人は去っていく」と語った人もいました。


片岡:外資系に限らずですが、コンサルはおおむね3年ごとに昇進していき、入社13~14年目くらいでジュニアパートナーになり、シニアパートナーになるのは17年目くらいが一般的なイメージです。同期の仲は良いですが、6年目以降は昇進速度に差が出ますし、担当する産業分野もおのずと過去経験のある得意分野に絞られていきます。

一方で、官僚は入ってすぐに大型案件を手伝いながら足腰を鍛え、その後は地方・他省庁への出向・海外留学など、自分が入った省庁以外でも多様な経験を積みます。8年目(経験者採用だと3年目)には課長補佐級となり、意思決定に関わるペーパーを描き、どんどん上の人に話していく仕事が増えます。18年目には企画官・室長級、23年目には課長級(民間企業の部長・執行役員級)へと昇進していき、政策企画の立案・執行についての意思決定に高い水準で関わっていきます。同期の昇進速度は同じで、就くポストの職務内容で差が出るイメージです。


──昇進のスピードと確率に違いがあるのですね。


片岡:昇進のスピードで比べるとコンサルの方が早いですが、17年目になるまでにほとんどの人は辞めています。3年たつと半分になり、もう3年たつとさらに半減するというのを繰り返していく。17年目のゴールに達するのは、同期十数名×2世代のうち1人、数十分の1くらいというイメージです。

もちろん、皆さんとても優秀なので後ろ向きな転職ではありませんでした。私の同期だと1人パートナーがいるほか、起業家4人(うち1人は上場企業)、PEファンド2人、VC1人、ベンチャー取締役/執行役員4人、外資系製造業マーケティング2人、他外資系コンサル米国オフィス1人、など多彩です。

一方で、官僚はコンサルのように辞める人は少なく、同期のほぼ全員が高い水準で意思決定できる立場になれます。


──裁量を持てる立場になりやすいのは、官僚の方とも考えられますね。


片岡:役所を辞める人が増えているとはいっても、25人中3人も辞めるともう大騒ぎになるくらいなので(笑)。一般企業と比べれば、まだまだ絶対数は少ないです。

また、本人の努力次第ですが、留学や在外公館や国際機関などでの海外勤務のチャンスがかなり大きいのも官僚の強みです。将来長く勤めるからこそ、人材に豊富に投資してくれる。これだけ人を育てることにお金と時間を費やすことができている組織はなかなかないと思います。

コロナ危機以降、金融・商社などの民間企業の海外駐在員機能の多くはリモートでもなんとかなる部分が多いことが明るみに出つつあり、今後は海外で働く機会がかなり減少トレンドになるのではないかと思っています。


──リターンを長期で待っているからこそ、できる投資がある、と。

働き方改革の制度を整えたら、古巣の採用数が増加した

片岡さん提供


──コンサルと官僚でこれだけキャリアの違いがある中で、片岡さんが就活生だったときにコンサルを志望した理由は何だったのでしょうか。


片岡:学生時代は食品に関心が高く、微生物由来の酵素でアミノ酸の味を変える研究に携わっていました。ただ研究で貢献するには十数年かかることもあり「20代・30代の時間軸」で考えたとき、短期でさまざまな案件に関わっていく戦略コンサルに関心を抱くようになりました。

官庁や総合商社にも関心はありましたが、選考が早く、インターンで良い先輩たちとのご縁もあって最終的にBCGに進むことにしました。


──コンサルを選んだ理由が、今の就活生と似ている部分も多いですね。今と片岡さんが勤めていた頃で「コンサルは変わった」と感じることはありますか?


片岡:労働時間に対する感覚が明確に変わったと思います。私が内閣官房にいたときに携わった働き方改革の実行計画では、労働時間の上限規制を設けるという大方針が決まりました。その後の法改正や施行までは携わっていませんが、政治家や中堅・中小企業経営者に丁寧に説明する機会が何度もありました。そうした方々から反応をいただけたことは、貴重な経験でした。

働き方改革が進んだ結果、いくらコンサルとはいえ、1人あたりの稼働時間を減らさないといけません。そのため、今まで2人で行っていたタスクを3人で行うようになるなど、新卒も中途も採用数が増え、どんなに遅くとも深夜1時くらいには帰るようになったそうです。そうした話は若手からも聞きましたし、BCG卒業生の集いで日本オフィス代表からも聞けました。


──ご自身が関わった制度が、古巣の働き方を大きく変えたのですね。


片岡:評価軸も変わったそうです。これまでのように長時間スパルタで育ててもらえることがなくなった分、より短い時間で成長し、結果を出すことが求められるようになった、ともいえます。


──別の取材では、「今やコンサルは尖(とが)った人が行く場所ではなくなった」と語る元コンサルの方もいました。採用数が増えたことによる、カルチャーの変化はあるのでしょうか?


片岡:もう現役ではないのであまり言える立場にないですが、知る範囲では、採用方針は変わったわけでなく、プールが広がったという印象です。三菱重工のようないわゆる「重厚長大」な企業や、サイバーエージェントのようなメガベンチャーからの転職も増えたと聞いています。コンサル業界全体の人気・知名度が上がった影響もあるかと思います。

「新卒マッキンゼー」のレアリティーに潜む留意点。「自分の希望が大前提ですが……」

片岡さん提供


──なるほど。両方を経験した片岡さんからして、官僚向きの人、コンサル向きの人という違いはあるのでしょうか。


片岡:正直に言えば、本人次第ですね。私が役所の面接やOB・OG訪問を受けたときに思うのは、官僚とコンサルで迷っているように見えても、だいたい本人の中で答えは出ています。

だから一概には言えないのですが、例えば、経済産業省とマッキンゼーの内定を持っている女性(中小企業経営者の親の背中を見て育ったという原体験があり、経営支援に関心)から相談を受けたときはマッキンゼーを勧めました。一方、財務省とマッキンゼーの内定を持っている男性(途上国支援NGOインターン経験があり、組織運営や開発経済に関心)から相談を受けたときは「財務省を選んだ方がいい」と言いました。


──それは本人が望んでいたということでしょうか?


片岡:結局は本人の希望を後押ししたということに尽きるのですが、「自らの特徴を生かしてキャリアを作った方が有利」というアドバイスをしました。例えば日本人男性の場合、単に「マッキンゼーにいました」という属性だけでは他にも同じ属性のビジネスパーソンはたくさんいるので、優秀な人たちの中では埋もれる可能性があり、世界の一流大学に留学するのは相当厳しいと思います。


──埋もれる可能性、ですか?


片岡:日本人合格者が顕著に減っているハーバード・ビジネス・スクールを例に考えてみましょう。私がOB・OG訪問をしていた当時、受験者属性の3割がコンサル、3割が投資銀行、3割がその他金融(銀行・証券・保険)、1割がその他(官公庁、商社、通信、製造業ほか)でした。これでは、コンサルのバックグラウンドは差別化要素にはなりません。


──「マッキンゼー出身」は日本のビジネス界だとレアかもしれないけど、受験者の中ではレアではなくなる、と。


片岡:一方で、出身が北米ばかりにならないようアジア圏からも約3割、欧州からも約3割とするなどの、入学者の多様性を維持する観点で大まかなカテゴリーがあると聞きました。

こうした有名校への応募は世界中からあるため、新卒マッキンゼー/BCGの東京オフィス出身だったとしても、同じ受験時期に同年代から、「韓国のマッキンゼーソウルオフィス勤務の3カ国語話者」や「インドのBCGムンバイオフィス勤務の3カ国語話者+データサイエンティスト経験者」などが同じ受験生としてアプライ(応募)してくると、同じアジアのカテゴリーによる競争になります。競争環境において自分はどう見えるのかという点を俯瞰(ふかん)してみる必要があるのではないかと思います。


──なるほど。


片岡:ですが、もしここで、「アジア人で女性」という属性になると、ビジネスの世界での絶対数が少なくなるのは事実です。もちろん性別で能力が変わるわけではありませんが、カテゴリーによる競争環境が変わるのは事実です。

だから、「マッキンゼーでコンサルもやりたいし、留学もしたい」ということであれば、女性であればまずはマッキンゼーで働いてから留学する。その後、本当にパブリックに興味があったら、今はロールモデルとなる人は多くはないけど、中途採用で官僚になるという道も考えられるでしょう。


──「新卒マッキンゼー」も視点を変えると、プラチナチケットではなくなるのかもしれませんね。どのようなキャリアの掛け合わせを作るかを、戦略的に考えることが大事ですね。


片岡:はい。どちらも簡単な道ではありませんし、女性だから、男性だから、という単純な話でもありません。「人生の選択肢」が増えるように動くといいよ、という話です。

「無色透明」だからこそできること──コンサルを志望するあなたへのメッセージ

Zoomで取材に応じる片岡さん



──最後に就活生へのメッセージをお願いします。


片岡:どんどん先輩の社会人を捕まえて、「私こういうことをやってみたいんです」と相談するのが良いと思います。学生という「無色透明」の期間は、さまざまな業界の人にコンタクトを取れる、最初で最後の貴重な機会です。

さすがに「何をやったらいいか分からないので全部教えてください」という人は時間の無駄だと思われるので、「自分は大学でこういうことをやってきました」「こういうものが好きなんです」ということを準備しておくと、相談に乗ってもらいやすいでしょう。

巷(ちまた)で言われているような、「昔と比べてコンサル業界が面白くなくなった」とは思いませんし、労働時間の面でも働きやすくなっている気もするので、コンサル人気が高まっているのは理解できます。

ただ、官僚だって捨てたものではないです。2年ごとの異動で分野横断的な経験を積めますし、政府にいると「こういうコラボを考えているのですが、どうでしょう?」と提案すると、さまざまなところにすぐにアポを取れます。


──「無色透明」という考え方は、可能性を狭めないためにも大事ですね。


片岡:私は官僚になって、逆に学生時代に戻ったような無色透明感を感じています。思いのままにいろんな人と会えて、その道のプロフェッショナルと「こうしたら世の中よくなりそうですよね」と気軽に相談できるような関係を多く築けることも、政府の中で働く利点です。

「下積みばかり」というネガティブなイメージもありますが、コンサルだって下積みからです。不確実性の高まるこの時代において、長期のキャリア形成という意味では、政府の仕事というのは魅力が大きく高まってきていると思っています。コンサルもいいと思いますし、パブリックに興味があれば、私も相談に乗れると思うので、ぜひ、政府の仕事も含めて興味関心の幅を広げてもらえるとうれしいですね。

【特集:コロナ時代のコンサル就活】
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【取材、編集:吉川翔大】

(Photo:Kostsov/Shutterstock.com)

※こちらは2020年7月に公開された記事の再掲です。

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杉本健太郎
フリーライター
杉本健太郎

2011年、中央公論新社に新卒入社。「婦人公論」「中央公論」編集部に在籍した後、LINE株式会社で「LINE NEWS」の編集を担当。その後、ハフポスト日本版を経てライターとして独立。
文藝春秋digitalや評論家の宇野常寛氏率いるPLANETSのウェブマガジン「遅いインターネット」などで言論系のインタビュー、記事の構成をしている。
最近の関心事はマインドフルネスと仏教。人気YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」で有名な大愚和尚のオンライン塾「佛心僧学院」で仏教を学んでいる。
1987年愛媛県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。専攻はジャーナリズム。

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