※去年話題になった外資BIG5特集、特に人気だった村上さんの記事を本日、3記事まとめて再掲します。
前編はコチラ:「もう一度、就活をするとしたらどこに入るのか?」誰もが予想しなかった意外な会社とは(前編)
「狭き門」といわれる、外資系企業。その中でも圧倒的な人気を誇る5つの企業に迫る「外資BIG5特集」。
第1弾は特別対談と称して、前Google日本法人名誉会長 村上憲郎氏に対して、ボストン コンサルティング グループ出身の編集長KENが独占インタビューを試みた。中編では、頂点を知る村上氏が今もなお追い求めるものに迫っていく。
頂点を知る村上氏が、今さらに求めるもの
KEN:外資系企業のトップを務め、輝かしいキャリアを築いてきた村上さんですが、今、更に手に入れたいものはありますか?
村上:引き続き英語だよ。
KEN:英語ですか!英語学習の書籍(※1)も出されていますが、村上さんが、そこまで英語に拘る理由とは?
(※1)『村上式シンプル英語勉強法-使える英語を、本気で身につける』(ダイヤモンド社)
村上:これまで、アメリカの会社のバイスプレジデント(副社長)を3つぐらいやってきたけれど、それって、だいたいは、日本担当副社長みたいな位置付けだったわけです。でもね、俺がもし英語のネイティブだったらね、そのうちのひとつぐらいのCEOは、やれたんじゃないかなって思うんですね。それくらい、英語が大事。
だから、東大なんて行ったってしょうがないんだから、アメリカの大学に行けって、若い人には言っているわけです。
KEN:お子さまも、ハーバード大学を卒業されていますね。
村上:子どもたちからは、「いつまでたってもパパはLとRの区別ができないね、でも、それでも通じているんだから不思議だね」とよく言われます。この前も、ある会議の時に、英語で講演と質疑応答をすることがあって、疲れ果てましたね。英語がネイティブ並だったらどれだけよかったかと思いますよ。
KEN:英語という壁のために、まだまだ、日本人はポテンシャルを活かしきれていないともいえますね。
村上氏がもし大学の学長だったらどのテーマを強化するか? グローバルで戦う日本人に必要な「2つのスキル」
KEN:グローバルな視点から見て、ズバリ、日本の人材をどう評価しますか?
村上:ポテンシャルはすごくあると思っています。アメリカ人も日本人も、一人ひとりの才能に、そんなに大きな違いはありませんからね。では、どこで差が生まれるかというと、教育です。
KEN:ではもし、村上さんが大学の学長だったとしたら、どんな教育に力をいれますか?
村上:2つあって、ひとつは英語。「英語を勉強する」ではなく「英語で勉強する」ことが大事です。(文部科学大臣の)下村さんは、小学生から英語教育を必須にすると言っていますね。海外駐在員としてビジネスをするのに必要なのが大体英検2級レベルといわれているけれど、それを高校生で達成しようと、文科省の目標にも定められています。そうすると随分、日本人の世界での活躍が変わってくるでしょう。
KEN:これまで長い間、日本人は英語が必要ない環境にいました。
村上:明治時代に西洋の学問を日本で最初に摂取した人たちが、外国語の学問を漢語に置き換えてくれたお陰で、後進国と言われた日本の人たちが、世界の1%の人しかしゃべらない「日本語」というマイナーな言語で、世界標準の高等教育を受けられるようになりました。そのことは、団塊の世代の人たちくらいまでは「恩恵」だったけれど、皆さんの世代ではもう通じません。皆さんも、「英語で高等教育うけてくればよかった」って思った経験があるでしょう?
KEN:リアルに実感しています。
「正解のない問題を発見し、それについて考え抜く力」
村上:英語が喋れないでいると、20年後には、まともな仕事はないと思いますよ。それから、もう1つ必要なのは「正解のない問題を発見し、それについて考え抜く力」ですね。
KEN:考え方を身につけよと。
村上:例えばヒストリー(歴史)ね。アメリカの場合は、ヒストリーの時間に何をやっているかというと、日本みたいに全部、卑弥呼の時代の話から順番にやっていって、歴史を覚えるわけじゃないのよ。例えば、南北戦争だったら、それをずっと、1つの学期のうち、大半の時間を使って教えたりする。
KEN:私もアメリカ、台湾、ドイツに留学したことがあるのですが、年表を暗記するような日本の歴史教育と海外の歴史教育とは、目的が根本的に違いますよね。
村上:そこでは、ヒストリーをどのように研究し、学べばいいかというメソッドを教える。例えば、1学期かけてもまだ南北戦争はまだ3分の1ほどしか終わらなかったりする。なぜなら、正解がないことに向き合うわけですから。いろいろな説があることを知り、文献にあたって、深堀していく必要があるわけです。
KEN:アメリカでは日本と違って「学ぶ意味」を考えて設計されていると。
村上:それくらい、真理に到達するのは奥深いということなんだよね。
KEN:そうやって学ぶことで、「答えのない問い」に向き合う力が身についていく。
村上:その訓練があるから、もし何かを考え出さなくてはならないときに、そこで学んだ思考法を使って、文献にあたり、引用を明記して、最後に一番大事な「あなたオリジナルの考え」を付けて打ち出していくことができる。日本の教育も、そうなっていかなくてはなりません。
アメリカでは、政府が国をあげて、プログラミング教育を推進しようとしている
KEN:IoTやプログラミングといった新しいスキルも、これからの時代に必要だといわれています。
村上:つい先日、アメリカのオバマ大統領が、全国民にプログラミング教育を提供するという政策(Computer Science for All)を打ち出しました。そのニュースについて、米国最高技術責任者(USCTO)のミーガン・スミス(Megan Smith)から、僕にもメールが届いて、Facebookでも皆さんに紹介したんですけれどね。
KEN:国の政策について、アメリカ国のCTOから、村上さんにもメッセージが。
村上:彼女はたまたまGoogleで同僚だったからですが、要はそれくらい、アメリカでは、政府が国をあげて推進しようという機運があるということですし、日本もそうなっていくでしょう。
KEN:社会の変化とともに、日本の教育そのものも今、大きく変わらなければならないタイミングになっていると。
日本企業全体がこれから必要とするのは「正解があるかどうかもわからないような問題を発見する人」
村上:日本では明治維新から150年間、「より多くの正解を覚えた人が優秀」という教育がずっと続いてきました。でも、それではこの先立ち行かなくなった。そこで今の教育は反転学習だとか、アクティブラーニングといった「メソドロジーを教える」(※2)という方向へと変わってきています。
(※2)メソドロジー:能力を伝授するために体系づけた方法論。功術論。
KEN:そういう教育を受ける世代がこれから益々増えてくるとなると、当然、今就活をしている学生も、これまでの考え方を切り替えていく必要がありますね。
村上:そうですね。日本企業全体がこれから必要とするのは「正解があるかどうかもわからないような問題を発見する人」。「今置かれている状況で、どうやって問題を解いていくか」「これから会社はどうなるか」という、答えのない問いを考え抜く力を持った人です。
KEN:そのことは自分も、ボストン コンサルティング グループで働いていた際に痛感した経験があります。結局、パートナークラス(役員クラス)になると、単純な論理的思考というより「問いを見つける力」の方が遥かに重要になるんだな、と。
村上:これから、そういう力を持った人たちこそが「偏差値が高い」と評価される社会へと、段々切り替わってくるわけです。ということは、今まで東大や京大に入れなかったような「本当にこれが正解だろうか?」って一生懸命悩み続けてきたようなタイプに、実は優秀な人たちがたくさんいるのかもしれないっていうことなんだよね。
KEN:まさに、時代がこれから必要とする力を持った人材ということですね。
村上:そう。これまでの評価システムのせいで埋もれてしまっていた優秀な人材は、本当は日本にはたくさんいると思いますよ。
ーー後編「今の人工知能は、ターミネーターの一歩手前なのか?人工知能の最先端に迫る!」に続く
WRITING:今井麻希子/PHOTO:河森駿
村上憲郎:
1947年大分県佐伯市生まれ。1970年京都大学工学部卒業、日立電子に入社し、1978年に日本DECに転職。1986年から5年間米国本社勤務、帰国後1992年に同社取締役に就任。1994年米インフォミックス副社長兼日本法人社長。1998年ノーザンテレコム(ノーテルネットワーク)ジャパン社長。2001年にドーセントジャパンを設立し社長に就任。2003年より米Google副社長兼Google日本法人社長に就任、2009年より2011年までGoogle名誉会長を務め、2011年に株式会社村上憲郎事務所を設立。現在は株式会社エナリス代表取締役社長の他、学術機関での教鞭をとる。
<外資BIG5特集:記事一覧>
【1】前Google日本法人名誉会長 村上憲郎氏
・「もう一度、就活をするとしたらどこに入るのか?」誰もが予想しなかった意外な会社とは(前編)
・日本人がグローバル企業でCEOを務めるために必要なたった2つのこととは?(中編)
・今の人工知能は、ターミネーターの一歩手前なのか?人工知能の最先端に迫る!(後編)
【2】マッキンゼー出身、一般社団法人RCF 藤沢烈氏
・「この会社の中で一番難しい仕事がやりたい」新卒でそう言った彼が今でも目の前の仕事に全力でコミットする理由(前編)理由
・「NPO経営はベンチャーが上場するのと同じくらい難しいと感じる」外資・起業・NPO全てを経験した彼が語る経営の本質(後編)
【3】BCG出身、特定非営利活動法人クロスフィールズ 松島由佳氏
・「BCGは今でも大好きです」そう述べた彼女がそれでもなお、新興国向けNPOを立ち上げた理由に迫る(前編)
・途上国と日本のそれぞれの良さを活かしあって描ける未来もある。「留職」が目指す未来とは?(後編)
【4】ゴールドマン・サックス出身、ヒューマン・ライツ・ウォッチ 吉岡利代氏
・「金融業界での経験がなければ、今の自分はない」彼女が今、ソーシャルで働く意義に迫る(前編)
・「息を吸うように仕事をしている」彼女が世界の問題を身近に感じる理由(後編)
【5】P&G出身、株式会社キャンサースキャン 福吉潤氏
・P&GマーケからハーバードMBAへ。キャンサースキャン福吉氏が今、日本の社会で証明したい「社会への貢献」と「リターン」の両立とは?(前編)
・「世界最強と言われるP&Gマーケティングの限界は存在するのか」という問いへの彼の回答とは?(後編)
【6】5人の対談を終えてKENの対談後記
・賢者が持つ「価値観の源泉」に迫る ー5人の共通点と相違点ー
・現代の就活が抱える3つの課題 ー「学生よ、ジョブローテがある会社には行くな」ー
・KENの回想記 ーソーシャル領域との出会いと、天職の見つけ方ー
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